<後編>
男に命を狙われた後、キッドに連れてこられた場所は 高層マンションの1室だった。
新一をリビングのソファに座らせて キッドは隣の部屋へと消えていった。 それからしばらくリビングには新一1人だけであった。 その間に新一は部屋を見渡してみる。 中央に大きめのソファがある以外家具らしい家具はなかった。
ここは・・・なんなんだ?キッドの家ってわけでもなさそうだ。 生活臭が全くないからな。
ガチャ
隣の部屋のドアが開き、そこから現れたのはさっきまでの怪盗ではなく、 ジーパンにパーカー姿の新一と同じくらいの少年だった。
「名探偵、なんか飲む?コーヒーくらいならあるぜ?」
「・・・・・・・おい」
「なに?」
「お前、どういうつもりだ?なぜキッドの衣装を解いた?」
「なに?名探偵はキッドのほうが好み?」
「そういう意味じゃねえ!いいのかよ、素顔さらして。」
「ああ、だって1度名探偵には見られてるし、 今はそんなこといってる場合じゃないしね、お互い。」
厄介な奴に目つけられちゃったからな〜。
「なに?あいつのこと何か知ってるのか?」
「う〜ん、知ってるっていうか見たことある奴だなぁって思ってさ、 今ちょっと調べてたんだ。名探偵も見る?」
「なあ、ここどこなんだ?お前の家じゃねぇんだろ?」
さっきキッドが出てきた部屋に移動し、パソコンをいじっているキッドに さっきまで思っていたことを聞いてみた。
「ああ、ここは俺の隠れ家の1つだよ。別に警察に言ってくれてもいいぜ? 他にもたくさんあるからさ。」
いったん手を止めて新一のほうを向き、にやりと笑う彼の顔は 確かにあの怪盗のもので。
「・・・・・・言っても無駄なことぐらいわかってるよ。 で、あの男のことはなにかわかったのかよ!」
ムッとしている新一の様子にキッドはクスクス笑って パソコンのある画面を見せる。
「こいつ・・・」
「そう、裏では結構名の知れたやつみてえだな。通称”スネーク”。 かなりいかれたやつだ。殺しを心底楽しんでる。 しかも名前の通りかなりしつこいやつみたいだな。 香港にいたらしいが最近になって日本に来たらしい。 複数の”お仲間”と一緒にね。」
「・・・その仲間が今回の殺人犯か。」
「スネークは仲間じゃないって言ってたけどね。 しかもそいつらは裏であるものを不正売買している。」
「あるもの?」
「臓器だよ。人間の。」
「でも、今までの被害者の中には臓器がなくなっていた人はいなかったはず。 そいつらじゃないのか?いやしかし・・・」
考え込んでしまった新一をキッドは楽しそうに見ていた。
「それよりお前、よくそんなこと調べられたな。」
「まあね。俺天才だからv」
「言ってろ。」
そうは言ったが、新一もキッドは間違いなく”天才”といわれても おかしくないやつだと思っている。 癪なので絶対に本人には言うつもりはないが。
ふと新一の携帯が鳴った。それは目暮警部からであった。
「目暮警部、どうかしましたか?」
『おお工藤君、また被害者が出たんだよ。 場所は5人目の被害者と同じ河原だ。』
「そうですか、すぐに行きます。」
『ああそれと、1つおかしなことがわかったんだ。 6人目の被害者のことなんだが、臓器がきれいになくなっとったんだよ。』
「!なんですって?それは6人目の被害者だけなんですか?」
『そうなんだよ。5人目まではそんなことはなかったのだが。 犯人が別なのかとも思ったのだが、殺し方などから見ても やはり同一犯に間違いはなさそうなんだよ。』
「そうですか・・・とりあえず、今からそちらへ行きますから。」
そう言うと新一は携帯を切る。
「行くのか?罠かもしれないぜ?」
「わかってるさ。だが、逃げ回っているのは嫌だからな。 それに昨日見つかった遺体からは臓器がなくなっていたらしい。 おそらく5人目まではカモフラージュのつもりだったんだろう。」
新一は扉のノブに手をかけ、キッドに背を向けたまま言う。
「・・・なぜお前が俺を助けたのかは知らないが、一応礼は言っておくぜ? お前のこともここのことも言わない。・・・じゃあな。」
新一が出て行くのをキッドは黙って見送った。
「でも名探偵、相手は狙った獲物をしつこいくらいに 追い詰めて嬲り殺すのを楽しむ”蛇”なんだぜ・・・・・・?」
閉まったドアにキッドは呟いた。
