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(6)大国主命 (おおくにぬしのみこと)

                                        (記) 淡  路   宏

国譲り会談は平和裡に決着して、
後に大国様として各家に住み着いている。


因幡白兎

 大国主命は出雲神話の主役であり、もちろん出雲大社の主祭神である。素戔嗚尊(すさのおのみこと)の子とも、六世の孫ともいわれ、少彦名と協力して天下を経営し、禁厭(きんえん:まじないのこと)医薬などの道を教えた。

 大国主とは大国を治める大王の意である。またの名を大穴牟遅神(おおなむちのかみ)、大己貴命(おおなむちのみこと)、葦原色許男神(あしはらしこおのかみ)、八千戈神(やちほこのかみ)、宇都志国玉神(うつしくにたまのかみ)、大物主命(おおものぬしのみこと)などともいう。

 素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祖とする天之冬衣神(あめのふゆきぬのかみ)を父、刺国若比売命(さしくにわかひめのみこと)を母として生まれた大国主命は、いうなれば由緒ある名家の血統を引いてることになる。女性関係も非常に艶福家(えんぷくか)で、八上比売命(やかみひめのみこと)をはじめ須勢理比売命(すせりひめのみこと)、沼河比売命(ぬまかわひめのみこと)や、その他の女性との関係が知られている。従って、生まれた子も男女八十名に余るという。

 大国主命には多くの異母兄弟があって、この兄弟の神々を総称して八十神という。みな心のよからぬ神々で、常に弟である大国主命ばかりをいじめていた。

 ここ、因幡の国(鳥取県)に八上比売命という絶世の美人がおり、八十神たちはこの美人を嫁にせんと、連れだって因幡に赴いた。大国主命は家来同様に、重たい荷物を入れた大きな袋を背負わされてお供したのである。重い荷物を背負っているため大分遅れてとぼとぼと歩いていると、ある浜辺に出た。

 一匹のウサギが丸裸なって泣いている。大国主命は可哀想になり、理由を尋ねると、「私は隠岐(おき)の島にいましたが、是非とも本国に渡りたいと思い、ウサギと鰐鮫(わにざめ)とどちらが多いか比べてみようといって、鰐鮫を集めさせ、その上を踏んで数えながら、もう少しで向こう岸に着こうというときに『お前達は上手くだまされたね』といった。すると最後の鰐鮫が怒って私を捕らえて、私の毛皮をすっかり剥ぎ取ってしまいました。そこへ、先にきた神々が『海水を浴びて風に吹かれて寝ておれ』と教えてくれました」という。

 この話を聞いた大国主命は「それは大変だ、今すぐ河口に行って、真水で体を洗い、蒲(がま)の穂を取って敷き詰め、その上に臥ていれば、もとのように治るであろう」と教えた。ウサギはその通りにすると、たちまちもとの白ウサギにもどったので大喜び。

 これが神話に出てくる有名な因幡の白兎(しろうさぎ)といい、今でも白兎神(はくとしん)として祀っている。よろこんだ白兎は、「兄弟の神々は、誰も八上比売命とは結婚することはできないでしょう。それに比べてあなたは立派な方です。あなたこそ八上比売命と結婚なされるでしょう」といった。はたして白兎の予言通りに、八上比売命は「私は大国主命の妻になります」とはっきり言ったので、八十神たちは憤慨して、大国主命を殺してしまおうと相談した。


打ち続く受難

 兄弟たちは、打ちそろって、伯耆国(ほうきのくに)の手間山の麓にきたときに、八十神たちは大国主命に、「この山にイノシシ(猪)がすんでいる。われわれはイノシシを追い出すから、お前は下で待ち受けて捕らえよ、もし捕らえそこなったら必ずお前を殺す」と言ってイノシシに似た大きな石を火で焼いて転がした。なにしろ焼けた大きな石なので、大国主命はこれを捕らえることができず、大火傷をして気を失った。

 これを見た母の刺国若比売命(さしくにわかひめのみこと)は泣き悲しみ、高天原の神産巣日神(かみむすびのかみ)にお願いして、K貝(きさがい:赤貝)姫と蛤貝(うむき:ハマグリ)姫とを派遣してもらった。K貝(きさがい)姫は、その殻を削って焼きこがし、蛤貝(うむき)姫は貝の中の水を出し、両方を混ぜ合わせて、乳汁のようにして大国主命に塗りつけると、さしもの大火傷もきれいに治って、元の美しい立派な男になった。

