頭が良くて顔も良くて性格も悪くない。得意なものは「マジック」。 オレがソイツを見かけるときは、誰かしらが傍にいる。たまには囲まれているときもある。男だったり、女だったり…中心にはソイツのキレイなキレイな笑顔。 誰もが魅了されずにはいられない。そんな類の男だ。
そんなソイツが、オレは大嫌いだった。
最近なんとなく一緒にいるようになった友人がいる。大学に入ってからできた友人だ。 と言ってもそんなに親しいわけじゃない。たまたま同じ学部で、たまたま同じ講義を多く取っていて、時間が経つうちになんとなく話をするようになった。そんな関係。 一歩教室を出ればお互いどこへ帰るのかもわからないような、それくらいの友人。 それでも話しやすいし、一緒にいて苦痛じゃないし。いい友人なのだとオレは思っている。
………最初に名前を聞いたときにはさすがに驚いたけれど。
この友人の名前は、「工藤新一」。 日本で知らない者はいないんじゃないかというくらいに有名「だった」高校生探偵と同姓同名なのだ。 なぜ過去形なのかといえば、ここ2,3年彼は以前のように紙上を騒がすことがなくなったし、オレと同い年のはずだからすでに「高校生」ではない。 今彼がどこで何をしているかなんて、もともと世間に疎いオレが知るすべはない。 もっとも、あまり興味はないけれど。 そんな有名人と同姓同名の友人の名前を聞いて驚いたのはなにもオレだけではない。最初の自己紹介でほとんどの人が目を丸くする。それだけでいまだ「工藤新一」の知名度がわかる。 だが結局皆驚くだけだ。まさかあの工藤新一?と思うヤツは誰もいない。 なぜならこの友人は、あの華やかささえ感じた工藤新一とは受ける印象が正反対なのだから。 のびっぱなしの肩につきそうなくらいの髪が顔全体を覆っていて、さらには分厚いメガネまでかけている。猫背気味で全体的に暗い印象を与える。 友人をこんなふうに思うのは気が引けるが…どちらかといえば女子たち曰く「ダサい」と言われるような部類に入る人間だった。 もっとも、オレもその部類に入るらしいが…。(余計なお世話だ!) だから誰も、あの「工藤新一」と重ねることはない。(そういえば、同姓同名だね、と言って嫌な顔をした失礼な女もいたっけ…) 以前そのことについて聞いてみたら、どこにでもある名前だろ?とけろっと言われた。本人はまったく気にしている様子はなかった。 だがこの友人、非常に頭がいい。うまくいえないが頭の回転が速いというか…そんなところはあの探偵と似ているのかもしれない。 ………興味がないとかいいながら結局比べてしまうのは、結構惹かれるものがあったのだろうか、あの探偵に。オレは。 まぁとりあえずそのことは置いといて。 とにかく何がいいたいのかといえば、この友人皆が思っているほど暗いヤツでもないし、悪いヤツじゃない。少なくとも、オレにとっては。
そして今日もオレは、彼と、工藤と一緒に昼飯を食ってたりする。
「すごい目だな。そんなにあからさまだと気づかれるぞ?」 かけられた声で我に返った。 向かい側の席で缶コーヒー片手に苦笑いしているのは工藤。ちらりと今までオレが無意識のうちに睨みつけていたらしい方向を見やる。 視線の先には今日も相変わらず1人ではいない男の姿。 いつもの取り巻きの連中は皆美形で、その部分だけが華やかだった。その証拠に自然と周りの視線が集まっている。慣れているのか、本人たちは気にしていないが。 そんなヤツラの中でもひときわ華やかな存在。