現場は警察と野次馬がごったがえしていた。 そんななか新一は目暮警部を見つけてそばへと駆け寄る。
「目暮警部、被害者は?また臓器がなくなっていたのですか?」
「それはまだ解剖しとらんからなんとも言えんが、今回もひどいものだったよ。 よくあんなことができるものだ。」
目暮警部は怒りをあらわにした。 近くにいた高木刑事は遺体を見て気分が悪くなったのか、顔が真っ青だった。 ふと目暮は呼ばれて現場のほうへかけていった。
(!!来たか・・・)
新一はそっと人ごみから抜け出し、人気のない現場から かなり離れたところまで来ると立ち止まった。
「出てこいよ。いるんだろ?”スネーク”。」
新一が暗闇に向かって話し掛けると、笑い声が聞こえてきた。
「1人で来たのか?いい度胸だ。怪盗キッドはどうした?」
「あいつは関係ねぇよ。お前、香港から来たんだってな。 5人目まではカモフラージュ。どこかおかしいやつの衝動的犯行、 とにでも印象づけたかったんだろう?本当の目的は臓器売買。 だからこそお前を見てしまった俺を殺そうとしている。違うか?」
口元に笑みさえ浮かべてまっすぐと自分を見据え語る新一に、 スネークは初めて笑みを消した。
「・・・・驚いたな、この短時間でそれだけ調べあげるとはな。 ますます殺しがいがある。」
そう言うとサイレンサーつきの銃を新一へ向ける。
「じゃあな、名探偵。」
スネークが撃つ前に新一はすばやく動き、 めぼしをつけていた空き缶をスネークにむけて思いっきり蹴飛ばした。 新一の靴は博士が作ったコナンのときに使っていたものの改造版で、 それに新一のキック力がプラスされてものすごい勢いで スネークの方へ飛んでいった。 いきなりのことにひるんだスネークの隙をついて新一は土手を一気に駆け上がった。 スネークは新一に向けて何発か撃つが新一はすべてかわしていく。
「ふざけたまねを・・・どこまで逃げ切れるかな?」
再び笑みを浮かべてスネークは新一の後を追った。 土手を登りきり、道路へと出た新一の前に1台のバイクが止まった。
乗っていたのは・・
「お、まえ、キッド!?」
「早く乗れ!」
後ろには1台の車が止まり、スネークが乗り込もうとしている。 どうやら仲間のようだった。 新一が後ろに乗ったのを確認すると、キッドはバイクを猛スピードで走らせた。 幸い道路の車通りは少なく楽に進むことができた。 しかしそれはむこうも同じ状況なわけで。しかもこともあろうか発砲してきた。 キッドはそれを軽くかわしながらどんどんと進む。
「下手くそだな。あいつら下っ端だな。そんでスネークはその助っ人ってところか。 しっかり捕まってろよ、名探偵!」
「あ、ああ。」
この状況を楽しんでいるようにさえみえるキッドに、新一はあらためて思った。
こいつ、やっぱり普通じゃねぇ・・・
しばらく走り、古い工場あとまで来た時にキッドは建物のかげにバイクを止めた。
「あいつらもしつけぇな。まだ追ってきやがる。」
新一は自分たちをさがしているスネークたちを見て、溜息をつく。
「それほど知られたくないんだろう。・・・名探偵、あとは俺に任せろ。」
「なに?そんなわけにいく・・っん!」
突然キッドが唇を重ねてきた。 息もできないくらいのそれに新一は思わず目をつぶった。 ふと、喉を唾液とともに何かが流れていった。 ようやく開放された新一は、体に力がはいらず、キッドに支えられる格好となった。
「て、てめ・・ぇ・・なに・・・飲ませ・・やが・・っ・・・」
新一の意識は途切れ、倒れこんだ体をキッドが受け止める。
「わりぃな、でもここからはお前の出番じゃない。 あとは俺にまかせてそこで寝ていてくれ、新一。」
即効性の睡眠薬で深く眠っている新一の額に軽く唇を押し当てると、 そっと横たえ外に出て行く。
『あいつらどこへ行きやがった!』
『なんとしてでもさがしだすんだ!』
あわてふためくもの達をスネークは冷たい目で一瞥した。
(ふん、クズどもが。)
『お前らはそっちへ行け。俺はこっちに行く。』
『『あ、ああ。』』
スネーク1人とその他の者たちに別れて走り出した。 ふと男たちの前に帽子を深くかぶった男が降り立った。 体型からいってもまだ少年だろうか。
『だ、だれだ!貴様!』
『・・・ねぇ、お兄さんたち。俺と遊ぼうよ。』
(あいつら、どこへ消えた!?)
