学期末テストを無事に終えたは良かったが、その後大阪は凶悪事件が続発。

 年末はやたら金融機関が狙われる。

 しかも、最近は空き巣よりも強引に住宅に押し入って住人を死傷させ金品を奪うという最悪な事件が増えてきている。

 昭和の説教強盗が懐かしいなどと、警察関係者の身内にあるまじきグチをこぼすのは現府警本部長の実の父親だったりする。

 まあ、とにかく服部平次は地元大阪で超多忙だった。

 本当はぎりぎりまでバイトやって、ちょっとは資金に余裕をもたせるつもりだったのだが結局、家に戻ったのは30日の夕方。

 それから平次は書きかけだった年賀状を徹夜で書いて昼まで爆睡とあいなった。

「ゲッ!もう1時まわっとるやないか!」

 目が覚めて枕元の時計を見た平次はガバッと飛び起きると、大慌てで着替えをすると前もって用意してあったバッグを引っ掴んだ。

「オカン、オレもう出かけるわ!」

「平次!あんた、昼も食べんと行くんか?」

「もう時間あらへんねん!コンビニで買うて食べるわ!」

「あんた、バイクで行くんか?新幹線、もうそない混んでへんみたいやで」

「金があんましないんや。今回バイトあんましできひんかったし・・・」

 静華は呆れたように息をつく。

「ほな、1日前やけどお小遣い渡したげるわ」

 それと、お年玉・・・と静華は平次に大きめの封筒を渡した。

「工藤ハンともう一人のお友達の分も入ってるから渡したって」

 平次が驚いたように目を丸くすると、静華はゆっくり微笑んだ。

「あんたらは、まだお年玉がもらえる高校生や。そのこと忘れたらあかんよ」

「・・・・・・・」

「三が日は工藤ハンとこにおるんやろ?ちゃんと手土産持って行きなさいや」

「ああ、わかってる。途中で買うていくわ」

 平次は頷くとヘルメットを取った。

「やっぱりバイクで行くんか?」

「金はやっぱ節約せんとな。オカン、おおきに」

 気ぃつけて行きや、と静華は東京へ行くたびに大人びていく高校生の息子を見送った。

 

 

 

 大晦日の工藤邸はいたって静寂だった。

 世間は今、正月準備で大忙しの所と海外脱出組と、カウントダウンを外で楽しもうとする者たちで賑わっているというのに、工藤邸では現在の家主である工藤新一がリビングで椅子に座ってコーヒーをすすりながらゆったり読書にいそしんでいた。

 一人で住むにはバカでかい工藤邸だが、綺麗好きな知り合いがいるおかげで年末だからと慌てて大掃除しなくてはならないほど汚れても片付いてもいないわけではない。

 一番よく使うリビングをチャチャッと掃除機かけるだけで年末の掃除は終了。

 今夜はこのリビングで年越しする予定なので、ちょっとは念を入れたが、まあたいした労力ではない。

 新一にしてみれば、学校の大掃除の方が大変だった。

 ふと電話が鳴って、新一はページをめくっていた手を止めた。

 サイドテーブルに置いてあった子機を取ると、相手は予想していた通りの人物だった。

「服部?今どこだ?」

『東名に入ったとこや。出るのがちょっと遅ぅなってしもて、着くのは夜になるわ』

「まあ年が変わる前に着けるんだったら構わないぜ」

『それは余裕や。親父がええ酒くれたし、なんかツマミになるもん買うてくわ』

「じゃ、うなぎパイ」

『は?』

「今読んでる本に出てきて、なんか食いたくなった」

『あ、ああわかった。サービスエリアでみてみるわ。他、なんか欲しいもんあるか?』

「シュウマイ。横浜の」

『わかった。それも買うとく』

 待ってる、と新一は言って平次からの電話を切った。

 と、キッチンにいた快斗がクスクス笑いながら顔を出してきた。

「新一が待ってるのは、服部?それともシューマイ?」

 両方、と新一が答えると快斗は首をすくめ、楽しそうにニヤニヤしながら愛しい相手の頬にキスした。

 静かな工藤邸の中で唯一活発に動いていたのは、昼前からキッチンに立っていた黒羽快斗だったりする。

 母親が作ってくれたおせちをお重に綺麗に詰めなおし、三が日を十分余裕で過ごせる食材を冷蔵庫に詰め込み、そして今夜新一とそして大阪から来る服部と三人で新年を迎えるための料理を作っていた。

