Reason
of cooperation
〜気になる事柄は〜
そびえ立つビルの明かりが、遠くに、闇に溶け込む宝石のように光り輝いている。
あの辺りは、太陽が落ちても昼間のように、いや、昼間より…活気溢れている。
だが、俺がいる場所は、都心からかなり外れたある一角。道路わきには雑貨やコンビニ、花屋といった店が並んでいる商店街。コンビニが一軒開いているぐらいでほかの店は夜も遅い為に閉まっている。都心と比べると、天と地ほどあるぐらい静かだ。
それでも、時折、車が通ったり、すぐ近くに住宅街があるから、全くの静けさ…ではない。が、ここで一人で突っ立っていると、自分一人しかいないのかも…という、不安に落とされてしまう。
俺は、今、最近騒がしている、グループが出てくるのを待っている。そのグループは、強盗犯なのだが、手口が強引で傷害も犯しているために、凶悪犯として扱われている。
現金が盗まれ、逃走のさい、見つかった人、すれ違った人に切りつけて逃げているやつ等。放っておけばいつか、殺人…ということになりかねない。
「切り付けられたら痛いんだぞ。そんなことも分からないやつ等が多すぎる!」
切りつけられて血を流す痛みを、考えて想像してみろって言うんだ。そうすれば、やたらめったに人を傷つけようなど思わないだろうに
「こんなにも物が溢れていても、人の情っていうものが不足しているのかもな・・・」
怒りから、やりきれなさに変わる言葉が白い息とともに吐き出される。
見境なく切りつけるので、警察も躍起になって探しているのだが、どういう訳か、目撃者達の犯人像がバラバラなのだ。それに手を焼いているのも事実だが、3日―――
これ以上、被害が増えないように次が狙われるだろう場所を推理して欲しいと応援の要請がかかった。それはいいのだが、俺の推理した次の犯行日は、警察が一番忙しい日。
ある気障な怪盗が、宝石を盗むと予告した日―――
いくら凶悪犯でも、あいつには勝てないよな。世界的な泥棒ということもあるが、向こうは、予告していて必ず来る事が分かっているに対して、こっちは推理での予想。確実に来る方に警察が動くのは仕方ない。ということで、こっちに回されている警官は、数名。
いくら狭いといっても、数名で見張るには広すぎる。だが、この辺りに今日、窃盗犯達がくるはずだ。
俺はその推理に確信を持っている。
「後は、出てくるのを待つだけなのだが、ここまで冷えると、芯が凍りそうだ…」
闇に溶け込むように、黒いコートを着て、黒い手袋をしていても、その寒さはこたえる。
今まで怒りで寒さを忘れていたが、一度気づいてしまうと忘れることは難しい。
「早く来いよ」
誰も聞いていない独り言に、
「誰かをお待ちしているのですか?」
突然、後ろから、返事が返ってきた。振り返ってみれば、闇に反して浮き上がらせる白い影―――
存在感が強すぎる罪人―――
「キッド……」
闇に溶け込まない白い衣装を身に纏い、そこにいた。これが世界中に手配されている怪盗…
俺から見れば、その衣装は、ふざけているようにしか見えない。
不意に声をかけられたので驚きはしたが、興味なさげに路地の方に視線を戻す。
「何しに来た?」
「貴方を見かけたので」
「ああ…そういや。この上は逃走経路になるな。」
辺りと、空を見上げ、なるほどと頷く。
それにしても、隠れているのによく見つけたのもだ。闇に有利な黒い服を着込んでいるのに。
それを問う前に、先にキッドが喋りだした。
「貴方の輝きは、隠そうと思っていても隠しきれるものではありません。迷い人の私にとって貴方は空に光るシリウスです」
「……」
なんじゃそりゃ…訳の分からないことを…無視……しよう。さわらぬ神に祟りなし―――ちょっと違うが、触れてはいけない領域な気がする。
あ〜でも、黒い服着てても目立つのか?これから尾行しようとしているのに…
俺の心配をよそに、キッドは親しげに話にくる。
「今日も来て下さらなかったのですね。ですが、逃走経路をご存知ということは予告状に目は通してくれている?」
「お前の創る暗号は解きがいがあるからな」
「解いているなら、中間地点、犯行時間など、果ては私の行動予測できるはず、何故…」
彼を見ずにそっけなく言ったのが気にいらないのか、キッドは俺の視界に回り込み、壁に手をついて見張りの邪魔をする。
目の前の彼は、ポーカーフェイスを装っていても、何処か不満だと言いたげだ。
俺が行けば、お前の邪魔をするというのに、「来い」とは、変な奴。
「何故、捕まえないか?…お前を捕まえる捕まえないは興味がないからだ」