黒羽快斗――オレと同い年の21歳。 首席入学を果たした秀才であり、容姿もずば抜けている。かといってそれを鼻にかけることもなく、明るい性格で皆に好かれる。得意なものは「マジック」で、将来はそっちの方へ進みたいらしい。 知りたくなくてもそんな情報がオレの耳にまで入ってくる。そのくらいこの大学では有名な男だった。 誰もが彼を放っておかない。だから1人でいるところを見たことがない。 でもオレは…――― 「本当に嫌いみたいだな、お前」 オレの心を代弁するかのように工藤が言った。やっぱり苦笑いしていた。 それはそうだろう。黒羽のことを誰もが好きに思っているわけでもなく、あまり面白く思っていない連中もいる。その中でもオレは工藤曰く『異常』なのだそうだ。 しかし工藤の言い方は、そのことを責めているわけではない。ちょっとばかり呆れが含まれているが。
「そんなにあからさまか?オレ」 「ああ。気をつけろよ。あいつの取り巻きに見られたら何されるかわからねぇぞ?」 まるでどっかのアイドルの追っかけのようだからな。 穏やかに笑いながら(顔半分隠れているのでよくはわからないが、口元が笑っているからそうなのだろう)工藤がオレにさりげなく注意する。 わかってる、そんなことは。言われるまでもなく。 だがこれはほとんど条件反射のようなものだ。頭じゃわかっていても、黒羽を視界におさめたとたんに眉間に皺がよってしまうようにできてしまったのだ。 なら見なければいいと、とりあえずそっぽを向いてああと小さく頷いた。 そんなオレの様子に、くすくすと笑う工藤の声が聞こえてくる。
「なんでそんなに嫌うかなぁ。いいヤツだと思うけど?……僻みか?」 聞き捨てならない言葉が聞こえる。 「そうじゃない!………いや、ちょっとはあるかもしれねぇけど……」 そりゃあ同じ男として羨ましいと思わないわけがない。どんなに文句を言ってみたって、他人からすれば僻みにしか聞こえないだろう。 でもオレが黒羽を嫌うのはそれだけじゃない。自信を持って言える。 「アイツ、あの笑顔とか全部、ニセモノくさくて嫌なんだ」 ポツリともらした本音に、工藤の目が意外そうに見開かれた。 「へぇ…」 「なんだよ」 「面白いこと言うなと思ってさ」 本当に楽しそうな響きを持って言いながら、さらに口元が歪められた。こんな工藤は珍しかった。 そこで黒羽の話は終わって(いつのまにか集団もいなくなっていたし)、その後はいつものように他愛のない話をして、それぞれの講義のために食堂の前で左右に分かれた。 オレが次に取っている講義は食堂からも近かった。後ろの端のほうに座って、始まるまでの時間を寝とこうと思ったのだが、顔を伏せる前に誰かがオレの横に立った。 それだけなら無視できるが、名前を呼ばれちゃあ顔をあげるしかない。 立っていたのは同じ学科の男。名前は、知らない。 いくつか同じ講義を取っているけれども、工藤のように親しく話をするわけでもない。顔見知り程度の相手だ。――向こうはオレの名前を知っているみたいだが。 「なぁお前さ、次の講義黒羽と一緒だろ?」 邪気はなく明るい笑みを浮かべながら突然問いかけてくる。 本当に突然だったので一瞬考えてしまった。 「あ、ああ…そうだけど」 「よかった!じゃあこれ黒羽に渡しといてくれよ。頼んだぜぇ」 「え、おい!」 拒否する間もなく渡されてしまったブルーの黒羽の大学ノート。弾みとはいえ手を出して受け取ってしまったオレもオレだ。 押し付けたヤツはサボりを決め込んだのか、さっさと教室を出て行ってしまっている。入口のあたりに茶髪の女が立っていてソイツを待っているようだったから、デートなのかもしれない。 そう考えれば非常に腹立たしい限りだ。 自分で渡せばいいだろっ!? 文句を言ってみても(もちろん心の中で、だ)すでに遅し。押し付けられたノートだけが手元に残っている。 誰に見られているわけでもないのになんとなく気まずくて。 1ページだけ黒羽のノートをめくってみた。意外にキレイな文字がびっしりと詰まっている。オレや工藤のノートよりも書き込みが多い。 秀才だと言われている黒羽。きちんと努力する人ではあるらしい。 ぼんやりと考えながらも、オレはすぐに閉じた。人の(しかも嫌いなヤツの)ノートなんてじっくり見るもんじゃない。 だが結局その時間は先生の言葉よりも黒羽のノートの方に気を取られながら終わってしまった。どうやって渡そうか、無意味にもそんなことばかり考えていたのだ。 考えなくてもわかることだ。頼まれたから、で差し出せばいいだけのこと。 だが見れば反射的に人相が悪くなってしまう相手のことだ。オレは憂鬱になりながら次の講義の教室へと向かうのだった。
