最初は何気ない快斗のひと言であった。

 まったく、何がきっかけになるかわかったもんじゃないと新一は車の後部で一人ぶすむくれた。

 今年も年越しソバを食べて、あとは新年に向かうカウントダウンを待って宴会に突入・・・といつものパターンの筈だった。

 大阪から服部平次が来る前からずっとその予定だったのだ。

 それが、この所大晦日の夜の番組で見たいようなものがな〜いと快斗が言い出して。

 昔は大晦日で見る番組はパターン化していたのだが、ここ数年面白みがなくなり、今年にいたっては見る気も起こらないという状態。

 で、まだラジオ聞いてる方がマシかも、と快斗がラジカセをリビングに持ち込んだのだが。

 ラジオ番組を家で聞くのは殆どないから、新一も珍しそうにソファに寝そべりながら聞いていた。

 車で移動する時は話題に事欠かない人間がいるからラジオはめったに聞かない。

 まあ、あえて聞くとしたら交通情報かニュース。

 別に音楽が嫌いというわけではないのだが、とにかく新一が車で移動するときにラジオがオンになることはなかった。

 それが、見たいのがないからと快斗はラジオのスイッチを入れた。

 途端に耳に入ったのは、冬なのに桜の歌。

 今年流行ったからと、なんかこの所よくかかるそうだ。

 まあ、確かにいい歌で新一も嫌いではない。プロモの映像も結構好きだ。

「冬やのに、桜かいな」

「これ、よく売れたって話だし」

 オレもCD持ってるしvと快斗が平次に答えた。

「今から桜の歌か?って思うけどさ。実際今から聞かせないと売れないってんだよね、こういう季節の歌って」

 そうなんか?と平次は冬でも夏のような色黒の顔を斜めに傾けた。

 この男は、雪が降って寒い冬でも日光ギラリの夏のイメージだ。

「そういやさあ、色黒で知られる歌手が冬は日焼けサロン通って焼いてるって言ってたけど」

 平ちゃんも?

「アホ!んなことするかいな!」

 歌が終わると、男女のアナウンサーが喋り始めた。

 どうやら彼らはスタジオではなく、外から中継しているようだ。

 どこかの公園にいるらしい。

 なにやら、その場所でカウントダウン花火が打ち上がるらしい。

 公園の木に飾られたイルミネーションが美しいと女性アナウンサーが言っている。

 しかし新一が思うのは、こんなくそ寒い夜に外から中継なんてたまんねえよな、って感想しかない。

 だが新一がそう思っても、ここにいるイベント好きの二人は逆のことを考える。

『カウントダウンまで一時間を切りました。今回初のカウントダウン花火には、これまでにない新作が打ち上がるとのことです。これからでもどうぞ来てみてくださいね』

「行く!」

 へ?

 この寒い中、誰が行くかと鼻を鳴らしかけた新一だったが、突然手を上げて立ち上がった快斗に目をパチクリさせた。

 今回はカウントダウンの後乾杯し宴会に突入するから、初詣は早朝ってことにしていた。

 寒い中を出て行くのは夜中も早朝もおんなじだが、まだ太陽があるだけマシかと新一は思っていた。

 思っていたのに。

「ええな、新作の花火っつーのを見てみたいわ」

 女性アナウンサーが言うには、結構名の知れた花火職人が考えたものだという。

 そうと知れば、やはりこの目で見てみたい。

「その公園、今から行っても間に合うとこにあんのんか?」

「大丈夫だよv平ちゃんの車なら三十分かかんない!」

「お〜そりゃええわ。ほないこいこ」

 ・・・・・おまえら。

「オレには訊かねえつもりか?」

「新一は行きたくないの?カウントダウン花火だよ」

「おまえら、夏のこと忘れたのかよ!花火大会に行こうとしながら結局行き着けなかったろうが!」

「でも、ちゃんと見れたじゃん」

「・・・・・」

「大丈夫だって、新一。そこ近いんだし」

 そうや、と平次も同意して頷く。

「それに、車買い換えたからあん時のような失敗はあらへんで」

 なんつっても、今度は新車やねんし。

「・・・・・」

「行こうよ、新一〜〜」

「寒いのは嫌だ」

「ほな、今からエンジンかけてあったかくしとくわ」

 平次は言うが早いか、キーをひっ掴んでリビングを飛び出していった。

 結局・・・今年も寒い中、引っ張り出される運命らしいと新一は諦めの吐息をつく。

 

 予定していたことでもないのに、一度行く気になれば出かける用意などあっという間だ。

 新一がむくれてソファから動かなくても二人は全く気にしない。

 っていうか、始めっから新一の手伝いなんか考えもしてないに違いない。

(こいつら・・・なんでこんなくそ寒い、しかも夜に出かけようって気になれんだよ?)

