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(7)素戔嗚尊(すさのおのみこと)

                         平成(04)16年11月10日   (記) 淡  路   宏


 高天原(たかまがはら)から追放された素戔嗚尊(すさのおのみこと)

 伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が、阿波岐原(あわぎはら)で禊(みそ)ぎのとき生まれた素戔嗚尊は、天照大神(あまてらすおおみかみ)、月読命(つきよみのみこと)とともに三貴子といわれた内の一人で、日本神話の主役として重要な一翼を担う神である。

 建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)ともいい、建速(たけはや)は荒(すさ)ぶの意で、荒々しい行為が多かったので、そのために付けられたものと思われる。

 ところが、始めのころは、父・伊弉諾尊(いざなぎのみこと)に命じられた「海原(うなばら)の国」を治めようともせず、亡き母の国「黄泉(よみ)の国」に行きたいと、泣いてばかりいたという一面も持っていた。

 だが、何と言っても素戔嗚尊(すさのおのみこと)といえば、後に八岐(やまた)の大蛇(おろち)退治・国土経営(こくどけいえい)を行う英雄神としての存在の方が大きい。

 高天原(たかまがはら)で暴れ回っていた素戔嗚尊(すさのおのみこと)は、ついに天照大神(あまてらすおおみかみ)が神に奉る神衣(しんい)を織る機屋(はたや)に、天馬の皮を剥(は)いで投げつけるという乱暴を働いて、これを見た織女(おりめ)はびっくりして死ぬという騒ぎを巻き起こした。

 この有様をご覧になった月読命(つきよみのみこと)は大いに驚き、難を避けようと、天の岩戸に入り、堅く戸を閉じてしまったのである。

 暴れ回っていた素戔嗚尊(すさのおのみこと)は、ついに八百萬神々(やよろずのかみがみ)の会議にかけられた末、髪(かみ)を切り、髭(ひげ)を抜かれ、手足の爪も抜かれて、高天原(たかまがはら)を追放されたのである。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の子として、また天照大神(あまてらすおおみかみ)の弟という尊(とうと)い身を、今では身の置き場所もなく、辺鄙(へんぴ)な出雲(いずも=島根県)国に降臨(こうりん)した。

 素戔嗚尊(すさのうのみこと)が出雲(いずも)へ降臨(こうりん)してからの神話が、人々に福祉(ふくし)を授(さず)ける神として仰(あお)がれ、その真価を余すところなく発揮されるのである。

 素戔嗚尊(すさのおのみこと)が出雲の簸(ひ)の川の堤(つつみ)を歩いて行くと、川上から箸(はし)が流れてきた。尊(みこと)は、「箸が流れてくるからには、必ず上流に人が住んでいるに違いない」と、なおも川に沿って行くと、美しい一人の少女と二人の老人が泣いていた。「お前たちは何者であるか」と問うと、老人は「わたくしは大山津見神(おおやまつみのかみ)の子で、この国に住む神です。名は足名椎(あしなづち)と申します。妻は手名椎(てなづち)、娘の名は櫛名田比売(くしなだひめ)と申します。」という。「それにしても、お前たちが泣いているのは、何故(なぜ)なのか・・・」と尋ねると、「実は、私たちにはもと八人の娘がありました。ところが、ここに恐ろしい高志(こし)の八岐(やまた)の大蛇(おろち)というのが毎年現れて、娘を一人ずつ食べてしまうのです。今またその時期になり、一人残ったこの娘も食べられるかと思うと、悲しくてならず泣いているのです。」と申し上げた。


 八岐(やまた)の大蛇(おろち)退治(たいじ)

 尊は、その八岐(やまた)の大蛇(おろち)はどんな形かとたずねると、老人は「目はホオズキ様に紅く、身体は一つで、頭が八つあり、その身体には苔(こけ)や桧(ひのき)、杉だのが生い茂っています。その長さは八つの谷と八つの峰(みね)にわたるほど大きく、その腹は全体にいつも血が流れ、真っ赤にただれています。」と言った。