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ったく、なんだって今日に限って来ないんだよっ! 自分だって結構サボっているくせに、理不尽な怒りを感じながらオレは帰り道を歩いていた。 そう、今日黒羽と一緒のはずだった講義に黒羽は来なかったのだ。だから当然ノートはまだオレの手元にある。オレのものと一緒にカバンの中で揺れている。 はっきり言ってあんまり気分のいいものじゃなかった。 明日別の誰かに押し付けてやる!そう考えていた矢先だった。 本当に、偶然だった。 思わず足をとめてしまう。 いつも通っている海岸沿い。砂浜と道路を隔てるように建てられた結構高めの堤防の上に、海を見つめながら座っていたのは黒羽だった。 いつもの明るい様子はまったくない。ぼんやりと海を眺めていた。 チャンスだ!今のうちに返してしまえ! そう思ったのに、なぜか話しかけられなかった。その時の黒羽は、どこか頼りなかった。 話しかけるタイミングをはかっていると、突然この静かな空間を壊すように音楽が流れてきた。オレでも知っている、一昔前に流行ったラヴソング。 それは黒羽の携帯からのようだった。黒羽は慌てた様子でポケットやカバンの中を探している。 こういうときに限ってなかなか見つからないんだよな、うん。 なんとかカバンの中から引っ張り出したとき、幸いにもまだ音楽は流れていた。 相手を確認しただろうときの黒羽の顔。 とても嬉しそうに笑った。 すぐに出てなにかを話していたようだが、オレの位置からは聞こえない。でも終始嬉しそうな顔を崩さない黒羽に、相手はよっぽど大切な人なのだろうかと思う。 いつもの「ニセモノ」ではない。 その笑顔はきっと、「ホンモノ」なのだろう。
―――――ってなにを呑気に観察してるんだ、オレは!
そう思いながらも、律儀に電話が終わるのを待って、携帯をしまい立ち上がった黒羽に声をかけた。 黒羽が驚いたようにオレを見る。 こうして近くで見ると……やっぱりキレイな顔をしている。 「これ、頼まれた」 自分でもぶっきらぼうだなと思いながらも、用件だけを告げて出しておいた黒羽のノートを差し出す。黒羽はまだちょっと驚いたような顔をして、それでも受け取った。 用はすんだ。 じゃ、と短く言って踵を返したオレの背に、小さな笑い声が聞こえてきた。 そこで気にせずそのまま去ればよかったのに、そこまで大人になれないオレはむっとした感情のまま立ち止まり振り返ってしまった。 案の定笑いをこらえる黒羽の姿。 「…なんだよ」 声が低くなってしまうのはオレのせいじゃないぞ。……たぶん。 「わりぃわりぃ。……あんた俺のこと嫌いでしょ」 「………」 本人にはっきりと図星をつかれて、オレは口を噤んでしまった。 なぜわかった? 今まで「黒羽が嫌い」とはっきりと言ったことがあるのは工藤だけだ。まさかアイツが?と思うが、すぐにそんなはずはないと否定する。 工藤が黒羽と話しているところは見たことがない。口ではいいヤツとか言ってたが、どちらかといえば工藤も黒羽とは距離を置いていたように感じた。 そもそも、工藤が黒羽にそんなことを告げ口する必要性がない。 オレの悩みを読み取ったかのように黒羽が、 「あんたの態度見てればバレバレだって」 と教えてくれた。 そうですか。そんなにわかりやすいですか。確かに工藤にもあからさまだって言われたけど。 まぁいいけどさ。隠してるつもりもないし。 