「・・・・・最悪」
窓の外を見た快斗の感想はそれだけ。あとは言葉にならない。
「これじゃあ飛ぶのは無理じゃねぇか・・・・・」
だがこの日を逃したら、獲物は遠い異国へと帰ってしまい、わざわざとりに行かなければならなくなる。
「やりずらいな・・・・でも・・・・やってやろうじゃねぇか」
にやりと笑う。半分やけになっていた、のかもしれない・・・・・
「中森警部、本当にキッドのやつは来るんですかね?」 「予告状を出した以上、やつは絶対に来る!気を引き締めろ!」 「しかし・・・・」
博物館の外にいるものたちは、傘が何の役にもたたないため、カッパを着て待機している。だが、嵐のために、目をあけるのも困難な状態だった。
彼は来る、絶対に。
そう信じて疑わないのはおそらく博物館の中で待機している白馬一人であろう。
この嵐が僕にとって最大の味方になるかもしれませんね。
大きめの窓から見える荒れた外の様子を見てにやりと笑った。
「そろそろ時間だな」
今日はどんなふうに仕掛けてくるのか・・・・・
白馬が懐中時計を見た瞬間、館内の照明がすべて落とされた。
「落ちつけ!早く調べるんだ!」
暗闇の中で中森の指示する声が響いた。
「キッド!」 「なにぃ?!どこだ!!」
と、ライトがその窓を照らした。そこに立っていたのは不敵な笑みを貼り付けた怪盗。
「このような嵐の晩までご苦労ですね、皆さま。」 「今日こそ捕まえてやるからなぁ〜、キッド!!」
いつもと変わらぬ中森とのやり取りに、キッドの態度も相変わらずだ。
「捕まえるもなにも、すでに獲物は私の手の中ですよ?」 「な、なんだと?!」
上へとかざしたキッドの手の中には先ほどまで自分たちが守っていたビッグジュエル。 い、いつのまに・・・ 悔しそうに中森は顔を歪めた。
「これ以上嵐がひどくならないうちに、あなた方も早くお帰りになったほうがいいですよ?」 「ま、待て!」
閉じられていた窓がまるで魔法のようにひとりでに開き、強い風と雨が中に入り込む。
「では、また」
パタンと窓が閉まり、吹き荒れていた雨風もとまる。だがすでにそこには当然の如くキッドの姿はない。
「くそっ!追うんだ!ヘリからも・・」 「警部、今日はヘリは出てませんよ?この嵐で」 「っ・・・わかっとる!やつだっていつものように空を飛ぶことはできまい。まだこのあたりにいるはずだ!捜せ!」
いささか顔を紅くして中森も外へ向かう。このときすでに白馬の姿はどこにもなかった。
どんどんと走り出していくパトカーを眺めながら、白馬は自分の車の中でじっと待つ。 おそらく彼はまだこの敷地内にいて、逃げ出すチャンスを待っているはずだ。 すべてのパトカーが出ていき、博物館の周辺は一気に静かになった。
やはり!
「あのバイクを追ってください!」
白馬の言葉に従って車は嵐の中、前を走るバイクを追った。 バイクが徐々に狭い道へと入っていった。車一台がぎりぎり通れるような道。だが運転暦の長い白馬家の運転手はうまくすり抜けていく。
どこだ?!見失ったか?! やみくもに走っているうちに海の近くまで来ていた。 あたりを見回しても見えるのは荒れた景色ばかり。
「しつこいですね、あなたも。」 「キッド・・・・」
堤防の上に腰かけ、自分の方を見て笑った。
「その行動に免じて獲物を返してさしあげたいところですが、いまはまだそういうわけにもいかないのですよ。」 「・・・それはどういうことです?」 「でもまぁ、近いうちにこれはお返ししますよ。」
キッドは盗んだ宝石をもてあそびながら言った。
「キッド、あなたは・・・」 「しっ!」
白馬の言葉を遮ってキッドは自分の口元に指をたてる。
「・・・きたか・・・・」 「え?」 「白馬探偵、おしゃべりはもう終わりです。死にたくなければすぐにこの場を立ち去ることだ。」
そう言い残して堤防の上を走っていくキッドを追おうとしたとき、シュンという音が聞こえて白馬はとっさに身をかがめた。
銃声?!