「―――つれないことを仰る。私はこんなにも貴方に惹かれているというのに」
通りを隠しているキッドを払いのけながら。
「俺に惹かれる―――?お前を脅かせる危険人物として注意しているだけだろ?だが、世間を騒がせている世界的な怪盗から、そう思われているとは、光栄なことだな」
光栄だといいながらも、目の前の怪盗には興味がないといった風に、視線は通りの先を見ている。
「はぁ…遠まわしに言ってもストレートに言っても貴方には伝わらないのですね。ところでここで何をしてたんですか?お仕事では?」
「ああ。そうだ。押し込み強盗の凶悪犯グループが来るのを見張って…って、お前に言うことじゃないだろ」
つい、喋っちまった…こいつといるといつもそうだ。ペースを乱される。
額に手をあて、探偵としてあるまじきことをしてしまった自分を悔いる。
「お前…早く帰れ…」
「そんなことを言わず教えてくださってもいいでしょう?聞くだけですし・…それに貴方だけ見張っているのですか?他の警察の方は?」
「お前の所為で、殆どが美術館の警備等にまわされてしまったんだよ!」
「これは、すみませんでした」
悪びれた風もなく、しゃあしゃあと言えたものだな。
「謝るな。お前には関係ないことだ。謝られると余計にむしゃくしゃする」
この俺がこいつのペースに引きずられている…
頭がいてぇ……
頭を抱えてうな垂れていると、何を勘違いしたのか、
「寒いのを我慢するのも辛いものです。苛立っていると身体に悪いですよ」
寒さからの苛立ちと取ったらしく、奴の大きな白いマントにくるまれてしまった。
「な…!!?」
「すこしは、暖かいでしょう?」
……確かに暖かい。
背中にキッドの温もりを感じ、凍える寒さが和らいだ。
でも、この密着度―――俺の両親は、過度なスキンシップをするが、それは親子だからこそで、それも俺が避けるようになって、今じゃ殆どない。他人とは、ここまでくっ付く事は皆無と言っていい。それが突然……
どうしていいのかわからず、俺は石と化してしまった。
「――――…」
何か言おうとするのだが、言葉が出ず、キッドの鼓動を背中に感じていた。
赤ん坊は、母親の鼓動を聞き、肌で感じて眠る―――と言うのを聞いた事がる。それをフト思い出す。
突然の抱擁に困惑していたのが、次第に落ち着き、心地よく思えてきた。
既に古い記憶は消されて覚えていないけれど、自分が小さい頃、こうして抱かれて眠ったんだろうな。
自分を包み込む温かな腕が、冷え切った外気から守り、身体を温めてくれる。それだけでなく…心まで…張り詰めていた緊張感までも―――…
回りの音など耳に届かない。この取り巻く安堵感に酔いたい―――と、考えた矢先、背後のキッドが俺の頬に自分の頬を当ててきた。
「な!!!」
夢心地から一気に目が覚め、赤くなりつつ身をよじるが、激怒の言葉を出す前に、
「名探偵が待っていたのは、あの連中では?」
あ……頬に当たったのは、通りを良く見ようとして乗り出しただけ…か。
勘違いだと分かって、別の意味で顔が少し赤くなるが、キッドの重大なセリフを思い出し、探偵の顔に戻る。
3つの黒い影が路地から飛び出し、逃げていく。先程の事は頭から抜け落ち、待っていた犯人を、追いかけようと見つからないように距離をおいて走り出す。
「彼等をすぐに捕まえないのですか?現行犯ですよ」
「ああ…そうなんだが。俺の推理では、後二人いるはず。五人でメンバー代えながら犯行を行っていたから、目撃者の特徴が定まらなかったんだ」
まとめて捕まえてやる。
足音が響かないようにスニーカーを履いてきているので、ある一定の距離を保っていれば見つからないだろう。
店から出て暫くは、3人の犯人は、現場から駆け足で離れていったが、ある程度走ったら、徒歩に変わった。
俺が犯人を追って走り出せば、キッドはどこかに行くものと思っていた――が、一緒になって横を走っている。
この近くの入り組んだ路地を見張っている警官達に、連絡をいれて応援を頼みたくても、こいつがいたんじゃ、出来ねーじゃないか。
俺と同じ速度を保っている、怪盗キッドを横目でチラリと見て、言う。
「いつまでもこんな所で道草食っていないで早くいけよ!お前追われてりる筈だろ?」
キッドは今の今までそんなこと忘れていたと言う顔をした後、あの不敵な笑みを浮かべ、
「警察は今ごろ明後日の方を捜していますよ。」
か〜るく言い放つ。
「お前な〜警察をなめるのも大概にしろよ。いつか痛い目に会うからな」
「どうですかね」
3人組が横道にそれ、姿を消した。その角に背を預けて、慎重に俺達も曲がった。
