事件の始まりは、夏だった。 学校が夏休みに入ってまもなく、突然何人かの少年たちの姿が消える事件が起こった。 時期が悪かったのかもしれない。 子供の夜遊びや家出は珍しいことではなく、たいして気に留めず呑気にしていた親もあって事件だとわかるまで時間がかかったことが被害者を増やす結果となった。 もっとも、子供がいなくなって警察に捜索願いを出しても、それが事件に繋がらない限り熱心に探そうとしない警察側の体制にも問題はあったが。 それほど、子供の家出は多かったのだ。特に夏休みという時期は。 犯人はそれを狙ったのかもしれなかった。 夏休みが終り、秋の気配が漂い始めたある日、行方不明になっていた少年の一人が唐突に発見された。 見つけたのは、たまたま山菜とりに山へ入った男性で、木の根元に引っかかるようにして倒れている少年を見つけ警察に届けた。 いつからそこにいたのか、少年は虫の息で、病院に運ばれ治療を受けた後ようやく意識を取り戻したのは発見されて三日後だった。 少年はまだ十四歳の中学生だった。
「拉致監禁されていたんですか」 状況的に見ればな、と目暮警部は優秀な高校生探偵に向けて頷いた。 その日、偶然かかわったある事件の事情聴取で警視庁を訪れていた新一は、そこで発見された少年の話を耳にし目暮警部に事件の概要を尋ねたのだが。 警部も、そして丁度居合わせた高木刑事も一様に嫌な顔をした。 実に腹立だしい嫌な事件だと目暮警部は言った。 「新聞では、クラブ活動で学校に向かった途中姿を消したとか」 「そうなんだ。サッカーをやってる元気で明るく真面目な子でな。無断で休んだことは一度もなかったんで顧問の教師が家に電話し、そこで行方がわからないことに気付いたというんだ」 「両親は心当たりを探したんだが見つからず、いなくなった日の夜に捜索願いを出したんだけど」 夏休みに入ると家出する少年少女は多いから、警察も事件性がないと自ら探すようなことはない。 情報が入れば知らせるくらいだ。 これがまだ小さな、たとえば小学生くらいなら状況は変わっていただろうが。 「事情は聞けたんですか?」 「ああ、まあ・・・・」 目暮警部はさらに眉間を寄せ顔をしかめた。 「彼、かなりショックを受けてて・・・いや当然のことなんだけど」 高木刑事もやたら言いにくそうに口ごもる。 誘拐され監禁されていたなら確かにショックは大きいだろうが、しかし二人の表情を見るとそれだけではないように思える。 「あの子、性的暴行を受けていたのよ」 そう答えたのは、丁度外から戻ってきた佐藤刑事だった。 「おお佐藤くん。どうだったね?」 「なんとか聞きだせました。これが犯人の似顔絵です」 佐藤刑事はショルダーバッグからスケッチブックを取り出すと、現在入院中の少年の証言から描いた犯人の似顔絵を見せた。 「こ・・・これって!」 高木刑事はびっくりしたように大きく目を見開いた。 それも無理はなく、佐藤刑事が描いた似顔絵は、緩やかに波打った長い髪に整った顔立ちの若い女性の顔だったのだ。 てっきり、犯人は異常性格の男だと思っていた高木刑事には、女性だったということが信じられない。 それは目暮警部も同じらしく、佐藤刑事が描いた顔を大きな目でマジマジと見つめていた。 「うーむ・・・間違いないのかね、佐藤くん?」 「間違いありません。あの子も犯人は金髪の綺麗なお姉さんだったと証言しています」 「金髪?外人なのかね?」 目暮警部は目を瞬かせる。 「いえ、そうじゃなくて、染めてたかもしくは鬘をかぶっていたかですね。顔立ちは明らかに日本人ですし」 目暮警部は、またもウ〜ムと唸った。 「かなりの美人だな」 それは高木刑事も同感だが、しかしこの似顔絵の女は、少年を拉致監禁しただけでなくひどい暴行を加えたのだ。 だが、似顔絵を見る限り女優かモデルのような美貌の女性で、とても少年に暴行するような人間には見えなかった。 新一も何か考え込むように顎に手を当てて、佐藤刑事が描いた犯人の顔を見つめた。 「性的暴行というのは、いったいどんな?レイプされたんですか?」 「ん─、そういうのじゃないわね。オモチャにされたと言った方がいいかしら。あの子、発見された時、男根をかたどったものを局部に押し込まれていたのよ」 佐藤さん・・・そんな露骨に・・・・・ 引きつる高木刑事に対して、女の佐藤刑事はいたって平気な顔だ。 性的な事件は多い。佐藤刑事は性的暴行を受けた少女を数多く見てきているのだ。 痴漢の被害は毎日あるし、佐藤刑事自身も被害にあっているから加害者への怒りは強かった。 