トラブルキッド
REIPU



「工藤くん!」

 警視庁を訪れていた白馬探は、馴染みの刑事から一課に工藤新一が来ていたと聞き、丁度出て行く所の彼を捕まえた。

「白馬・・・」

 呼ばれて顔を振り向かせた工藤新一は、相変わらずクラスメートの黒羽快斗によく似ていた。

 双子のようにそっくりなのに、血の繋がりは全くない赤の他人というのだから不思議といえば不思議なものだ。

「なんだ、お前も来てたのかよ」

「ええ。怪盗キッドの予告状が届いていたので」

「へえ〜帰国早々忙しいことだな」

 新一はクスッと笑う。

 白馬が数日前にロンドンから戻ってきたことは快斗から聞いて知っていた。

 なんだかんだ言っても、白馬との攻防は楽しいらしい。

「向こうの事件は片づいたのか?確か、名門貴族の館で起こった連続殺人事件だったんだろ?」

「ええ。よくご存じですね」

「中森警部から聞いた。目障りなおまえがいないってんで、喜んでたぜ」

 そうですか、と白馬は苦笑する。

 キッド逮捕に執念を燃やす中森警部にとって、民間人の、それも高校生などは邪魔な存在でしかない。

 だが、白馬は現警視総監の息子ということであからさまに邪魔者扱いができないのが彼には面白くないようだった。

「オレも結構あの警部には邪魔者にされっけど、嫌いじゃないよな」

「ええ。いつも全力でやってますからね、あの人は」

 二人の探偵は互いの顔を見つめて笑う。

「お茶でもどうです?ロンドンの事件に興味がおありでしたらお話しますよ」

 ああ、いいなと新一は頷き白馬と共に警視庁を出た。

 

 

 

 

 白馬と新一は顔を知られていることもあり警視庁から少し離れた喫茶店に入った。

 そこで新一は、白馬が話すイギリスで起こった事件のことを面白そうに聞いていた。

「工藤くんはイギリスに行ったことがありますか?」

「勿論あるさ。なんたって、ホームズが生まれた国だからな。小学生の頃だったからまた行きたいんだけど、ちょっとした事件に巻き込まれちまったもんで母親がいい顔しないんだ」

「事件?いったいどんな?」

 新聞にも載らないつまんねえ事件さ、と新一は肩をすくめる。

「・・・・・」

 新聞に掲載されなかった?

 つまり、それは公にはされなかった事件だということか。

 工藤新一の父親は世界的にも有名な推理作家だ。

 その彼の一人息子が関係した事件ならマスコミが放っておくわけはない。

 普通の観光客であれば無視されるような小さな事件でも、工藤優作の息子なら話は別。

 白馬は新一が関わったというその事件に興味が湧いたが、彼が語らない以上こちらから聞くわけにはいかなかった。

「工藤くんは、今も怪盗キッドに関わる気持ちはありませんか?」

「そうだな。キッドが書いてくる暗号は面白いと思うけど、どうしたってただの泥棒だからな」

 快斗が聞いたら号泣するようなことを新一は言った。

「工藤くん・・・怪盗キッドはただの泥棒じゃありませんよ。彼が宝石を狙うのは何か深い事情がある筈です。でなければ、常に殺し屋に狙われるなどということがあるわけがありません」

「殺し屋?」

 新一は驚いたように瞳を瞬かす。

「ええ。ボクは一度怪盗キッドが狙撃されたのを目撃したことがあります。それに、世界でもトップクラスと言われるスナイパーがこの日本に来ているという噂もありますし」

 新一は眉をひそめた。

「そのスナイパーがキッドを狙ってるっていうのか?」

「可能性がないとは言えません」

「・・・・・」

 

 

 

 

 その夜怪盗キッドが狙うビッグジュエルは、アラビアの石油王がかつて愛した日本女性に贈ったという巨大なエメラルドだった。

 その大きさも驚異的だが、魅惑的なその神秘の輝きは多くの人々の心を捕らえたという。

 なんということか、そのエメラルドは石油王が送ったラブレターと共にその女性の娘の手によってタイムカプセルの中に入れられ、40年もの間地中に埋められていたという、いわく付きの代物だった。

