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(1)大山咋神(おおやなくいかみ)

                       2004年(平成16)7月 2日          淡 路  宏

 加太春日神社の祭神は、天照大神・天児屋根命・武甕槌神・住吉大神・大山咋神であるが、大山咋神とは、どのような神であるか次に述べる。

 大山咋神は、開拓による国土建設には著しいものがある。かと思えば酒造りにも長じている素戔嗚尊(すさのおのみこと)の愛孫に当たる。

天才的な土木事業家

 素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祖父、大年神を父とする大山咋神(おおやなくいかみ)は、開拓の祖神としてあがめられている。母は、天知迦流美豆比売神(あめしるかるみずひめのかみ)という。十名兄弟姉妹の三番目に生まれた。

 大山咋神は、またの名を山末之大主神(やますえのおおぬしかみ)ともいう。山末とは山裾(やますそ)、つまり山麓(さんろく)と同じ意味をもっている。

 妻は建玉依比売命(たけたまよりひめのみこと)といい、京都の加茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)=下鴨神社(しもかもじんじゃ)の祭神である。加茂建角身命(かもたけつぬのみこと)の娘である。子は加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)といい、加茂別雷神社=上賀茂神社の祭神となった神である。

 あるとき、大山咋神(おおやなくいかみ)が山に鳥獣を求めて狩り行った時、獲物に向かって放った矢が瀬見の小川に落ちてしまった。矢は清流に沿って流されていく。おりから加茂の小川のほとりを散歩していた建玉依比売命(たけたまよりひめのみこと)は、目の前の小川に美しい※丹塗(にぬり)の矢が流れて来たのを見た。流れにまかせるままにするのが惜しい、まことに美しい矢であったので、建玉依比売命(たけたまよりひめのみこと)はこれを拾い、持ち帰って自分の床の近くに挿し、朝に夕にながめていた。すると、不思議や不思議、建玉依比売命(たけたまよりひめのみこと)はまもなく妊娠して、男の子が生まれた。この子が加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)である。そして、この丹塗の矢となって流れ着いた神こそ、大山咋神(おおやなくいかみ)の化身であったという。

 加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)が大きくなったとき、祖父・加茂建角身命(かものたけつのみのみこと)は大いに喜んで、宏壮(こうそう)な八尋殿(やひろでん)という御殿を建て、八うんの酒をたっぷりと造った。そして多くの神々を集め、七日七夜にわたっての大祝宴を開いたのである。 (注)八うん:八回かもす、八回発酵させる

 宴たけなわの頃、加茂建角身命(かものたけつのみのみこと)は、加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)を呼び寄せ「お父さんと思われる人に、この酒を注ぎなさい。」と言いつけた。加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)は杯を掲げ、天に祈ると、たちまち屋根を突き破って天に上がってしまった。実は昇天によって加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)と命名されたのである。

 それはさておき、大山咋神(おおやなくいかみ)は土木の知識にすぐれており、主に山城の国(京都府)、丹波の国(兵庫県)地方の開拓事業に専心していた。特に、この間を流れる大堰(おおい)の治水工事の成功により、水害の憂いを免れた流域に住む住民からは、絶大な尊敬を受けた神である。


☆主なご利益神社

 大山咋神(おおやなくいかみ)は、酒を造る上手な神であったため、今にいたるまで酒造業・酒店・酒飲業者の繁栄を願い、酒の神として敬われている。
 また丹塗(にぬり)の矢となって、建玉依比売命(たけたまよりひめのみこと)と結ばれたことにより、縁結びの神としても信仰が厚い。

大山咋神(おおやなくいかみ)を祀る主な神社と祭礼
○東京都 千代田区長田町・・・・・・・日枝神社
○滋賀県 大津市坂本町・・・・・・・・日吉大社
○京都府 京都市西京区嵐山宮町・・・・松尾大社


大山咋神(おおやなくいかみ)(戸籍謄本)

○本籍地・・・出雲国
○出世地・・・出雲国
○族・・・・・地祇族(くにつかみぞく)
○寄留地・・・京都府「松尾大社」、奈良県「日枝神社」、滋賀県「日吉大社」
その他各地の松尾神社・日枝神社・日吉神社と名の付く神社。
○職業・・・・土木建築業。酒造業。
○妻・・・・・建玉依比売命(たけたまよりひめのみこと)
○子・・・・・加茂別雷命(かものわけいかずちのみこと)
○実父・・・・大年神(おおとしかみ)
○実母・・・・天知迦流美豆比売神(あめしるかるみずひめのかみ)


<家系図>

大年神
|−−−−−−−−−−−大山咋神
天知迦流美豆比売神     |−−−−−−−−−−−加茂別雷命
               −− 建玉依比売命
加茂建角身命      |
|−−−−−−−−−
伊賀古夜比売      |
               −− 建玉依比古命


※(参考資料) 「日本の神様を知る事典」  監修 国学院大学教授・文学博士
                                阿 部 正 路  


※丹塗(にぬり)・弁柄塗(べんがらぬり)
丹(に)塗・弁柄(べんがら)塗と呼ばれる、社寺建築の柱などに見られる赤い彩色は、
鉱物である酸化鉛から製造した伝統的赤色顔料によって施されています。元来赤色は血液を連想させるところから『生命力』の象徴とされてきました。 多く社寺建築に利用されてきたのは、木材の防腐、防虫効果とともに神仏の御加護が人々に伝わるようにという意図があったのでしょう。

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