よっしゃあ、初詣やあ〜〜!

 は?と双子のようにそっくりな顔をした少年二人が、唐突に立ち上がった少年の顔をキョトンとして見上げた。

 冬でもやっぱり浅黒い肌の大阪人は、元気一杯でガッツポーズをとっている。

「ホント元気だねえ、平ちゃん」

「夏の男は冬でも平気ってか」

 オレは寒いのは苦手だとグチると、新一は暑いのもダメじゃんと快斗が返した。

 むぅ・・・と新一の口が尖る。

 今回は大晦日の早朝に工藤邸に着いた服部平次は、快斗がお節を作っている間新一と二人で大掃除をやった。

 もっとも、学校が冬休みに入ってから快斗がちょっとずつ掃除をしていたので、そんなに時間はかからなかったが。

 夕方、門にしめ縄をかけていると空からチラチラと雪が降り出してきた。

 朝から寒いと思ったら、ついに雪かと新一は首をすくめて空を見上げた。

 年越しそばを三人で食べ、そのあとはカウントダウンまでお楽しみの宴会だった。

 前回平次が工藤邸に来たのはハロウィンの頃で、その日は新一が風邪を引いて寝込んでいたため宴会はおあずけだった。

 平次が来ると宴会というパターンが出来上がっていたので、それが出来なかったのが(それも自分のせいで)新一はすごく悔しがっていた。

 なので、今回のカウントダウンから新年を祝う宴会がとても待ち遠しかった新一なのだ。

 平次はいつもの通り酒持参。

 祖父が沖縄に旅行に行って買ってきた泡盛だった。

 それと、今回は母親からの差し入れだというワインも持ってきていた。

 宴会は平次が大阪で出くわした事件の話などを交え盛り上がった。

 そして、除夜の鐘を聞きながら声を上げてカウントダウンを取り新年を祝って乾杯した後、平次がスックと立ち上がって叫んだというわけだ。

「なんで今から行くんだよ?夜が明けてからでもいいだろ」

 外を見ると、雪こそやんだものの気温は相当に下がっていそうだ。

 この冬は暖冬だという予報ではあったが、今朝の寒さはその予報を疑いたくなるほどだった。

「なに言ってんのや、工藤。新しい年が明けたら神さんにお参りする!常識やんか」

 常識なのか?と新一が隣に座る快斗に訊くと、肩をすくめた答えが返ってきた。

「でもまあ、オレはたいていカウントダウン前には出掛けてたけどな。紅白歌合戦が終わると青子が誘いにくるからさあ」

「なんや、黒羽も見とんのか」

 おふくろがね。

「紅白見ないと年が明けた気がしないんだってさ」

 オレはあんまし興味ないんだけどさ。

 一応おつきあい、と快斗は言った。

「去年は行かへんかったから、今年は行こうや」

 なっ!と言う平次に新一は渋い顔で手に持っていたグラスをあけた。

 ま、せっかくだから行ってみるかと、新一は快斗と平次の二人に押し切られるようにして外出準備をする。

 だが後悔したのは玄関のドアを開けた時だった。

 開けた途端、凍りそうな冷気が新一を押し包んだのだ。

 新一はすぐにドアを閉めた。

「オレ、やっぱ行かねえ!」

「工藤!」

「なんでこんな寒い晩に出かけなきゃなんねえんだよ!オレはそこまで物好きじゃねえ!」

「物好きって問題じゃないでしょ、新一?」

 ちゃんと防寒してったら大丈夫だからさ、と快斗は新一の首にマフラーを巻きつけた。

「この前、事件で飛び出して行った夜も結構寒かったじゃん」

「あれは別だ」

 何が別?と快斗は首を捻る。

「ほらほら。ぐずってないで行こうや、工藤。新しい年が来た夜はええで〜v」

 新一は平次と快斗に両脇を抱えられながら、暖かい工藤邸から寒い外へと連れ出されていった。

 

 

 

 この日の夜はマジで寒かった。

 なんで、こんな寒い日に外に出なきゃならねえんだと、新一はずっと機嫌が悪い。

「いいじゃん。こういう時でなきゃ、こんな時間にお出かけなんてできないんだからさ」

「オレは出てるぞ」

「新一のは野暮用だろ」

 新一はムッとなる。

 ほらほら、人もたくさんいるし〜v

 普段は閑散としている道だが、初詣に行くカップルや家族連れが賑やかに歩いていてなかなかに楽しそうだ。

「空を見てみぃ、工藤。星が綺麗やで」

「・・・・オレには凍りついてるように見える」

「風がなくて良かったよね。あれだけで結構体感温度さがるしさあ」

「ホンマやな。ゆうべは風だけやなく雪まで降ってきよったからメチャメチャ寒かったで」

 そんなんで、よくバイクで東京まで来れるものだ。

 新一には信じられない暴挙だ。

「夏生まれは寒さに弱いかと思ったけど、全然そんなことねえんだな」

「生まれは関係ないやろ。オレのダチなんか真冬に生まれたくせにストーブにかじりつきや」

 コタツに入ろうものなら出てけえへんねんで。

「あ、コタツって入ると出られないよね」

「黒羽もそうかあ?オレもたまにあるねん。気持ちよくてなあ」

 ついウトウトしたりして。

「・・・・・・」

(まずったぜ。そうと知ってたらコタツ出しておくんだった)