 それを聞いた尊は、「よし、それなら退治してやろう。安心するがよい。そして、この少女がおまえの娘ならば、わしにくれないか。」言ったが、老人は「どこの方かわからないので・・・」と言うと、「わしは天照大神の弟である。いま高天原(たかまがはら)からここへ降(くだ)ってきたばかりだ。」と言うと、老夫婦は「それならば、まことに畏(おそ)れ多いことですが、早速(さっそく)娘を差し上げましょう。」と申し上げた。尊は勇躍(ゆうやく)として、八岐(やまた)の大蛇退治(おろちたいじ)に取りかかった。

 少女を櫛(くし)に化身(けしん)させて自分の髪(かみ)に挿(さ)し、足名椎(あしなづち)、手名椎(てなづち)に命じて、まず、おいしい酒を造(つく)らせ、その周囲に垣を作り、垣に八つの門を作り、それぞれの門に八つの桟敷(さじき)をこしらえた。その桟敷(さじき)ごとに酒を満たした甕(かめ)を置いて、静かに時の到(いた)るのを待った。

 ほどなく天地を轟(とどろ)かせ、生臭(なまぐさ)い風があたりをつつんで天も曇り、ごうごうたる大音響(だいおんきょう)を山に鳴り響(ひび)かせて、その大蛇(だいじゃ)が現れた。

 八岐(やまた)の大蛇(おろち)は、大好物(だいこうぶつ)の酒(さけ)の匂(にお)いに、娘のことも忘れて、八つの門に頭をつっこみ、グイグイとたちまち飲(の)み干(ほ)した。

 さすがの大蛇もついに酔(よ)いつぶれ、ぐっすりと寝込んでしまった。尊は大蛇(だいじゃ)に忍びより、十拳剣(とつかのつるぎ)を振(ふ)ってずたずたに切り刻んだため、簸(ひ)の川は血が流れて真っ赤になった。なおも尾の方へ切り進んで行くと、大蛇の中から一振(ひとふり)の太刀(たち)が発見された。これは、「都牟羽之太刀(つむはのたち)」という名剣である。八岐(やまた)の大蛇(おろち)のいたところには、いつも叢雲(むらくも)が棚引(たなび)いていたのはこの剣のためであったかと思い、これに「天叢雲剣(あめのむらくもつるぎ)」と命名した。後に、これを高天原にいる天照大神に、お詫(わ)びの印(しるし)として献上(けんじょう)したのである。三種(さんしゅ)の神器(じんぎ)の一つである。「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」がこれである。

 素戔嗚尊(すさのおのみこと)と櫛名田比売命(くしなだひめのみこと)=(足名椎(あしなづち)・手名椎(てなづち)の娘)との間の子孫に、出雲(いずも)の神々の中心をなす大国主命(おおくにぬしのみこと)がある。

 尊が次に結ばれたのが大山津神(おおやまつかみ)の娘・神大市比売命(かみおおいちひめのみこと)であるが、二人の間に生まれた子が大年神(おおとしかみ)、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)である。天照大神(あまてらすおおみかみ)が素戔嗚尊(すさのうのみこと)の十拳剣(とつかのつるぎ)を三段に折って聖水をふり、噛んで吹きすてた。その息から化生(けしょう)したのが宗像三神(むなかたさんしん)、つまり奥津島比売命(おくつしまひめのみこと)、市杵島比売命(いちきしまひめのみこと)、多岐津比売命(たぎつひめのみこと)である。五十猛命(いそたけるのみこと)、大屋津媛命(おおやつひめのみこと)、爪津媛命(つまつひめのみこと)の三神は素戔嗚尊(すさのうのみこと)の子の説もあるが、次の須勢理比売命(すせりひめのみこと)も宗像三神(むなかたさんしん)と同じく化生(けしょう)した神ともいえる。須勢理比売命(すせりひめのみこと)は大国主命(おおくにぬしのみこと)と結婚した。

 「備後国風土記(びんごこくふどき)」に書かれている神話に、疫病除(えきびょうよ)けの蘇民将来(そみんしょうらい)の主人公・武塔天神(むとうてんじん)は、須佐之男尊(すさのおのみこと)であると載っている。また、八坂神社(やさかじんじゃ)の祭神・午頭天王(ごずてんのおう)は素戔嗚尊(すさのおのみこと)と同じ人であるという。
午頭天王(ごずてんのおう)というのは、諸行無常(しょぎょうむじょう)と鳴ることで知られるインドの祇園清舎(ぎおんそうじゃ)の鐘(かね)の守護神(しゅごしん)であるともいう。八坂神社を祇園社というのもここから来ている。「日本書紀」に、素戔嗚尊(すさのおのみこと)は朝鮮の曽戸茂梨(そしもり)に行ったことが記されている。曽戸茂梨(そしもり)は韓国語で午頭(ごず)のことであるという。と言うことは、単に伝説としてのみでなく、実際に素戔嗚尊(すさのおのみこと)は朝鮮に渡ったことがあると考えられる。