「服部が酒持ってくるって」

「日本酒かな?それだったら、そいつは正月用にして今夜は洋酒で乾杯しようぜ」

「オレはどっちでもいいけど、おまえ今夜仕事だろ?」

 酒飲んで仕事は出来ねえぜ。

「勿論乾杯は仕事すませてからね。カウントダウンには絶対間に合うようにするからさ」

 待っててねvと快斗は、今度は新一の唇にチュッとキスをした。

「予告は十時だろ」

 余裕余裕〜vと快斗が言うと新一は顔をしかめた。

「あんまり警察を舐めてんじゃねえぞ」

「舐めてないって。中森警部の執念は来年も変わんないと思うしさあ」

 でも、自信も大切!

 仕事を成功させる自信がなくなったら、キッドもおしまいってね。

 今のオレには不安はないさ。

「・・・・・・・・」

「今夜のこと、オレすごく楽しみしてんだ。新一と服部とオレ。三人で新しい年を迎えるのって、なんかいい感じじゃない?」

「服部はまだ、怪盗キッドであるおまえのことを完全に納得してねえぞ」

「だから楽しいんだってば〜v」

「快斗!」

 新一は能天気な快斗に眉をしかめる。

 平次は新一に関わる全てをまだ知っているわけではない。

 細切れでしか事情を話さない2人に服部がいらついているのもわかっている。

 だが、平次を仲間に引き込んだ快斗自身が、彼に全てを話す気がないのだから新一も何も言えない。

 コナンであった時、平次はコナンを演じなければならない新一にとって救いだった。

 今も、服部平次は新一にとって快斗とはまた別の意味で失いたくはない存在なのだ。

 

 

 

 途中新一に頼まれたうなぎパイとシュウマイを買い、ようやく米花にたどり着いた頃にはもう日が落ちて月が天空の支配者然として頭上に輝いていた。

 こういう月が出る夜は、狼男ではなく白い怪盗が出るというのがどうやら今や常識となりつつあるようだ。

 ついさっき駅前で買った新聞には、デカデカと怪盗キッドの記事が載っていた。

 大晦日の夜・・・カウントダウン間近なこの時を待つ市民にはおそらく楽しいショーに違いない。

 しかし、つきあわされる警察はいい迷惑である。

(確か、年明けに行われる宝石展のためにルーブルから借りたっていうダイヤやったな)

 キッドが狙うビッグジュエルは関西にくることもあるが、圧倒的に関東が多い。

 そして、関東方面となると関西にキッドの情報が入ってくることはまずない。

 まあ、警視庁の管轄だから府警は関係ないと言われればそうだが。

 西の、それも大阪を中心に動いている平次が東の事件に口を出すことではないが、ちょっとは知りたいもんなんやけどな、と思う。

 なんといっても、あの工藤新一に繋がってることだから。

 共犯ということではないだろう。

 だが、新一はキッドの正体を知っていて、ずっと平次に黙っていた。

 相当複雑な事情があるようなのだが、新一も快斗も今だ詳しい話をしない。

 となれば、自分で集めるしかないのだがここ最近情報が相当混乱しまくっていた。

 おそらくは、あいつ・・・黒羽快斗の仕業だろう。

 あいつが言うには、自分はミステリアスブルーを守る守護宝石の一人”白の魔術師”だということだから。

 確かなのは一つ。

 ミステリアスブルーと呼ばれる存在である新一が狙われているということだ。

 守らなあかん。

 そう・・・どんなことをしてでも守らなあかんっちゅうことや!

 工藤を!

