夜空の下。
新一――コナンはふと腕時計が示す日付を確認した。
そこには“7.7.Sat”の表示。
何年ぶりかの晴れた七夕。
地上の光が強すぎて、天の川も、その両脇の恋人達も、見えないけれど。
「七夕・・・か。アイツらしいな」
コナンが呟いた“アイツ”と言うのは言わずと知れた怪盗キッド。
今日は彼の予告日。
特に協力の要請が来たわけで無く(子供だから当たり前)。
ただなんとなく。
忙しない時の流れの中に身を落としていたかった。
七夕の恋人達を祝う気分なんか、なれなかったんだ。
何年も飽きずに宝石を追っているキッドと、同じく飽きもせずにキッドを追う無能な警察・・・と自分。
変わらない、穴だらけの警備体制とそれを変えようとしない頑固オヤジ。
いい加減嫌になる、と思ったり。
1人そんなことを考えていると、遠くから頑固オヤジ――中森警部の声が聞こえてくる。
『キッドの予告時刻まであと5分だ!気を抜くな〜!』
気を抜かなくても穴だらけ!
・・何故だろう、夜空の恋人達に嫉妬しているのかもしれない。
今日はなんだかイライラする。
踵を返したコナンは高層ビルに囲まれた、人気の無い公園を目指した。
そこは都会には珍しい、だだっ広い空き地のような所だった。
公園を囲むようにして木が茂っていて、外の光は届きづらい。
公園と呼ぶには相応しくない、遊具も街灯もかなり少ない場所。
そのせいで公園(?)は全体的に暗く、星も明るめのものなら見える。
噂では何かの事件があったらしくて、人は近づかない。
だから本来なら、今あるほんの少しの街灯すら必要無いのかもしれない。
しかし人が来ないのならば、キッドが降り立つ舞台としては最良だ。
コナンは何かに疲れたかのように、微かにふらつきながら、ここが“公園”である唯一の理由ではないかと思わせる、ブランコに座る。
足を地面につけたまま少し揺らして見るとキィキィと懐かしい音がする。
探偵のカンだろうか。
突然ガバッと顔を上げ天を見上げたコナン。
その目線の先には白いカタマリ。ふわふわと降りてくる。
ブランコから降りて、ツカツカと立ち寄って話しかける。
「よぉ。今日は“アタリ”か?」
少しばかりの嘲笑を含んだ物言い。
「これはこれは、小さな名探偵。やはり貴方の瞳は・・挑戦的で、熱いのに冷たくて、私を捉えて離さない・・」
キッドは、跪き、コナンの手の甲に軽くキスをした。
そしてコナンの瞳を見つめて呟く。最後のほうは陶酔気味だ。
「どうでもいい」
いいながら掴まれたままの手を奪い返す。
「どうせ“ハズレ”だろ?宝石を返せよ。その為に来たんだ」
興味なさげに目をそらし、再び、今度は自分から、睨む様にして、立ちあがったキッドに視線を合わせる。
見上げている状態がもどかしい。
つれない名探偵に小さくため息を零し、宝石を胸元から取り出しながら。
「今夜は七夕。仲を引き裂かれた恋人達が、出会い愛し合える日だと言う。
・・・探偵と怪盗。これもまた禁忌の恋愛だというのなら。天の伝説に準えて我等もまた、愛し合いませんか?」
本気で言っているのか、コナンを試そうとしているのか。余裕のある笑みを称えたままのキッド。
「オレがそんな誘いにノるとでも思っているのか?見縊るなっ」
少し怒った様子で言い放ったコナン。
それを見てキッドは先程よりも優しい笑みでコナンを見つめる。
「怒らないで下さい、名探偵。貴方があまりにも哀しそうに天を見つめていたから・・天の恋人達を羨ましそうに」
コナンは過敏に反応した。
――1年にただ1日でも出会える日があるのなら幸せだと思う――
「何故貴方はそんなにツライ恋をするのですか?そんなに小さな躰で」
「関係無いだろ!さっさと宝石返してどっか行け!!」
刹那、傷ついたような瞳でコナンを見つめたキッドは宝石を渡しながら。
「コレは私の求める真実ではないけれど」
キスをする。
「貴方を求めるココロは真実ですから」
哀しげに呟いたキッドは天高く消えていった。
残されたコナンは宝石を握りしめて目を瞑り一息ついて。そして遠くを見据えて歩き出す。
キッドの告白は“子供”に疲れたコナンを少し癒してくれた。天の恋人達を祝福できるくらいに。
星が輝く夜に 僕は君と出会ったの。
傷ついて見えた君に 僕はキスをした。
君の笑顔が見たかったの。
綾さんから頂いた地雷小説です。ありがとう〜vここんとこ、自分では更新する暇ないし、
せっかくの七夕にもなんにも出来なかったからとってもとっても嬉しいです〜!
おまけに、キッドさまが優しい〜〜v
こ〜んな、優しいキッドさまに口説かれるコナンくんて、え〜いシアワセもん!
(本人はなんとも思ってないんでしょうが)最後の3行がすごくジーンときてしまいましたv