最強LOVER

 

 

 

   ボクには大切な人が居る。

   とても好きで、大好きで。

   でも、いつも一緒には居られないから。

   会えたときにはソイツのコト、大切にしようと思っている。

   思っているんだけど・・・・現実はなかなか上手くいかなかったりするんだ。

 

 

 

 特に急ぐでもなく駅までの道をゆっくり歩いていた白馬探は、偶然通りかかった公園のベンチに見知った

 人物が座っているのに気付き足を止めた。

 今日は暑くもなく寒くもない、良い天気の休日。

彼の普段とは違う装いが待ち人がいるのを雄弁に語っている。

 依頼人に会う為新宿まで出向つもりであったのだがふと悪戯心を起こし、白馬は何やら騒々しく手元のゲームに

 悪態をついている同級生に近づき前に立った。

 「こんにちは、黒羽君」

 「んあ?」

 ロングスリープTシャツの上に軽く羽織ったウエスタンシャツ、黒のチノパンとブラッチャー。

 頭の上に黒縁の眼鏡をちょこんと乗せた可愛らしい出で立ちの彼、黒羽快斗が突然現れた同級生の姿に

 大袈裟に後退った。

 「は、白馬ぁ?!」

 おめぇ、どうしてこんなトコロに居るんだっ!

 普段の彼からは想像も出来ない狼狽ぶりに余裕で答える。

 「失礼な人ですね。ここは公共の場ですよ?君に断らなければ歩けない場所ではないでしょう?」

 「いっっっつも爺やだか婆やだかの車でお出掛けあそばしてるクセにっ、今日に限って何で徒歩なのかと聞いてるんだよっ!」

 「家を出て空を見上げたら良い天気だったので・・・・・何となく・・」

 「はぁぁぁ、そうだよな。お前はそーいうヤツだったモンな・・」

 涙ぐましい努力でセットしたらしい猫っ毛を掻き乱し、がっくりと肩を落とす快斗は溜め息を一つ。

 「めーわくなヤツだぜ・・・・・ったく・・・・」

 「黒羽君?」

 よく見れば、彼は頬に何やら冷や汗なども浮かんでいる様子。

 ニコリ、と微笑み白馬は怯える子羊へまた一歩近付いた。

 「そんなに嫌わなくてもいいじゃありませんか?」

 僕達は同級生なんですよ?

 「あ・・・・・いや・・・・・・」

 「何方かと待ち合わせですか?」

 「う・・・うん・・・・そう・・・・」

 忙しなく辺りに目を走らせる様は浮気を見咎められまいとする新妻のようでもあり、益々悪戯心を刺激する。

本気で焦りだしている快斗の手を白馬は強引に掴み、並ぶ形でベンチに腰掛けた。

 「妬けますね。御相手は、中森さん・・・・ですか?」

 「ち、ちげーよっ、ばーろっ!」

 「おや?では、誰なんでしょう・・・・君をここまで慌てさせる相手とは・・・一体・・・」

 小泉さん、ではなさそうですし。

 顎に手を当て推理するポーズをとる探偵が、嫌味を通り越す程の優雅さで長い足を組む。

 一方、怪盗は自分のペースを乱され狼狽えるばかり。

 (ヤバイよぉぉ〜〜、もう・・どーしようっ・・)

 迷惑なこの男は、待ち合わせた相手を見るまできっと梃子でもこの場を動かないだろう。

 刻一刻迫る約束の時間を気にしながら頭の中で数種の行動パターンを考え、先刻まで必至に

 攻略していた某小型ゲーム機の電源を切り背負っていたリュックにねじ込んだ。

 (こうなったら・・逃げるが勝ちだぜ)