 八十神たちはこれを見て、またもやあざむき大国主命を山の中に連れ出したのである。そして大樹を切り倒して、その倒れた大木の切り口を二つに割いて楔(くさび)をはめて打ち込み、できた割れ目に大国主命を入れたところで、楔を取り外して挟み殺そうとした。またも母の刺国若比売命(さしくにわかひめのみこと)は泣き泣き、ようやく捜し出すと、母の一念でただちにその木を裂き割って、無事に大国主命を助け出した。「お前がこの地にいると、八十神達はお前を憎んで、やがて殺されてしまうだろう。はやくこの地から遠ざかったほうがよい」と言って、紀伊国(和歌山県)の大屋毘古命(おおやひこのみこと、注:素戔成尊の子=五十猛命:いそたけるのみこと)のもとへ遁(のが)れさせた。これを知った八十神たちは、追いかけ、追いつき、矢で射殺そうとしたので、大国主命は大木の下に隠れ、すきをみて木の股の間から、辛うじて逃げのびた。

 母の刺国若比売命(さしくにわかひめのみこと)は「どうもこの辺は駄目だから、いっそのこと素戔嗚尊(すさのおのみこと)のいる根の堅州国(出雲国=島根県)へ行きなさい。きっと良いように取り計らってくれるでしょう」と言った。母の言われるままに、しばし妻:八上比売命とも別れて、素戔嗚尊を尋ねて行くことになった。


素戔嗚尊(すさのおのみこと)との出会い

 美男のほまれ高い大国主命は、行く先々で常に女性に好かれる。ここでも素戔嗚尊の娘=須勢理比売命の出迎えを受け、目と目を合わせると、たちまち意気投合した。須勢理比売命は家に入り「非常に美しい神様がお出になりました」と素戔嗚尊に告げると、「おお、これは葦原色許男(あしはらしこお:大国主命の別名)という神である」といって屋内に入れ、胆力を試すことにした。まず手はじめに「今夜は蛇の室に寝よ」と命令した。

 大国主命は、自分の運命に思いを巡らせた。先には八十神達にいじめられ、逃れてくれば不気味な命令が待ち受けている。しばし涙に暮れていると、須勢理比売命がきて、ひそかに蛇の比礼(ひれ:害を割けるため振り動かして祈る布)という蛇退治の品をくれた。それがために大国主命は、安心してその夜は蛇の室に寝ることができた。次の夜は、蜂とムカデの室に入れられたが、またもや須勢理比売命は、蜂とムカデの比礼を渡し、前と同様にするように教えてくれたので、何事もなく眠ることができた。

 これを見て、さすがの素戔嗚尊も”う〜ん”とうなって感心したが、今度はさらに難しい大問題でせまった。

 それは、広い野原に鏑矢を射込んで”あの矢を拾ってこい”と言いつけ、大国主命が野原に入ったころあいを見計らって、四方から火を放ったため、さすがの大国主命も逃げ場を失い、もはやこれまでと覚悟を決めると、一匹のネズミが現れて「内は洞洞、外はスブスブ」(内部に空洞がある、外部はきちんとしぼんでいる)と言ったので、足下を踏むと足下の土がポッカリと穴が開いたので、その中に身をかくして火から逃れた。

 しかし、鏑矢がないことにはどうしようもない。そこへ、先のネズミが一本の矢をくわえてきたが、ただその矢の羽根は小ネズミどもが食ってしまった。一方、須勢理比売命は、当然大国主命は焼死したものと思い、父素戔嗚尊とともに野辺に立ち出でて、葬式のことなどを考えていると、その前に鏑矢を持った大国主命の無事な姿が現れたので、非常に喜んで、今度は八田間(やたま)の大室へ案内した。

 これがまた、一難去ってまた一難という試練がまっている。「お前はなかなか見どころがある。ついては、わしの頭の虱(しらみ)を取ってくれないか」というので、大国主命が近寄って見ると、虱(しらみ)にあらで大きな百足(むかで)がうじゃうじゃいるではないか。困っていると、須勢理比売命がそっと目配らせして、赤土(はに)と椋(むく)の実を噛み砕き、ともに吐き出すと、ちょうどムカデを噛んで吐き出したようになったので素戔嗚尊は勇気のある可愛い男だと思い、安心して眠りについた。