「ねぇ、お兄さん誰を探してるの?」
「!!」
振り向くと帽子をかぶった少年が立っている。 だが、あの工藤新一ではない。
「お前・・・まさかキッドか?」
しかし少年は答えずクスクスと笑いながら建物の中へと走っていった。
「!待て!!」
少年を追いかけて建物の中に入った瞬間に何かが自分に打ち込まれた。 銃弾ではない、なにかが。前を見ると、少年が銃のようなものを自分に向けていた。
「麻酔銃か?しかし俺にはなかなかきかないぞ?現に俺はちっとも眠くない。」 笑いながらそういうが、少年は表情を変えず再び反対方向へ走り出した。 スネークは銃を撃つが少年は軽やかにかわしていく。 ふと少年が1つの部屋へと入っていった。スネークも後に続いて入る。 少年は口元に笑みを浮かべて壁に寄りかかっていた。 「とうとう観念したのか?安心しな、あの名探偵もすぐに送ってやるよ。」
銃口を向けても少年の笑みは変わらない。
「ねえ知ってる?ここはさ、潰れる前は毒蛇だとか毒蜘蛛だとか、 そんなのの研究をしていたらしいよ。」
「?それがどうした。」
「潰れたと同時にそれらも移動したらしいんだけど、物騒だよね、 まだそんなに残ってる。」
少年はスネークの足元を指差した。 それにつられて足元を見ると、自分の足にたくさんの蛇が絡み付いていた。
「うわぁぁぁ!!!」
「たいへんだ、それ全部毒蛇だよ。噛まれたら、即死ぬね。」
「た、助けてくれ!頼む!!」
しかし少年は微動だにしない。その時蛇たちがいっせいにスネークに襲い掛かる。
「うわぁぁぁ〜!!!!」
「同じ名前をもつものに襲われる気分はどう?あ、もう聞こえないか。」 白目をむき、泡を吹いて倒れている男に話し掛ける。 その足元にあるのは蛇ではなく、古いたくさんの縄だった。 男に打ち込んだのは麻酔ではなく強力な幻覚作用のある薬だった。
「俺に喧嘩売ろうなんて100年早いんだよ。 それに、あいつを傷つけようとするやつは許さないよ?」
その時のキッドの顔はぞっとするほど冷涼なものだった。
ふと外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。 さっき新一の名前で連絡しておいたのだ。 その他の男たちも気絶させて縛り上げてある。
キッドはいまだ眠っている新一を連れてそっと立ち去った。
新一が目覚めた時に見たものは見慣れた自分のうちの天井だった。
「あれ?いつのまに・・・・」
起き上がってリビングに降り、テレビをつける。 そこでは特番で連続殺人の犯人逮捕のことを取り上げていた。 そして、その裏に不正臓器売買が絡んでいたことも、 そして”スネーク”と呼ばれる暗殺者が精神異常で見つかったことも。
「あいつ、なにしたんだ?」
ふとテーブルの上に置かれていた紙に気がつく。そこには、
”またお会いしましょう。今回のことはご内密に。それと、ごちそうさまでした。 KID” と書かれていた。 それで新一は昨日あったことをはっきりと思い出し、とたんに真っ赤になる。
あのやろ〜〜今度会ったらただじゃおかねぇ!!
END
01/10/30
後編です。キッドをかっこよくしようとがんばりましたが、少し鬼畜入りましたね; しかも変な終わり方で; 気に入ってくださるといいのですが(^^; キッドが格好良くて、も、サイコーです! こんなステキなK新を頂けるなんてえv これはやはり、キリ番狙わなくてはなりません(^^: こんなに早く仕上げて頂いて本当にありがとうございます! キッドのキスに萌え〜〜 できたらシリーズで続けて欲しいです!
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