金剛という天人は、確かにこれまで土方が接したことのある天人とは違っていた。 天人の犯罪者を追う警察だというのも、初めてだったが、人間を猿だと見下さない所も珍しかった。 まあ、天人でもピンキリで、その姿形もさまざまだし、考え方も十人十色と言っていい。 それは、人間にも言えることだから、その違いに驚くようなことではなかったが。 かぶき町は一日でも回りきれないというほど広くはないが、人や天人が集まりやすく、しかも潜む場所が多い。 全ての店を回りきろうとすれば、これはさすがに一日では無理である。 とりあえず、かぶき町の主だった通りをぐるりと回って、後は山崎にでも調べさせようと土方は思った。 これは、金剛の仕事だが、しかしこの江戸で事件を起こされれば、それは真選組の仕事ともなる。 「これからどうする?店を調べるにしても、ある程度の情報は必要だが」 出るのが遅かったのと、途中寄り道をしたため、かぶき町内を一通り回った頃にはもう空は星が瞬いていた。 かぶき町は、これから活気づく。 「だいたいの地理や位置関係はわかったから、後はわたしも情報を集めることにする。案内してもらって感謝する」 「いや、構わねえよ。どっちみち、あんたが追ってる犯罪者が事件を起こしたりしたら、そいつぁ俺たちの仕事になるからな」 もっとも、あんたの捜査の邪魔はしねえが。 金剛が今追う、このかぶき町に潜伏してるらしいという犯罪者は確かに凶悪犯罪者だが、それでも金剛には小物のようなものだという。 彼が真に追っているのは、もっと大物で凶悪な天人だった。 「いってえ、どんな奴なんだ?その、あんたがずっと追ってるってえ犯罪者は?」 「”星殺し”と呼ばれる、天人の中でも最強と言われる戦闘民族出身の男だ。戦うことしか頭になく、残忍で凶暴。あの男に滅ぼされた一族は数知れず。そんな凶悪な男が、傭兵として星々を渡り歩いていたのだから、被害は広範囲に広がっている」 「傭兵か。そういやあ、あんたも昔そうだと言ってたな」 ああ、と金剛は頷く。 「部隊が違っていたので、共に戦ったことはないが、一度だけ奴と接触したことがある。我々の部隊は、あの男が配属された部隊の後方支援のために送られたのだが、我々が行ったときにはもう、奴はその星の軍を全滅させていた。しかも、生き残ったのは、奴だけだった」 「・・・・・・・」 「奴は敵味方関係なく、殺しまくる」 後に残るのは屍ばかり。 「奴は役に立つが、あまりに犠牲が多く、誰も使いこなせなかった。奴を使う時は仲間をも殺す覚悟と、星一つが消えるという覚悟も必要だ」 「そいつが唐突に姿を消したのが四十年ほど前、か。で、その行方を知っているらしいのが、このかぶき町にいると」 そういうことだ、と金剛は言う。 「まさか・・・そんな物騒な奴が江戸に潜伏してる・・・ってこたあねえよな?」 土方は確認するように問うが、金剛はそれには答えなかった。 (くそ・・・頭いて〜〜ほんとにそんな奴が来てたら、真選組じゃ手に負えねえぞ) それでなくとも人手不足だ。 攘夷志士のテロも激化しているし、天人とのトラブルも増えることはあれ、減ることはない。 なんか、マジで頭痛がしてきた。薬あったかな、ちくしょう。 痛む頭を手で押さえた土方は、ふと争うような人影に気づき足を止めた。 月のない夜なので、黒い影にしか見えないが、どうやら一人が地面に這いつくばった誰かを足で踏みつけているようだった。 街灯に浮かび上がる白い肌と女物の着物に、土方はてっきり女だと思ったが、声をかけられ振り返った人物は、真選組鬼の副長がよく知る顔であった。 「・・・・・何やってんだ、てめえ?」 真っ黒な人物を足で踏みつけていた人物も、土方の顔を見て、アリ?というように瞳を丸くした。 死んだ魚の目と表現されるそいつの目は、街灯の明かりの下、何故か鮮やかに赤く光って見えた。 「何って、仕事だ。てめえは見回りか?もっと早く来いよ、税金ドロボー」 「うるせえ!なんでそんな格好してやがんだよ!?仕事ってオカマバーかよ」 そういや、総悟の野郎が、オカマの店で働いてるこいつを見たとか言ってやがったな。マジだったのかよ。 「ちげえよ。変態をとっ捕まえる仕事だっつーの」 「どう見ても変態はテメーだろうが」 「銀さんは変態じゃありません!」 心外だと言う様に万事屋は顔をしかめ、変態はこいつだ!と自分が今踏みつけている男を指差した。 確かに頭から足先まで黒ずくめの男は怪しいことこの上ない。 「男を襲う変態か」 「んなわけあるか!だったら俺が女装なんかするかよ!」 銀時は憤慨し、結局受けた仕事の内容を土方にゲロった。 「ああ、わかったわかった。パトカー呼ぶから、てめえはそのまま、その変態を押さえてろ」 土方は携帯を出すと、屯所にいる隊士に連絡を入れた。 「ええ〜〜早くしてくれよ。俺、もう帰りてえから」 「バカ言え。てめえも一緒に屯所に来んだよ。事情聴取だ」 うげえ〜と銀時は心底嫌そうな顔をし、八つ当たりのように踏みつけていた足に力をこめた。 銀時の足元で死にかけた蛙のような悲鳴が上がる。
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