ついに出雲国の大守となる 

 大国主命は、このままでは後から後からと、どんな難題がくるやも知れず、いっそのことこのすきに逃げだそうと須勢理比売命に相談する。そこで、まず素戔嗚尊の髪を幾つかに分けて、いちいち垂木に結びつけ、五百引石(いほひきいし:五百人もかからねば動かない大きな石)で室の戸をふさいでしまった。そして須勢理比売命を背負い、素戔嗚尊が大切にしている生太刀(いくたち)・生弓矢(いくゆみや)および天沼琴(あめのぬこと)の三品を取り出して、一目散にその場を逃げ出した。

 あまりあわてたものだから、天沼琴(あめのぬこと)が木の枝に触れてしまった。さあ大変、天沼琴(あめのぬこと)がビ〜ン、ゴロンと鳴り響いたため、よい心地で寝ていた素戔嗚尊は、驚き目覚めてしまった。垂木に結びつけた髪を一つ一つほどいているうちに、大国主命と須勢理比売命はどんどん遠くまで逃げのびて行ってしまった。

 素戔嗚尊は、黄泉比良(よもつひら)というところまで追ってきたが、遙かに逃げ行く大国主命に、「お前が持っていった生太刀(いくたち)・生弓矢(いくゆみや)をもって、八十神たちを追い払い、お前が国土主宰の大国主の神(実はこの時は、大穴牟遅[おおなむち])といっていた)となり、また現世界に恩恵を与える宇都志国魂神(うつしくにたまのかみ)となって、娘の須勢理比売命を正妻とし、出雲国の宇迦山の麓に、丈夫な柱をしっかりと建て、高天原に届くほどの高い千木を出す神殿をつくり、そこにすまいせよ」といった。この神殿が有名な出雲大社のはじまりである。

 ここにおいて、いよいよ大国主命は、少彦名神の助力を得て、造国、国土経営の大事業に着手したのである。

 一方たぐいまれな美男である大国主命の女性関係は、至る所でもてもてという男冥利に尽きる幸運児である。

 最初の八上比売命との間には木俣神(きのまたかみ)。次は、須勢理比売命。次に沼河比売命と結ばれて、建御名方神(たけみなかたのかみ)が生まれ、その後も、多紀理比売と結婚、二人の子どもが生まれた。また神屋楯比売命との間に優良児・事代主命が生まれ、鳥耳神とも結婚している。だが、何と言っても大国主命は、七福神の一人で、「えびす」と共に、カマド(竈)の神として台所などに祀られている大黒様である。その姿は、頭巾をかぶり、左に大きな袋を負い、右手に打出の小槌を持って、米俵を踏んまえている福徳円満の神として知られている。


 主なご利益と神社

 大国主命の主な事蹟、業績は、国内平定、国土経営および修理、農業保護、禁厭法の制定などであり、また医薬、温泉の神でもある。古くから開拓の守護神であり、五穀豊穣、農業・漁業の守護、航海・交通安全および学業成就、商売繁盛、家内安全、厄除開運・勝運などいうまでもない。さらに縁結び、夫婦和合、安産・子育て、病気平癒から歌舞・音曲にまで、ご利益はかなり広範囲におよんでいる。


[大国主命を祀る主な神社と祭礼]
 
○北海道神宮
 ・北海道札幌市中央区宮ケ丘   例祭     6月15日 
○大洗磯前(いそざき)神社
 ・茨城県東茨城郡大洗町     例祭     9月 9日 
○酒列磯前神社(さかつらいいそざきじんじゃ)
 ・茨城県那珂湊市磯前町     例祭    10月10日 
○二荒山神社
 ・栃木県日光市山内       例祭     4月17日 
○氷川神社
 ・埼玉県大宮高鼻町       例祭     8月 1日 
○神田神社
 ・東京都千代田区外神田宮本町  例祭     5月12日 
○気多大社
 ・石川県羽咋市寺家町      例祭     4月 3日 
○高瀬神社
 ・富山県東砺波郡井波町高瀬   例祭     9月13日 
○出雲大社
 ・島根県簸川郡大社町宮内    例祭     5月14日 
               神在祭  旧暦 10月10日
○大神山神社
 ・鳥取県西佐伯郡大高村     例祭    10月 9日 
○砥鹿(とが)神社
 ・愛知県宝飯郡一宮町      例祭     5月 4日 
○日吉神社
 ・滋賀県大津市坂本本町     例祭     4月14日 
○大和(おおやまと)神社
 ・奈良県天理市新泉町      例祭     4月 1日 
○大神(おおみわ)神社
 ・奈良県桜井市三輪       例祭     4月 9日 
○出雲大神宮
 ・京都府亀山市千歳町      例祭    10月21日 
○伊和神社
 ・兵庫県宍栗郡一宮町      例祭    10月15日 
○都農神社
 ・宮崎県児湯郡都農町川北    例祭    11月 5日 

