8月


31日
マリア・モンテッソーリ(Maria Montessori )(1870〜1952)イタリア 教育家

ローマ近郊アンコナにあるキャラバーレで生まれました。彼女は厳しい父と信仰心のある温かい母に大切に育てられました。

特に数学の能力は秀でており、両親はマリアが12歳とき彼女の教育ために郊外から教育環境の良いローマへ引越しさえしましたが意欲的なマリアは親の決める進路に満足せず、自分の進む道はどこにあるのかと思案しました。

彼女は、やがて貧しい者、弱い者、虐げられた者の助けをする為に医学の道を選んだのですが。医学もまた男性のみの学問であった時代なので、彼女の請願は何度も拒絶されました。それでも屈服せず多くの制限を受けながらもただ一人の女子学生として大変苦労してイタリア史上で最初の女子医学生となったのです。そして、彼女にとっては種種の悪条件が重なり何度も当惑し挫折しそうになりながらもイタリアで最初の女性医学博士としてローマ大学を優秀な成績で卒業しました。

ローマ大学卒業後は、障害児の治療教育に携わり、 実験心理学、教育学にも研究分野を広げました。その間、 フランスの医師セガンの著書に出会い、その理論に従って 治療教育を進め、大きな成果をあげました。

国立障害児学校校長をつとめたのち、更なる勉強の必要を感じ、ローマ大学に再入学して、実験心理学と教育学を学びました。

そして、障害児に用いた教育法を健常児にも適応する 機会が訪れました。ローマ不動産協会が貧困層向けのアパートに保育施設を設け、その監督・指導を彼女に任せたのです。彼女はのちに欧米各地に普及した「モンテッソーリ法」による教育を実践し、多大の成果を収めました。

彼女は自然主義に基づく自由主義の立場に立ち、児童の心身の内発的成長力を重視し、そのための環境を整備することを主張して、随年教育法による指導プログラムとそれに用いる多くの教具を創案しました。 彼女はその後、この教育法の普及と教師の養成に精力的に取り組み、多くの著作を残しました。晩年には、平和と子どもの生命の尊重を訴える運動を展開し、ノーベル平和賞の候補にもあげられています。

彼女は、ファシズムを逃れて移り住んだオランダで82歳の生涯を静かに閉じました。。その墓碑銘には、「愛する全能の子らよ、人類と世界平和のために、私と力を合わせよう」というメッセージが記されています。
彼女は25歳の時、ローマ大学附属病院のもっとも希望の持てない部門といわれていた重度の精神遅滞児を診るよう任命されました。そこの子ども達はとても不潔で、係りの女性からもあからさまに卑しまれていたのです。係りの女性には子ども達がいつもパンをこそこそと食べ、床を這いずりパン屑をいじりまわすので汚らしいく見えたのです。しかし、彼女は子供たちの様子を観察することで次のことに気づきました。

「子ども達は皆、与えられたパンで床の上で遊んでいる。そしてパンで何か形を作りそれが汚く散らかっている。」と

この時、部屋にはベッドしかなく障害児には遊びに役立つ全ての手段が取り除かれていたのです。それでも、子ども達は食べることよりも、もっと次元の高いものを求めているのだということを知ったのです。それは、いたいけな子ども達が手を使うことで獲得できる知性への道だということを本能的に感じ、身近にあるものから知性への糸口をもとめた末に、仕方なく打開策としてパンをこね回しているのだと気づいたのです。

彼女が見たこの救いようがない子ども達の一見無意味にも見える行動が、彼女にインスピレーションを与え、後に医療行為を越えた活動へとかりたてたのです。そして、この体験こそがモンテソーリ教育学誕生の瞬間ともいえるものでした。
マリアはローマのスラム街サン・ロレンソに設けられた労働者アパートに施設を設け子ども達の教育を任命されました。
そのアパートの住人である子供達の親は文盲、前科、不潔で礼儀しらずの教養のない人達で、子ども達は誰からも面倒を見てもらえない、放り出されたおどおどした子ども達でした。
マリアはその子ども達の世話をし、教育する機会を与えられました。
そこで初めて障害のある子ども以外の子に彼女の教育理論を実践するチャンスがきたのです。
この施設は所長のモンテッソーリにより「子どもの家」(1907・38才)と名づけられ、丹念な観察・実験により独自の教育法を開拓していきました。

