by.こっこ様 

「新一くんにお願いがあるんだけど〜」

朝、学校に行くと、園子が待ち構えていた。

だいたい、こいつのお願いなんて、ろくな事じゃないのはわかっている。

「悪いけど…」と断ろうとした時、

「新一くんは蘭のお願いだったら聞いてくれるのよね?」

にっこり笑う笑みは、断ったら何をされるかわからないという、得体の知れない脅しが現れていて。

「あ、蘭。日曜日なんだけど、うちでやるパーティーに来ない?」

後から教室に入ってきた蘭を捕まえて話し始める。

「パーティーって?」

「最近、パパが知り合いから貰った宝石のお披露目パーティーなんだけど、内輪だけのものだからそんなに人は呼ばないんだけどね」

鈴木財閥の内輪のパーティーって・・・

考えただけでもげんなりする。

いくら内輪といえども、鈴木財閥という名を考えると招待客は数十人以上と思われる。

しかも、そんな場に集まる人々は著名な人間ばかりで。

今までにも参加させられては散々な目に遭ってきた新一は、どうしても気が進まない。

「今ね、新一くんにも話しといたから。一緒に来てよね」

こいつ・・・

念を押していきやがった。

「新一、折角なんだから行こうよ」

こういうのを新一が苦手としているのを知っている蘭は、それでも粘る気でいるようだ。

女ってヤツは、どうしてこうも宝石ってモンに弱いのか・・・

しみじみと溜息を吐く。

「はいはい…事件で呼ばれなかったらな」

「事件を断るの。こっちの方が優先なんだからね」

「…………努力はする」

「努力じゃなくてそうするの。わかった?」

仁王立ち状態でにっこり笑われても・・・恐いだけ。

新一は諦めて、もう一度、大きく息を吐いた。

 

□■□■

 

パーティーの前日、

突然家に押しかけてきた園子は。

「なんなんだよ?」

欠伸をしながらドアを開けると、一通の封筒を差し出してきて。

首を傾げる新一に、瞳を輝かせながら言った。

「明日までに解読してね」

・・・はい?

ますます訳がわからなくなる。

とりあえず渡されたそれを、開けてみて・・・

「新一くんならわかるでしょ?私たちもビックリしちゃったんだから〜」

今朝、ポストに入っていたというそれは、もちろんただの手紙なんかじゃなく。

「警察には話してないの。だって、そんなことしたら会えなくなっちゃうでしょう?」

今まで何度も会う機会を逃してきた園子には、これはまさに絶好のチャンス。

「それに、内輪だけのものだから騒がしくされるのも嫌だし、ってことでパパたちも警察呼ぶ気ないのよね」

のほほんとそうのたまった。

過去に見たことがある。

ふざけたこのマークと、独特な暗号。

暗号は、それほど難度は高くなさそうだけど。

「園子……サンキュ」

白いカードを見つめたまま、口元に笑みを浮かべた新一に、園子は「期待してるわ」と帰っていった。

宝石好きなのは、なにも女だけじゃなかったんだよな・・・

新一は、本当に園子に感謝していた。

だって、これは・・・新一にとっても、チャンスなのだから。

 

□■□■

 

これが内輪っていうのか・・・?

やはりそんな疑問を浮かべずにいられない。

広い鈴木家の庭いっぱいに集まっている人々に、溜息を吐いてしまって、

「新一ったら、失礼でしょ」と蘭に注意される。

けれど。

新一の目は、周りの人間を観察していた。

(・・・あいつは、すでにこの中にいるに違いない。)

ほとんどが初めて会う人達だから、誰が怪しいとか判断はできないが。

感覚が、その存在を感じ取っていた。

さっきからずっと感じている。

誰かに見られている、感覚。

だが、視線を追ってみても、主は特定できない。

でも・・・新一にはわかっていた。

今までにも、何度も感じたことのあるモノだったから。

予告状からわかったことは、

狙いがやはり今日お披露目される宝石だということと、

今日のこの日、時間はパーティーの間ということだけだった。

あいつらしくもなく、シンプルだった予告状。

それに少しがっかりしたけれど・・・

そんなことはどうでもよかった。

───あいつに、確実に会える、それさえわかっていれば。

知らずと、微笑んでいた新一を、蘭は不思議そうに見つめていた。

 

 

□■□■

 