 新一には嬉々として外出準備をしている二人が全く理解できなかった。

 言い出すのが快斗だけならなんとか振りきれるが、これが平次と二人となればほぼ押し切られる。

 毎度毎度、こうやって大晦日の夜に引っ張り出されるのが当たり前になったら。

 あいつらとの宴会は楽しい。だが、外へ引っ張り出されるのは嫌だ。

 といって、親のもとへ行くのはもっと嫌だと新一は思う。

 こうなれば、次の大晦日はホテルを予約して一人でのんびり過ごすべきか。

「ほら新一、これ着て」

 戸締りを完璧にすませ出かける準備を終えた快斗が、まだソファに寝そべっている新一を起こしてダウンのジャケットを羽織らせた。

「車で移動なら、こんなの今着ることねえだろが」

「乗るまでが寒いんだろ」

 たとえ数メートルの移動距離でも、家の中と外とでは気温差が大きいから上に着込んでないと身体がびっくりする。

「その寒い中、出て行こうってんだからな」

 信じらんねえ。

「いいじゃん。新年に向かうカウントダウンは年に一度なんだぜ。楽しまないと損じゃんか」

「暖かい家ん中で新年祝うのだって、年に一度だぜ」

「そりゃそうだけど、宴会は年に数回やったりするだろ」

 けど、カウントダウンの花火は一度だけ。

 花火は夏でもやる、と新一は反論しかけやめた。

 どう言おうが行くのは決定事項だ。例え、新一が嫌々だとしても。

 が、まあ今年は寒い中歩かなくてもいいからマシかもしれないと新一は思うことにする。

 花火なら、車の中からでの見物できるだろう。多分。

 外に突っ立って花火見物するってんなら、絶対拒否してやる!と新一は心に決める。

 

 平次が工藤邸の玄関前まで車を移動させたので、外に出たのは数秒。

 しかも、暖房を入れて車内を暖かくしてあったので寒さに身を縮めたのは一瞬だ。

 それでも、寒風吹きすさぶ中、しかも夜中に出て行こうなどまだ納得いかない新一である。

「今夜は思ったほど風ないね」

 無邪気に。ホントに無邪気にそんなことを口にする能天気男が助手席に乗り込む。

「・・・・・・・」

 この無防備に背中を見せているこいつらの頭を殴って失神させたら、外出は中止ってことになるまいか?

 そんなことをふと思った新一に悪気はない。ないと思う。

 いや、外出た途端凍りつくような風を受けた時は確かに殺意を感じた・・・と思うのだ。

(ま、いいか。今は寒くねえし)

 自分は何もせず後ろに乗ってればいいわけだし。

 それに今度の車は結構座り心地がよくてゆったり感がある。

 シートの上にはベージュのボアシートがかけてあるので、柔らかくてフワフワで感触はすごくいい。

「そのボアはこっち来る時おかんがくれたんや。その上に座んのは工藤が初めてなんやで」

 へえ〜と新一は手のひらで表面を撫でた。

 まるで、フワフワの毛をした大型犬を撫でてるみたいなさわり心地だ。

 新一はそのままシートに横になって、手のひらだけでなく頬でもその柔らかな表面をスリスリした。

(う〜んvすっげえ気持ちいいv)

 車内は暖かいし、フワフワなボアシートは感触いいしで新一の機嫌はちょっとだけ上昇した。

 まるで犬を抱きしめてるような感じが幸せ気分にさせ、意識までがフワフワしてきた。

 なんか、ねむ・・・と思った時にはコトンと新一の意識はとぎれていた。

「あり?新一ってば眠っちゃったよ」

「ええんとちゃう。寝てくれた方が運転しやすいわ」

 実は背後から不機嫌な新一の波動を感じて運転する手も緊張していた平次だった。

 なんや殺意まで感じてもうたわ、と平次が言うと快斗も、オレもと苦笑しながら頷く。

 車に乗り込んですぐにダウンジャケットを脱いでいたので、快斗は後ろに手を伸ばし用意していたブランケットを新一の身体の上にかけた。

「寝てくれたのはいいけどさ、すぐに目的地に着いちゃうぜ」

「どんくらいや?」

「道路混んでないし、二十分かからないかな」

「花火は日付が変わるちょっと前からなんやろ?だったら、四十分くらいか」

「んじゃ、始まる前に起こすってことにしようか」

 快斗はそう首をすくめて笑うと前に向き直った。

 今度の新車には勿論最新のカーナビがついている。

 しかし、場所を知ってる快斗はカーナビに頼ることなく平次に道を指示していった。

 そして・・・・

 