一応「凶悪犯」と呼ばれる人達を追っていて、それなりに、緊張していなければならないのだが、俺の頭の中は、違うことを考えていた。
「どうしてこんなに目立つ格好しているのに、逃してしまうかな」
横目で見やりながら、考えていたことを呟く。
「?なにかいいました?」
「お前は目立つといっているんだ。だから早くどこかへ行ってしまえ」
「逃げるのに必死な奴等には、私の格好など、目立とうが目立たなかろうが関係ないと思いますが、彼等は私たちに気づいていますよ」
「何!!?」
キッドの言葉に、目をむいて驚く。
「こんなに静かな通りで、いくら足音を忍ばせていても、普通に話していたら、気づきますよ」
「…………」
こいつに気を取られすぎて、身体は犯人を追っていても、キッドのペースに巻き込まれて流されていたんだ。
いつも通りに接してしまった…何たる不覚。
「ほら、彼等こちらを見ているでしょう?」
俺達に気づいていても、自分達をつけてきているかどうかに確信をもてていないのだろう。
ついていたとしても、警察関係者とは、この組み合わせでは到底結びつかなくて、俺達の様子を探っているといったところか。
そりゃまあ俺とキッドの組み合わせじゃ、第三者から見たら謎だよな。
俺は普通の、大人から見たらまだ子供だし、キッドは…遠目じゃ、怪盗キッドとは、分かりにくいか。暗いし。
だんだん、明かりもまばらになってきて、街外れという感じになってきた。
「キッド、やっぱり目立ちすぎた。どこかへ行く気がないのならそのマントだけでも何とかしろ!」
奴らに俺達のこと気づかれているのなら、つけている事にも気づくのも時間の問題だ。いくら、普通に話していて尾行にあるまじき事をしていたとしても、いつまでも離れなければ可笑しいと思うはずだ。
「奴等との距離を縮めるぞ」
「捕まえるのですね。だから私にキッドだとわからない格好をしろと?」
「……ああ」
奴らを捕まえた後、警察で俺とキッドに捕まったと言われたら…なんて説明すりゃあいいんだ。
そのことを想像してしまい、うっすらと汗をかいた。
キッドもそのことをちゃんと分かってくれて、瞬時にマントとシルクハット、モノクルを外してくれた。モノクルの変わりに、眼鏡をしている。夜だというのに、サングラス。
それって、あやしいって…唯でさえ存在感ありすぎると言うのに、白いスーツにサングラス…。
……に、してもマントとかどこに隠し持っているんだ?手は両手とも何ももっていないし。白いスーツは変なふくらみなんかないし。捨てるわけないだろうし。俺でも解けねぇ謎だ。いつか種を探してやるぜ。
今は、目の前の凶悪犯だ。
一気に差を縮める。
少し遅れて、奴等が気づき走り出すが、スピードを上げた俺の足に叶う分けない!
錆びれたガソリンスタンドで追いついた。
そこは、もう使われていないらしく、荒れ放題だった。周りにも人が住んでいる気配もない。多分ここがやつ等の隠れ家。
追い詰めた……といっていいのだろうか?俺が睨んだとおり、3人の他に2人が加わって5人になっていた。
被害者達が言った、風体が揃ったと言うわけだ。その一人が
「何だ?お前等。オレ達をつけて来やがって」
口を開けば、勢いついて回りも脅しにかかってきた。
被害者が目撃した犯人の服装から、20代前半としてきたが、今俺達を取り囲む彼等は、10代後半ぐらいだ。
「何時からつけてきたんだ!?」
「おれらを誰だか知ってるんだろうな。いい度胸だぜ」
「何処の族だ?」
5人対2人だと、自分達の勝ちだと思っているようだ。
今のセリフからすると、犯行現場からつけられていたことまで気づいていないようだ。俺とキッドがやつ等にとって敵対する族のメンバーだと思っているようだ。
黒づくめに、白のスーツ。見えないこともないか…工藤新一が族…そんなこと言われたことないぜ。
「初めからつけていたよ。時計屋から出てきたところから」
溜息をもらしたくなるのを抑えながら言う。
「何!!!?」
優勢に立っていると思っていた奴等の顔色が変わる。
「現金のほかに、時計まで盗って行ったんだな。そこの人の腕につけている時計」
それが盗人した証拠だ。と、それに指をさす。
「お…お前等は、何者だ…?」
明らかに動揺している。
「誰でもいいだろ?貴様等が犯罪をおこしたことに変わりないぜ」
「………」
俺の代わりにキッドが返事をした。
おいおい、口調が違うぞキッド。こいつらと十分張れる、いつもの紳士的からかけ離れた態度じゃないか。そりゃ、キッドと分からないようにしろと言ったのは俺だけど。もしかしてこれが地…?