肯定も否定もせず、また「じゃ」の一言で今度こそ去ろうとしたオレの背にまた声がかけられた。 「オレはあんたのこと、結構好きだけどね」 またしてもオレは振り向いてしまった。 今幻聴が聞こえたような… だが今度は黒羽もすでにオレに背を向けていて、「ノートありがとね〜」なんて言いながら飄々と歩いていってしまう。 オレはしばらくの間呆然と突っ立ってしまった。 好き?誰が?誰を? 頭が混乱する。うまく考えられない。だからやっぱり、「幻聴なんだ」で片付けることにした。 だって黒羽と口をきいたのは、今がはじめてなのだから。 深く考えないことにして、オレはさっさと帰路に着いたのだった。
■□
次の日、どうにも煮え切らない気持ちで学校へやってきた。深く考えないように――と思えば思うほどにどんどんと深みにはまっていってしまうのだ。 きっと当の黒羽にとってはたいした意味はないんだろうに。そう考えればなんともいえない悔しさが湧き上がってくるのだ。 こんなとき話を聞いてくれるのは工藤だけだ。 だから2限から一緒の工藤に会えるのが待ち遠しかった。のだが…――――― 「また体調でも崩したかな…」 2限が始まっても、30分経っても、工藤は現れなかった。現れないまま結局昼休みを迎えてしまう。 それでも工藤は現れない。 工藤はめったなことで講義をサボったりしない。休むとき、それは決まって体調を崩したときだった。昔から身体が弱いらしい。なにかしらですぐに体調を崩してしまうのだと以前聞いたことがある。 きっと今日もそうなのかもしれない。あとでノートのコピーを渡してやろうと思った。 これで今のところ昼は1人になってしまった。 別に友人が工藤1人だけってわけじゃないぞ!もちろん他にも友人はいる!ただなんとなく、昼飯を食うときは工藤と2人ということが多かったのだ。 食堂に行って適当に混ぜてもらおうと考えながら、食堂への近道へ入った。草が生い茂ってて狭くて、あまり人が通らない道だが、ここを通ればかなり近くなるのだ。 なに食おうなんて呑気に考えていたとき、ふと目の端に見知った姿が入ってきた。 草の陰にちらっと見えただけなので、確認するために一歩下がる。はっきりと見えたその顔。 「やっぱり…工藤?」 そこにいたのは、工藤だった。しかも1人ではない。工藤と向かい合うように同じ背格好の男が立っていて工藤になにかを話している。 内容は聞こえないがちらりと見えた相手の顔にまた驚いた。 工藤と話していたのは、あの黒羽だった。散々オレを悩ませてくれた男。 しかもどこか必死な様子で工藤に話しかけている。 当の工藤はなにも言わず、ただそれを聞き流しているだけのようだ。それでもきっと、困った顔をしているのだろう。 黒羽の表情。二度目の、「ホンモノ」だと思った。 なぜ工藤がここにいるんだろう?講義には来なかったのに…。しかも黒羽と一緒に、こんな人気のないところで何を話しているのか? なんとなく面白くない気がした。 だが体調を崩しているのは本当かもしれない。もともと白い工藤の顔色が、さらに透き通るような白さになってしまっている。 こんなところにいないで休ませた方がいいんじゃないのか。 思うけれども、オレは出るに出られなくなっていた。 そのとき、誰かがオレの背にぶつかった。どうやらオレと同じように食堂へ近道したい珍しい人物らしい。 オレからぶつかったわけではないのだが、スミマセンと謝ろうとしたとき。 「あ〜!あんた!」 ぶつかってきた男の隣にいた女が甲高い声をあげてオレを指差してきた。その声にはどこか非難めいたものが含まれていたような気がする。 それにしても人を指差すとは失礼な女だ。 よく見れば結構美形揃いの男女合わせて5人くらいの集団だった。しかも見たことがあるような……。 考えてすぐに思い出す。 こいつら、黒羽の取り巻きだ………
すごい目だな。そんなにあからさまだと気づかれるぞ?
