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LadyBlue |
その日は朝から雨で屋上で昼寝もできず珍しく一日授業を受けた快斗は、欠伸を漏らしながら校門を出た所で意外な人物に車で拉致された。 なんだ、なんだと快斗は、瞳を丸くしながら自分を拉致してのけた人物を見つめる。 「なんだよ?いったいどうしたんだ?」 「大変なことになった!」 大変なこと? 快斗はキョトンとなって首を傾げる。 なに? もしかして、オレに相談を持ちかけるつもりか? この男が? 雨は午後から激しさを増し、傘があってもずぶぬれになることは確実なこの悪天候、車での移動は有り難かったが、面倒ごとの相談なら有り難くない。 それでなくても、やっかい事は山積みなのだから。 「何かしんねえけど、面倒ごとならパス!来週試験なんだよな、オレ」 「それどころじゃない!ついにインターポールが乗り出してくることになったぞ!今週中にも日本に来る!」 「はあぁぁ?」 インターポール? 何しに?と聞く快斗の顔は緊張感ゼロだ。 まさか、怪盗キッドを捕まえにってことじゃねえだろな? だったら、面倒くせえ〜〜 「さすがにインターポールも、あの噂を放ってはおけなくなったらしい。ミステリアスブルーが実在するなら保護するつもりだ」 快斗の表情が瞬時に変わり、ジョシュア・ベネットの顔を険しい瞳で睨みつけた。 「保護だとお?冗談じゃねえ!新一を渡せるか!」 「インターポールはまだミステリアスブルーについては何もわかってはいないようだ。この俺に調査を依頼するくらいだからな」 「なんで、インターポールがあんたに依頼するんだ?あんたの所属する組織とは犬猿じゃなかったか?」 「まあ・・そうなんだけどな・・・・・」 ジョシュアの所属は警察機関ではなく、軍だ。 傭兵としてアフリカや中東で数々の作戦をこなしてきたジョシュアの腕を見込んだフランス軍の上層部が、当時パリに戻って新米の新聞記者として働いていた彼を、再結成することになった部隊の教官として雇った。 凶悪犯罪者やテロリストによる人質事件で警察の手に負えなくなった時、ジョシュアが所属する部隊が人質救出に出向く。 人質救出の考え方の違いから、インターポールとはちょくちょく対立していて、確かに犬猿といえばそうなのだが。 「俺の兄がインターポールの警官をやってて、直接連絡してきたんだ」 快斗は瞳をパチクリさせる。 「何?お兄さんがいたの?」 「ああ・・・帰国してから知ったんだけどな。母親が俺の父親と別れる時、向こうに置いてきたらしい。その時、既に俺を妊娠してたらしいんだが、生まれるまで気が付かなかったって言うんだからまいる・・・」 陣痛を盲腸だと勘違いして救急車を呼んだっていうのだから。 「暢気だね、あんたの母親」 「まったくだ・・いや、そんなことはどうでもいい!とにかく、インターポールはどんなことをしてでもミステリアスブルーを探し出すつもりでいる!」 ふうん、と快斗は腕を組むと鼻を鳴らした。 「まあ、そう簡単に見つかるわきゃないけどさ。でも、あんたが絡んだとなると、知らん振りはできないよな」 「俺は彼をインターポールに渡すつもりはないが、しかし組織の保護下に入るというのも悪いことではないと思う。ミステリアスブルーの名は、あまりにも裏社会に流れ過ぎているからな」 でもさあ、と快斗は反論する。 「インターポールの保護下に入るということは、ミステリアスブルーの正体を裏の組織の連中に知られるという危険性もあるってことだぜ。今はまだ、誰にも新一がミステリアスブルーだってこと知られてないけどさ」 「それはそうだが。しかし、こんな少人数ではやれることに限度があるだろう」 「少人数でも精鋭部隊だぜ?なにしろ、月下の魔術師のオレに名うての銀狐、赤の牙王とも呼ばれたスゴ腕の闘士のあんたv天才科学者はいるし、可愛くて頭のいいドクターもね」 それだけで、世界中の悪党を相手にし、最後にはぶっ潰すというのだから無謀といえば無謀な話なのだが。 しかし、この目の前の少年は本気でやる気だ。 大切な彼を守るために。 「まあ、これからどうするか相談は必要だけどね」 ニッと、まるでイタズラを思いついたようなその楽しげな快斗の顔を見て、ジョシュアはなんだか嫌な予感を覚えた。