「大人のおもちゃですか」 新一の方もこだわりはないのか、あくまで事件として説明を聞いている。 「いや、市販されているものではないらしい。特注品か、もしくは自作じゃないかということだが」 「かなり、リアルな出来だから、おそらく誰かのモノを型にとって作ったものだろうって」 「じゃあ、それが犯人を特定する最も大きな手がかりというわけですか」 「そういうことになるわね」 「でも、さすがに犯人のてがかりとなる遺留品だとマスコミに発表するわけにはいかなくて」 確かに高木刑事が言うとおり、堂々と公開できるような代物ではないだろう。 新一はじっと犯人の似顔絵を見詰めていた。 なんだろう?全然見覚えはないのに、この顔を見た途端、電気が走ったような気がした。 「すみません、この似顔絵、コピーして頂けますか?」 三人は新一の唐突な頼みに、え?という顔になった。 「どうするんだね?」 「ちょっと気になることがあって」 「まさか、犯人に心当たりがあるっていうんじゃ・・・!」 「えっ!ほんとに?」 勢い込む目暮警部と高木刑事に、新一は苦笑して肩をすくめた。 「いえ、そういうわけじゃなく。この顔に見覚えは全くありませんし。ただ、ちょっと引っかかるものがあるというか・・・なんて言えばいいのかわからないんですが」 とにかく、何かわかったら連絡しますからと新一は答えた。 「あ、それと・・・被害者はその少年だけですか?」 「いいえ、そうじゃないみたい。あの子の話では、監禁されてた部屋は違ったものの、少なくとも他に二人いたって言ってたわ。会話も交わし、名前も聞いたって」 「捜索願いが出てる中に該当する名前はなかったんで、今身元を調べている所だ」 「・・・・そうですか」 その二人も無事助け出せたらいいんだけど、と佐藤刑事はポツリと言った。
「なにそれ?」 学校帰りそのままの格好で工藤邸に顔を見せた黒羽快斗は、リビングのソファに座って何かをじっと見ている新一の背後から声をかけた。 全く気配を感じさせず幽霊のように現れた快斗に、新一は驚いたように顔を上げる。 「なんだ、快斗か。入ってくる前に声をかけろよ」 問答無用で蹴り倒すぞ、と新一は背後から顔を寄せてくる現役高校生であり怪盗でもある友人を睨みつけた。 「声かけても気付かなかったんじゃねえの?」 いったい何を熱心に見てんのさ?と快斗は新一の手元を覗き込む。 「似顔絵?このタッチって佐藤刑事?」 新一はへえ〜という顔で快斗を見る。 「よくわかるな」 そりゃあね、と快斗は首をすくめて笑った。 「絵も字もそれぞれクセってもんがあるからさ。たとえば絵だと線や陰の使い方とかね。オレ、何度か佐藤刑事の絵を見たことあるし」 で、何?と快斗はもう一度問う。 似顔絵は派手な感じの美人だった。 年齢は三十前後という所だろうか。 「この前新聞に載ってたろ?行方不明になってた中学生が見つかったって記事」 「ああ、アレね。この美人が関係してるってわけ?」 「中学生を誘拐し監禁した容疑者だ」 「容疑者?つまり犯人?」 そりゃまた意外だね。 男子中学生を誘拐したのが、こんな美女だとはきっと誰も思いつかない。 まあ、場合によっちゃ納得できないこともないだろうが。 「それで、新一が誘拐犯の似顔絵を熱心に眺めている理由は何なのかな?」 新一は眉をひそめる。 「何ってなんだよ」 「気になることがあるから似顔絵のコピーもらってきたんじゃないの?」 「・・・・・・」 図星を指され瞳を大きく見開いた新一に快斗は苦笑すると、彼の目元に軽く唇を押し付けた。 事件と謎に挑む時の新一は怖いくらい厳しいが、普段は子供のように可愛らしい表情をよく見せる。 もっとも、それを見ることができるのは、ごく身近な人間だけであるが。 「快斗。おまえ、覚えてない記憶を思い出させることができるか?」 「程度によるね。レイジが消した記憶を甦らせるのはオレにはちょっと無理。哀ちゃんにも危険だって止められてるし」 そっちじゃねえよ、と新一が言うと、快斗は首を傾げながらソファの背にもたれかかった。 「じゃ、何?他にも消えてる記憶があるわけ?」 新一はちょっと考え込むように眉間を寄せた。 「たとえば、酔っ払って記憶が飛ぶってのがあるだろ。アレだ」 ええぇぇ〜〜! 「酔っ払って記憶飛んだの?新一が!」 信じられないという表情で快斗は新一を見た。 はっきり言って新一は酒に弱い方ではない。 といって、ザルでもないが。 「記憶なくなるくらい酒飲んだってわけ?」 飲んでねえよ! 「オレはあん時十四才だったんだ!酒なんか飲むわけねえだろが!」 いや、一度も飲んだことないとは言わないが。 