「あれえ?平ちゃん車買ったの?」 携帯で呼び出され工藤邸の門まで出てきた快斗が見たのはいつものバイクではなく、一台の見たことのない車だった。 「そうや。ええやろv」 車の窓から顔を出した平次は、瞳を瞬かせてる快斗にむけてニンマリと笑う。 それはM社で人気の4駆”パジェロイオ”。 とはいえ、パジェロミニはよく見かけるものの、イオは初めて見る快斗だ。 「へえ〜〜車の免許取ったって言ってたけど、早かったねえ(車)買うの」 「中古や中古。結構安かったんや」 門を開けて車を中へ入れさせた快斗は、ふ〜んと鼻を鳴らしジロジロと車体を眺めた。 「中古で安いってさあ、もしかして事故車?」 「んなわけあるか〜い!ちゃんと調べたわ!」 「ま、そうだよね。幽霊が苦手の平ちゃんが、よもや人身事故を起こした車を買うわけないし」 「相変わらず、やなこと言うヤツやな」 平次は、嫌そうに顔をしかめて快斗を睨んだ。 まあ確かに最初値段見てその可能性を疑ったのだ。 しかし、車体番号で調べても事故の事実は出てこなかった。 つまり、他の理由で普通より安価で出したということだが、業者は最後まで出血大サービスですわ、お客さん!と言うばかり。 少々気にはなったが、それでも欲しかった4駆で、その値段にも引かれて契約した。 「買ってから中も外も念入りに調べたけど、なんもおかしなとこはあらへんかったし」 ごっつ、調子ええんやと平次はご機嫌で語った。 「ふうん。ならいいけどね」 なんかあっても、こっちに被害があるわけでもないのだし〜などと他人事のように肩をすくめた快斗に、平次が爆弾のような提案を投げかけてきた。 「工藤はどないしてる?また冷房のきいた部屋に閉じこもってんのとちゃうか」 「ん〜、暑いの弱いからね新一は」 でも、今年は意外と気温が急上昇しないのでそう辛くはないようだ。 とはいえ猛暑の日はあるわけで、そんな日は確かに冷房の効いた部屋からは出てこない。 快斗はというと、いくら暑いとはいえ家に閉じこもるような性格ではないので、適当に大学の友人たちとプールに行ったりして遊んでいるが。 バイトも毎日ではないけどしてるし。 「黒羽、今日明日時間あるか?」 「今んとこ別に予定はないけど・・・・なに?」 「花火見に行かへんか。教習所で一緒やったヤツから、ええとこ聞いたんや。ドライブを兼ねて行こうや」 「ええ〜〜〜っ!」 しっかり他人事だと考えていたのに、いきなり我が身に降りかかってきた危険に快斗は思いっきり引いた。 「なんやそれ?」 快斗のあからさまな態度に平次はムッとなる。 「確かに初心者マークつけてっけどな、運転はプロ並にうまいんやで!」 おおっぴらには言えないが、中学生の頃からこっそり乗り回していた前科があるのだ。 免許とりたてと言っても、運転技術は初心者ではないのだ。 「平ちゃんの運転を疑っちゃいないんだけどさ・・・・」 といって、問題がないというわけではない。 案の定、新一も車の値段を聞いて思いっきり眉をひそめた。 「安すぎる・・・」 だろう?と、アイスコーヒーを入れてリビングに戻ってきた快斗が言う。 まず新一の手に渡し、彼の向かいのソファに座る平次にコップを渡してから自分の分を取ってトレイをテーブルに置いてから新一の隣に腰かける。 「中古とはいえ普通その値段で買える車じゃないよねえ」 「ほんとに何もなかったのかよ?」 「ちゃんと調べたわ。けど、なんも怪しいとこ出てけえへんかった」 「前の持ち主からも話を聞いたのか」 まあ、と平次は首をすくめる。 「普通はせえへんのやけど、一応オレの前の持ち主探して聞いてみたんや」 そうしたら、カーナビが故障したから手離したという。 「カーナビなら取替えりゃいいんじゃねえ?」 新しいの買うよりはずっと安い。 「なんや知らんけど、車売った金でバイクを買うたらしいわ。当分、車乗りとぉないんやて」 本人は詳しく話さないが、カーナビの故障でえらい目にあったらしい。 「ああ、カーナビは新しいの付け替えたから心配いらへんで」 あくまで二人を連れて花火を見に行く気満々の平次に、新一と快斗はよく似た顔を見合わせた。