 だからこそマスコミはこぞって話題にし、それを狙う怪盗キッドに世間は騒いだ。

 今回はロンドンから戻ってきた白馬が捜査に参加しているので、中森警部の機嫌はすこぶるよろしくなかったが、だからといって手配が大ざっぱになるということはなかった。

 蟻の這い出る隙もない、人海戦術を駆使した警備の配置。

 いつもながら、まるで戦争でも起こるような物々しさだった。

 だが、彼等が相手にするのは、たった一人の怪盗なのだ。

「いいか、捜査に参加しても構わないが絶対に余計な口出しはしないでくれ!」

 白馬がそう中森警部に念押しされるのは毎度のこと。

 まあ、今回は口を出さずにいようと白馬が思っていることなど警部が知るハズもなかったが。

 白馬が気になっているのは宝石の安否ではなく、もうすぐ現れるであろう怪盗キッドの安否であった。

 数日前に工藤新一に語った、世界でもトップクラスの殺し屋の存在はかなりの所確実な情報だったのだ。

 自ら地獄の王と呼ぶ殺し屋“ハデス”の正体は殆ど不明だが、かつてアメリカ大統領までも狙っていたという恐るべき相手だ。

 確かにその“ハデス”がキッドを狙っているという証拠はない。

 しかし、これまで活動の場はアメリカやヨーロッパであったのに、何故か殆ど興味を見せなかった東洋の、それもこんな島国にやって来たというのが白馬には気になってならなかった。

 それでなくてもキッドは、正体の知れない暗殺者に狙われているのだから。

 こんなにも自分がキッドの身を案じるのは、その正体が黒羽快斗だと今も信じているせいかもしれない。

 できればやめさせたい。

 もし、本当に怪盗キッドが黒羽くんであるなら。

 

 

 

「お〜お〜、全く!こっちは誰も傷つけたりしないってのに、毎度毎度、凶悪テロリストを相手にするような警備の仕方だよなァ」

 まあ、中森警部が指揮をとってんじゃ、しょーがないか。

 ロンドンから戻った白馬も来てるようだが、殆ど個人で動くことになるだろう。

 顔を合わせるとしたら、やっぱ白馬くらいかなあ。

 純白のスーツを身につけた怪盗キッドがそう呟くと、くくくと楽しげに喉を鳴らした。

「さあて、ショーを始めるか!」

 キッドが純白のマントを翻すと、真っ白な翼を広げ、闇の中にその身を躍らせた。

 

 

 

 おのれ〜〜!

 時間通りに現れた怪盗キッドに、まんまとエメラルドを奪われた中森警部の絶叫が博物館内に響き渡った。

 念のためにと場所を移していたというのに、あっさり見破られ盗られてしまったのだから、まさに面目丸潰れだろう。

 また青子が癇癪を起こすだろうな、とキッドこと黒羽快斗は思うが、しかしやめるわけにはいかなかった。

 父の命を奪った組織に報復するには、どうしてもパンドラを見つけ出さねばならないのだから。

 永遠なんて、初めからないんだと奴らに思い知らせてやりたい。

 でなければ、自分も新一もこの先、誰も巻き込まずに生きていくことなんて出来やしないのだ。

キッド!

 ビルの屋上でエメラルドを月に翳していたキッドの前に現れたのは、予想通り白馬探だった。

 あれだけの人数がいて、結局キッドに追いついたのは彼一人だったというわけだ。

 まあ、当然といえば当然。

 最初から白馬に警備をまかせておけば、こんなに簡単に宝石を奪われるということはなかったのに。

 警察のプライドという奴はやっかいなものだよな、とキッドは思う。

 市民の協力が・・云々というのは結局の所建前ってことなのだろう。

「これは白馬探偵。お久しぶりですね」

 ニッコリ笑うキッドに、白馬の表情が険しくなる。

 まただ・・白馬は思う。

 いつもキッドは盗んだ宝石を月に翳す。

 いったい、あの奇妙な行動にどんな意味があるのか。

「エメラルドは」

「ああ、これですか。見事な宝石ですね。この宝石を贈られた女性は婚約者がいたために結婚はできなかったそうですが、その女性に注ぎ続けた彼の想いの深さが感じられますね」