 

 

 聞き覚えのあるバイクのエンジン音を耳にした新一はリビングを出て玄関のドアを開けた。

「おお、工藤。遅なってスマン」

 平次はいつもの場所にバイクを止めると、ヘルメットを取って後ろに固定していたバッグを掴んだ。

 いや、と新一は肩をすくめ、カウントダウンまで、まだ時間あるさと笑って平次を中へ招いた。

 当然というべきか、工藤邸に黒羽快斗の姿はない。

 この時間なら、まだ仕事中というところか。

(なんや、妙な感じやわ。怪盗キッドの正体が黒羽やとわかっとんのに、それを切り離して考えてまう・・・)

 ああそうか、と平次は今頃になって気がついた。

 工藤新一にとってキッドと黒羽快斗とは別物なのだ。

「なあ、工藤。怪盗キッドが今夜予告出したんやってな」

 平次がふいにそう問うと、新一は僅かに首をかしげて苦笑し、ああと頷いた。

「もし、おまえが現場におったら、あいつと本気で対決するんか?」

「当然だろ。オレは探偵だぜ」

 平次はその答えを聞くと、満足そうにニッコリ笑った。

「ほれ、頼まれとったうなぎパイとシュウマイ買うてきたで」

 平次が袋から出すと、新一はサンキューと笑ってそれを受け取った。

 

 カウントダウンまで後一時間。

 新一と平次はリビングの床に直接座り込んで、前もって快斗が用意していた料理を摘んでいた。

 床下暖房になってるので、床の上でも冷たくはなかった。

 やはり快斗が用意していたワインを飲みながら2人で皿の上の料理を食べていたが、量は3人でも十分あり、しかも平次も大阪からツマミをもってきていたので、遅れた人間の分がなくなることはない(多分)

「黒羽のやつ、ホンマ遅いな」

「今夜は白馬が急きょ出張ることになったみたいだから、てこずってんじゃねえの」

「白馬が?そうなんか?」

「一緒に現場に出ないかって誘われたんだけど、今日は朝から寒かったしさ」

 夜はさらに気温がさがるし、こんな夜に外に出るなんて冗談じゃねえっての。

 殺人事件とかだったら行くかもしんねえけど。

「泥棒やったらアカンのか」

 もとから興味なかったんだ、と新一は当人が聞いたら号泣するようなセリフを吐いた。

「今夜は雪降るかもしんねえって天気予報で言ってたしよ。そういう時は、こうやってあったかい部屋で酒飲んで旨い料理摘んでるのが一番だよ」

 おまえもそう思うだろ?

「あ、まあ・・・そうやけどな」

 けど、真面目に仕事してる警察もおんなじ気持ちやと思うけどな・・・

 キッドや白馬は結局のとこ自分の都合と好奇心で動いとんのやから同情はせんけど。

 実際、大晦日でも忙しい警察だが、その家族にとばっちりが行くことはなくて、家の中で年越しそばを食べコタツに入って紅白見るというのが平次が物心つくころからずっと続いている。

 考えてみれば蕎麦を食べず、紅白も見ないで友人の家で年を越すのは初めての経験だ。

「そういや、工藤んとこはソバ食わへんのか?」

「年越し蕎麦?蘭とこにいた時は食ったけど、自分家で食べたことないな」

 両親がいた頃は、冬休みの間ずっと海外で過ごしていたし。

「おまえん家では食べてたわけ?だったら食うか?確か、快斗が買ってきてた筈だ」

「それを早くゆい!」

 平次は立ち上がる。

「インスタントじゃねえぞ?」

 快斗が戻ったら作ると思ってたから新一にはどうでもいい代物だったのだ。

「ソバくらい用意できるわ。ダシはついとんのやろ?」

 平次はすぐにキッチンへ入ると、冷蔵庫から年越し用の蕎麦を取り出した。

 簡単に作れるよう、ダシや海老天がついてる代物だ。

 それでも、ネギは別にちゃんと刻んでタッパーに入れてあった。

 結構マメなやっちゃな、と平次は感心する。

 大阪に来た時も、感心するくらい料理の手際が良かった。

 慣れてるのかと思ったが、本当に慣れていたようだ。

 あの料理の数々を作ったのが黒羽快斗だと聞いた時は、さすがに驚いた。

 平次は鍋を出すと、まずお湯を沸かした。

 

 2人は向かい合って年越し蕎麦を食べた。

 カウントダウンまであと15分あまり・・・・

「もうすぐやな」

 あと少しで今年も終わる。

 忙しい一年やったけど、今度の一年もきっと大変やろうなと新一を見て思う。

 そう簡単に決着をつけられるような問題ではないはずだ。

 平次の父親でさえ、安易に手を出すなと言った得体の知れない組織もいる。

 新一は黒の組織と呼んでいるが・・・・

「あ、服部。カウントダウン用に、とっておきのもん用意してんだ」

 言って立ち上がった新一が、どこかから持ってきた代物に平次は目を剥いた。

「おい・・!それって、ドンペリやないか!」

「やっぱさあ、新しい年を迎えるときはシャンパンで祝うもんだろ」

「そら・・・けど、それええのんか?」

 オレらが気軽に飲んでええ酒では絶対にないはずだ。

「構わねえよ。親父がこの前帰国した時置いてったもんだから」

 あの工藤優作が・・・?