 主なご利益と神社

 素戔嗚尊(すさのおのみこと)は農神(のうしん)・疫病送(えきびょうおくり)などの信仰が厚い。また、学問や縁結(えんむすび)、商売繁盛(しょうばいはんじょう)、国土安泰(こくどあんたい)、国家安泰(こっかあんたい)などにご利益(りやく)があるとされている。


《 素戔嗚尊を祀る主な神社と祭礼 》

新羅神社・・・・・・・青森県八戸市糒塚
氷川神社・・・・・・・埼玉県大宮市高鼻町
    *例祭:8月1日、大湯祭:11月30日〜12月11日
出雲伊波比神社・・・・埼玉県入間郡毛呂町
    *流鏑馬:10月29日
金鑚神社・・・・・・・埼玉県児玉郡神川村
*例祭:4月15日、福迎之祭:1月3日
羽田神社・・・・・・・東京都大田区本羽田
*厄除け祭:7月末の土・日曜日
熱田神社・・・・・・・愛知県津島市明神町
    *例祭:6月15日  *天王祭:6月14日〜15日
熊野本宮大社・・・・・和歌山県東牟婁郡本宮町
    *例祭:4月13日〜15日 *八咫烏神事:1月7日
                  *船玉祭:4月上旬 
剣神社・・・・・・・・福井県丹生郡織田町
*例祭:10月9日〜10日 *佐義長:2月11日 
日御碕神社・・・・・・島根県簸川郡町大社
*例祭:8月7日 *和布刈神事:2月22日
須佐神社・・・・・・・島根県簸川郡佐田町
八坂神社・・・・・・・京都府京都市東山区祇園町
    *例祭:6月15日 *おけら祭:元旦
    *祇園祭:7月14日〜17日・21日〜28日
高浜神社・・・・・・・大阪府吹田市高浜町
*エビス・大黒祭:1月9日〜11日 *初天人祭:8月4日〜5日
*秋祭:10月4日〜5日
方違神社・・・・・・・大阪府堺市北三国丘
*粽祭:5月末日
普天間宮・・・・・・・沖縄県宜野湾市普天間
*例大祭:旧9月15日



☆ 素戔嗚尊の家系図

  D伊弉諾尊が禊をしたときに化成した神 ☆☆☆G天照大神 ☆F月読命☆@素戔嗚尊

                     C大山津見神   
                          ↓      
                          ↓
B足名椎*******A手名椎神  H神大市比売尊***  
        ↓                        *→→I宇迦之御魂神
        ↓                        *
E櫛名田比売命************** @素戔嗚尊**** →→J大年神
             ↓            ☆     
             ↓            ☆M須勢理比売命
    *****L八島士奴美神        ☆
    *                     ☆N爪津媛命     
    *****K木花知流比売命       ☆
                          ☆O大屋津媛命
                          ☆
                          ☆P五十猛命
                          ☆
                          ☆Q多岐津比売命
                          ☆
                          ☆R市杵島比売命
                          ☆
                          ☆S奥津島比売命

@素戔嗚尊(すさのおのみこと)
A手名椎(てなづち)
B足名椎(あしなづち)
C大山津見神(おおやまつみのかみ)
D伊弉諾尊(いざなぎのみこと)
E櫛名田比売命(くしなだひめのみこと)
F月読命(つきよみのみこと)
G天照大神(あまてらすおおみかみ)
H神大市比売尊(おむおおいちひめのみこと)
I宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)
J大年神(おおとしかみ)
K木花知流比売命(このはなちるひめのみこと)
L八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)
M須勢理比売命(すせりひめのみこと)
N爪津媛命(つまつひめのみこと)
O大屋津媛命(おおやつひめのみこと)
P五十猛命(いそたけるのみこと)
Q多岐津比売命(たぎつひめのみこと)
R市杵島比売命(いちきしまひめのみこと)
S奥津島比売命(おきつしまひめのみこと)

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