それでも、酔って記憶がなくなるくらい飲むなんてことは絶対にない! 「あの時って何?」 快斗が聞くと、新一は自分でも確認するような感じでゆっくりと話し始めた。 「中二の夏休みが終わってすぐの頃、部活終えて帰る途中から翌日の夕方までの記憶がねえんだよ」 「え?つまり丸一日の記憶が飛んでるってわけ」 ああ、と新一は頷く。 「県道をフラフラ歩いてるオレを地元の人が見つけ駐在所まで連れていってくれたんだけどさ」 保護してくれた警察官の話じゃ酔っ払ってるみたいな印象だったという。 しかし、アルコールの匂いはしないし、もしかしたら薬物かもしれないと警官は県警に連絡を入れたのだが、現れたのは何故か工藤優作だった。 丁度妻の有希子と帰国していた優作は、突然消えた息子の行方を極秘で捜索していたのだ。 おかげで、新一の行方不明も、何故か千葉の山道で見つかったことも全て表に出ることはなかった。 優作が持てるツテを使って完璧な緘口令を敷いたからだ。 「父さんの友人である医者がオレを診察してくれたんだけど、血液中からアルコールに似た成分が大量に見つかったってんだ。つまり、それのせいでオレの記憶が飛んじまったってわけ」 「どこまで覚えてるの、新一?」 う〜ん、と新一は腕を組んで首を左右に捻った。 「学校を出たのが五時半頃だったんだ。その時はまだ父さんたちが帰国するなんて知らなかったから、晩メシどうしようかとか考えててさ」 思い出しても冷蔵庫に何かあった記憶もないし。 そういや、新しく弁当屋が出来てそこのカツ弁がうまかったって話を誰かがしてたんで寄ってみようかと。 「帰りの道からは大きく外れてたんだけど、別に急いで帰ることもねえしと思ってさ」 「それで?」 「その日は曇ってて陽が落ちたら結構暗くなってたんだよな。街灯ついてたし・・・・そういや、誰かに道を訊かれた」 「どんなヤツ?」 「英語だったんだ。ゆっくり開いたドライバー側の窓から大きな手が出てきて、そいつはオレにメモを見せたんだ。そのメモを覗きこんだ途端、誰かが後ろからオレの腕をつかんで・・・・」 そこで記憶がふっつり途切れている。 「それって、やっぱり誘拐じゃねえの?」 快斗は驚いた顔になって新一の隣に座り込んだ。 「何もされてなかった、新一?」 誘拐されて何もないってことは普通ねえだろ、と新一は苦笑を浮かべる。 記憶はなかったが、しっかり暴行の痕跡は残っていたのだ。 両手首に残る指の後、そして下肢には裂傷があった。 快斗は息を呑んだ。 「まさか・・・レイプされた?」 いや、と新一は首を振る。 「胎内に精液は残ってなかった。でも、何か太いもんを入れられたのは間違いねえんだよな」 「変質者?」 「父さんはすぐに犯人を捜したけど結局わからなかった」 「優作さんでも見つからなかったわけ?」 いったい犯人はどんなヤツなんだ。 「オレにしてみれば暴行された嫌な記憶が残ってないというのは幸いなんだろうが、ずっと気にかかってたんだよな」 当然だろう。 誘拐し暴行するのは犯罪だ。 犯人は絶対に捕まえて法の下で罰しなければならない。 「犯人がわからないばかりに犠牲者が増えるなんてことは、決してあってはならないことだからな」 どうだ?と新一は快斗に尋ねる。 「薬で意識が飛んでた間の事を思い出させることって出来るか?」 いいのか?と快斗は新一に確かめるように訊く。 催眠術でその時間まで遡らせれば何があったかを思い出させることは不可能ではない。 暗示にかけられてるわけではないから、障害が残る事はないだろう。 だが、それは暴行されたという記憶なのだ。 出来るなら一生封印しておきたいことだろう。 しかし、新一は犯罪をわからないままにしておくことは許せない探偵だった。 おそらく気にはかけていたのだろうが、犯人を探し出す手がかりが全くなく、しかもそれどころではない状況におかれたため、不本意だがずっと封印していたのだろう。 それが、似た事件を前にして何もしないわけにはいかなくなった。 もし、今回の事件が自分が巻き込まれた事件と関係があるのなら。 新一はもう一度、容疑者とされる女の似顔絵を見た。 「大丈夫だ。犯人を捕まえる」 まだ二人の被害者が行方不明のままだ。 なんとしてでも救い出さなければならない。 快斗は諦めたように笑うと新一を抱きしめた。 「了解。何があってもオレがいるからね、新一」 ああ、と新一は快斗の腕の中で頷いた。