「パパが新一くんに話があるって」

しばらくして。

園子は新一にそう伝えると、蘭を引っ張って何処かへ行ってしまった。

溜息を吐きつつ、会長の元へと向かう。

そして・・・気がついた。

「工藤君、わざわざすまないね」

「いえ…」

笑顔で答えて。

「・・・変わりは、ありませんか?」

表情はそのままに、瞳を細めた新一に、

会長は少し驚いたような顔をした。

「ああ、今のところはね。今回は警察も呼んでいないから張り合いをなくしているのかもしれないが

ね」

「そうですか……」

新一は手を顎に当て、何か考えるように暫く瞳を伏せる。

そして―――告げた。

「なぜ、僕だけ呼んだのでしょう?」

真っ直ぐに見つめる。

「どういう意味かね?」

「そのままですが…」

「見てのとおり、今回のパーティーは内輪だけのものとはいえ大切な方々も招待しているんだよ。そ

こへ警察がうろうろとしていたのでは気になってパーティーが台無しということになりかねないだろ

う?」

警察が介入しなければ派手なことはしないかもしれないだろう、と。

会長は新一の問い掛けの真の意味をわかっていない・・・振りをする。

「それは宝石は奪われてもいいと思っていらっしゃるということですか?」

「今まで彼に狙われて守られたことがないということ、それに盗まれたとしても返ってくることも多

いということが事実としてある。予告状が届けられた時点で覚悟しているよ」

「僕に……捕まえて欲しいとは?」

「もちろん決まってるじゃあないか。宝石を守ってもらいたいからこそ工藤君に来てもらったわけだ」

わかる。

言い分としては、一応筋が通っているとは言えるだろう。

そう、わかる気はする。

だが・・・

「僕は、あいつを捕まえたいと思っていますが………残念ながらそれは叶わない」

「なぜだね?」

次の瞬間、新一は、

「それは……何より僕自身が、囚われてしまっているからですよ」

視線を離さず、綺麗に微笑んだ。

それに驚いたのは、会長だった。

「な、なにを…言って、いるんだね」

だが、新一は何も言わず、真っ直ぐに見ていた。

会長の手に、ほんの少しだけ力が込められた。

その瞬間、目の前の瞳が揺れる。

「いつ……わかったんだ?」

大きく息を吐いて、小さく呟いた。

・・・彼自身の声で。

「最初から、かもな。ずっとお前の気配は感じていたし」

「……さすが、名探偵ですね…」

苦笑した口元は、いつもの怪盗のもの。

「まだ質問に、答えてもらっていないんだけど…」

首を傾げる会長に、もう一度言う。

「なぜ、俺だけを呼んだんだ?」

新一の問い掛けに、会長の格好をした怪盗は笑みを浮かべる。

「さあ……私にもわかりません」

その答えに納得しないという風に、蒼い瞳で睨まれる。

「そうですね…貴方に会いたかったというのは理由になりませんか?」

「お前の言うことは、信用できないからな」

相変わらず視線は鋭いままで。

それならばと、怪盗は問い返す。

「では、貴方の先ほどの言葉は真実なのですか?」

『何より僕自身が、囚われてしまっているからですよ』

その言葉を聞いた瞬間、自分こそがこの目の前の、蒼い宝石に囚われていると、

改めて自覚した。

だからこそ・・・その新一の言葉の意味を知りたかった。

偽りなのか、それとも・・・

例え真実でなくとも、自分の想いに変わりはないのだけど。

ただ・・・少し辛いかもしれない。

新一は、笑った。

とても、柔らかい微笑みで・・・。

チャンスだと思った。

いつからなんて、覚えてもいないし、わからない。

気がつくと、『特別』になっていた。

だからといってどうすることもできなくて。

ずっと待つだけだったから。

この『特別』という位置づけが、自分にとってどういう意味があるのか、

ずっと、知りたいと思っていた。

あいつに会えば、わかる。

謎が解ける・・・。

そして、やっと、会えた。

(なんとなく、わかった気がする)

ぼんやりと浮かんだ、意味を。

その、感情を・・・。

「俺は真実を追い求める探偵なんだぜ?」

誰かさんとは違う、と。

不敵に微笑む新一に、怪盗は言葉を失った。

その表情は、ポーカーフェイスとは程遠いもの。

そんな、らしくない顔の怪盗に、新一は大きく笑う。

「そんなんじゃ簡単に捕まるぜ?」

「貴方になら…捕まってもいいです。」

怪盗はそっと瞳を細める。

「後で……おうちへお伺いしてもよろしいですか?」

それでも不安そうな声に、新一は眉を寄せる。

「………なら来なくていい」

気まぐれな彼、本当に機嫌を損ねてしまう・・・

怪盗は慌てて、

「いえ、必ず行きます!」

新一の両手を握り締めた。

途端に、新一の頬が微かに染まる。

「それでは、私はお先に失礼します」

にっこりと、満面の笑顔のまま、

普通に去って行った、会長の姿を見ながら。

「………その格好のまま、その笑顔はやめろよ……」

新一は呟いた。

他の人間が見惚れてしまうこと確実な微笑を浮かべて。

 

END.

 

◇◆◇◆◇

こっこさんから、サイト開設3周年のお祝いとして頂きましたv
ありがとうございます〜〜
園子ちゃんが出てきた時点で、思わずニンマリしてしまいました。
そりゃもう、園子ちゃんの狙いはキッドさまですものねv
 で、新一もキッドを狙ってたというのがナイス!
キッドさまにラブの新ちゃんだあ〜〜v
うちではあまり報われない快ちゃんなので、シアワセそうだなあとか思ったりしてv
いやもう、らぶらぶvv
「その格好で〜」の新ちゃんの意見には同感(笑)園子ちゃんが見たら卒倒しそうだ・・

BACK