結局彼らは平次の車で花火見物に出かけることになった。 まあ、夏ももう終りだし最後に花火を見るのも悪くはないだろう。 なんだかんだで、祭りも近所の花火も見に行ってないのだ。 平次が聞いてきた花火大会は新一も快斗も知らないものだった。 まあ、地元で大きな花火大会があるのだから、そんな郊外にでてまで見に行く必要がないので知らないのも当然だ。 「毎年夏休み最後の日曜日にやるそうなんや。結構大きなんもあって綺麗らしいで」 ふうん、と鼻を鳴らした工藤新一は後部座席の真ん中に一人で座っている。 疲れて眠くなったら、さっさと横になって寝るつもりだ。 快斗はというと、運転している平次の隣、つまりナビシートに座っている。 最新式のカーナビをつけたというので珍しそうに見ている。 「お利巧さんのナビやから、ちゃ〜んと目的地まで案内してくれるで」 「それはいいけどさあ、地図に載ってないってのはどうよ?」 「しゃあないやん、その道路地図帳は三年前のなんやから」 おまえなあ、と後ろから新一が呆れた声を出す。 「そんな古いのなんで持ってくんだよ」 「念のためにって思うて持ってきたんやけど、本箱から取り間違えてもうたんや」 古い地図なんか、いつまでも持ってんじゃねーよと眉をしかめる新一に、平次は肩をすくめた。 「ええやん、どっちみち道はカーナビが教えてくれるんやし」 最新なんやで、最新v 平次はしごくご機嫌に愛車を走らせた。 既にまわりは民家が少なくなってきている。 初めて行く場所だから、外を見てもどこを走ってんだかよくわからない。 「なあ、平ちゃん。コンビニあったら寄ってこうぜ」 急だったから食べるものも飲み物も持ってきていないのだ。 平次はわかったと頷き、丁度見えたコンビニの駐車場に車を止めた。 外に出ると、もう蜩の声がきこえていた。 まだ外は明るいものの、太陽はかなり西に傾いている。 青々とした田んぼや、遠くには雑木林のようなものが見える。 工藤邸を出て一時間半。既にここは田舎の景色だ。 三人でコンビニに入ると、それぞれ欲しいものを取って快斗の持ってる黄色いカゴの中に入れていった。 ペットボトルや缶ビール、ツマミになるものもだが、コンビニ弁当も三つ買う。 「シートは一応持ってきてるからいいぜ」 シートは場所取りの絶対必需品だ。 時間があれば弁当は手作りにしたのだが、当日の昼を過ぎてから突然言われては用意する暇もなかった。 今度からはさあ、せめて午前中に連絡してもらいたいもんだと快斗は平次に言う。 だよなあ、と新一もそれに同意した。 コンビニ弁当より、絶対に快斗が作った弁当の方が美味いからだ。 「すまんかったな。オレも聞いたのが今日だったもんで」 朝起きてからコンビニに買い物に出た時、偶然会った大学の友人とお茶してた時に初めて聞いたことなのだ。 そういや、今年はまだ花火見てなかったなと思ったら急に見たくなった。 で、出かけるなら一人より三人だろう。 ってなわけで平次は、彼らにまだ見せていない愛車に飛び乗り工藤邸へやってきたわけだ。 二人に自分の愛車を見せるだけでなく、ドライブも出来ればサイコーである。 しかも、最新のカーナビをつけたばかりなのだ。 結局は一番乗りで自分の車を持ったことを自慢したかった平次であった。 そんなことは、とうに見抜いていた二人だが、夏も終りだと思うとやはりどこかへ出かけたくなる。 平次の提案は彼らにとってまんざら悪いものでもなかった。 コンビニで買い物をすませると、三人は再び平次の愛車に乗り込んで出発した。 「花火は何時からだったっけ?」 「七時からや」 快斗の問いに平次が答えると、新一が自分の腕時計で時間を確かめる。 「今六時だから、あと一時間ほどか」 「あと十分くらいで着くわ」 「もういい場所とられてんじゃないの?」 地元の花火大会は毎年盛大で、とにかく当日朝から出かけても場所取りが難しい有様だ。 「心配あらへんって。そのダチの話じゃ、まだそんなに知られてへんから観客もそない多くはないってことやし」 でもまあ、来年はどうなるかわからないが。