快斗は新一を一人用のソファに座らせると、自分は前に立って彼の両のこめかみに細い指先を当てた。 「オレの瞳を見て新一」 新一は言われる通り快斗の青紫に光る瞳を見つめた。 「これから暗示をかけるから」 ヤバイ感じだったら、すぐに中止するからねと快斗が念押しすると、新一は仕方ないかとそれを承諾した。 本当は事実を全て明らかにしたい。 だが、精神というのは微妙だ。 それでなくても新一には強烈な暗示がかけられている。 そこは、まだ触れてはならない領域だった。 「ゆっくりと瞳を閉じて。これから時間を遡るよ」
校門を出て歩いていた新一の脇に一台の白い車が止まった。 丁度道を歩く人の姿が消えて新一一人になるのを狙ったようなタイミングだった。 しかし、それは後になって疑問に思う事で、あの時の新一にそういう警戒心はなかった。 相手に悪意を感じなかったせいだろう。 何故感じなかったのか、それは今でも疑問に思う事だ。 英語で尋ねられ、見せられたメモには場所の名称と地図が手書きで書かれていた。 そこは新一もよく知るビルだったので説明しようと口を開いたその時、背後に人の気配を感じた。 腕を掴まれ、振り向こうと顔を動かすより先に新一の意識は途切れた。 身体を襲った激しい痺れ。 スタンガンで昏倒させられたことは、背中に残っていた火傷の跡でわかった。 あの後、新一は車に乗せられどこかへ連れて行かれたのだ。
何か見ている筈だ。 スタンガンで意識を失ってその後・・・・何を見た? いったい何を・・・・
感覚は最低だった。 〈新一は今、どこにいる?〉 車の中じゃない。 振動は感じない・・・どこか部屋の中・・・・ちょっとかび臭い・・・・ 長い間、人が住んでなくて手入れされてなかったような。 〈どんな感じ?〉 横になっている・・・でもベッドって感じじゃない。 幅が狭くて、右足が落ちてる。 左足は動かせない。・・・ああ、きっとソファの上だ。 ソファは布張りで、その感触が下半身に直接感じる。 〈下に何もつけてない状態だった?〉 多分・・・上はシャツを着たまま。 頭の下はソファじゃない。 座った誰かの足の上・・・そいつはオレの両手首を左手でひとまとめに掴んでいて、右手は口を塞いでる。 強い力で、オレはその手を振り解けないどころか、身動き一つできない。 〈そいつの顔、わかる?〉 頭の上で捕まれている自分の手で見えない。 かなり大きな男だ。 身長は百九十近い。 何かスポーツでもしているような、ガッチリした筋肉質の男だ。 〈日本人?〉 違う・・・白人・・・ヨーロッパ系・・・英語にナマリがあった。 〈新一を誘拐したのは二人だよね?もう一人が見える?〉 見えない・・・あ・・・誰かが足に触れた。 もう一人がオレの顔を覗き込んできた。 ウェイブのかかった、肩くらいまでの茶髪。 仄かにに香る香水の匂いと赤い唇。女? 〈それって、新一が見ていた似顔絵の女?〉 わからない。 顔がハッキリ見えない。 何かオレに話しかけてる・・・・
ごめんなさい。本当は女性が良かったの。 でも、わたしが欲望を感じられたのは坊やだけだったの・・・ 迷惑よね。それはわかっているわ。 でも、わたしが生まれ変わるにはどうしても必要なことなの。 大丈夫。心配しないで。 坊やにとって最悪なこの行為は記憶に残らないし、身体の傷はすぐに治るわ。
彼女はオレの前で衣服を脱いでいった。 現れたのは白い美しい肉体。 ふくよかな胸。締まった腰。 どこから見ても綺麗な女性の姿であるのに、オレの目に映ったのは驚くべきものだった。 中学生のオレには信じられない大きさのモノ。 女性の身体にあってはならないものがオレの目の前にあった。
誰でも驚くわね。 これが今のわたしの真実の姿。 でも、数日後にはわたしは完璧になるわ。 これは送別・・・この姿で生まれてしまったわたしへの、送別なの。
彼女はそう言って、床に落ちていたオレの右足をすくい上げた。 この状況で何をされるのかわからないほど、オレは無知じゃない。 けど、オレの意識はハッキリしてなくて、ちゃんと目を開けて見てるし、感覚もあるのに、まるで眠ってるように身体が動かなかった。 スタンガンだけの影響じゃない。 他に何かされていた。 だから、彼女はオレにこの時の記憶は残らないと言ったのだ。 彼女の濡れた指先が中に入ってきてゆるくかき回される感触に身体が震える。 〈新一、もうやめる?〉 いや、まだだ! 女の顔を確かめる! 開かされた脚の間に彼女が入ってきて、太くて大きな大人のソレが中に押し入ってきた。 男の手で塞がれた口からは声のない悲鳴が漏れる。 引き裂かれるような苦痛。 抵抗しようと身体を動かすが逃げられなかった。 最初はゆっくりと入ってきたが、最後は一気に突き上げられ身体が悶絶した。 彼女は夢を見てるようなそんな表情でオレの顔を見下ろした。 ああ、思った通り・・・坊やはわたしの”唯一”だった・・・・
