ミステリアス 15 |
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【見えない敵】
「なっにぃー!爆弾だとお!」 「うそお〜!」 快斗から館の中に時限式の爆弾が仕掛けられていると聞いた小五郎たちは驚きの声を上げる。 「くそお!橋を爆破しただけじゃなかったのか!」 「ちっ・・違う!ボクじゃない!」 え? 突然わけのわからないことを喚きだしたマネージャーの吉沢に小五郎らはびっくりした。 「誰もあんたがやったなんて・・・・」 「ふ〜ん。橋を壊したのはあなただったんだ」 快斗が言うと、吉沢は崩れるようにその場に膝をついた。 「すみません・・!今度のドラマの話題造りに丁度いいからと事務所の社長に言われて・・・できるだけ派手な方がアピールになるからって橋に爆弾を・・・・」 「一人遅れた理由は、仕事の話なんかじゃなくて爆弾を仕掛けてたからか」 最も効果的な時間を選んで、さも被害者になりかけたという顔でここにやってきたというわけだ。 中森は吉沢の腕を掴んで立ち上がらせた。 「話は署でゆっくり聞こう。今は脱出するのが先決だ」 「ちょっと待って!蘭は!」 コナンの戻ってくるのが遅いからと心配して二階へ上がっていった蘭が、まだ戻ってきてなかった。 「オレが探してくるからみんなは先に外へ」 快斗は、自分も一緒に行くという園子をジャックスの一人、聖児の手に渡すとホールを飛び出していった。 その頃、蘭はまだ二階にいてコナンを探していた。 部屋に行ってみると、そこにコナンの姿はなく、リュックも置いたままだった。 一緒にいった筈の黒羽快斗も見えない。 「コナンくん!どこなの!」 またどこかで危ないことをしてるんじゃないかと蘭は気になった。 いつも事件が起こると、危険な場所であってもすすんで向かってしまうコナンであることを知っていたから。 どこかに、橋に爆弾を仕掛けた犯人が潜んでいるかもしれないのに。 姿を消した羽瀬と礼子。 何かがこの館で起こっているのだ。 ふいに誰かが自分を呼んでるような気がして、蘭は丁度いた羽瀬の部屋を横切り窓を開けた。 「蘭!」 聖児に肩を抱かれるようにして外にいた園子が、窓から顔を出した蘭に気付いて大声で彼女を呼んだ。 「早くそこから脱出して!」 園子? 「爆弾よ!爆弾が仕掛けられているの!」 「ええっ!でもコナンくんが・・」 「あの子なら大丈夫!黒羽くんが安全な場所に連れてったって言ってたから!」 「早く来い、蘭!」 園子と父親の小五郎の声に押され蘭は廊下へ飛び出した。 しかし、蘭が階段に向かいかけたその時、足下を揺るがすような爆音が轟いた。 「きゃあッ!」 大きく揺れてよろめいた蘭は足がもつれ、衝撃でヒビが入った手すりと共に下へ転落しかけた。 掴む所もなく、まっさかさまに落ちていこうとした蘭の手を、誰かの手がガッチリ掴む。 え? 蘭はまさか、と信じられない思いで瞳を見開いた。 彼がこんな所にいる筈はない・・・ だったら・・・黒羽くん? 「大丈夫か、蘭!しっかりしろ!」 「新一?新一なの?」 「オレじゃなきゃ誰だってんだよ」 「新一・・!」 新一は蘭の身体を引っ張り上げる。 「怪我はねえか、蘭?」 新一・・・・ 蘭は、思わずすがりつくように新一の濃紺の綿シャツを握りしめた。 「いったいどこに行ってたのよ!いつもいつも急に現れたかと思うと、すぐにいなくなっちゃうんだから!」 「わりぃな、蘭。けど、今はまだ、オメーとずっと一緒にいるわけにはいかねえんだ」 やっぱり・・・と蘭は潤んだ瞳で新一を見つめる。 「やっぱり何か大変な事件にかかわっているのね!どうして!」 どうしてよ!? 新一はまだ高校生なのに、どうしてそんな事件に関わらなくちゃならないの! 「ゴメン・・・いつか、わけを話せる時がくるからさ」 きっと、その時は笑っておまえに話せると思うから。 新一は蘭を一度強く抱きしめてから、彼女を支えるようにして立ち上がった。 「行くぞ、蘭」 うん、と蘭は新一の顔を見つめ頷いた。