 キッドはそう言うと、赤ん坊の拳ほどあるエメラルドを白馬に見せた。

「何故、盗んだ宝石を月に翳すんです?」

 一種の儀式ですよ、とキッドは答える。

「月に翳すと、宝石はより美しく輝きますからね」

 ・・・・・違う。

 もっと別の理由がある筈だ。

 それがなんなのか、白馬にはまだわからない。

 そして、それを素直に答えてくれるキッドでもなかった。

「せっかく来て頂いたことですし、このエメラルドはあなたにお返ししましょう」

 キッドは笑みを浮かべそう言うと、宝石をのせた左手を白馬に向けて差しのばした。

 だが、白馬はキッドの顔をじっと見つめたまま動こうとはしなかった。

「どうしました、白馬探偵?」

「・・・・何を探しているんです?」

「え?」

「宝石ばかり狙うのは、その中に手に入れたい唯一のものがあるからでしょう?今回のエメラルドも、あなたが探していたものではなかった。違いますか?」

 白馬の言葉にキッドは薄く笑みを浮かべた。

「それは、あなたの推理ですか?」

「いえ、確信です。しかも、それを狙っているのはあなただけではない」

「・・・・・・・」

「あなたを抹殺しようとしている者たちがいる。“ハデス”という殺し屋を知ってますか?彼がこの日本に来ています。これまでアジアにまで仕事の手を広げなかった彼が狙っているのはおそらく・・・・」

 あなただ、と続けようとした白馬の耳に突然一発の銃声が飛び込んできた。

 そのタイミングにも思わず緊張したが、銃弾はこちらには飛んでこなかった。

 いったい何が、と瞳を瞬かす白馬の目の前で、キッドの純白の姿がビルの屋上から消えた。

キッド!

 

 

 

 

「どこにいる!」

 キッドは銃声が聞こえた方向にハンググライダーを飛ばし、狙撃者がいるだろうビルの屋上を探した。

 それは危険な行為だろうが、それよりも不安のほうが大きかった。

 自分を狙ったにしては的はずれな狙い方。

 何かあったとしたら、それはなんなのか。

「・・・・・・!」

 キッドは上空から、とあるビルの屋上に立つ人影を見つけた。

 ふっと、空を見上げた人物と目があったような気がする。

 普通なら黒い影にしか見えない所だが、キッドの特殊な瞳は、一瞬見上げたその顔をはっきり捕らえた。

 あいつ・・・!

 その人物は、キッドの目から逃れるようにすぐに屋上から姿を消した。

 そして、屋上にいたらしいもう一人の黒ずくめの男は、何故か倒れたまま動かなかった。

 

 

 

 

 

 まだ危険なために自宅に戻れない工藤新一が隠れ家にしている別荘に快斗が飛び込んだのは、日付が変わってもうかなり時がたってからだった。

 いささか時間がかかったのは、つい持ってきてしまったエメラルドを返す手はずに思いの外時間がかかってしまったためだ。

 あの時、白馬の手に戻していれば余計な手間はかからなかったのだが。

 後日改めて返すというには、いわれのあるエメラルドだけにいささか面倒があったのだ。

 下に気配がないのをみて、快斗はすぐさま二階へ駆け上がった。

「新一!」

 快斗が部屋のドアを開けると、机の上のノートパソコンで何かを調べていた新一が振り返った。

「どうした?なんかあったか?」

 新一は首を傾げながらパソコンを閉じる。

「何故、あそこにいた?」

「あそこって?」

「とぼけるなよ、新一。オレの瞳をごまかせるとは思ってないよな?」

「・・・・」

 新一は嘆息し椅子を回すと、眉をしかめている快斗と向き合った。

「オレにやれることをやっただけだ」

「わざわざ、危険だとわかっていることをする必要はないだろう。オレの仕事には関わらないって言ったよな、新一?」

「おまえが狙われているとわかってて放ってはおけねえだろうが」

「狙われているのはおまえも同じだろうが!だいたい、オレよりおまえのほうが危険なんだぞ!」

「何度も狙撃され、銃弾を受けているおまえがオレより危険が少ないってのか!」

新一!