パン!と何かがはじけるような音が新一を覚醒させた。 新一? 快斗が心配そうに新一の顔を見つめている。 彼女だ・・・と新一は呟いた。 思い出した犯人の顔は、間違いなく似顔絵の女だった。
「で、どうすんのさ新一?」 中学生だった新一を誘拐し暴行した犯人が、今回の事件の容疑者とされる女と同一人物だった。 それはわかったが、警察に話しても解決に繋がる手がかりは殆どないといっていい。 「優作さんでも捕まえられなかったっていうしなあ」 あの時はな、と新一はフンと鼻を鳴らす。 「オレが発見された時にはもう犯人は日本にいなかった可能性があるんだ。もし日本にいたらどんな辺鄙な山奥に潜伏していようが、父さんには捕まえられた筈だからな」 そう言い切れることがすごいなと快斗は思う。 まあ、確かにそうなんだろうが。 「だが、今犯人はこの日本にいる」 「けど、誘拐されてた中学生が保護されたことはニュースで流れたんだぜ?逃げられたことは犯人も当然知ってるだろうし、もう逃亡してんじゃないか?」 その可能性はおおいに考えられるが。 だが、何故あの時の犯人がまた同じような事件をおこしたのか。 それにはきっと理由があるはずだ。 「あの女は、オレを”唯一”と言った・・・・」 「新一?」 新一はぐっと快斗の腕を掴んだ。 「手を貸せ、快斗」 「いったい何をするつもり?」 「決まってるだろう。隠れて姿を見せない犯人をおびき出すんだ」 「・・・・・」 また無謀なことを考えてるな、新一〜〜 快斗は、何事かを企んでいる新一の顔を見つめ頭を抱えたくなった。
「ったく、どういうつもりなんだ、あの野郎はあぁぁぁ!」 突然派手な予告状をよこした怪盗に、警視庁の中森警部はキレて吼えまくった。 いつもは予告日に余裕をもたせる怪盗キッドが、いきなり十二時間後の犯行予告を出してきたのだ。 キッドに関しては模倣犯やイタズラが多い。 今回もそれかとも思ったが、工藤新一が出てきたことで警視庁としては本物の可能性が高いと判断した。 「予告状は間違いなくキッドからのものですよ」 そう答える工藤新一にはテレビ局の人間が張り付いている。 今更驚くことではないが、キッドはマスコミに向けて今回も派手に犯行予告をぶちまけたのだ。 ここ最近姿を見せなかった工藤新一がキッドの現場に顔を見せると聞きつけて、マスコミの数は増加した。 それも中森警部には気に入らないことの一つだ。 「なんで、部外者の貴様が首を突っ込んでくるんだ!貴様は一課専属だろうが!」 新一は相変わらずの中森警部の剣幕に苦笑を浮かべる。 「専属とかそういうことは関係ありませんよ。僕は警官ではなく探偵ですから」 ああ、そんなに睨まないで下さい。 今夜はキッドに関して余計な口出しはしませんからと新一は答える。 「あ〜ん?そいつは願ってもないが」 じゃあ、ここへは何しにきたんだ?と中森警部は当然首を傾げて問う。 マスコミは最初から怪盗と名探偵の対決を待ち望んでいた。 こうして表に顔を出してきた工藤新一に、彼等がそう考えるのは当然といえば当然のことだ。 しかし、新一は何もしないと言う。 この少年が、今も続々と増えていってる野次馬たちと同じ目的でここにいるとはいささか考えがたい。 となると、目的はいったいなんなのだ?と中森が首を捻るのは無理ないことだった。 「別口です。早急に解決しなければならない事件があるもので」 「なんだ、それは?」 「それこそ、僕の管轄ですから気にしないで下さい」 新一はそう言ってニッコリ笑って、中森警部から離れていった。
キッドの予告時間が近づくと、自然人の目は狙われている宝石が収められている場所へと向く。 今夜キッドが狙っている獲物は、先月建てられた米花市出身の彫刻家の記念館に寄贈された女神像だった。 彼の代表作とされる女神像のレプリカだが、その胸元には真紅の輝きを放つビッグジュエルがはめ込まれているのだ。 「あ〜あ、あんなに張り切っちゃって」 遠くから警備の様子を眺めていた白い怪盗は気の毒そうに苦笑を浮かべる。 まあ確かにあのルビーは狙っていたが、実はそう急ぐものではなかった。 得た情報では目的のものでない確率が八十パーセントというところだったし、こっそり確認してもいいかなどと考えていた代物なのだ。 つまり、こうまで派手にやる必要はぜっんぜんなかったわけで。 「とりあえず、頂いていくけどさあ・・・・」 ショーマンとしてはドタキャンで観客をガッカリさせるわけにはいかないし。 キッドは吐息を一つ漏らすと自分の携帯を取った。 「ああ、オレ。そろそろ始めるけど、そっちは?・・うん・・・気をつけてよ。餌に食いついては欲しいけど、リスクは大きいんだから・・・」 おまえを信じてっから、と返ってきた一言は嬉しいがやはり心配だ。 冷静なようで結構ムチャクチャするしなあ、名探偵は。 ま、そこも気に入ってるとこだけど。 ・・・・オレってマゾかも。 「さあて、ショーを始めるか」 ターゲットを追い詰め捕らえるための。 キッドはニッと笑うと、純白の翼を広げひときわ明るい場所へ向けて飛び立った。