「らぁ〜ん!」 爆発が起こって青ざめた園子だが、火の手が上がった館から蘭が出てくるのを見てホッと息を吐き出した。 「蘭!黒羽くん!無事で良かったあ!」 「ごめんね、園子。心配かけちゃって」 「ほんとに心配したぞ、蘭」 小五郎は安堵の吐息をついて、ふと娘の蘭の傍らに立つ少年を見、首を傾げる。 服装がさっきと違っている。 それになんか雰囲気が・・・ 「ご無沙汰してます、おじさん」 小五郎は驚いて声を上げた。 「おまえ、新一か!」 「ええーっ!」 工藤新一? あの名探偵と呼ばれている? その場にいた松永や聖児もびっくりしたように新一を見つめた。 確かに黒羽快斗という少年と顔立ちがよく似ている。 だが、全体から感じられる雰囲気がまるで違っていた。 黒羽快斗が明るく輝く陽の光なら、この工藤新一は青白く輝く月の光といった印象だ。 「なんで、お前がこんな所にいるんだっ!」 「オレも今回のゲームには、ちょっとした関わりがあるもので」 「何?では、おまえも怪盗キッドを追ってきたのか!」 いいえ、と新一は中森の方を向いて首を振った。 「怪盗キッドもゲームの駒の一つですよ。オレが追わなければならないのは別の人間・・・」 「怪盗キッドがゲームの駒だとお!」 中森警部は新一の言葉に、信じられないという顔になった。
くそっ! 爆発する館からかろうじて脱出した羽瀬は悔しげに舌打ちした。 あんな子供にしてやられるとは! こんなことが仲間に知れたら笑い者になるだけではすまない。 「おやおや、まだこんな所にいたのですか。諦めの悪い方ですね」 「・・・・・っ!」 羽瀬の目の前に、まるで白い鳥が舞い降りてきたかのように白ずくめの人物が現れた。 「怪盗キッド!」 羽瀬はキッドに銃を向ける。 「・・・・・・(おや?)」 地下室で銃はちゃんと取り上げておいたのだが、どうやらまだどこかに隠して持っていたらしい。 さすがは組織に属する人間だけはある・・てか。 銃を向けられながら、キッドは苦笑いを漏らす。 「・・・何がおかしい?」 いえ別に、とキッドは答える。 「やはり、三雲礼司とおまえは組んでたってわけだな」 「そうなるでしょうか。私も三雲礼司もあなた方のことはうっとうしくて排除したいということでは意見が一致していましたからね」 「排除だと?そんなことがおまえ達にできると本気で思っているのか。我々を舐めるのもたいがいにするんだな、怪盗キッド!」 「舐めているのはそちらでしょう。今だに私や三雲礼司を始末することも捕らえることもできないでいるのですからね」 「おまえは今この場で始末してやるさ。三雲礼司も、どうせこの近くに隠れているだろうから、すぐに捕まえる」 「・・・・・」 キッドが見つめる中、突然銃を向けていた羽瀬が頭から血しぶきを上げて倒れた。 なっ・・! キッドは、バッ!と白いマントを翻すと、ある一点をにらみつける。 羽瀬が撃たれた位置から即座に割り出した狙撃地点だった。 だが、キッドの立つ位置からはさすがに狙撃者の姿を捕らえることはできなかった。 その反対に、羽瀬を狙撃した男は、戸惑うことなく正確に己のいる位置を睨んできたキッドの顔をハッキリ捉えていた。 ほおう、と煙草を口にくわえていた男の唇が、楽しげに歪んだ。