「なんか祝い事があったら飲んでいいって言ってたし」

 高校生の息子にかい?

 なんとなく、サスガは・・と平次は思ってしまった。

 未成年に酒・・とは平次も思わない。

 もともと、父親につきあって飲むようになった酒だ。

 新一は栓を抜くと、グラスに注いだ。

「高いんやろうなあ・・・」

「そうでもねえぜ。5万くらいだって言ってたから」

「・・・・・そうなんか?」

 一般庶民には理解できん金銭感覚やな・・と平次は息をつく。

 新年まであと1分を切る。

 快斗のやつ、もう間に合わないな。

「んじゃ、乾杯しようぜ」

 新一と平次はグラスを持ち上げる。

 カウントダウン開始。

 新しい年が時を刻む。

 新一の腕時計がアラームを鳴らす。

「乾杯!」

 新一と平次はチン・・と互いのグラスを鳴らして口をつけた。

 とその時だった、けたたましい叫びと共に侵入者がリビングに飛び込んでくる。

あ〜〜!オレをのけものにして先に乾杯してる〜〜!

「・・・・・・・・・」

 反射的に立ち上がった新一と平次は、グラスを持ったまま、入り口のところで憤慨している侵入者を無言で見詰めた。

 白いスーツ姿の少年。

 シルクハットもモノクルもつけてはないが、怪盗キッドの衣装のまま。

 しかも、なんか汚れてねえか?

 オレもオレも〜!とキッドの衣装のままの快斗がズカズカとリビングに入ってきて(おい・・土足か?)いきなり新一のグラスを奪い取り、一気にあおると開いた手で新一を自分の方に引き寄せ、あろうことかかみつくように口付けた。

 抵抗する間もないいきおいで、しかもしばらく何が起こったのかわからず茫然自失の新一だった。

 それは平次にも言えた。

 突然快斗がキッドのまま現れたかと思うと、新一にせ・・せ・・接吻〜〜!!

 慣れた口付け、しかも快斗のキスはうまい。

 女なら一発で動けなくなるほどに濃厚で意識を根こそぎもっていくキスだ。

 しかも相手が新一となると、手加減なしとくる。

 だが、過程を見事にすっ飛ばしたキスに新一が納得いくわけはなく、しかもその理由にピンときた彼は遠慮なく自分にくらいつく相手を床に叩きのめした。

 ドゴン・・とすごい音が響いたが新一は眉間に深い皺を寄せたまま無視してのけた。

 突然のキスシーンには絶句した平次だったが、その後の新一の対処には思わず冷や汗が流れる。

 まさしく・・・容赦がない・・・・・

「な・・なんや・・・どないしたんや黒羽のやつ??」

「こいつ、酔ってる」

 え?

 平次は膝をついて床にはいつくばった快斗を覗きこんだ。

 そういえば、プン・・と酒の匂いがする。

「黒羽・・おまえ怪我してんとちゃうか?」

 よく見ると顔に擦り傷が出来ている。

「おおかた酔っ払っておっこちたんじゃねえか?」

 怪盗キッドがハンググライダーの操作を誤って墜落?

「そんなアホなこと・・・」

 ビンゴ・・・と快斗が答え、否定しかけた平次を黙らせる。

 おいおいおい〜〜

 怪盗キッドが酔っ払っておっこちたってえいうんか??

