無邪気な声を上げたのは車椅子に座った老人であった。 80はとっくにこえているだろうが、まだまだ血色はよく、白くはなっているもののそれほど薄くはない髪に、若い頃はさぞ男前だったろう顔立ちのその老人こそ、岩佐家の当主、岩佐玄蔵だった。 今だに一族の中では彼の言葉は絶対という権力の持ち主である。 玄蔵は長男の子である純平が連れてきた美女にもう大喜びだ。 この気むずかしい老人がここまでご満悦という顔を見せるのは至極珍しいことだった。 「やはり、おまえにまかせて正解だったわい。その金髪は気に入らんがの」 「いやあ、オレ、おじいさまに気に入られようとは思うてまへんので」 純平はそう言ってヘラヘラ笑う。 そばにいた彼の父親が驚いて咎めるように顔をしかめるが、純平は平然と無視してのける。現代っ子に家長制度など通用しないのだ。 ジジィはジジィだというのが純平の考えだ。 偉いとも思わないし、尊敬もしていない。 だいたい、妾を何人も持って祖母を泣かせた遊び人を尊敬できる筈もないのだ。純平は昔からお祖母ちゃんっ子だった。 しかし、玄蔵もこの孫の態度に慣れているのか怒りもしない。 それよりも純平が連れてきた蒼の龍玉をつけた美女にもう夢中だ。 「ウ〜ム。本当によう似とるわい。まさか、彼女の娘というわけではないじゃろうが」 「似てるって、誰に?まさかおじいさまの愛人にとか言うんやないやろな?」 そんなことだったら即座にモデルを連れて出てってやる、とばかりに純平は老人を睨みつけた。 「純平!いい加減にしないか!」 さすがに父親も耐えかねて息子を叱るが、玄蔵も純平も聞いちゃいない。 「おまえの年代じゃわからんかのう。藤峰有希子じゃよ。女優として活躍した時期は短かったが、本当に素晴らしい女性じゃった。彼女こそ、まさにクレオパトラか楊貴妃かという絶世の美女といって良かったぞ。ああ、今も彼女のあの美しい顔が目に浮かぶわい」 ケッ、色ボケじじぃと顔をしかめたものの純平は、へえ〜?と興味深そうに女装した新一を眺めた。 新一はというと、的中して欲しくなかった予感にウンザリだ。 ま、確かにおふくろはもと美人女優だったが。 今も自分で、かつては世の男共を夢中にさせたのだと自慢している。 だが、新一にとっては実の母親で、虚構ではなく現実に身近にいた有希子に対して美人だとかそんな感想を抱ける筈もなかった。 幸いなことに、岩佐純平はその女優が工藤新一の母親だとは知らないようだ。 「名前はなんというのかな」 玄蔵の顔はもう解けた砂糖菓子状態だ。 ああヤダヤダ、と純平は眉間に深い皺をよせる。 「年は?誕生日は?サイズは?はては電話番号まで聞く気やないやろな?」 この色ボケじじぃ、とこれは心の中。 さすがに純平も、この場で口に出していいことかどうかの常識はわきまえているのだ。 「おじいさま。彼女は普通のモデルではなく、蒼の龍玉を見せるためのマネキンですよ。マネキンはしゃべりませんし、当然名前もいえません」 「おお、そうなのか」 玄蔵は長女の子である悠也の言葉に目を瞬かせ、納得したように頷いた。 悠也は何故か純平とは違った理由で玄蔵のお気に入りの孫なのだ。 クスッと笑う悠也の整った横顔を見つめる新一の心境は複雑だった。 正体はわかっているものの、完璧にその人物になりきっている所はサスガという他はない。 身内である玄蔵や純平も全く気づいていないようだし。 親をも騙せるなら、その変装はもう完璧と言えるだろう。 しかし、新一が抱く感想はその技術に感嘆するのではなく、ただ一言なのだ。 ・・・・・嫌味な奴。 「では皆さん。我が岩佐家の秘蔵品をとくとごらん下さい」 玄蔵がそう言うと、招待された客たちは岩佐家秘蔵の宝石“蒼の龍玉”を見るためにわらわらと若い二人のもとへ集まってきた。 しかし、宝石だけを見てくれるならいいが、どっちに関心があるのかと思いたくなるほど露骨に女装した新一に熱い視線を送ってよこす男たちには辟易した。 こいつら、正気か? 純平がそばにいなきゃ身の危険さえ感じられる雰囲気にはゾッとする。 とにかく新一は、笑わず喋らずのマネキンに徹することにした。 見かけだけはなんとか女に見えているようだが、キッドのように声色を使えない身では声を出せば一発で男だとわかる。 それで正体がばれるまではいかないだろうが、やっぱり恥はかきたくなかった。 それよりも、どんなことで蘭に知られるかわかったものではないし。 (やっぱり、こんなとこに来なきゃよかったぜェ・・・) 今更後悔しても遅いのであるが、それでも思わないでいられない。