警官やマスコミ、そして野次馬が二重三重と取り囲んでいる現場から一歩外れると一気に人の姿がまばらになる。 もともと、この場所は駅から遠く、米花駅からの交通手段はバスだけという場所だ。 しかも、広大な公園の中に建っているので夜ともなれば普段は人の姿がなくなる。 今夜の賑やかさは特別なのだとわかる静寂があたりを包んでいた。 「どこへ行かれるんですか、工藤さん?」 ふいに背後から声をかけられた新一は、え?と振り向いた。 見ると、それはさっき中森警部といた時、取材していた女性記者の一人のようだった。 顔はハッキリ見ていなかったが、赤いスーツに見覚えがある。 大きな眼鏡と地味な髪型が印象を弱めているが、顔立ちは整っていて結構美人だった。 おそらく、あの場にいた女性レポーターや記者の中では飛びぬけた美人だろう。 「もうすぐ怪盗キッドの予告時間ですが、行かなくていいんですか?」 ああ、と新一は肩をすくめる。 「宝石を奪う瞬間のキッドは捕まえられませんよ。あいつを捕まえるには宝石を奪った後の逃走経路を押さえて待ち伏せるのが一番なんです」 「そうなんですか」 彼女は驚いたように高い声を上げる。 「じゃあ、わたしも一緒に行っても構いませんか?絶対にお邪魔はしませんから」 ま、マスコミの人間としては当然のことだろう。 他の誰も気付いてなくて自分だけが取材できるのなら、多少の危険は覚悟の上だ。 新一もそれがわかっているから拒否はしない。 どうせ駄目だと言っても追いかけて来るに違いないからだ。 もっとも目的は別にあるから彼女の言葉をはねつけることはしない。 新一は背を向けると、ふっと彼女にわからないように小さく笑みをこぼした。 「それで、どこへ行くんですか?」 「そう遠くはないですよ。キッドは常に警察の動きを見ながら動いてますからね」 ああ、なるほどと答えた彼女の赤い唇が笑みに歪んだのを新一はその瞳に捉える事はなかった。 だが、わかる。 自分に向ける彼女の執着の眼差しが。 突然、新一は背後から伸びてきた腕に捕まった。 「な・・・!」 抵抗する前に新一は口と鼻を白い布で覆われた。 ツンと薬品臭が鼻を刺激する。 なんとか逃れようと身体を動かすが、拘束する腕の力は女とは思えないほど強いものだった。 息を止めているのも限界はある。 保っていた新一の意識は霞がかかったようにぼやけ、そうしてフッと途切れた。
ピ・・・と小さな信号音がキッドの耳に装着したイアホンから聞こえる。 キッドは眉間を寄せ、モノクルの留め金を軽く回した。 新一の現在の居場所を示す赤い点を確認したキッドは、シルクハットの鍔をぐいと前に引いた。 眼前にはパトカーと怪盗を追う警官たちが集まっている。 標的は罠に食いついた。 あとは、リールを巻いて海の中から引きあげるだけ。 キッドはついさっき手に入れた宝石を小さな網の袋に入れ、口を閉じると白い鳩の首にかけた。 「お遊びはここまでだ」 キッドは宝石を持たせた鳩を空に向けて飛ばした。
「なんだ?」 突然舞い降りてきた白い鳩に中森警部たちは目を丸くした。 「警部!鳩の首に何かかかっています!」 ああ〜ん?と、中森は警官たちの間を悠然と歩く鳩をじっと見た。 小さな網の袋に入った石が、明かりに照らせれキラリと光った。 「盗まれた宝石だ!」 捕まえろ! その鳩を捕まえるんだあぁぁぁ! 一転、現場はチョロチョロと逃げ回る小さな鳩捕獲のため、大騒ぎになった。 その様子をビルの上から確認したキッドはニッと楽しげな笑みを浮かべる。 では、かの人のもとへ飛んでいこうかと顔を上げた瞬間、キッドの瞳に不穏な黒い人影が映った。 「・・・・・・・!」 こちらに向けて放たれた銃弾をキッドは身体を捻って避ける。 (チッ!こんな時に!) おそらくキッドと敵対する組織の殺し屋だろう。 幸いというか、その腕は超一流と呼べるものではないようだ。 これがあの忌々しい黄泉の王であるなら面倒この上ないが。 いや、あいつなら新一の名を出せばなんの問題もないか。 (オレを押し退けてでも行っちまうよな、きっと) ムカツクけど。・・・・ああ、それはやっぱ、絶対ヤダ! 「今はおまえらと遊んでる暇はねえんだよ!」 キッドは二発めの銃弾をよけると、ビルの床を思いっきり蹴った。