工藤の声がよみがえる。 気をつけろよ。あいつの取り巻きに見られたら何されるかわからねぇぞ? 一斉に睨みつけてくる集団。 オレの中で黄色いランプが点滅している。やばい状態、なのかもしれない。冷や汗が流れた。 「あんたいっつも快斗君のこと睨んでるでしょ」 「あんたなんかが快斗君と張り合えるとでも思ってんの!?」 「ばっかじゃない」
……どっかで聞いたような台詞。 呆れて怒る気もしない。 へぇへぇすみませんね。誰も黒羽に張り合おうなんざ思ってませんよ。 心の中で毒づいて、無視してその場から離れようとした。ら、強い力で腕を捕まれて動けなくなる。容赦ない力に顔をしかめた。 「おい待てよ、コラ!」 案の定シカトされることが嫌いらしい連中がオレの態度にむかついて無体を強いてくる。 くそっ、やっぱり黒羽にかかわっていいことなんかねぇ! 理不尽だが怒りの矛先を黒羽へと変えたとき、突然痛みが消えた。そして誰かが連中とオレの間に立ちはだかる。 「黒羽…」 「か、快斗君……」 焦る連中の声が聞こえてきた。 どうやら立ちはだかってくれたのは理不尽な怒りを向けたばかりの黒羽らしい。まぁあの距離でこいつらの声が聞こえないはずはないが。 オレには背を向けているから黒羽がどんな顔してるかなんてわからないが、ヤツラの青ざめた顔を見れば大体想像がつく。 「コイツ、オレの友達なんだけど…なにしてたんだ?」 ……またなんか変なことが聞こえてきた。 誰が誰の友達だって? だがなにも言わずに黙っている。きっとこの状況を切り抜けるための方便なのだ。黒羽がそういうのが、こいつらを追っ払うのに手っ取り早い。 そう理由付けてみるけれど、なぜだろうか。 ―――――嫌じゃないと思ってしまった。 浮かんだ考えにオレが困惑しているうちに、黒羽の取り巻き連中は逃げていってしまった。 振り向いた黒羽の顔には、申し訳なさそうな感情。 「わりぃな。俺のせいで…」 「……………別に、気にしてない」 やっぱり一線引いてしまうオレに黒羽は苦笑いして、もう一度ごめんねと謝ってから同じようにその場を去っていった。 そのとき、ちらりとオレの後ろを見たのに気が付いた。 「大丈夫だったか?」 オレの後ろ――黒羽が見た方向――から声がかけられる。工藤だった。 きっと黒羽といるところをオレが見てしまったことに気づいているだろうに、工藤に慌てる様子はない。まったくいつもと同じ様子である。 すべてオレの勘違いかと思ってしまうほどだ。 「あ、ああ……」 促されて、黒羽が消えた方向とは反対方向、つまりは食堂の方へと歩き出す。 「災難だったな。だから言ったんだよ。お前のはわかりやすすぎるって」 「ああ、よぉっくわかったよ」 今度から気をつけます。 まったく反省の色がないオレに工藤は笑った。 「で、ますます黒羽が嫌いになったか?」 聞かれてオレは思わず立ち止まってしまった。気づいた工藤も、同じように一歩進んだところで足をとめ、振り返ってオレを見る。 なんとなくわかった。髪やメガネで覆い隠されている工藤の目が、探るようにオレを見ているだろうことに。 「……そりゃ嫌いだ。さっきのも助けてもらったとはいえもともとはアイツのせいだしな」 「そうか」 「でも。………『ホンモノ』はそんなに嫌いじゃない、かもしれない」 素直に述べた自分の心がなんとなく気恥ずかしくてそっぽを向いて小さな声で呟いた。本当に小さいから、工藤に届いたかわからない。 ちらっと窺うように見て――オレは驚いてしまった。 ちょうど吹いてきた風が工藤の長めの髪を持ち上げる。工藤は、笑っていた。 「……な、なんか嬉しそうだな」 「ん?ああ。やっぱり―――――――――――――――――」 タイミングよく突風が駆け抜けていく。工藤の言葉も途中からすべてさらってしまった。だから何を言ったのかわからない。 