(ほえ〜〜) あっという間に客たちに取り囲まれ見えなくなってしまった新一に、平次は瞳を丸くした。 そりゃまあ近くでみたいよな、と平次だって思う。 秘蔵の宝石より突然現れた美女を、と。 「あなたのお連れは、とても美しい方なんですね。かけがえのない人だというのが納得できましたよ」 白馬の言葉に平次は、そういうんじゃないんやけどな、と苦笑した。 女装した新一があんなに美女ぶりを発揮するなど平次にとってはフェイントもいいとこだったのだから。 別に顔が気に入ったわけじゃない。 あいつの探偵としての優れた能力に平次は惹かれたのだ。 まあ、顔も嫌いじゃないなかったが。 「今の所、不審な人物は見あたりませんね」 そうやな、と平次も会場内を見回して頷く。 「純平の話じゃ招待客の身元は確かで、チェックも万全やということやけど」 「シルバーフォックスの場合、侵入経路の予測がつきませんから。一応予測できる限りの所は警官が張っていますが」 「それでも心配やっちゅう敵やのに、ようやるよなあ。ひょっとして、盗まれても平気な代もんやないんか?」 「そうですね。多分宝石としての価値は低いでしょう」 「え、そうなん?」 「珍しい石ではあるようですがね。翡翠に近い宝石だということですが、不純物がありすぎるそうです」 「へえ〜」 ああ、それで扱いが雑だったってえわけか。ガキだった純平に簡単に持っていかれるように。平次は納得できた。 「あれは宝石としてではなく、美術的価値があるものなんでしょう」 「美術的?あの首飾りは後から加工したもんなんやろ?」 「ですから、あの石に何かあるんですよ。でなければ、あのシルバーフォックスが獲物として狙う筈がない」 「あ、そうか。美術品専門の泥棒やったな」 美術的価値・・ねえ。 宝石に関してもあまり知識がないのに、美術品ともなれば完全に専門外だ。 え? ふいに背中がゾクッとするような威圧感を覚え平次は振り返った。 白馬も同様のものを感じたのだろう。平次と同じ方向に顔を向けている。 彼等が見たのは、二人の屈強な黒服の男たちを従えて会場に入ってきた一人の外国人だった。 長身で、くせのあるブルネットの髪に茶色の瞳。 年齢は30才くらいだろうか。 甘いそのマスクは、この間第二弾が出たスパイ映画に出演していた男優に似ている。 はっきり言って、この男の出現で女たちの目の色が変わった。 「Oho〜!ビューティフル!!」 唐突に現れた外国人のその男は、女装した新一に気がつき歓声を上げた。 男は西洋人らしい大袈裟なゼスチャーで新一の方へと近づいていく。 「なんや、なんやあいつ!?」 「ローデン氏ですよ」 平次は思わず新一の方へ足を向けかけたが、白馬の声に立ち止まった。 「え?もしかしてアメリカの資産家っちゅう・・・」 共同経営者のもう一方? 「後ろの二人はボディガードでしょう。ローデン氏ほどの資産家ともなれば、危険が多いですからね」 「誘拐とか」 「ええ。向こうは、ハリウッドスターでさえも狙われますからね」 ふうん? だったら、もし工藤がアメリカにいたらかなり危険だったかもしれないなと平次は考える。なにしろ、世界的に有名な推理作家と元美人女優の一人息子なのだから。 こっちに残っとって正解やったんかも。 だが、両親と一緒にアメリカへ行ってれば妙な組織にかかわることも、巻き込まれることもなかった筈だ。 こりゃ究極の選択やな、と平次は溜息をつく。 しかし、もう工藤の身に起こってしまったことだ。 選ぶという段階では既にない。 遅れてやってきたローデン氏は、新一を前に早口の英語でしゃべりまくっていた。興奮している様子がありありとわかるが、まわりにいる人間は何を言っているのかさっぱりわからない。ただ、新一を除いては。 ローデン氏は女装した新一の美しさを、そりゃもう恥ずかしくなるような形容で褒め称えているわけなのだが。 当然女ではない新一には責め苦とおんなじだ。 英語がわからなきゃ聞き流せたものを。 ローデン氏はニッコリと微笑むと、新一の首にかかった首飾りに手を伸ばした。 「・・・・!」 