目を覚ますと、僅かに頭痛を覚えた。 針で刺されたようなツキンとした痛みに新一は眉間に皺を寄せる。 「目が覚めた?」 やや低いハスキーボイスが頭上から降ってきて新一は顔をしかめる。 「気分が悪そうね」 クスクスと笑う赤い唇がまず視界の端をかすめた。 身体が少し沈み込んだので、話しかけてきた人物が腰かけてきたのだとわかる。 香水の匂いが鼻をかすめた。 「何年振りかしら?わたしを覚えてる、坊や?」 「覚えていたらおかしいんじゃないですか?」 新一は顔の前にある金髪の美しい女性から目を離さないまま答えた。 彼女は、あら?と小さく声を上げた。 「覚えているのね。さすがは日本警察の救世主と言われる名探偵という所かしら」 「薬を使って、あの時の記憶を消したんですね」 「当時、まだ開発途中だったという麻薬の一種よ。薬が効いている間にかけた暗示は半永久的に解くことはできないし、何年後かに人間をその暗示通りに行動させることも可能だという話だったわ」 でも、効果はなかったようね。 半永久どころか、数年で解けるなんて。 「薬によってかけた暗示より、解く側の力の方が強かったということですよ」 まあ、と女は笑った。 「いいお知り合いがいたようね。それも当然かしら」 坊やの父親が、あの工藤優作氏なんですものね。 「偶然って面白いわ。わたしと一緒にいた男のことも覚えてる?彼、一年前にFBIに逮捕されたの」 非合法な麻薬を作ったという罪でね。 彼の逮捕には、推理作家の工藤優作氏が関わっていたということを知ってるかしら? そのことは初耳だが、新一は答えなかった。 あの父ならやるだろう。 息子を誘拐し暴行した犯人を父が放置しておくわけはなかった。 彼は持てるコネと情報網をフルに使って男を追い詰めたに違いない。 「恋人だったんですか」 ええ、そうよ、と言って女は何がおかしいのか声を上げて笑い出した。 「わたしは彼と結ばれるために手術を受けたのよ。でも、彼とは半年ももたなかったわ」 やっと女の身体になれたのに、彼に抱かれてもエクスタシーを感じないの。 手術を受けたことで不感症になってしまったのかと本気で思ったわ。 おかげで彼とは喧嘩別れし、その後何人もの男と寝たけど結局駄目だった。 「そりゃそうよね。わたしには既に”唯一”が存在していたのだから」 「・・・・・・・」 新一は赤い唇をゆがめて笑う女から逃れようと身体を動かした。 だが、新一の両手首は一つに括られベッドのパイプヘッドに固定されており逃げる事は叶わなかった。 唯一自由だった脚は、女にのしかかられ動かせない。 「初めて坊やを見た時、すぐにわかった。坊やがわたしの”唯一”だってことを」 身体中に電気が走りぬけたようだったわ。 「・・・・・・・」 わたしの身体は男性体だったけど、体内には子宮と卵巣があって、精巣はなかったの。 「だから、わたしは外見は男。中身は女だったというわけ」 愛する男性が出来た時、わたしは完璧な女になることに決めた。 それでわたしは、不完全な自分と決別するために坊やと交わったの。 これ、覚えてるかしら?と女が見せたものに新一は瞳を大きく見開いた。 知っている。 女の手の中にあるものは警視庁でも見たものだ。 いや、その形は十四歳だった自分が恐怖を覚えたものだった。 一般の成人男性のものより大きくグロテスクで、鼓動さえ感じるアレを体内に埋め込まれた時、本気で死ぬかと思ったのだ。 「よく出来てるでしょ?手術で切除する前に彼が面白がって記念に型をとっていたのよ。それが、こういうことで使用することになるとは」 あの時は思いもしなかったのだけど。 「男子中学生を誘拐していたのは、やっぱりおまえなのか・・・・・」 女は、ふっと面白そうに笑う。 「何故?」 「もう一度、あの時のエクスタシーを味わいたかったからよ」 彼と別れてからずっと満たされなくて、わたしはうつ状態に悩まされていた。 帰国してしばらくした頃、坊やに少し似た少年を見つけたの。 声をかけたらすぐについてきたわ。 そう。このベッドで愛してあげた・・・と女が言うと新一はビクリと身体を震わせた。 「少しだけ欲望が満たされたわ」 それから、身体がうずくたびに少年をここに連れてきて犯したのよ。 