息を殺して周りの気配をうかがう。
しばらく走ると、一つだけ入り口が開いている倉庫が見えた。
「私は帰れと言ったはずですが?」 「っ!キッ・・」 「静かに!動かないでくださいね?あなたを庇う余裕なんてないのですから。」
柱ごしにキッドがいる。柱をはさんで背中あわせに。
「・・・なぜあなたは狙われているのです・・?」
訊ねても、返ってくるのは沈黙だけ。白馬は小さくため息をつく。
「・・・・私が、それ相応のことをしているからですよ・・・」 「!」
少し経ってから返された答えに驚く。はじめて自分の質問にまともに答えが返ってきた。
「あなたはなにを言っても何が起こっても必ず私を追ってくる。本当に、困った方だ・・」
くすり、とキッドから笑いがこぼれた。 ま、それを楽しんでる自分がいるんだよな・・・・
「どこまで追ってこれるのか、楽しみにしてますよ?白馬探偵」 「キッド?!どこへ・・」
キッドが離れていく気配を感じて、白馬は慌てて問いかける。
「言ったでしょう?あなたを庇う余裕はないと。むこうもプロですからね。私がひきつけている間に、今度こそお帰りくださいね?」 「キッド!!」
柱の影から飛び出し、外へ向かって一気に走り出す。そのあとに、銃が撃ちこまれていく。 キッドの言葉が頭の中で繰り返される。自分を追ってこいと彼は言った。白馬は笑みを浮かべた。
白馬もしつこいが、こいつもたいがい・・・・・
走る自分を執拗に狙う暗殺者。
くっそ〜!やっぱ嵐の仕事なんてしなきゃよかったぜ!
キッドは堤防へと再びのぼり、そのまま荒れた海へと飛び込んだ。
暖房のきいた暖かな部屋の中で新一はコーヒー片手にお気に入りの小説を読んでいた。
「よぉ無事だったか、怪盗さん?」 「・・・・散々だったぜ・・・・」
新一から渡されたタオルで顔を拭きながら、窓から快斗が入ってくる。
「白馬はいつものことだけど、今回の刺客、すんげぇしつこくてさ」
おかげで海を泳ぐはめになっちゃったよ。
「だからやめとけって言っただろ?」 「しかも月が出るまでこれ、返せねぇしなぁ・・・」
宝石をポケットから取り出した。
「ここにおいてくなよ?風呂沸かしといたから、さっさと入ってこい。風邪ひくぞ?」
明日風邪で休みなんてことになったら、ますます白馬に疑われるぜ?
それもそうだと快斗は宝石と衣装全部を持って部屋を出ていった。
白馬、か・・・・かなりの執着ぶりだからな。
「なに考えてるの?新一」
部屋着に着替えた快斗が髪をがしがし拭きながら戻ってきた。
「いや、なんでもないよ・・・」 「そう?」 「ああ。そうだ、お前ココア飲むか?」 「う〜んそれよりも・・・」
快斗は新一の腕を引いてそのままソファへと押し倒した。
「新一が暖めてよ」
にっこりと笑う快斗を新一はジト目で睨んだ。
END
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■キッドさまの敵は自然(笑)白快と銘うった快新になってしまいました(^^;
一応背中あわせの会話は入れてみましたが、キッドまったく白馬君に追いつめられてませんね(汗)
すみません、麻希利さま(><)追いつめられるお話は別な機会に・・・・ありがとうございます、友華さん!
キッド様を追う白馬くんと、狙撃者を相手に白馬を気遣うキッド様がステキでした。
でも何と言っても、新一でしょうね!
話の雰囲気が白馬くんがいる時とモロ変わりましたね。
キッドが帰るところはやっぱり新ちゃんとこv
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