「快斗、いいか? 今年の夏は、クール&ドライで行くからなっ!!」
「…クール&ドライって…除湿機じゃあるまいし…」 「いーから、それがこの夏の目標だっ」
ある日の工藤邸。 リビングに鎮座するソファの上で。 突如言われた新一からの言葉に、快斗は首を捻りながらも頷く。
新一は、いつも考える事が大量にあるから。 だから、思いついたときに伝えないと、忘れてしまうというのを快斗は知っている。 最も。 そんな突飛な事を告げる相手は快斗だけ、なのだから。 例え、快斗の手に拒否権があってもそれを行使しようとは思わない。
だから、快斗のする事と言えば。 ただ、新一の言葉に返答するだけで。
「夏は暑いだろ?」 「そりゃ夏だしね」 「でも、灰原はクーラーの設定温度をこれ以上下げるなって言ってる」 「…哀ちゃんの言いつけ破ると怖いもんねぇ?」
哀の言葉は、新一の身体を心配した上での言葉で。 それを快斗も新一も重々承知した上での意見。
「だろ? だから、普段のちょっとした努力で今年こそ、クールでドライな夏を過ごすんだっ」 「うんうん」 「ってことで快斗、お前のこういう行動、禁止な」
言って、新一の細腰にちゃっかり回されていた快斗の腕をぺしりっと叩く。
「え――――っ?!!」 瞬時に上げられた快斗の抗議の声をさくさくと切り捨て。 「えーじゃねぇっ、これが一番暑苦しいんだ。 昼間のいちゃつき禁止っ」 「何でぇ?!!」
言いながら、快斗は今度はがっしりと。 身体ごと、隣に座っている新一に向き直って、その腰を引き寄せる。
「って、おいっ!言ってる側から何すんだよ?!」 「だって、合言葉はクール&ドライだろ?? 新一ってば、体温低いから、新一にくっつく事で、俺はクール&ドライv」 「てめぇはその態度をドライにしろっっ」 「無理♪ だって俺、新一好きだしvvv」 「〜〜〜っ、んなガキみたいな理由があるかっ」 「え〜?でも俺、KIDだしv」
ぎぎぎぎぎ…と、快斗の腕を外そうと新一は奮闘するが、力で快斗に敵うはずもなく。
快斗は依然として、涼しい顔で新一に寄り添っている。 やがて。 力尽きたのか、諦めたのか。
「分かった…」 新一が、武力行使をやめて口を開く。 「そーか、お前は子供だったんだな…」
そーかそーか、と繰り返す新一に。 快斗は、冷汗を覚える。
「し、しんいち…?」
そんな快斗に、新一はにっこり笑って。
「んじゃ、今日から抱かせてやらない」 そういう行為、一切禁止な♪ 「なっ、何でっ!!?」 「だって子供なんだろ?子供にそんな事させちゃ、俺、児童虐待で捕まっちまうしv」 「しんいち〜〜〜っ」
いや、児童虐待は普通、立場が逆ではないのか…? そんな事もふと、快斗の頭をよぎったが言っても意味はなく。
「あ、快斗。添い寝くらいなら許すぞ☆」 ただし、何か不埒な事をしたら、お仕置きだけど。
楽しそうに、ニコニコ笑ってぼんぼんっと快斗の頭を叩く新一に。 快斗は、にっこりと笑う。
「ねぇ、新一」 その笑顔になにやら悪寒を覚えるものの。
「な、何だよ…」 返事を返して、次の言葉を待つ。 「夏バテの予防法、覚えてる?」 「…暑い時には、熱いものを…だろ??」 「そう。 それに新一、熱いお風呂、好きだったよねぇ?」 疲れが取れるって言って…。 「そうだけど…それが…?」
頷いて、聞き返せば。 力の込められる腰に回された腕。
「っ、!?おい、快斗っっ?!」 「中途半端に熱いからダメなんだよ。どうせなら、暑苦しいなんて考えられない程、熱くしてやるよ…」 蕩けるほどに…な。
下から見上げるように、くつりと喉を鳴らして笑った男の顔に。 新一は、もたらされるであろう感覚に身震いを覚えつつ。 半ば、強引に重ねあわされた唇に。
新一は、意識が溶けていくようにボーっとしてきた頭で、当初の目標が実行不可能であることを悟った。
今年もあつい夏が来る。
いいんですっ!いつでもうちの2人はアツアツですからっ!!<開き直り ありがとうです、樹さん! |