「十分だって?」 新一の眉間の皺がどんどん深くなっていくのが振り返らなくてもわかる。 不機嫌さがモロにあらわれているその声は地獄から聞こえてくるかのように低い。 「そ・・・その筈なんやけどな」 車を運転している平次の声は、当然新一の怒りにさらされて震える。 隣に座る快斗もなんだか妙な顔で首を傾げていた。 既に時計の針は六時五十分を指している。 平次の話だと、とっくに目的地についていなければならない時間だ。 これはやっぱり・・・・ 「迷っちまったのかなあ」 快斗はごそごそと道路地図帳を出して開く。 とはいえ、三年前のだから現在走ってる道路が途中でぶち切れている。 つまり三年前は工事中だったわけで役には立たない。 変やなあ??と平次はしきりに首を捻る。 ちゃんとカーナビに従って走ってきたのだ。道を間違える筈がない。 だが現実に目的地についてはいないのだ。 「おい、服部。そのカーナビ壊れてんじゃねえのか」 壊れてるって・・・・ 「先週買ったばっかの最新型やぞお!」 「最新でもなんでも、目的地につかないんじゃ役にたたねえ」 というより、どこに連れてこられたんだかわからないというのが問題だ。 「さっきのコンビニまで戻った方がいいんじゃない?」 開いた道路地図を縦にしたり斜めにしたりして見ていた快斗が提案する。 あそこまでは多分道は合っていたのだ。 しかし、そのコンビニから五十分も走り続けているのだ。 その前に引き返せってなもんだが、カーナビが自信たっぷりに道を指示するもんだからつい止まらずに走ってきてしまった。 それでもまだ走ってるんだから、いったいどうすんだってなもんだが。 「・・・・・・・」 むう〜となっていた新一は、ふいに隣に置いていたコンビニ袋に手をいれてごそごそとかき回した。 「ビールもらうぜ」 こうなったらビール飲んで寝ちまった方が気分も楽だ。 「あ、新一オレも飲む〜〜」 「おまえら、オレを見捨てるつもりかあ!」 平次は、さっさと見切りをつけて楽な道を選んだ二人に向け泣き言を言う。 だが新一はフンと鼻を鳴らしただけで、もう一つ缶ビールを取って快斗の手に渡す。 「おまえは責任持ってオレたちを家まで送れ」 誘ったのはおまえなんだからな、服部。 そりゃそうやけど・・・と平次が口の中で呟いた時、カーナビから聞こえる女性の声が目的地に着いたことを告げた。 「・・・・・・・・」 目的地?? 思わず車を止め辺りを見回す。 新一がビールの缶を持ったままドアを開けて外に出ると、快斗も続いた。 彼らに遅れて外に出た平次は茫然とその場に立ち尽くした。 何もない場所。 背後は雑木林。目の前は急斜面になっていてポツンポツンと家の白い明かりが見える。 勿論花火などできる場所は全くなく、それどころか人の姿すらない。 だいたい、ここまで走っていて後続はおろか対向車すらなかった。 ほんとにこの道は使われているのか?と思わず首を傾げてしまうほどだ。 「・・・・・・・・」 暗くなった道に立つ三人に向けて、ひゅう〜・・と虚しい風が通り過ぎた。
「いったいこれはどういうことなんだよ!」 当然ながら新一が吠える。 「かんにんや〜〜けど、ホンマにカーナビに従って走ってたんや」 「機械を百パーセント信じないで頭も使いやがれ!」 でもさあ、と快斗が口を挟む。 ナビシートに座っていた快斗は平次がカーナビの指示通りに車を走らせていたことを知っている。 彼もまたカーナビの指示に疑いを持っていなかったのだ。 まあ、場所がどこなのか予備知識も全くなかったのだからしょーがないのだが。 「オレ、ずっとじゃないけどカーナビのモニター見てたんだぜ」 間違いなく目的地に向かっていたと快斗は言う。 「じゃあ入力ミスか?」 う〜ん?と快斗は虚空に目を向けながら唸る。 アレ? ふと快斗は、何かを見つけて瞳を瞬かせた。 「何?この先って霊園なんだ」 ゲッ!と顔をこわばらせたのは平次だった。 快斗が指差した方には、確かに霊園への矢印の看板が立っている。 「もしかして、呼ばれちゃった?」 はは・・・と快斗が小さく笑う。 「アホ!怖いこと言いなや、黒羽!」 マジで鳥肌の立った平次を、新一は冷ややかに眺めた。 新一は心霊的なことには全く興味も関心もない。 快斗が言うには本人が強力な魔人であるから霊も近寄れないんだろうということだが。 