 怪盗が探偵へ背を向けるのは屈辱だが、待ち合わせの相手に臍を曲げられとんでもない条件を有無を云わさず

 承知させられるよりは全然良い。

 意を決し、快斗は勢い良く立ち上がった。

 「んじゃ。そーいうワケだから、オレはこれで・・・・」

 「僕は何も君のデートの邪魔をするつもりで声を掛けたんじゃないんですよ?」

 「わ・・判ってる・・肝心なのは・・んな問題じゃなくて・・・・」

 僅かな猶予もないと言いた気に、緊張感を隠しもしない快斗がもう一度辺りを見渡してから声を顰める。

 「アイツは・・・・その・・・・すっげぇ嫉妬深いんだよ。だから・・」

 「ああ。こうして君と並んで座っている姿を見られたら、どんな目に遭わされるのか判らない、とそういう事ですね?」

 「納得したなら、今すぐオレから離れろ!」

 「納得する事と行動する事は僕にとっては必ずしも同義語、ではないので・・ね」

 「はくばぁ〜〜〜」

 頼むから、オレから離れてくれよぉぉぉぉ。

 もう授業中に背中をつついて遊んだり、学食で一番高いランチセットを奢れと駄々を捏ねたりしないから。

 眼を潤ませて両手を顔の前で合わせる姿に、これ以上苛めるのは可哀相かも知れないと白馬が考え直し腰を上げた時。

 そう離れていない公園の入り口付近から甲高い子供の声が響いた。

 『快斗にーちゃん』

 「げっ・・・」

 「あの子は・・・・」

 息を切らせながら駆けてくる小さな子供には見覚えがあった。

 以前事件で一緒になった、毛利探偵事務所の子供ではなかっただろうか?

 白馬は笑顔で小さな紳士を迎える。

 「君は・・・・確か江戸川・・」

 「コナンだよ、白馬のおにーちゃん」

 こんにちは。

 ペコリ、と頭を下げる仕草もハキハキした言葉遣いも変わらない。

 聡明で知的な瞳で自分を見上げてくるのに笑みを返し、白馬は軽く頭を撫でた。

 「久しぶりだね、元気そうでなりよりだよ」

 「おにーちゃんも」

 「今日は、どうしてここに?」

 「ボク?快斗にーちゃんとお出かけするんだ」

 「黒羽君と?」

 そうだったのか。

 まるで兄弟のように似通っている二人を微笑ましく見つめる白馬は、引きつった笑みを顔面に張り付かせている件の君に先刻の台詞を思い出した。

 【アイツは・・・・その・・・・すっげぇ嫉妬深いんだよ】

 (待ち人って・・・まさか?)

 この子供なのか、と眼だけで訴える。

 快斗は恐ろしい勢いで首を横に振り続けていた。

 「快斗にーちゃん、遅れて御免なさい。出掛けに蘭ねーちゃんに捕まっちゃって・・・」

 コナンはアイコンタクトを続ける二人の間に入り、腰が引けている快斗へ無邪気な声で謝罪する。

 「約束した時間に遅れたから、怒ってない?」

 可愛い声と仕草。

 だが、その姿とは裏腹に、この子供がメチャメチャ怒っているのを快斗は知っている。

 (白馬の前で、頼むから下手な真似をしてくれるなよ〜)

 居るはずのない神様なんかに祈っちゃう、怪盗だった。

 「お・・・怒って・・・ないぜ」

 「ほんとーに?」

 「も、も、もちろんだ・・・コナン」

 「良かったぁ」

 天使のような微笑みを浮かべる子供は白馬へ丁重に会釈し、待ち合わせた相手へ両手を差し出した。

 「快斗にーちゃん、だっこ」

 「はいぃぃ?」

 「走って来て、ボク疲れちゃったんだモン・・・・・ねぇ・・お願い」

 「あ・・・ああ・・いいぜ」

  この笑顔に騙されてはいけない。

 怒りのオーラを発しながらニコニコ笑っている時の彼は、暴れるゴジラよりも手が付けられない代物なのだ。

 判っていても、目の前の子供を突き放せないのだから痘痕も靨といったところだろうが。

 (もう・・・・何でオレ・・・コイツのコト・・好きなんだろう・・・)

 快斗は十二分に用心しながら身を屈め小さな身体を抱き上げる。

 ニヤリ、と笑った子供は近くなった頬を両手で挟み低い声で呟いた。

 「・・判ってんだろうな、快斗。お仕置きだぜ?」

 「なっ!ちょっと・・・・・」

 待て、と云う間もなく、反論しようとした唇を塞がれる。

 「んっ・・・・・っ・・・・・」

 逃げようとする顔を小さな手で押さえて。

 食いしばった歯を舌でなぞり、詰めていた息を吐き出そうとする一瞬の隙に舌を絡め取る。

 (だかーらーっ、止せってばぁぁぁっ!)