だがオレは見てしまった。 風に吹かれて舞い上がった黒髪の下に隠れていた工藤の顔。嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑っていた。 そして一瞬だが見えたメガネの奥に見えたもの。 とてもキレイな蒼い――――――――――――――――――――― 「おい、もう行かないと食いっぱぐれるぞ」 風がおさまったとき、前にいたのはいつもの工藤だった。なにもなかったかのように言って、さっさと先に歩き出してしまう。 離れていく背中にオレは我に返って、慌てて工藤を追った。 追いながら思った。 オレってもしかして、大変なヤツを友人にしてしまったのかもしれないな…。
「あ〜…だりぃ……」 ソファの上横になり、快斗の腿に頭を乗っけて隠すことなく口にした。テーブルの上には今は使わない分厚いメガネが無造作に置いてある。 足に乗っかっている髪を優しく梳きながら、快斗は苦笑する。 「だから無理するなって言ったのに。ほんとに学校来るんだもんね」 「誰のせいだ誰の!」 「え〜、それはもちろん俺でしょv」 悪びれもなく、へらっと笑う男を絞め殺したい衝動に駆られながらも、身体は言うことをきいてくれず、新一は舌打ちをする。 ったく、甘やかすんじゃなかった…。後悔先に立たずだ。 「そういえばさ、アイツが面白いこと言ってたぞ」 「ん?なんて?」 「ニセモノじゃないお前は結構好きだってよ」 「へぇ〜…」 そんなことを、といいながらもどこか嬉しそうな快斗に新一は小さく笑う。 「お前、結構アイツのこと気に入ってるよな」 「ん〜?だってさ、新一以外に気づいたやつなんてはじめてなんだもん。さすが新一の友達だよな」 ときどきすっごく妬けるけど…。同じ学校なのに触れちゃいけないなんて辛すぎるよ〜。 泣きまねをしながら新一の頭を持ち上げて抱きしめてくる。まるで大きい子供だ。 「アイツも本当は快斗のこと好きなんだと思うぞ。変な意味じゃなくな。1日に1回は必ず快斗のことが出てくるしな。ニセモノだってわかるってことはよく見てる証拠だろ?」 「………ね、ちょっとは妬けた?」 少し身体を離して快斗が聞いてくる。期待に満ちた瞳。 きょとんと見つめてしまった新一は、次に意地悪な笑みを浮かべた。 「いや全然」 にっこりと笑ってきっぱりと言われた言葉に快斗は目に見えて落ち込んでしまう。 嘘でも良いからそうだって言ってくれても良いのに…。 ぶつぶつと呟きながらも、新一の身体はしっかりと抱きしめて離さない。 「むしろ、嬉しかったかな」 「なんだよそれ〜…」 「だって」 自分の大事なものを褒められたら、やっぱり嬉しいだろ…? 耳元で囁かれた言葉。 目を瞬いたあと、反芻された言葉に快斗は柔らかく笑った。そのまま顔を近づけていって、あと数センチで唇が触れる、というときに。 新一の手によって阻まれた。 「………新一ぃ」 「今日はダメだ。そう何日も休めるかっ」 「大丈夫!そのためにきちんとノートのっておいてあげてるでしょv」 「そういう問題じゃない!」 「ダメ。もう何を言っても受け付けません〜」 拒否する手を捕まれる。 どんなに目で訴えても、快斗の笑顔の前にすべて却下された。 「潔く諦めなさいv」 上機嫌の快斗の前に、ついに新一は諦めた。
END....?
30万なんてまだまだ先のことだと思っていたのでいまだ実感ありません(汗) お礼...というにはちょっと、なお話ですがフリーといたします。 気に入ってくださった方はどうぞお持ち帰りください。 なぜ新一があんな姿なのか、快斗と他人のふりなのか、すべてすっ飛ばしてますが(爆) 今回は第三者からの2人を書きたかっただけなのであまり気にしないで下さい^^; 名前すらない友人A君…ごめんよ;
30万ヒットおめでとうございます、友華さん!! |