そのわりには、結構奇妙なことに出くわすことが多い。 それが心霊的なものなのか、超常現象であるのかそんなことはわからないが。 そして、三人の中で一番その心霊的なことに弱いのが平次だ。 突然、ドーンという大きな音がしたかと思うと、暗い夜空に光が広がった。 え?花火? 思わず向けた先では見事な花火が打ちあがっていた。 「・・・・・・」 三人は声もなく次々と上がる花火を眺めた。 時計を見ると七時。時間通りだ。 「なんか、方向逆だったみたいだけど、これはこれでいいかな」 快斗は肩をすくめて笑いながら言う。 少し遠いが、それでも花火見物するのに悪くはない。 三人はしばらく空に広がる大輪の光を楽しんだ。 「んじゃ、戻るのも面倒だしここで見物していく?」 ああ、と新一が頷くと快斗はシートと食料を取るべく車に戻りかけた。 車は道路脇に止めてるからいいだろう。 どっちにしても、車は一台も走ってこないのだし。 なんで?と不思議に思わないでもないが。 向きを変えた快斗だが、ふと眼下に見えたものに足を止める。 「ねえ、見て見て!珍しいもんがあるよ!」 快斗の声になんだ?と顔を向けた二人は、あそこvと言われた方に目をやった。 ほお〜と平次は声を上げた。 新一もちょっと驚いたように瞳を瞠る。 斜面の下、木々が生い茂っているので全体は見えないが、大きなスクリーンが見えた。 「へえ、野外スクリーンか」 「なんや、まだあるんやな。もう、とうにのうなってるかと思てたわ」 「ここからだと、よく見えないなあ。何やってんだろ?」 三人の中で一番夜目のきく快斗がじっとスクリーンを見つめる。 「んなことより、腹減った」 珍しいが、殆ど見えない野外スクリーンではすぐに興味をなくし新一が快斗をせかした。 「すぐ持ってくるよ。待ってて」 快斗は車のドアを開け後部に身体半分突っ込むと、シートとコンビニ袋に手を伸ばした。 アスファルトの上にシートを引くと、コンビニ袋から弁当やら飲み物やらツマミを出して並べる。 花火はずっと間をあけずに打ちあがっていて、それはもう見ごたえがあった。 「予定は狂ったけど、これはこれでええか」 「まあな」 大勢の見物人の中に混じって眺めるのに比べたら、確かに新一にはこの方がいい。 「怪我の功名?」 けど失点はなくならないからな、と新一はシビアだ。 「へえへ。オレの失態や」 ほんま、なんで新品のカーナビが・・・と平次はぶつぶつ言う。 「欠陥品だったんだろ」 「えろう高かったんやでえ」 それでも欠陥品だ、と冷たい一言を返す新一。 平次は情けない顔でがっくり項垂れた。 新一は弁当を食べた後、缶ビールを開けて飲んでいるが、帰りも運転することになっている平次はペットボトルのお茶で我慢する。 快斗も缶ビールを開けて口をつけたが、つと夜空を彩っている花火から視線をずらした。 そこには、先ほど見た野外スクリーンがあった。 観客はいるんだろうか? (あれって、確か車の中から見るんだよな) 野外スクリーン自体見たのは初めてだ。 前にビデオで見た竜巻のパニック映画の中に野外スクリーンの場面があったが、知識としてはそれだけのものだ。 「・・・・え?」 上映してるらしいのはわかるが、木々に遮られて何をやっているのかわからなかったのだが、唐突に僅かに見えるスクリーンの端に人の姿が映った。 赤いチャイナドレスを着た女性だ。 ほっそりした姿勢のいい立ち姿。 きっと美人だろう。 なんだかドキドキして見つめていたら、そのチャイナドレスの女性がズームで寄ってきて、そして振り返った。 ・・・・・・・ 「ええぇぇぇぇぇっ!」 突然大声で叫んだ快斗に、花火見物をしていた二人が振り向く。 「なんや?どないしたんや、黒羽?」 「幽霊でも見たか」 「工藤〜〜」 それ言わんとって、と平次は半ベソをかく。 マジで幽霊は駄目なのだ。 「いや、今スクリーンにさ、新一にそっくりな人間が映ったんだ」 「スクリーン?」 既にすっかり記憶の外にあった野外スクリーンのことを思い出した新一は、腰をやや浮かしてその方向を見た。 平次も新一にそっくりと聞いて興味を引かれ覗き込む。 だがスクリーンに映っていたのは白い服を着た男の後姿だけだった。 