ハッとなり、思わず新一はその手から逃れるように身を引く。 「Oho〜sorry!驚カセテシマイマシタカ」 「満足して頂けましたかな、ミスターローデン。それが我が家に伝わる“蒼の龍玉”です」 玄蔵の言葉を通訳の女性が伝えるとローデン氏は頷いた。 「本当ニ素晴ラシイデス。コノ蒼コソ奇跡」 そして・・・と彼は新一の方に向き直ると恭しくその手を取った。 「レディ。アナタノ麗シキソノ瞳ガ本物デアルナラバ、ソレコソ奇跡ノ《ミステリアスブルー》我ガ望ミノ一ツニ他ナラナイ」 「・・・・・・っ!」 なんだと・・! 「何さらすんや、あの外人ーっ!」 いきなり新一の頬に接吻したローデン氏に平次は目を剥いて吠えた。 新一はというと、すぐに身を離したがその顔は色をなくしている。 「お・・落ち着いて・・!ただの挨拶やから・・!なっなっ」 すぐ隣にいた純平もタマげたが、それよりも新一のショックを気にしてか必死になって宥めにかかる。 英語であったために、純平はローデン氏の言ったセリフの意味を全くわかっていなかった。 「オ〜、失礼!マタモ驚カセテシマイマシタカ」 「・・・・・・・・・」 申し訳なさそうに詫びるローデン氏の顔を、新一は不審げに睨みつける。 偶然か? いや・・・あのセリフは知ってる者にしか言えないものだ。 チラッと一瞬だけ新一が確かめるように視線を向けたのは、車椅子の岩佐玄蔵のそばに立っている悠也の顔だった。 その顔には見たこと以外の動揺は見られなかったが、さっきのローデン氏のセリフはしっかり聞いた筈だ。 新一の耳につけられたイヤリングは盗聴器付きなのだから。 ローデン氏は、ほんの僅かに動いた新一の瞳の動きに気づき、口端を引き上げた。それに新一が眉をひそめた時だった。 突然会場の明かりが一斉に消えた。 「なっ・・なんやーっ!?」 丁度、新一の方へと向かっていた平次と白馬の二人は驚いて立ち止まるとまわりを確かめる。しかし、突然の暗闇で目が慣れず何も見えなかった。 ザワッと客たちの動揺した声が上がり、ホテルの従業員が慌てて明かりをつけるために走り出した。 「怪盗キッドだ!キッドがいるぞ!」 誰かの叫びに驚いて首を巡らせば、窓の外に月を背にしたシルクハットとマントというシルエットが浮かび上がっているのが見え全員が息を呑んだ。 「キッドだッ!捕まえろーッ!」 老人の扮装をして客の中に混じっていた中森警部が、白髪の鬘をむしり取ると大声で叫んだ。 それを合図に、ホテルの従業員に化けて張り込んでいた警官たちが一斉にキッドに向かって突進していった。 ありゃ〜と平次は意外な成り行きにびっくりして目をしばたたかせる。 そして、ようやく目が闇に慣れてきた平次はすぐに新一の姿を探した。 どうなっているのかわからないが、狙われているのが蒼の龍玉なのだからそれを身につけている新一を守ることが何にもまして最優先だった。 純平じゃ役に立たないが、とりあえずローデン氏についているボディガードがそばにいるのが助かる。 護衛に関してはプロだ。 不審な人物が近づけばそれに気づかぬ筈はない。 平次が走り出そうとしたその時、けたたましい破壊音が響き渡った。 警官たちが向かっていた窓ガラスが、外からなんらかの衝撃を受けコナゴナに砕け散ったのだ。 カン高い悲鳴が一斉に上がる。 間髪入れずに会場内に白い煙がたち上った。 「なんや!?どうなっとんのや!」 腕を上げて飛んできたガラス片を防いだ平次が、視界を塞ぎはじめた煙に顔をしかめた。 「工藤ーッ!」 平次は急いで新一が立っていた方向へ駆けていった。 白馬もガラス片と煙に行く手を阻まれながらも平次の後に続こうとした。 (まさか、キッドが・・・) レプリカキッドは怪盗キッドでは絶対にあり得なかった筈。 では何故こんなマネを? 「これは罠だ。惑わされるな」 白馬の傍らにスッとついた誰かが、彼の耳元でそう囁いた。 ハッとなって顔を向けた白馬の目に、ふわりと翻った白いマントが映る。 「キッド!?」 怪盗キッドの白い姿は、すぐに視界を塞いだ白煙の中へと消えていった。
