「ふ・・・うっ・・・・・」 濡れた淫らな音をたててはずされた唇が、またも角度をかえて深く重ねあわされた。 亜門のキスは、人の魂を根こそぎ奪い取ってしまうような危険なキスだ。そのまま意識を手放せば、二度と目覚めないかもしれなかった。 「あっ・・・!」 突然、思ってもいなかった場所に刺激を受け、幽助の身体が引きつった。 ジーパンごしに手をはわされたそこは、亜門の濃厚な接吻のせいで昂り、熱を持ち始めていた。 「やめ・・・っ!」 拒絶の言葉を吐こうとした口は、またも亜門の唇に塞がれてしまい、ぐうと苦しげに喉が鳴っただけだった。ベルトのバックルがはずれる音が入り、幽助はきつく眉を寄せた。 ジッパーがおろされ、下着の中に潜り込んできた亜門の手を感じると幽助の身体が震えた。 貪られるような深い口付けと、昂った股間を愛撫される感覚に、幽助の肌がざわりと粟立っていく。瞬間、意識を飛ばした幽助のジーパンを亜門はなんなく下着ごと取り去った。 胸があらわになるまでまくり上げられたトレーナーはそのままに、下半身だけが剥き出しにされていることに気付いた幽助が目尻を吊り上げ、理不尽な行為をしようとしている男の顔をにらみつけた。 亜門が幽助の両足を左右に割って、己の身を割る込ませると、幽助の瞳に激しい炎の色が浮かぶ。 さすがに羞恥に顔が赤く染まったが、感情は怒りの方が強い。 対する亜門の顔には、強姦しようとしているくせに、欲望の色がみじんもなかった。 ストイックな美貌はそのままに、冷ややかな微笑を浮かべた顔で幽助を見つめている。 その顔は、まるで教会に描かれた天使のようだが、同じ男を無理やり犯そうとしている男が天使であるわけがない。 膝裏から太股へと撫でるように移動した亜門の手が、そのままぐっと幽助の足を押し上げた。 触れられた箇所から快感が全身に伝わってくる。 それでも正気だけは失うまいと、幽助は唇を噛んで必死にこらえた。 「あの・・・・・黒い繭みてえもんは何だ?」 「いづれわかる」 「もったいぶるんじゃねえよ、てめえ・・・っ!」 亜門の指が、昂ったもののさらに後ろにある秘めた場所に触れてくると、幽助は身を堅くした。 本気で犯すつもりなのだ。 とおに認識していたことを、はっきり現実なのだと思い知る感覚に、幽助は血の気が引いていった。 喧嘩ならいくらでも受けて立つし、それで痛めつけられてもどうってことはない。 しかし、こういう行為はやはり勝手が違う。 無駄と知りつつ、幽助は抵抗を試みた。 だが、亜門に押さえ込まれた身体は、一ミリと離れることが出来なかった。 「痛ければ泣き叫べ。苦しければ、俺の肉を噛み切ってもかまわないーー」 「・・・・・・・・・・」 「俺とおまえは・・・・・どうしても交わっておかなければならないんだ」 「こ・・・こんなことすんのに、意味があるってにかあぁぁーッ!」 暗黒武術会が幕を閉じて以来、なんの音沙汰もなかった霊界から突然呼び出しを受け、蔵馬と飛影はいってい何事だという顔でコエンマを待っていた。 「チッ!勝手に呼び出しておいて待たせるとは、いい根性だな」 「まあ、そう言わないで。忙しいんでしょ、コエンマも」 「どうせ俺たちは暇だとでも言う気か?」 ギロリと睨んでくる飛影を、肩をすくめるだけでかわす蔵馬は慣れたものだ。 ふん、と飛影は鼻を鳴らしてそっぽを向く。 「−−−バカはどうしている?」 バカとは幽助のことだ。 「気になるなら顔を見に行ったらどうです?」 なんで俺が、と飛影は渋い顔になった。 ふふふ、と蔵馬は楽しそうに笑う。 この所、というか暗黒武術会あたりから飛影をからかうのが楽しみの一つとなっている蔵馬だった。 それを見抜いていながら、つい向きになってしまう自分がすこぶる面白くない飛影だ。 「旅行に出たみたいですよ、螢子ちゃんと」 「婚前旅行というやつか」 「おや?粋なことを知ってるんですねえ」 どこが粋だと飛影は口をとがらせる。 「そうじゃないみたいですよ。ぼたんも一緒のようですから」 「貴様、どこからそんな情報を仕入れるんだ?」 「情報収集は俺の得意でね」 なーんてvと蔵馬はニパッと笑った。 「幽助から電話をもらって聞いたんですよ」 「貴様ぁ・・・・・・・・」 飛影はふるふると肩を震わせた。 「ほら、コエンマが来たみたいですよ」 彼等の目前に、スッと金色の扉が出現した。 