 ワン!と、何故か犬が吠える声が聞こえたような気がして新一は目を覚ました。

 なんか毛足の長いフワフワな犬の背に頭を載せてるような気分がする。

 勿論そこは車の後部座席であり、犬などいる筈もないのだが。

 しかし、ぬくぬくな感触はほんとに陽の光一杯に受けた犬の背中のようだった。

(オレ、寝ちまったのか・・・・)

 車はまだ走ってるから、眠った時間はほんの僅かだろう。

 新一だって、花火をやるという公園の場所は知っている。

 二十分程度で着くとこだ。それでまだ走ってるということは、うたた寝程度だったのだろう。

(今、何時だ?)

 新一は何気なく腕時計を覗き込み、そして瞳を瞠る。

 お・・・おい!と新一は叫びながら飛び起きた。

「なんで、まだ走ってんだ!もう午前二時回ってんぞ!」

 新一の前に座る二人は、新一の声にさも困ったような顔になった。

 

 あ、え〜と・・・と背後から無言の攻撃を受け冷や汗だらだらの快斗が恐る恐る口を開いた。

 さすがにいつもの能天気な答えを返すわけにもいくまい。

 だが、本当のことは言いたくないというのが本音。

「いやさあ、行くつもりだったんだけど平ちゃんと世間話してたら急に別んとこ行きたくなって」

 アハハ・・・と快斗は前を向いたまま頭をかいて笑った。

「・・・・・・」

 新一は眉をしかめ、じっと腕を組んで快斗の頭を、そして平次の頭を睨みつける。

 二人の顔は冷や汗だらだらだ。

 ちらっと窓の外に視線を流すが、いったいどこを走っているのか遠くに小さな明かりが点々と見えるだけだった。

 しかも、空は曇っているのか星が見えない。

 走っている道路の両側は田んぼかなんかなのか真っ黒だ。

 いったいどこを走っているのか新一にはちょっと見当がつかなかった。

 まあ、今が元旦の午前二時であるならもう家を出て三時間近く走っているわけだから相当遠くに来ているとみるべきだろう。

 で?と新一は快斗に問う。

「どこに向かってるんだ?」

「え〜〜北海道・・・かな。ラーメン食べたいな・・って」

 ゴン!と新一の鉄拳が快斗の後頭部に飛ぶ。

「〜〜〜」

 快斗は涙目になって頭を抱え込んだ。

「そういや、ずっと前にそういうコマーシャルがあったよな」

 都内で彼女が夕飯にラーメン食べたいと言い出したんでタクシーに乗ったら、向かったのは札幌だったという。

 当然着いた時には店は閉まっていたというオチだ。

 新一が棒読み口調でそういうと、二人の両手がピキンと固まった。

「前にも後ろにも車はいない、対向車も見当たらない・・・これって夏とおんなじパターンだと思わねえか?」

 二人はぐっと息をつめる。

「・・・・・・・」

 新一はもう一度二人の後頭部を睨んだ。

「本当のことを吐け」

 このオレを下手な嘘でごまかそうとすんじゃねえ!

 すんませ〜ん!と二人は首をすくめ頭を下げて謝った。

 

 平次は一端事情を説明するために車を止めた。

 路肩に寄せて止めなくても後続車はないので道路の真ん中で停車しても問題はない。

 いや、ないってところが問題なのであるが。

「・・・・またカーナビか?」

「ちゃう!今回はカーナビはつこーてへん!」

「カーナビ使うようなとこじゃないしさ、オレが指示して平ちゃんに運転してもらったんだ」

 ま、そうだなと新一もそれには頷く。

 向かっていた公園に行く道など裏道でも知ってるところだ。

 目をつぶってたってたどり着けると言っていいくらいである。

 それは快斗も同様であるから、そのことに対しては非難はしない。

 だが、今走っている道は全く知らない場所だ。

 確かに三時間近く走っているのだから知らない道でもあり得るのだが。

 だが、この景色は異常というか、かつて見た記憶がある。

 あの時は車ではなく電車だったが。

 それで、と快斗は続ける。

「やっぱラジオ聞いてた奴も結構いたのか途中から道路が混んできてさ、全然進めなくなっちまって」

 我慢して進むの待ってたんだけど、時間はどんどんたってカウントダウンまで十分切っちまってからもう駄目かなって思ったら。

「ある地点へ来た時、なんや我慢できなくなったのかすぐ前の車が向き変えよって横道に入ったんや。もしかしたら、公園に出る別ルートがあんのんとちゃうかってオレが黒羽に言うたら」