「相手はプロだ。いつも避けられているからといって、このままずっと無事だという保証はないんだぞ。また、アッシュのようなスナイパーに狙われたら、いくらおまえでも無事じゃすまない」

「それはおまえもだ、新一。オレを狙う狙撃者を見つけて眠らせるとしても通用しない敵だっている。おまえも言ってたろ?麻酔銃を使っても動けた奴がいるって」

 オレだって、おまえの麻酔銃は効かないしさ。

「だったら、蹴り倒す?相手はプロだぜ。確実に倒そうと思うなら一発で撃ち殺すしかない」

「・・・・・・・・・」

「けど、おまえには人は殺せねえよな。服部から聞いたぜ。推理で犯人を追いつめて死なせるのは殺人と変わらないって言ったんだってな。だったら、相手がどんな殺人鬼でも、お前は殺せないってことだ」

「おまえだって、できねえだろうが!」

 怪盗キッドは人を傷つけない犯罪者だ。

 自分を殺そうとする相手に対して、どう立ち向かおうというのだ!

「自分を殺そうとする相手に反撃するのは、正当防衛だろ?」

「快斗!」

「とにかく!もう二度とオレの仕事の現場に出てくるな!またアッシュと顔を合わさないとは言い切れないんだからな!」

 新一は目を見開いた。

「・・・・やっぱり、アッシュはまだ日本にいるんだな」

「・・・・・・・」

「あいつ、怪盗キッドに、興味というより執着に近いもんを持ってたよな・・・あいつの腕を必要とする人間は世界中にごまんといる。なのに、今だこの日本に留まっているってことは、おまえの存在が気になってるからだ」

 快斗は新一の顔から机の上のパソコンに視線を移す。

「何調べてた?」

 新一はハッとして椅子から立ち上がり、パソコンの方に伸ばしてきた快斗の手を遮った。

 二人は一歩も引かない強い瞳で睨み合う。

 僅かな違いを除けば、まるで鏡に映したようにそっくりな顔。

 だが、性格も立場もそして考え方も全く違っている二人だった。

 快斗は瞳を眇めるとポツリと小さく呟いた。

「オレより弱いくせに・・・・」

 カッとなって出た新一の右手を、快斗はあっさり捕らえる。

 そして、そのまま引き寄せて新一の躰を仰向けにベッドに押さえつけた。

快斗!

「抜けられるもんなら抜けてみろよ」

 両手首を左手一本でベッドに押さえつけられ、下半身は快斗の躰にのし掛かられて抜け出すどころか動くこともできなかった。

「ほら見ろ。オレの力には勝てやしない」

「当たり前だろ、この馬鹿力!オレはプロレスラーなんかじゃねえ!」

「オレ、たいがいのプロレスラーと腕相撲しても勝てるかもな」

 快斗はフ・・と笑った。

「・・・・・・・・」

 いつもと違う、どこか冷たい笑い方に新一はゾッとなる。

 抵抗がやんだ新一に快斗の手が伸びる。

 快斗は、ゆるめてはいたが、まだ新一の首もとにかかっていたネクタイを解くとそれで頭上に押さえつけている両手首を縛った。

「快斗・・!」

 突然の快斗の理不尽ともいえる行動に、新一は怒るより先に驚きに瞳を瞠る。

 いったいどういう結び方をしているのか、軽くひとくくりされているだけなのに、手首は捻ることもできないくらい堅く縛られていて、余った部分はベッドの上のレリーフに回され固定された。

「なんのつもりだ、快斗!」

「オレの心配なんかするより、自分の身を心配しろってことさ、新一」

 快斗はそう言ってニッと口端を上げると、新一が身につけているシャツの襟元を掴み、一気に左右に開いた。

 ズボンの下になっている部分も引き出して引き裂くような勢いでボタンを弾き飛ばす。

カイト・・・っ!