  ( 以 上 )


社 殿

 社殿とは、神が訪れ、住まい、そして人が祈る建築の姿。

大社造

 正面側面とも柱間(はしらま)二間で切妻妻入屋根(きりつまつまいりやね)をかける大社造は、出雲大社を中心とした地域に多く造られた社殿形式である。正背面中央の柱は直接棟木を支える棟持柱で、側面の柱より太い。うず柱と呼ばれる大社造に特徴的な柱である。神魂神社本殿(かもすじんじゃほんでん)は現存最古の社殿である。うず柱は壁の中心より少し外側に立てられるが、神魂神社(かもすじんじゃ)では出雲大社より大きく外に外れ、柱の約三分の二が表に見えるほどであり、構造上古い形式を残していると考えられる。


注連縄(しめなわ)

 注連縄(しめなわ)とは、稲藁のらせんが隔てる浄と不浄の表現。

 注連縄は普通、藁を左ないにつくり、ない始めを向かって右側にしてつり下げる。ただし、大神(おおみわ)神社や出雲大社など、古代からの一部の神社では、逆さに飾ることになっており、その理由は定かでない。

 注連縄に紙垂(しで)とともに付ける藁の飾りを「〆の子」とも言い、これを七・五・三本と三つに分けて垂らすのが古い形式らしく注連縄のことを七五三縄とも書く。注連縄の中央を太くするのは東北地方に多く、〆の子や両端を飾り結びにするものなど、さまざまな種類がある。


出雲大社拝殿の注連縄

 (重文・島根)注連縄。右ない出、胴回り4メ−トル、長さ8メ−トル、重さ1.5屯。

                                  (以 上)


☆☆☆ 大国主命の家系図 ☆☆☆

        @素戔嗚尊・・・・・・A櫛名田比売命
                 ・
                B天之冬衣神・・・・・・・・C刺国若比売命
                           ・
                           ・・・・・・・・・・・・・・・・・D八十神
                           ・     
        E大国主命・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・F八上比売命
                              ・    ・     ・
                              ・    ・     ・・・・・・・・・N木俣神
                              ・    ・
                              ・    ・・・・・・・・・・G多紀理比売命
                              ・       ・
                              ・       ・・・・・・M高比売命
                              ・       ・
                              ・       ・・・・・・L阿遅L高日子根神
                              ・
                              ・・・・・・・・・・H須勢理比売命
                              ・
                              ・・・・・・・・・・I神屋楯比売命
                              ・    ・
                              ・    ・・・・・・・・・・Q事代主命
                              ・
                              ・・・・・・・・・・J沼河比売命
                              ・    ・
                              ・    ・・・・・・・・・O建御名方神
                              ・
                              ・・・・・・・・・・K鳥耳神
                                    ・
                                    ・・・・・・・・P鳥鳴海神



@素戔嗚尊(すさのおのみこと)
A櫛名田比売命(くしなだひめのみこと)
B天之冬衣神(あめのふゆきぬのかみ)
C刺国若比売命(さしくにわかひめのみこと)
D八十神(やそのかみ)
E大国主命(おおくにぬしのみこと)
F八上比売命(やかみひめのみこと)
G多紀理比売命(たきりひめのみこと)
H須勢理比売命(すせりひめのみこと)
I神屋楯比売命(かみやたてひめのみこと)
J沼河比売命(ぬまかわひめのみこと)
K鳥耳神(とりみみのかみ)
L阿遅L高日子根神(あじしきたかひこねのかみ)
M高比売命(たかひめのみこと)
N木俣神(きのまたのかみ)
O建御名方神(たけみなかたのかみ)
P鳥鳴海神(とりなるみのかみ)
Q事代主命(ことしろぬしのみこと)



☆☆☆ 少彦名神(すくなひこなのかみ)の家系図 ☆☆☆

 ・・・・・@神産巣日神・・・・・・・C宇麻志阿斯訶備比古遅神・・・・・E天之常立神
   ・             ・
   ・              ・・・D少彦名神
   ・
   ・・A八意思兼神
   ・
   ・・B萬幡豊秋津師比売命


@神産巣日神(かみむすびのかみ)
A八意思兼神(やごころおもいかねのかみ)
B萬幡豊秋津師比売命(よろずはたとよあきつしひめのみこと)
C宇麻志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)
D少彦名神(すくなひこなのかみ)
E天之常立神(あめのとこたちのかみ)

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