 そうかも、って言っちまったと快斗は俯いたまま小さく答えた。

 快斗が知ってる裏道は一つだけで、しかしそこは通行止めだったので仕方なく渋滞の道を進んだのだが。

「その車もオレたちとおんなじくらい並んでたように見えたしさ、でもそこ来た途端曲がったから」

 きっとあまり知られてない裏道があるとつい快斗は思ってしまったのだ。

 だがそれが浅はかな間違いだったと悟ったのは、横道に入ってまもなくだった。

 先に曲がった車とはさほど時間差がないはずなのに、前を走る車のヘッドライトが見えなかったのだ。

 え?と思った時には既に遅く、入った道がバイクともすれ違えないほどの狭い幅でありUターンもできないことに気付いて平次と快斗は青ざめた。

 左右を見ると、そこは一段下がってる感じでどうも田んぼらしいと判断。

 つまり左右に動くことも出来なかった。

 突っ込めば当然這い上がれない。

「まさか・・・このまままっすぐ走れ言うのんとちゃうやろな?」

「けど・・・・まっすぐしか走れないじゃん」

 ハハ・・・と快斗は乾いた笑いを浮かべる。

 勿論顔は引きつってる。

 不思議な体験はそれこそ何度もしたが、だからといって慣れて平然としていられるほど快斗も能天気ではなかった。

 危険と隣り合わせの怪盗なんぞしてきているが、それとこれとは別問題だ。

「で、そのまま走り続けたわけか?」

 前に座る二人はコクコクと頷いた。怖くて後ろに顔を向けられない。

「三時間も?」

 二時間半・・・かなとアホな訂正をした快斗はまた新一に殴られる。

「走り続けるより、気づいた段階でオレを起こして歩いて戻ればよかったろうが!」

「んなことでけへん!」

 平次が泣きそうな声で叫ぶ。

 こんなわけのわからん場所に愛車を置いていくなど平次にはとても耐えられなかったのだ。

「だったら、おまえ一人が残ってれば良かっただろ。こんなことにオレを巻き込みやがって!」

 新一〜〜と快斗は情けない声をあげた。

「歩いて戻れたかどうかわかんなかったんだよ、ホントに!後ろ見ても真っ暗で明かり一つ見えなくて」

 そう、まるで真っ暗なトンネルを覗き込んでるような感じだったのだ。

 通ってきてなんだが、果たしてそこに道があるのかも怪しい。あんな場所を歩くなどとても無理だ。

 だが、前方を見るとまっすぐに伸びた道が見える。

 だからこそずっと走り続けてきたのだが、景色は全く変わらないし、道は広くならないし横道もない。

 町の明かりすら見えないとなると、もうどうしたらいいのかわからない。

「なあ、二時間半走ってても出られへんのや。いっそこのまま朝までおったらどうやろ?明るくなったら少しは状況がわかるんとちゃうか?」

 真っ暗だからこそ不安が大きくなってくるのだし。

 もしかして、夜が明けるとここは普通の道ってことになるかもしれない。

「ほれ、テレビでよおやる不思議な話では、結構そんなオチになっとるやん」

 ああ、そうそうvと平次の意見に快斗もコクコク頷いた。

 実際これ以上走り続けるのは無意味かもしれない。

 二時間半走り続けても状況が変わらないなら、さらに二時間半走っても同じだろう。

 夜が明けるまで約五時間。ここでじっとしてるのが無難というものかもしれない。

「ヒーターちゃんともつから心配ないで、工藤」

 ようやく気持ちが落ち着いたのか平次が後ろを振り向き新一にそう告げた。

 が、新一の顔はしかめられたままだ。

 そのうち、いつもの推理のポーズをとった新一に二人は何故か嫌な予感を覚える。

 そして。

「やっぱり走れ」

 へ??