「ああ、でももうなんの心配もいらないわね。わたしは満たされる・・・心も身体もよ」 坊やのおかげで。 女は嬉しそうに言って新一の頬に口付けた。 「テレビで坊やの姿が映った時は、本当に夢かと思ったのよ。どんなに調べても坊やの名前も身元も何もわからなかったから」 まさか、あの工藤優作の一人息子だとは。 「もう一度、わたしに頂戴。あの・・・・・」 スパークするようなエクスタシーを。 新一は瞳を見開き、大きく息を吸い込んだ。 女の手に下肢を割られ、初めて新一は下を全て脱がされていたことに気が付く。 しかも、自分の欲望が熱くなっていることも。 意識がない間に、また薬を使われたのか? 新一は女の手にあった、黒光りするグロテスクな紛い物が体内に押し込まれる感覚と痛みに顔をしかめた。 あらかじめ潤滑剤が塗られていたのか、それはあまり抵抗なく体内にもぐりこんできた。 凄まじい嫌悪感に新一は吐きそうになった。 「大丈夫。すぐに楽になって気持ちがよくなるわ」 極上のものを塗りこんでおいたから、と女は楽しそうに言う。 女は苦痛に顔をしかめる新一を見てこれまでにない快感を覚えていた。 「嬉しいわ。わかる?身体が快感に震えてる・・・・坊やも感じて」 今度は女のわたしと一つになって、あの絶頂感を頂戴・・・・! ぐっと、さらに深く押し込まれる感覚に新一の背がのけぞった時、急に女から力が抜けた。 そして、仰向けになった新一の身体の上に女が倒れてくる。 「新一、大丈夫?」 ・・・・・・・大丈夫じゃねえ、と新一は不機嫌に呟き、ようやく現れた快斗を睨んだ。 「遅いじゃねえか!」 ごめん、と快斗はシュンとした顔になって新一に謝る。 予定では、女が犯行を告白した段階で眠らせる筈だったのだ。 快斗の左手には、阿笠博士の発明品である麻酔針付きの腕時計があった。 快斗はベッドの方へ歩み寄ると、新一の上から女をどかせた。 それから、新一を拘束している手首の紐を解く。 「快斗、おまえ・・・・」 紐を解く快斗のシャツの袖に血がついていることに新一は気付き瞳を瞬かせた。 「怪我・・・してるのか?」 「平気。かすり傷だから」 「・・・・・・・」 拘束を解かれると新一はすぐに自分の下肢に半分ほど埋まっているモノを抜き出した。 快斗はその様子を嫌そうな顔で見ていた。 椅子の背にかけてあった新一の服を取り、バスルームにあった大きめのバスタオルで新一の身体を包む。 触れられた刺激に新一はビクッと震え顔をしかめたが、弱音は吐きたくないとばかりに歯をくいしばる。 「我慢して、新一。帰ったらなんとかするから」 快斗は言って、新一を抱き上げた。 「・・・・呼んであるんだろうな」 勿論、と快斗は頷いた。
「ん・・・!」 身の内から抜き出される感覚に新一は息をつめた。 「もう平気?」 工藤邸に戻ってから、薬の効果がなくなるまで新一を抱いていた快斗が、顔を覗きこむようにして訊いた。 「・・・・・何時だ?」 「もう、夜が明けるよ」 「・・・・・・」 新一は快斗の下で長く息を吐き出した。 一時気が狂いそうな疼きに悩まされ続けたが、今はなんとか落ち着いた。 疲きって身体は重いし下肢の感覚はなくなってるが、あんな恥かしい感覚が続くよりはずっとマシだ。 実際、初めてというくらい快斗を求めてしまった自覚はある。 そのことを快斗は新一に言うことはないだろうが、それでもまともに彼の瞳が見れないくらいは気恥ずかしい。 「警視庁にはオレがいくから」 新一、今日一日は動けないだろ? 「おまえ、怪我は?」 「平気平気。このくらいのカスリ傷、あっという間に治るさ」 じゃあ、オレ風呂入ってくるから、と快斗は汗に湿った新一の白い額にキスを落とすと、素肌にシャツを羽織りベッドから降りた。 快斗が部屋を出て行くと、新一はホッとしたのと疲れで眠気に襲われた。 (ま、いいか・・・快斗にまかせときゃ・・・・・) 心配ない・・・・・・ 脱衣場に入った快斗は、ビニールに包まれた黒い物体に嫌悪の色をうかべた。 どうしようかなあ。 本来は警察に証拠として持っていくべきものだが、新一を辱めたそれを持って行くのはどうも気がすすまない。 っつーか、絶対嫌だ。 「そうだよなあ。わざわざ持ってくことねえよな」 後で念入りに消してやろう。 快斗はフンと鼻で笑うとバスルームに入っていった。
二日後、ようやく自供した女から聞きだした警察は、新一が連れ込まれた場所からさほど離れてない山の中で五人の少年の遺体を発見した。
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