頭上の空には金色の丸い月がぽっかりと浮かんでいた。 そこからの光だけが照らし出している高層ビルの屋上には、二つの影が向き合うように立っていた。 一人は長身の西洋人で、整った甘いマスクには楽しげな微笑が浮かべられている。 そして、対するもう一人は淡い水色のドレスを着た美少女で、険しく顔をしかめ男を睨みつけていた。 不覚にもあの騒ぎにまぎれて、破壊された窓からこの場所へと連れてこられた工藤新一であった。32階からだ。高所恐怖症でなくても身がすくんだ。 「テメー、いったいどういうつもりだ?」 どこから見ても美少女にしか見えない相手の口から出た不機嫌な少年の声に、ローデン氏は苦笑し肩をすくめた。 これが女ではないとは、実にもったいないと彼は思う。 だが、工藤新一の瞳が満月の光を受けて不可思議な蒼い輝きを帯びるのを見ると、ローデン氏はその美しさにうっとりと見とれた。 「まさに奇跡が生み出した芸術だね」 そう思わないか?とローデン氏は、フワリと屋上へ舞い降りてきた白い怪盗に向けて同意を求めた。 キッドが屋上に着地すると、白いマントがゆっくりと彼の背を覆う。 「芸術とは愛でるものであって、人の欲望の道具にするものではないというのがあなたの主義ではなかったのですか、シルバーフォックス?」 ほお?とローデン氏は目を瞬かせる。 「私を知っているのか?私の知る怪盗キッドは君ではなかったが」 二代目ですよ、とキッドは答えた。 「ああ、だろうね。ツインというには彼は年が離れすぎているからな」 キッドは眉をしかめ、新一を背に隠すようにして男と対峙した。 「どこまで知っているんです?あなたは組織とは関係がない筈だが」 組織・・ね、とシルバーフォックスはくくっと笑った。 「関係はないが、興味はあるよ」 シルバーフォックスは意味ありげにそう答えると若い二人を眺めた。 月明かりの中に立つ白い怪盗と、少女の姿をした少年の二人は、まるで美しい一枚の絵のようだった。 「確かに芸術は愛でるものだよ。その考えは変わっていない。だが」 「だが・・・なんです?」 シルバーフォックスは、ニッと笑って首をすくめた。 「やはり見てみたいだろう?人が神の領域に踏み込んだ結果というやつを」 「・・・・・・」 「そうそう、それにこの龍玉もね」 新一は男の手の中にある奪われた龍玉を見て前に出ようとしたが、キッドはそれを許さなかった。 「どけよ、キッド!」 「ご冗談。あなたを、何が目的なのかはっきりしない犯罪者に近づけられるわけないでしょう」 成る程、とシルバーフォックスは短く口笛を吹いた。 「白の魔術師はミステリアスブルーの守り手というわけか」 「んなわけあるか。オレたちの立場は対等だ」 新一の言葉に男はふ・・んと鼻で笑い、ゆっくり二人に近づいていった。 「日本に来るついでに昔なじみの怪盗キッドに会おうと予告状を出したんだが、いやはや面白い展開になったもんだ」 「レプリカキッドなんて名にしたのは、怪盗キッドを呼び出すためだったわけですか」 「ま、そういうこと。白の魔術師で思い浮かぶのは、あの男しかなかったんでね。だが早々に引退しているとは思わなかった」 「・・・・・・・」 どうやらシルバーフォックスは、初代怪盗キッドが組織に殺されたことを知らないらしかった。 「いいことを教えてやろう。龍玉は二つある」 「二つ?」 「目は二つだろ?こいつは龍の彫像の目の一つだったんだよ。興味があれば探してみろ。面白いことがわかるかもしれないぜ」 「あなたは探さないんですか」 男はフッと笑った。 「私の興味はたった今君達に移ってしまったんでね。興味が失せたことはやらない主義なんだ」 「シルバーフォックスってのは気まぐれなんだな」 自分に正直なもんでね、と答えると美術品をこよなく愛する怪盗は新一の首に再び蒼の龍玉をつけた。 「よく似合う。これで口をきかなきゃサイコーの芸術品なんだがな」 うるせー、と新一は鼻を鳴らした。 泥棒を楽しませるためにこんな格好をしたわけじゃない。 男の肩がおかしそうに揺れる。 「では、いずれまたどこかで」 シルバーフォックスは魅力的な笑みを浮かべ、そう言い残すとホテルの屋上から姿を消した。