「早く車に乗って」 新一は松永の乗ってきた四輪駆動車に乗り込むよう彼等に指示する。 定員オーバーはこの際無視だ。 「おい!おまえが運転シートに座ってどうする!無免許だろうが!」 小五郎は喚きながら助手席側のドアを開ける。 「非常事態ということで目をつぶって下さい」 「なんだとお!」 しかし、車の持ち主である松永は何も言わずに後部へ乗り込んだ。 あろうことか、警察官である中森までがおとなしく車に乗ったので小五郎はそれ以上のことは言えなかった。 「お父さん、新一にまかせて!お願い!」 ええい、くそ!と小五郎はそのまま助手席に乗り込む。 後部座席には蘭と園子、牧野夫人、それにそう場所をとらない体格の聖児が詰めて座り、荷物を積んでいた場所には松永と中森、吉沢の大人三人が座った。 新一はエンジンをかけると車を走らせた。 「おい、どうするんだ?橋は壊れて渡れねえぞ!」 新一は薄く笑っただけで答えない。 まさか・・・・ 小五郎の喉がゴクリと鳴る。 「本気かおまえーっ!」 青ざめて喚く小五郎を無視し、新一は後部にいる彼等に頭を下げてしっかり捕まっているように言った。 夜が明けて明るくなった目の前に、途中で切れている橋が見えてくる。 (うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!) 小五郎は恐怖のあまり声も出せず乾いた悲鳴を上げ続けた。 蘭たちは頭を下げ、身体を丸くして衝撃に備える。 車は勢いよく宙を飛び、一直線に向う側へと着地した。 (ス・・スゲエ・・・・) 聖児は無事に橋を飛び越えた車の中で思わず感嘆の声を漏らす。 もしここに光がいれば、どんなに歓声を上げたことか。 「そ、そうだ!光は・・!」 「大丈夫。彼には服部がついてる。あいつなら間違いないから安心していい」 聖児はそう答える新一を呆然と見つめた。 「すみません、運転を代わって下さい」 新一は後部の松永に頼むと、自分はドアを開けて外へ出た。 「新一!」 「悪いな、蘭。話はまた今度だ。そうそう、コナンは黒羽と一緒にいるから心配ないよ」 「おい待て、新一!歩いていける道があるのに、なんでわざわざこんな危険な方法をとりやがったんだ!うまくいったから良かったものの、失敗したら全員お陀仏だったんだぞ!」 「奴らが絡んでいてはそっちの方が危険なんですよ」 それに、あの距離なら飛び越えられる自信があったと新一は小五郎にいった。 「奴らだあ?まさか、爆弾をしかけた奴のことを言ってんのか?おまえ、いったい何を知ってんだ!」 「・・・・・・行って下さい」 黙っていた中森までが、気にくわないという顔でにらんできたので、新一は早々に運転席にいる松永を促す。 車が橋の向こうへと走り去るのを見送ると、新一は静かに向きを変えた。 橋の向こう側にはいつのまに来たのか、白いシルクハットを被った怪盗が立っていた。 キッドは新一に向けてロープを投げる。 新一はそのロープの端を受け止めると、自分の身体に回し外れないようにきつく結ぶと橋の上から飛び降りた。 キッドの側にあるロープは橋の手摺り部分にきつく縛り付けてあった。 ロープにぶら下がった新一は、腕の力で上にのぼっていった。 キッドもそれを助けるようにロープを手繰り寄せる。 「ごくろうさん」 キッドは上にあがってきた新一に向けニッコリ笑う。。 「服部を見たか?」 「西の探偵?いや、まだ見ねえな」 「・・・・・・そうか」 「心配ないだろ。簡単にへこたれるような可愛い玉じゃなし」 新一は、そう言って館の方を見つめるキッドの横顔に眉をひそめた。 ポーカーフェイスにかわりはないが、何故か新一は不安な何かをその白い横顔に感じる。 「何かあったのか?」 どうして?とキッドは新一に問い返す。 「・・・・・・・」 何かがあったとしても、新一に直接関わることでなければこいつは何も答えないに違いないと、自分に似たその顔を見て彼は思う。 キッドはニッと唇に不敵な笑みを刻むと、新一に手を差しのばした。 「さて、行こうぜ。レイジの奴をとっ捕まえに」 ああ、と新一は差し出されたその手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。
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