驚きの表情で、キッドを見る。
それに気づいたキッドは、俺に笑みを見せてから、また正面を向いた。
「ちんけな事で粋がっているんじゃ。お前等まだ子供だな」
おお〜い。完全にお前そっちの人じゃん。そんなこと言ったら、怒りを買ってしまうだろ。その後に不敵な笑みなんか浮かべたら、煽るだけだ。
奴等完全に敵になったぞ。やる気満々だ…どうすんだよ。
横のキッドを恨みながら睨みつけると、ニッコリと微笑んで、目で自分のポケットを指した。ズボンのポケットには手を突っ込んでいたが、その手を少し引き出し、俺に見せた。
ポケットにあったものは…
なるほど、録音するのか。
「何だと!!?」
「警備もない、セキュリティーもない商店街の店に押し込んだぐらい何てことない。誰でも出来るさ」
そりゃお前にとっては、朝飯前だろうよ。
実感がこもっているから余計に、奴等の怒りの火が大きくなるのがわかる。人相が変わってきてた。
「ああ!すまない。そういや、お前達が押し込んだとは限らないよな」
「どういうことだ?」
「俺達が見たのは、時計屋から出てきたとこだけだ。もしかしたら、今巷を賑わかしている凶悪犯グループが押し込んだ後、お前達がおこぼれを貰っただけかもしれない。証拠がねぇからな。見た所そんな勇気のあるやるらには見えないよ。君達」
フッと笑って、用はないよと背を向けようとした。
その態度と、「君達」と言われたことに、頭に来たらしく、
「馬鹿にするな」
「そうだ。俺達はここらをしめる一番大きいグループなんだぜ」
「いきがるな。君達には無理だ」
「なにおう!子ども扱いしやがって。その凶悪犯グループって言うのは俺達だ」
「あ、こら!!」
余計な事を言うなと攻めるが、ここまでこけにされて引き下がれるかと言うのが顔に出ている。
「嘘を言っちゃいけないよ。警察が捜している凶悪犯は、目撃者を手当たり次第斬りつけている。唯の盗人と違うんだ。人に害を成しているから凶悪ってつくんだ。刑も軽くない。嘘でも言わない方が君達の為だぜ」
「嘘じゃねえ!!○○店を押し入った時、逃げる際に男と、年寄りに腕に切りつけてやった」
「オレは店の主人だ」脅える様が楽しかったよ。と付け足す。
その後、自慢下に各々の犯罪を暴露し始めた。
これが同じ年頃かと思うと、ゾッとするぜ。気分が悪くなる…
「はい。そこまで〜」
キッドが急に声を変え、先程より少し高めの声で、終わりを告げた。
俺は、声が変わった事よりも、茶番が終わった事の方に少しショックを受けた。彼等のやり取りを聞いていただけで、俺は手出しも手伝いも出来なかった。
「ご協力有難うございました〜」
こっちのキッドの喋り方が自然と聞こえるから、ふざけた喋り方でも普段はこの調子なのだろう。
だが、正体も何も分かっていない彼等は、急に態度が豹変したキッドを見て、何だ何だと不思議そうにうろたえた。
「鈍いな〜こういうことだよ」
と、ポケットに忍ばせていた小さな録音機を取り出す。
「君達の犯したいろいろな事をこれに入れさせてもらったよ。実際ここまでぺらぺら喋ると思わなかったよ。でも大いに助かった。十分証拠になるからね。ありがとう」
と、ニッコリと笑う。
その笑みは、キッド特有の不敵な笑みでも、嫌味な笑みでもない。無邪気な笑み。
それに半ば吃驚する。意外な一面だったから。
こんな笑みも浮かべるんだ……始めの印象通り、こいつは俺と対して歳が変わらないかもな。
コナンの時から考えると、長い付き合いだが、お互いの領域に入らないようにしていたから、キッドの正体も、素顔もまだ知らない。
「ふざけやがってっ!」
キッドの笑みに見惚れていて、周りが異常に緊迫している事に今ごろ気づいた。まさに一触即発である。
相手は、引きそうにない。…引く分けないか。ここで引くような人間だったら、人を傷つけてまで逃げるわきゃーねーよな。しゃーねえ。大人しくさせるか。