「・・・怪盗ってやつはどうしてああ意味ありげな口のききかたをしやがんだ」 新一は眉間に深い皺を寄せると、残ったもう一人の怪盗を睨みつける。 キッドはそんな新一に苦笑をこぼした。 今だ新一は、どこから見ても美少女なのだから、睨みつけられても可愛らしいとしか思えない。 「そんな顔しないでほしいなあ。せっかくの美女がだいなし」 「さっきの泥棒とおんなじセリフを吐いてんじゃねえよ。まさか狙ってたわけじゃねえだろうが、テメー・・・面白がってやったろ」 とんでもない、とキッドは肩をすくめニッコリ笑った。 「たとえ偽りであろうと、あなたをこの手で美しくできたことは私にとって最上の喜び。できたら、またさせて頂きたいくらいですよ」 「二度とさせるかあ!」 そう新一が喚いた時、上がってきた警察ヘリの強いライトが屋上の二人を照らし出した。 「・・・・・!」 ーーーーキッド発見!! キッドはニッと笑うとフワリと屋上の縁に飛び乗った。 「じゃあなv」 肩ごしに振り返ったキッドの白い姿がスッと新一の前からかき消える。 いつもながら、たいした度胸だと新一はこれだけは感心した。 ハングライダーがあるといっても、この高さから飛び降りるにはかなりの勇気が必要だ。しかも、ビルやネオンの明かりがあっても夜の空を飛ぶというのは、普通かなり無謀なことなのだ。 「工藤!無事か!?」 ようやく屋上にたどり着いた平次が新一を見つけて駆け寄ってきた。 「おせえんだよ、おまえ」 「すまん、工藤!怪我してへんか?」 大丈夫というように新一は軽く首をすくめてみせる。 その時、丁度月の光が新一の蒼い瞳を浮かび上がらせたので平次はドキッとなった。 何度か見たことはあるものの、その蒼の持つ神秘的な輝きにはどうしても息を呑んでしまう。 しかも、今の新一は絶世の美女の姿だ。 顔とアソコが熱くなってしまっても仕方ない。 (・・・・カンベンしてぇな〜〜)
「へえ〜、これって龍の目やったんか」 事件から二日たってから、新一は平次と共に再び現場だったホテルの喫茶室で岩佐純平と会った。 そこで新一は、シルバーフォックスから聞いたことを純平に話した。 一応岩佐家では彼が蒼の龍玉の管理をまかされているようなので。 純平は新一の話に興味を示し、おおいに好奇心を刺激されたようだった。 「なあ、龍玉ってもう一つあるんやろ?で、その龍の像を見つけてこいつをはめたらいったい何があるんやろ?」 「ひょっとしてお宝があるんとちゃうかあ?」 「違うだろ、服部。あいつは面白いことがわかるって言ったんだ」 「あれ、そうやったか?それにしても、シルバーフォックスが獲物を盗らずに消えるやなんて珍しいんやてな。それに姿を見せたっちゅうのんも」 「・・・・・・」 このホテルの共同経営者だったローデン氏が忽然と姿を消したのは事件のすぐ後だった。 調べてみたら、ホテルが開業する前に共同経営者の権利は別の人間に移っていた。 ボディガードの二人も日本に来る直前に雇われたので事情をまるで知らなかったらしい。 「どないする、工藤?探してみるか?」 「オレはパス。んな胡散臭いことにかかわる気はねえよ」 「そうかあ?けど、シルバーフォックスがおまえにそんなことを教えたっちゅうことは探してみろってえことやないのか」 「そんなこと知るかよ。探したきゃ探せば?」 新一の素っ気ない返事に平次はアレ?と首を傾げた。 「どないしたんや工藤?いつもやったら、こういう謎解きにはすぐにとびついてきよるのに」 「興味が湧かないんだ。それだけ」 新一はそう言うとストローでコップの中の氷をつついた。 (なんや、いったい?なんかあったんやろか?) そういえば、あの騒ぎの時、白馬の様子も変だったような気がする。 それに、警察は屋上でキッドの姿を確認したとか言っていたが、新一はそのことも平次に言ってない。 (オレ、おまえに信用されてないんやろか・・・) だとしたら、かなり情けない。 しかし、新一が何か隠しているのだとしても、それを問いつめる自信が今の平次にはなかった。 (おまえの抱えとる問題の深さがまだオレにはわかっとらんからな・・・) それは自分の力で調べるしかないのだ。 気分を切り替え、平次はニマッと楽しそうな笑顔を新一に向けた。 「なあ、工藤vまたこの前のような格好してくれる気あれへん?」 新一はジロッと平次の顔を睨む。 「バーロ。するわけねえだろ」 「あ、やっぱし?」 平次はガッカリした。
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初女装新ちゃんでしたv桜沢さんのイラストに刺激されて書いてみましたが、
結構楽しめました。また、別のネタで書いてみてもいいかなあ、なんて(^^)