「腹減っちまったんだよ。考えてみたら宴会する予定だったからソバしか食ってねえ」

 腹が減るのは当然だろ?と新一は言う。

 そりゃごもっともですけど・・・と快斗は口の中で呟く。

「チョコレートならあるけど・・・・?」

「雪山で遭難してるわけじゃねえ」

 チョコレートなんざ食いたくねえ、と新一はフンと鼻を鳴らす。

さっさと走れ!

 新一に怒鳴られた平次は大慌ててアクセルを踏みこんだ。

 しかし道はこれまで同様で状況はなんら変わらなかった。

 が、三十分ほど走っていると、突然カーブにさしかかった。

 初めてのことだ。

 ずっとまっすぐに走り続けてきたのだから前に座った二人には驚きだった。

 ゆるいカーブを曲がると、左方に見慣れた看板が見えてきた。

 アレ?

 青い看板。書かれた文字は”ロー○○”。どこから見てもりっぱなコンビニである。

 闇の中から唐突に現れた眩い光。そんな印象を二人は感じた。

 新一に感動が薄いのは、ついさっきまで眠っていて状況を知らなかったためだろう。

 それに反して、天国へ来たと瞳を輝かせる二人は長い間何処とも知れない闇の中を走ってきたせいだ。

「丁度いい。そこでなんか食い物買ってこうぜ」

 新一の提案に平次は、まるで光に吸い込まれるようにして駐車場に車を止めた。

 闇に包まれた場所にポッカリと浮かび上がる白い光。

 昼間ごく普通に立ち寄る、あって当然のコンビニであるが、それがこんな闇の中に存在する唯一の救いであるかのように感じるなんて。

 ぼ〜と白く輝くコンビニの明かりに見とれる二人を放っておいて、新一はさっさと車を降りた。

「あ、新一!」

 さすがに新一の行動に気を配る快斗はすぐに気づき、慌ててドアを開けた。

 平次もハッと我に返ってキーを抜くと、急いで二人の後を追う。

 ドアを押し開けて中に入ると、店員がいらっしゃいませ、と大きく声をかけた。

 夜中だからか、店員は一人きりだ。

 奥を見ると外向きのカウンターがあり、椅子が四つほどおかれてあった。

 ここで買ったものを食べることができるらしい。

 じゃあ、とばかりに新一はカウンターにいる店員に、白い湯気をあげているおでんを頼んだ。

「大根とガンモ。それに玉子と厚揚げ、タコに・・・あと巾着」

「あ、オレも!」

 ようやくいつもの調子を取り戻した快斗も唐揚げやポテト、肉まんあんまんをを次々頼む。

 平次も冷蔵庫の中からビールを取ってきてカウンターに持ってくる。

「おまえ、運転すんだろうが」

「だから、オレは残念やけどウーロン茶や。けど、おまえらは構へんから飲んだらええよ」

 せっかく年が明けたんやから。

 本当は工藤邸で宴会する筈だったのだ。それがこんな形になってしまったが。

 くん、と平次が外に向けて顎をしゃくった。

 見ると、コンビニの前を何台もの車が走り抜けていった。

 明るい街灯が見え、やや遠くに赤い車のヘッドライトが上っていくのが見えた。

「あれ、高速に上がる道やで。バイクで何度も通ったからわかる」

「つまり・・・オレたち戻ってる?」

 快斗がそう言うと、平次は肩をすくめた。

 何故かわからないが、コンビニにたどり着いた途端、彼らはあのわけのわからない闇から抜けられたようだった。

 ずっと走り続けても変わらなかったのに。

 違ったことといえば、新一が目を覚ましたことだろうか?

「さすが・・・光の魔人・・・・・」

 二人は驚嘆の眼差しでおでんの器を抱えてカウンターに向かう新一の後姿を見つめた。

 

 三人はカウンターに座り、まずは新年を祝う乾杯をした。

 新一と快斗は缶ビール、平次は缶のウーロン茶だ。

「あけましておめでとう!今年もよろしく!」

 彼らは、カチンとプルトップを抜いた缶を鳴らし、そして咽を潤した。

 しかし、なんやなと唐揚げをつまみながら平次がしみじみ言う。

「おまえらとつきあってると、ほんま、めったにない経験するわ」

 それがいい経験というのか、はたまた災難というべきか。

 なんだ、それは?という瞳で見つめてくる双子のような顔の二人の前で、平次は長く深い溜め息をついた。

 

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