「子どもの家」で彼女が見た子ども達は驚くべき集中力と繰り返しの作業と秩序の愛好者というこれまでとは違う姿でした。
マリアは子ども達の内面から要求してくる発達に則した作業を与えることにより知能だけでなく、精神的にも安定した理想的な子どもに変わっていくのを目の当たりにしました。
その感動は『「子どもの家」の幼児教育に適用された科学的教育学の方法』(1909)(英訳、「モンテッソーリ法」1912)によって全世界に伝えられ、今日まで、20カ国語にも翻訳されています。
この子供の家では、2歳半から就学前までの異年齢の子供たちを集め、60人余りの縦割りのクラスで構成されていました。子供たちは、イタリアの移民の子供たちで、 生活は裕福とはいえず、まず、子供自身の健康を考え、生活の仕方(掃除・洗濯・ 食事の準備身だしなみ等)を、子供たちとともに行っていきました。そうすることで、子供は「物事をきちんと教われば行うことができ、大きい子供は小さい子供に教えていく」という社会性も養われていきました。こうして育った子供たちの姿を、政府の方々が見学に来られた時、以前はコソコソと隠れていた子供たちが、堂々と人前で礼節に身をこなし、人格が変わった姿を見せたのです。
では、マリア・モンテッソーリは子供に何をしたのでしょうか?「私はただ、子供と一緒に生活をしました。一つだけ、子供がやりたいこと(一人一人別なこと)をできるよう環境を準備したのです。子供たちはその中で、自分自身を創造していったのです」
モンテッソーリ教育の目的と方法

目的=自立した子どもを育てる

モンテッソーリ教育の基本は、「子どもは、自らを成長・発達させる力をもって生まれてくる。大人(親や教師)は、その要求を汲み取り、自由を保障し、子どもたちの自発的な活動を援助する存在に徹しなければならない」という考え方にあります。
モンテッソーリ教育の目的はそれぞれの発達段階にある子どもを援助し、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学びつづける姿勢を持った人間に育てる」ことです。
その目的を達成するために、彼女は子どもを観察し、そこからえた事実に基づいて教育法を構成し、独特の体系を持つ教具を開発しました。その教育法の正しさは、現代の大脳生理学、心理学、教育学などの成果によって証明されています。

方法=自由の保障と環境による教育

「子どもの家」では、子どもたちに自発的な活動に好きなだけ取り組む自由を保障し、そのために「整えられた環境」を準備します。「整えられた環境」とは、次の4つの要素を満たすものです。
1.子どもが自分で自由に教具を選べる環境構成。
2.やってみたいなと思わせる、おもしろそうな教具。
3.社会的、知的協調心を促すための、3歳の幅を持つ異年齢混合クラス編成。
4.子どもそれぞれの発達段階に適した環境を整備し、子どもの自己形成を援助する教師。

※モンテッソーリ教育においては、教師は「教える人」ではなく、子どもを観察し、自主活動を援助する人的環境要素です。

モンテッソーリ教育の内容
モンテッソーリ教育では、子どもの内発的な発達プログラムに基づいて、次の5つを実践課目として設けています。それぞれの課目には、独特の体系を持つ教具が用意されていますが、子どもは必ずしもそのカリキュラムに従って活動するわけではありません。あくまでも子どもの自主性が尊重されます。

日常生活の練習 : Practical Life

モンテッソーリ教育の基礎になる課目で、「運動の教育」として位置づけられています。
2〜3歳の子どもは「模倣期」にあります。大人がする日常生活上のさまざまな動作の真似をしたがります。
また、モンテッソーリはこの時期を「身体発達と運動の敏感期」と呼んでいます。身体をある程度自由に動かすことができるようになり、さかんに身体を動かして環境に働きかける時期だからです。
この模倣期と運動の敏感期を利用して、秩序だった動き方、身のこなし方を伝えます。子どもは、自分の意志どおりに動く身体をつくり、自分のことが自分でできるようになります。その結果、 自立心、独立心が育ちます。

感覚教育 : Sensorial

2歳から3、4歳にかけての子どもは、次の3つの発達特性を持っています。

1.感覚の敏感期
感覚器官を洗練させたいという発達上の要求を持ちはじめます。小さな物音に興味を持 ったり、いろいろな物に手当たりしだいに触ったりすることが、その現れです。

2.無意識的吸収精神から意識的吸収精神へ
0〜3歳の子どもは、大人の真似をしながら、無意識的に外界のさまざまな出来事を吸収しています。3歳ごろから、それまで無意識的に吸収してきたものを、意識的に整理 しようとします。「どうして?」という問いかけは、その現れです。

3.知性の萌芽
2歳ごろの子どもを見ていると、「あ、あのコップ、私のと同じ」と同じ絵柄に気づいたり、ばらばらになった貝殻の対を探したり、何かを大きさの順に並べたり、形別に分けたりすることに気づきます。これらは知性の萌芽の現れです。

言語教育:Language

モンテッソーリは子どもの言語発達について、「名称(名詞)を知ることから始まり、その性質に関する単語(形容詞)に移り、ものの関係を表す単語(動詞・助詞)に及ぶ」と考えました。

モンテッソーリは、人間の精神の発達は、

1.運動、感覚から抽象へ
2.感性的認識から抽象的認識へ
3.具体から抽象へ

という経路をたどるといっています。モンテッソーリ教育法は、子どもにこの経路をたどらせることによって、抽象的認識に至らせることを目指しています。モンテッソーリは、「私の教育法は知性の教育です」といっています。


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