「なんだ?」 大雨の中、別荘に飛び込んできたジョシュアと快斗に新一は瞳を丸くした。 「どうしたんです?こんな雨の中」 フォックスもいきなりの二人の訪問に驚く。 「いや、ちょっとさあ、ムッシュウから相談を受けたもんで」 「相談?」 ずぶぬれの二人にタオルを渡した新一が首を傾げる。 快斗は受け取ったタオルで滴のたれる猫っ毛をガシガシと拭いた。 だが、ぐっしょり水気を含んだ服からポタポタと滴が落ちて足下に水たまりを作るのをみたフォックスは、これは駄目だと判断し彼等にバスルームへ直行するように言った。 「一緒に入る?」 快斗がチェシャ猫の笑いを浮かべてジョシュアに言うと即座に拒否が返ってきた。 全く!とジョシュアは、ケラケラ笑いながらバスルームへ入っていった快斗に眉をひそめ溜息をついた。 ああいう所がまだ子供なのだろうが。 二人がシャワーを使い、フォックスが用意した服に着替えリビングに落ち着いたのは、それから1時間ほどたってからだった。 快斗は新一の服を借りたのだが、自分が着た時よりも服が小さく見えることに新一は眉をひそめた。 「おまえ、大きくなった?」 「う〜ん?身長はちょっと伸びたかな」 「・・・・・・・」 もともと、快斗の方が新一より少し体格が良い。 怪盗キッドとして動くのに、日々身体を鍛えていたこともあるが、生まれつきのものもあるだろう。 二人とも、三雲礼司が作った薬によって普通より成長が遅い筈なのだが、それでも個人差は出てくるようだ。 新一はちょっと面白くなかった。 フォックスが入れた紅茶でひと息つくと、ジョシュアはさっき快斗に話したことを新一たちに話した。 「ついにインターポールが腰を上げましたか。彼等は結構現実主義で、そういう夢物語には関わらない所がありますからね」 それでも、動かざるおえなくなったということは、そこまで噂が広がったということかもしれない。 事態はマズイ方向に進んでいる。 「でさあ、オレ、この際インターポールが出張ってきたのを機会に他の連中の目を眩ましてはどうかと思うんだけどね」 「目を眩ます?」 新一は突然の快斗の提案に瞳を瞬かせた。 フォックスとジョシュアの目も、快斗に向く。 「フッフッフvオレ、いい考えを思いついたんだよなあv」 前からさあ、なんとかしなきゃって思ってたんだけど、インターポール相手ならうまくやれそうだし。 「どうするんだ?快斗」 「どうせミステリアスブルーの存在は知られてんだから、それを公にしちまおうってね」 「馬鹿な!そんなことができるわけないだろう!」 ジョシュアが顔をしかめて反対する。 「新一のことは知らせないさ。全くの別人としてヤツらに認識させる」 え? 「ミステリアスブルーの性別までわかってないんだからさ。それを利用しない手はないと思わない?」 「・・・・・・・・」 快斗の言わんとすることがわかってきた新一の表情が、だんだん険しくなっていく。 「名付けて“レディブルー作戦”!」 「快斗ー!」 間髪入れずに新一の怒りをこめた拳が快斗の頭に炸裂した。 フギャッ!と快斗は悲鳴を上げる。 「またテメーはぁぁぁ!」 椅子から立ち上がって拳を震わせる新一を、快斗は涙目で見上げる。 「怒んないでよ、新ちゃん〜〜これが一番いい方法なんだからさぁ」 「だったら、オメーがやれ!変装は得意だろうが!」 「オレじゃ、あいつら納得させられないんだって〜〜」 え〜ん・・新ちゃん、怒んないでってば・・! 快斗は新一の拳から庇うように頭を抱えた。 「口にすればミスティが怒ることはわかってたでしょうに」 フォックスもこりない快斗に呆れ顔だ。 前の時、かなりの激怒をかったというのに。 こいつには学習能力がないのか!と新一は怒りに震える。 「しかし、ミスティ。マジックの提案はまんざら悪いものでもないですよ」 確かに、と意外だがジョシュアも頷いた。 出張ってきたインターポールを無視することはできない。 だが、利用できるならおおいに利用すべきだろう。 「一石二鳥を狙うのもいいかもしれません。やってみましょう、ミスティ」 まさかフォックスやジョシュアまで賛成するとは思わなかった新一は、さすがに困惑したがしかし妥協はしたくなかった。 「絶対に嫌だ!二度と女装なんかするもんかぁぁっ!」
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