 外見は小学生でも中身はしっかり同い年の高校生『工藤新一』、恋愛にはまだ少々奥手な快斗はどうしても強気な彼に何時もリードを奪われてしまう。

 (やべぇ・・・・気持良くなってきた・・・。ちゅー、一つでお手軽過ぎるぜ、オレ)

 抱き上げている腕を放そうと考えない辺りが、怪盗の優しいトロコで。

 本当はもっと可愛い反応を間近で見ていたいのだけれど、さすがにこの状態が他の通行人の眼に映るのを良しとしない

 子供は、仕方なく掴んでいた手を首に回し唇を解放した後見物人へ微笑んだ。

 

 

 「・・・・・・・・・・」

 目の前の光景に眼をまん丸にする白馬。

 ディープなキスに肩で息をする快斗は、子供を下ろし唇を手の甲で拭う。

 「・・・・・エロ探偵・・・」

 「ボク、快斗にーちゃん大好き♪」

 「は・・・・はははは・・・」

 もう、どうにでもなれ。

 説明するのも面倒になった被害者は、彫像と化している白馬をその場に残し子供の手を引いて公園を出る。

 目的地は本日、カップル入場が普段の入場料の半分になっている『トロピカルランド』である。

 「新ちゃんのすけべぇ・・」

 「悪いのはおめぇだろ?」

 オレがちょっと遅れたくらいで、あんなヤツに捕まってるんじゃねぇよ。

 「今度同じ真似してみろ?もっと凄いお仕置きしてやるぜ」

 真顔できっぱりと宣言する名探偵に、がっくり肩を落とし項垂れる。

 (もっと凄いお仕置きって・・・・・・)

 嫌な予感がするのは、気のせいではない。

 彼、はヤルと云ったら必ずヤルのだ。

 素直に謝った方が懸命、と判断した自身のIQを信じ鮮やかなウインクを一つ返す。

 「これからは・・新ちゃんの御機嫌を損ねないようにするヨ」

 「判ればいい」

 「偉そう・・・・」

 「オレは偉いんだ。探偵、だからな」

 「ハイハイ・・」

 手を繋いで走る自分達の姿が今は兄弟にしか見えなくても、一緒に居て心が弾むのは確かな事実だった。

 

 

  ボクには大切な人が居る。

  とても好きで、大好きで。

  いつも一緒には居られないから。会えたときにはソイツのコト、大切にしたい。

  優しくしたいと思っているのに・・・・でも、つい意地悪をしてしまうんだ。

 

 

 「怪盗さんは、めーたんていにメロメロってかぁ?」

  オレ、人生捨ててるかも。

 「んな風には見えねぇ・・・」

  でも、オレのこと好きだろ、オマエ?

 「うわーっ、ヤダヤダ・・・何を根拠におっしゃるのデスカ、このお人は」

 「いいからっ、オレを抱き上げて走れっ!」

  バスに間に合わねぇだろっ!

 「うわーっ、オレコナンちゃん専属の宅配業者になってるよぉ」

 楽しいから・・・いいっか。

 トロピカルランド直行バスの出ている米花駅へ向かって、子供を小脇に抱えた高校生は心底嬉しそうに走って行った。

 

 

 

 一方。

 固まったまま二人を見送った白馬、はと云うと。

 動揺の余り知らず握りしめていた手のひらに滲んだ汗に苦笑していた。

 「・・・・・・・・・驚きましたね・・・・・・」

 確かに、あの子は手強い恋人かもしれないが。

 (それにしても、黒羽君が年下好みとは知らなかったな・・)

 何処かズレた感想を漏らし、変わらず良い天気の空を見上げるのだった。

 

 

  fin

 思いがけなくも明日葉さまのご好意で頂いてきちゃったコX快小説ですV強気で凶悪なコナンちゃんは麻希利の好み!おサスガ、明日葉さま!嬉しくって何度も読んじゃいましたよ(^^)
 この話を読まれた皆さんはきっとハマる!

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