 新一は悲鳴のような高い声で叫ぶ。

 シャツの下から現れた白く滑らかな胸。

 目を射るほどの輝きに快斗は目を細めた。

 引き寄せられるように、そっとその胸に唇を押し当てきつく吸い上げて所有印を刻む。

 なんの跡もない純白の雪の上に、自分の足跡を残すような、そんな征服欲にも似た感覚。

 新一の躰は赤い印がつけられる瞬間、跳ねるようにピクリと震えた。

「快斗・・・おまえ・・・・」

 いつもなら屈託のない明るい色をした瞳で自分を見る快斗が、暗い冷たい瞳で自分を見下ろしている。

(怒ってる・・・・のか?)

 自分が快斗を怒らせた?

 しかし、このくらいのことはいつもの事じゃないかと新一は思う。

 なんでベッドに押さえつけられ、こんな真似をされなきゃならねえんだ!

 冗談じゃねえっ!

「や・・・っ!」

 首筋に柔らかくキスを落とされそこに神経が集中したその時、ズボンのジッパーが降ろされ快斗の手が、あろうことか下着の下に直接もぐり込んできた。

 快斗は首筋に舌先を這わせながら、ゆっくりと、まだなんの反応も見せていない新一自身を手のひらに包み込み愛撫した。

 どっちかというと淡泊な新一は、あまり自分を慰める行為をしないため、快斗のポイントを押さえた動きにはすぐにも屈服しそうになる。

 頭上に拘束された両手に、押さえ込まれた躰。

 ああ、そうだよ!

 オレはおまえの力に抵抗できねえよ!

「も・・やめろって!」

 大切に、まるで壊れ物でも扱うかのように、まだ成長しきれてない彼自身をやんわりと刺激し続ける。

 確実に自分が反応していくのがわかる。

 だが、快斗の手でイカされるなんて冗談ではなかった。

 そんなこと、できるわけがない!

「なあ・・・新一」

 柔らかな耳朶に舌を這わせ軽く歯を当てた快斗が囁く。

「やったことなくても、知識はあるよな?」

 オレがおまえにしたいことくらい、わかるよな新一?

 新一の瞳が一杯に見開かれる。

 本気なのか?本気でそんなこと・・・!

快・・!

 抵抗し叫ぼうとした新一の口に、どこにあったのかタオルが押し込まれた。

 喉元まで丸めたタオルが押し込まれ、ぐっ・・と新一の喉が鳴る。

 と、胸を圧迫していた重みがなくなって僅かに緊張が抜けた途端、快斗の手が素早く新一のズボンと下着を取り去った。

 ひんやりした空気に触れて下肢が粟立つ。

 両足が大きく左右に押し開かれ、脚の間に割って入った快斗の方に左脚がかかる。

 快斗の手がシーツの上に残った右脚をさらに膝を折り曲げるようにして開いた。

 信じられない格好に新一は理性を手放したくなるほどの羞恥を覚えた。

 胸ははだけているもののシャツはまだ身につけていたが、下肢は隠すもの一つなかった。

 全裸と同じだ。

 男同士の行為の知識は確かにある。

 だが、それがなんだというのだ!

 その身に受ける行為の恐怖が和らぐものではない。

「う・・う!」

 新一は頭を振り、拘束された手を動かした。

 だが、こすれて手首が痛むだけで拘束は解けず、押さえ込まれた下肢は自由に動かすこともできなかった。

 快斗・・!快斗・・!

 新一は唯一動く頭を振って抵抗を示す。

 だが、それで行為が中断することはなかった。

 新一は慣れた快斗の指で何度かイカされた跡、快斗の堅く熱い欲望をゆっくりと含まされた。

「う・・ぐっ!」

 悲鳴は全て押し込まれたタオルに吸収され、新一の口からはくぐもった声しか漏れなかった。

 快斗のそれも新一同様成長しきれてなく、大人の大きさはなかったが、初めて開かれるそこには十分な衝撃を与えた。

 一度も開かれたことのない狭い器官に押し入られた他人の肉に新一は悶絶しかける。

 自分のものではない脈動を自分の中に感じる。

 何度か放った自分のものが内部を潤してはいたが、それでも快斗のものを全て飲み込むまでには時間がかかった。

 怒ってはいるが、新一を傷つけるつもりはないのだろう。

 新一の呼吸に合わせるように自分を押し込む快斗の呼吸も荒くなってきている。

「新一・・・・」

 快斗は、冷たい汗に濡れた新一の額にキスを落とすと、内部に収まった自身を動かした。

 途端に新一の顔が苦痛に歪む。

 初めての新一には、おそらく乱暴過ぎる行為だったろう。

 いや、そもそも強姦自体が暴力だった。

 しかし、女性すらまだ抱いたことのない快斗は、当然初めての行為であるわけだから、相手への気遣いが長続きしないのも仕方のないことだった。

 ついには自分の快楽に負け、快斗は新一を思う存分貪ってしまった。

 