蘭ほどでもないが、こいつらに負ないぐらいの自信はある。
5人がいっせいに俺達二人にかかってきた。が、どういう訳か、5人の内4人までが俺のほうに向かって突進してくる。流石にそれはちょっと…
相手をのすどころか、避けるだけで精一杯だ。
「お前を捕まえて盾にしてやる。そうすれば…」と、犯人の一人がパンチを出しながら言い放つ。
どこまでも、卑怯な考えだ。
「お綺麗な顔をだな、捕まえた後、女かどうか調べてやるぜ」
違う輩が下卑た笑みを浮かべ近づく。その笑みに、背筋に寒気が走った。
なにが何でもこいつだけは眠らせてやる。
キッドと戦っている相手は、5人の内で体格もたくましく、格闘を習ってのだろう、キッドを押していた。
が、それでも先程のセリフ、キッドに届いたらしく……
「ぬぁんだと〜〜っ!!」
と、キッドらしからぬ、叫びを上げ…………
形成をまき返し、一人で5人をのしてしまった。その間俺は、キッドの剣幕を、口をあけ呆然と見守っていた。
何故、そこまでキッドが切れたのか、切れる何かがあったのか、後で考えても分からないが、凄い剣幕で、キッドを怒らせると怖いのだと言う事は、よく分かった…。
結局すべて、キッドがやってしまい、俺は見ていただけになってしまった。俺は探偵なのに、怪盗のキッドが……でも、目の前にあるのが事実。いくら怪盗でも、凶悪犯を捕まえてくれたのだ、御礼は言っとくべきだよな。
パンパンと手を払いながら俺の前に歩み寄る、白のスーツにサングラスをかけたキッド、彼に向かい「ありがとう」を言おうと、口を開きかけた。
だけど、その言葉は口から発する事は出来ず、暖かい感触と共に呑み込まれてしまう。
「んっ………」
何時の間にか背に回された手によって、引き寄せられ、マジシャンの繊細な手で優しく背を撫でられた。
「お礼ならこちらの方が嬉しいです」
離れた瞬間蹴り飛ばそうと構えてたが、それに気づいていたキッドは、唇を離した後、後ろに跳躍した。
「俺は男だ!お・と・こ!!なに考えてんだ!」
「性別など関係ありません。私はしたかったからお礼として頂いただけです」
怒りの捌け口が逃げてしまったから、転がっていた手近なものを蹴飛ばす。それは、俺に下品なことを言った奴。
もう用は済んだと、そのまま駆け出そうとしているキッドを引き止め、引っかかっていた事を聞いた。
「何故、俺につきあって凶悪犯を捕まえるのを手伝った?」
「気まぐれ…では、納得してくれそうもないですね」
「――――」
「折角逢えたというのに、貴方が相手してくれなかったからです」
「はぁ…?」
「貴方の気を引いている輩がいるのが許せなかった。だからそれを排除しようとしただけですよ」
何処に隠し持っていたのか、マントとシルクハット、モノクルを再び付けて本来の怪盗キッドの姿になっていた。
「お前なぁ……捕まえてくれた事に感謝はするが、俺にした事は忘れねぇからな!」
キッドの言葉に呆れるが、その後にしっかりと恨みの言葉を付け足す。
「それは嬉しい限りです」
ポーカーフェイスとはいえない、満面な笑み。
違うだろ。意味が!次会った時覚悟しろよと言っているんだ!何だよその笑みは!!言ってしまった俺が恥ずかしいぜ。
キッドが立ち去った後、警官に連絡をして、凶悪犯5人は警察に連れて行かれた。
これらの経緯を説明しようにも、キッドのことを言うわけにいかず、俺の知り合いが手伝ってくれたとしかいえなかった。
嘘は言っていねぇよな。
だが、その後、目暮警部に「危険な事をして!」と、こってり怒られたことは言うまでもない。
その後のその後―――(2日間ほど)
キッドにされた…が、頭の隅に残って、頭の回転力が鈍りドジばかり踏んで「らしくない」と蘭に言われつづけた……
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