「あの男が工藤に似てたんか?」 「違う!新一に似てたのは赤い・・・・」 チャイナドレスの、と言いかけた快斗は慌てて言葉を飲み込んだ。 (言えない・・・新一に似てたのが赤いチャイナドレスを着た美女だったなんて・・・・) 不本意な女装を何度かさせられたことのある新一は、下手に話題に出そうものなら相当にキレる。 別に面白がってやったわけではないが、それでも汚点だと思い込んでいるのだ。 「赤い服のヤツなんか映ってないぜ」 「なあ、背中向けてるあの白いのん、なんや黒羽に似てへんか?」 そうかあ?と新一は目を細めて見る。 快斗も見てみたが、よくわからない。 だいたい自分の後姿なんて写真くらいで、よく見るものでもないからわかるわけがなかった。 「遠すぎる。よくわかんねえぜ」 しかも、スクリーン全部が見えてるわけではないから、余計にわかりにくい。 それから時々花火の合間にスクリーンを覗いてみたが、快斗の見たあの赤いチャイナドレスの女性は二度と出てこなかった。
花火が終わると彼らは車に戻りもと来た道を戻っていった。 予定とは違ったが、まあ花火も見物できたし悪くはなかったと言えるだろう。 最後の花火は初めて見る大輪と光のシャワーで思わず見入ってしまう見事さだった。 帰り道、新一から文句の言葉も出なかったし、まずは上出来の初ドライブだった。 だが、途中立ち寄ったドライブインで彼らは意外な事実を知った。 カーナビが間違った道を指示したことは気になっていない。 それは故障で片付けて終りだからだ。 だが、そのカーナビが意図的にあの場所へ導いたのであるなら問題である。 「なあ、オレたちが花火見物した道、地図に載ってないぜ?」 とにかく地図で確かめようと快斗が地図を買ってテーブルの上に広げたのだが、さっきの道を探してもどこにもないのだ。 花火やってたのは、ここだろ?と快斗が指先でとんとんと叩く。 立ち寄ったコンビニの位置もわかる。 「そこからこう走って・・・・ほら道がねえんだよな」 んなバカな、と新一と平次が地図を覗き込む。 「あの看板の霊園はあんだよ」 ここ、と快斗が指したところにはちゃんと表示がある。 だが、そこへ行くルートが自分たちが走っていたルートとは違っているのだ。 しかもそのルート一本で、他に行く道はない。 逆から入る道はあるが、それは花火見物をした道とは方角が全然違う。 「この地図、古いんとちゃうか?」 「今年発行された地図だよ。だいたいさあ、平ちゃんが持ってきた三年前の地図にもあの道が載ってなかったんだよ?それって、どういうことだと思う?」 んなこと、わかるかと新一は眉をひそめる。 謎が解けたのは工藤邸に戻ってからだった。 快斗がネットであのあたりのことを調べてみたのだ。 すると、あの道は十年前に土砂崩れで消えていたことがわかった。 旧道でもあり、地盤の問題もあって道路は別の場所につくられ、あの場所は閉鎖されたままだという。 そして、彼らの見た野外スクリーンだが、あれも十年前の土砂崩れで土に埋もれていた。 「つまりだ。オレたちは十年前になくなっている筈の場所から花火見物をしていたってことか」 「そういうことだね」 「お・・・おまえら、なんでそないに平然としてるんや!おかしいやろ、それって!」 ある筈もない場所にいたなんて・・・・ 「どっかで十年前のあの場所に紛れこんじまったんじゃねえの?」 前にも似たようなことあったし、と快斗はだらだらと汗を流して顔を引きつらせている平次に言った。 「世の中奇妙なことが多いんだよ」 そうなのか・・・?そうなのか・・・っ?
後日、平次が車を購入した店でカーナビが壊れたことを話すと店の従業員はやっぱり・・・という顔をした。 「実は、あの車に取り付けたカーナビは何故か目的地ではない場所に連れていくことがあるんですよ」 で、その場所が墓場だったり、見たことのない集落のど真ん中だったり。 そこで幽霊をみた人もいましてね、というくだりでは平次も恐怖にこわばって声もでなかった。 つまりは、それが安すぎる本当の理由だったわけだ。
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