「工藤はどうなんや?やっぱりコタツで寝てしまう方か?」

「オレは・・・・」

 チッ・・・オレん家にはコタツなんかねえじゃねえか。

「いるなら買っとくぜ」

「はあ?そうか、工藤ん家にはコタツないんやな」

 まあ、そりゃそうか。全室フローリングなんやから。

「ああ、ええって。コタツなくても工藤ん家はあったかいから」

 そのあったかい場所から引っ張り出したのはてめえだろうがよ。

「ホント、たくさん来てるよねえ。今夜また雪降りそうだから少ないかと思ってたんだけど」

「雪降るのかよ!」

「ん。予報ではね」

「だったら、朝になってからにすればよかっただろ」

 まだ言ってる、と快斗は苦笑を浮かべた。

「アカン!朝は実業団の駅伝があるねん!オレらの学校の先輩が五区を走ることになってるから絶対見逃せないんや!」

「・・・・・・」

「元旦の朝はゆっくりしようよ、新一。今回はさらに気合いれて御節作ったんだからさあ」

 お雑煮は平ちゃんご希望の白味噌仕立てにする予定。

「おvホンマか、黒羽!そりゃ楽しみやわ。すまし汁もええけど、白味噌も旨いんやで」

 酒は泡盛があるしな。

「屠蘇入れといたよ」

 はあ・・・と元気一杯の二人に囲まれた新一は溜め息をついた。

 その息も凍りつきそうだ。

「あ、店いっぱい出とるやないかあ」

「参拝者にお酒もふるまってるけど、オレたちはやっぱりダメだよね」

 お酒は二十歳から。

 いくら正月でも神社が無視することはできないだろう。

「甘酒も配ってるからさあ、お参りの前にもらわない?」

「そりゃええな。ちょっとはあったまるし」

 三人は神社の入り口で配っている甘酒をもらった。

 手袋をした上からでも伝わる熱さにホッと息を吐く。

 わりばしで掻き混ぜながら甘酒をすする。

「うっま〜いv」

「生姜もほどようきいて、結構イケるわ」

 身体があったまるよね、と快斗が言うと新一はコクンと頷いた。

 確かにこんな寒い中で飲む甘酒は格段にうまいと感じる。

 飲み終わると、三人は本殿に向かった。

「後でたこ焼き買おうよね。ここのは毎年すげえジャンボなんだ」

「イカ焼きもええな」

「オレはタイヤキがいい」

 さりげなく出た新一の言葉に、快斗の顔は思いっきり反応した。

「新一〜〜」

 それって嫌がらせ?

 引きつった顔の快斗に平次は目を瞬かせる。

「なんや黒羽。タイヤキもアカンのか」

 中身はアンコやんけ。

「こいつは、こいのぼりも嫌がるやつだ」

 そりゃ、筋金入りやな、と平次は感心したように言った。

 魚嫌いはいるが、タイヤキやこいのぼりまでダメだという奴は初めてだ。

「なんかトラウマにでもなるようなことでもあったんか」

「どうでもいいだろ、そんなこと」

 快斗は渋い顔で平次を睨む。

 本殿にたどりつくと、既に大勢の参拝者が並んでいた。

「振袖のねーちゃんも結構おるんやな」

 最近は少なくなったという話を聞いていたのだが。

「なんだかんだ言って、やっぱ年の初めから目の保養ってのは必要だよね」

「おまえらも目の保養やろ」

 さっきから女の子の視線がずっとこっちに集まっている。

 なんだよ?と向けてくるソックリな顔は実際男でも目の保養になるレベルだ。

「正月なんやから男ばかり楽しむことはないってことや」

 ほれ、お参りしよ。

 平次は真ん中に入って双子のような二人の腕を掴み引っ張っていった。

(これも役得って言うんかなv)

 

 三人は一緒にお賽銭を投げるとかしわ手を打ち両手を合わせて祈った。

 祈ることは一つ。

 一年後、またこうして三人で年の初めを祝えることを。

 一緒に宴会し、笑って、喧嘩して拗ねて、そして共にまた一年を送れる事を・・・・・

 それだけを今、祈りたい。


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