「なんで酒なんか飲んだんだ?おまえにとっては神聖な仕事中だったんだろうが」

 いや・・と酔ってるせいかそれほどダメージを感じさせずに快斗は起き上がりその場に胡坐をかいた。

「仕事すませてから戻る途中、マジで寒くてさあ。身体の中からあっためようと思ってブランディをちょびっと飲んで・・・」

「ちょびっとだあ?そんくらいなら墜落したりしねえだろうが!飲酒運転で捕まったオヤジみてえなこと抜かすんじゃねえよ!」

 頭の上から新一に怒鳴られ、快斗はしゅん・・となった。

「申し訳ありません〜〜小瓶一本一気にあおりました・・・・・・」

「黒羽・・おまえ、そないなもん持ってよう行くわ」

「だって、寒いんだもん。いつもの防寒じゃおっつかなかったんだよ」

「だったら、こんな寒空に出かけんけりゃええやろ」

 平次は心底呆れたように言った。

 快斗はムッツリと口を尖らせる。

「こんな時期に宝石展やる連中がわりぃんだよ!ったく・・・オレだってなあ、あったかい部屋で新年を祝いたかった!」

「黒羽・・・・」

 ほい、と快斗は平次の目の前に今夜盗んできたダイヤを突き出す。

「あげる」

 快斗は平次の見てる前でそのダイヤをポトンと落とした。

「うわわっ!」 

 平次は慌てて手を出し落ちてくるダイヤを受け止めた。

「おまえなあ〜〜なんちゅうことするんや!」

「ほんとだぜ。床に穴があいたらどうしてくれんだ」

「工藤・・それ、ちゃうやろ?」

 どこが?とそっくりな二つの顔に見つめられ平次は言葉を失う。

 ・・・・・こいつら〜〜〜

「違ったわけか」

「パンドラじゃないとは思ってたんだけどさ。念のためってこともあるし」

「他に目的があって、そいつはついでだったってことはねえだろな」

「・・・・・・・・」

「快斗」

 答えない快斗に顔をしかめた新一の手を掴んだ彼は、ふわりと身軽に立ち上がった。

「新年おめでとう、新一!今年もよろしくなv」

 言ってから快斗は、まだ膝をついたままの平次の方に腰をかがめる。

「服部とは去年以上に仲良くやりたいから、よろしくね〜〜v」

 あ・・ああ、と平次は答える。

「こっちこそよろしゅう・・・・て、あんまし有難くあらへんけど」

 なんで?と快斗が可愛らしく首を傾げた。

「おまえら、時々何考えてんのかわからへんからな。無茶ばっかしよるし」

 新一と快斗は平次の言葉に苦笑する。

「そのうち何もかも話すからさ。平ちゃんは、もうオレたちの仲間なんだから」

 それじゃ、と快斗はパチンと指を鳴らした。

 と、それまで静かだったリビングに音楽が流れてきた。

「なんや、ワルツ・・・?」

 どっから聞こえてんのや?

 平次がキョロキョロとまわりを確かめている間に、白いスーツのままの快斗が新一の手を取った。

「一曲お相手願えますか?」

「酔ってるくせに踊れんのかよ?」

 へーきへーきvと快斗はニッコリ笑う。

「で、オレが女のステップ踏むってか」

「できるでしょ?優作さんから聞いたよ。社交ダンスを最初に習った時、女役だったんでしょ?」

「あれは父さんが間抜けだったんだよ。教えるなら自分が女のステップ踏むのが当然なのに」

 自分はちゃんと男役で。

 男と女で踏むステップ違うなんて、小学生にわかるかよ。

 ふわり・・と2人の少年は広いリビングの中でワルツを踊り始めた。

 なかなかにうまい。

 平次はまた床の上に座ると、踊っている友人2人を眩しそうに眺めた。

 手にはしっかり飲みかけのドンペリの入ったグラスがある。

 瓜二つの顔で舞う2人はホントに天使のようだった。

 ただし、あのままでいたらやけど。

「平ちゃん、踊れる?」

「ああ、ワルツくらいやったら」

「だったら、次の曲代わるからさあ踊れば?」

 新一と。

「今度は、オレが男役だぞ」

「スマン工藤、オレ、女のステップ知らへん」

「てめえら、ズルイぞ!」

「だって、女のステップ踏めるの新ちゃんだけなんだからしょーがないじゃん」

 新しい年を迎えた夜なんだから、怒らない怒らないv

「・・・・この酔っ払い」

 新一に睨まれた快斗は、ケラケラと明るい笑い声を上げる。

 そして平次も、そんな2人を見て楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 新しい一年が始まる。

 未来(さき)は平坦ではないが、きっと全てうまくいく。

 なぜなら、自分たちには信頼し合える仲間がいるのだから。

 

 

 

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