 

 

 

 

「マジック?」

 早朝、別荘に戻ってきたフォックスは、リビングの椅子に座っている快斗に気付きびっくりしたように瞳を瞬かせた。

「どうしたんです?」

 首を傾げ問いかけるフォックスに、快斗は顔も上げず黙っていた。

 すぐに何かあったと気付いたフォックスは二階に駆け上がった。

 快斗にあんな顔をさせるのは新一しかいない。

 新一に何かあったのか?

 フォックスは二階の新一の部屋の前までくると、ゆっくりとドアを開けた。

「ミスティ?」

 フォックスは自分のベッドに横になっている新一を見つけ声をかけたが、すぐに絶句し息を呑んだ。

 シーツの合間から覗く濡れたように赤い瞳が、驚いているフォックスを睨みつけていた。

 ミスティ!

 茫然となった目に映った新一の赤く腫れた瞳とむき出しになった白い肩に、フォックスは凍り付いた。

 

 

 

 

 フォックスが再びリビングに降りると、快斗は先ほどと全く姿勢を変えずに椅子に座っていた。

「マジック・・・・」

「オレは絶対に謝らないからな!後悔もしない!」

 フォックスは静かな眼差しで椅子に座っている快斗を見下ろした。

「何があったんです?」

 フォックスが問うと、快斗はまた口を閉じた。

「あなた方の問題であるなら、わたしが口出すことではないでしょう・・・・しかしミスティは傷ついている」

「・・・・・・」

「ミスティを守る“白の魔術師”のあなたがする行為ではなかったのでは?」

「・・・・・・フォックス」

「はい・・」

「“ハデス”が日本に来てるってのを知ってたか?」

「“ハデス”が?あの男の活動エリアは主にヨーロッパの筈ですが」

「アッシュが日本に来るくらいだ。ハデスが来る可能性がないとは言えねえだろ」

 フォックスの眉間が僅かに寄った。

「もしかして、それが原因ですか」

「オレは全てが解決し新一の身が安全になるまでは絶対に死ねない。死ぬわけにはいかないんだ」

 それはパンドラを探すことよりも優先されること。

「どうするんです?」

「トップクラスのスナイパー相手じゃ、オレも勝てるかどうかわかんねえ・・・って言うより、勝負になんねえかもな」

 そう言って快斗は苦い溜息をつく。

「しかし、本当にハデスが日本に来ているとしても、標的が怪盗キッドだとは限らないでしょう」

「万に一つの可能性があっても駄目なんだよ。これまでオレを狙った組織の暗殺者は失敗続きだからな。奴らが確実にオレを殺せる人間を雇ってもおかしくはないさ」

「・・・・・・・・・」

「こうなったら、ハデスと同等の腕を持った人間をボディガードにするっきゃねえよな」

「ボディガード?しかし、ハデスと同レベルの人間が、この日本で見つかるとは思えませんが」

「いるじゃねえか。ハデスと同じトップクラスのスナイパーがさ」

 ニッ・・と快斗が笑って答えると、フォックスはまさかというように大きく瞳を瞠った。

(じょ、冗談でしょう!!)                      

END

 

地雷品です。
そして、当然ですがうちのシリーズをご存知でない方が読まれた場合
かなり不親切な話です。しかも強0ネタ・・・
一度は快新でやってみたかったんですが、結構疲れます。
読むのは平気なんですが、書くのはむつかしいもんですね。
え、と・・ちょっとでもりゅう様に気に入ってもらえたらいいんですが。
この際、返品も可です(^^;   麻希利