「いい時間潰しになったでしょv」 そう言ってニッコリ笑う蔵馬に、飛影は何も言い返せなかった。 そもそも、蔵馬に口で勝とうというのが無理なのだ。 扉が開いてコエンマが姿を現した。 暗黒武術会以来、コエンマは青年の姿をとっている。本人は見下ろされるのに飽きたからなどと言っていたが、他にも理由があるのかもしれない。 「待たせてすまんな。緊急の仕事が入ったもんで、どうにも抜けられなくてな」 コエンマは文句を言われる前に二人に謝る。 忙しいのは納得している。 留守中の父エンマ大王の代理として霊界を仕切っているコエンマは、とにかく多忙をきわめていた。 そんな忙しい彼が、人間界にいる元犯罪者の二人を呼んだのには、何か余程のことがあったか、もしくは起こりつつあるに違いなかった。 「これだけ待たせておいて、くだらん用件だったらただではおかんぞ」 現在、霊界の最高責任者ともいうべきコエンマに対して飛影は容赦がない。 だいたい、魔界の住人であり、霊界から犯罪者として扱われている飛影がへつらう理由はどこにもないのだ。 「俺たちに、また頼み事ですか?」 蔵馬も霊界を自分より上のランクには見ていないコエンマから受けた仕事は、皆命令されたものではなく、頼まれてやったことだと蔵馬は認識している。 うむ・・・とコエンマは難しい顔で唸った。 「いい加減にしてもらいたいものだな。俺たちは貴様に使われている身ではないぞ」 「だから、いつも条件をつけて頼んでおろうが!」 「頼む割には、態度がでかいぞ」 態度が大きいのは飛影も同じだと思ったが口にはせず、探るようにコエンマを見つめた。 コエンマが自分たちに頼む事件は、必ずといっていいほど幽助が絡んでいる。 今回の頼み事でも同様だと考えた方がいいだろう。 (幽助・・・・・・・) 蔵馬は数日前に会った、人間だと二歳年下になる浦飯幽助のことを思い浮かべた。 あの日蔵馬は、聞きたいことがあると夜中に幽助から呼び出された。 待ち合わせたのは、駅前にある二十四時間営業のファーストフードの店。 既に夜中の二時を回っていたが、テーブルは半分ほど埋まっていた。 『“ジャオウ”ってのを知ってっか?』 幽助は、ハンバーガーにかぶりつきながら、蔵馬にそ聞いたのだ。 「うっ・・・くぅ・・・・・・」 衝撃は想像以上にひどかった。 無理やりねじこまれた異物は、幽助に激痛をもたらした。 まだ成長途上にある未開発な肉体しかもたない幽助に受け入れさせることは相当にきつい事だったが、亜門は時間をかけて己を受け入れさせた。 埋め込まれていく凶器に相当痛みを感じているだろうに、幽助は耐えるようなうめき声はもらしても、泣き声はあげなかった。 『ちく・・・しょう・・・・・・」 頭の上にねじり上げられている両手は、自ら堅く握り締めているので血の気がなくなっている。 「我慢しなくていいと言ったろう、幽助」 「・・・るせえ・・・っ!んなこと抜かすくらいなら・・・さっさと俺を離しやがれ!」 まだ怒鳴る元気を残す幽助に苦笑しながら、亜門はゆっくりと唇を塞いだ。 麻薬のような亜門の口付けに、幽助の緊張がわずかに緩む。 それを見計らったように、亜門はさらに深く幽助の中に入った。 「ぐっ・・・・・・・!」 引き裂かれるような激痛に、大きく見開いていた幽助の目尻から涙がこぼれた。 亜門が慰めるような口付けを送ると、僅かに苦痛に歪んだ幽助の表情が和らぐ。 亜門が唇をはずすと、幽助は放心したようにぼんやりとしていた。 亜門は薄く開いた幽助の唇に、己の指を二本差し入れた。 「噛み切ってもかまわないぞ、幽助」 下の歯に指をあてたが、幽助は噛むどころかなんの反応も見せなかった。 (・・・・・・・おかしな奴だ) 亜門は幽助の口から指を抜くと、ずっと押さえつけていた両手を解放した。 だが、痺れているのか拘束がなくなっても幽助の両手はその状態のままだった。 ふと、幽助の視線が動いた。 「・・・・・見てる・・・・・・・・」 幽助の視線の先にあるのは、人の影を映した黒い繭ーーー 「ああ。おまえを見ている」 亜門は微笑し、幽助のこめかみに口付けた。 俺を・・・・・見てる・・・・・・・ 「はっきり言え!何が言いたいのだ、コエンマ!」 なかなか用件を切り出さないコエンマに、飛影はついに癇癪を起こして怒鳴った。 コエンマは眉間に深い皺を作った顔で蔵馬を飛影を見つめた。 「邪王が・・・・・目覚めるかもしれん」