武庫之荘に伝わる民話     

田を守った五兵衛さん    

昔、武庫の庄あたりは、えらいフケ田やった。   

 
フケ田というのは、泥の深い田んぼのことで、ここらの

田んぼは、馬の足でもすっぽりと入るぐらいのどろ田や。
 
どろ田やよって米の出来も悪い。苦労して作っても

あんまり米は取れなんだ。

殿様は、そんなフケ田は、みんな池にしてしまう、とおふれを出しはった。
 
さあ、そのことを知った村人は驚いた。いくら米の出来が悪い田んぼ

でも米は取れる。
 
命をつないでくれる田んぼや、何とか殿様に、「池にすることだけは

やめてもらいたい」と、村人たちは必死にねごうた。
 
村の五兵衛さんもその一人やが、辛抱できんようになって

殿様にお願いにいった。「どうか、フケ田を残してください。」

聞いた殿様は、怒って「お前のようなやつは打ち首じゃ」
 
殿様に反対した五兵衛さんは、つかまえられ、、打ち首というて

首を切られることになってしもた五兵衛さん。
 
役人も村人も、五兵衛さんを気の毒がった。役人は打ち首の日を

延ばしたりしておったが、殿様の命令に背くわけにはいかん

とうとうその日がきてしもた。
 
五兵衛さんは、庄屋さんの家の前に座らされた。
 
それを、村人皆が見守った。役人が刀を振り上げた。
 
そのとき、遠くからパカパカッと馬のひずめの音が聞こえてきた。

皆そっちを見た。「早馬や!」
 
誰かが叫んだ。どんどん馬はちこうなる。人の顔がゴマ粒ぐらいから

豆粒ぐらいに見え始めた。馬に乗っている人が大声でわめいている。

皆は、「早く、その首をうて!。」そういっているように聞こえた。
 
役人は、振り上げている刀を、もう一度にぎりなおし、

村人のお経の声のなか、五兵衛さんの首を落とした。
 
駆けつけた早馬は、「その首を打つのは待てー。」と、

殿様の知らせを持ってきたのだった。
 
役人は(早まった)と肩を落とし、村人は地面にひれ臥して泣いた。
 
五兵衛さんは死んだが、田は残った。
 
村人たちは、五兵衛さんが守ってくれた田んぼの真ん中に

お墓を建てた。命日には皆仕事を休み、花や線香をあげ

供え物をして、五兵衛さんのお祭りをした。
 
今でも武庫之荘の五兵衛さんの墓には、花が供えられ、

線香の煙が絶えることがない。

 (平成3年 尼崎市教育委員会発行 

「尼崎の民話 第一集 きつねのよめいり」から)

 注 一部ひらがなを漢字に修正しています。



   
↑五兵衛さんの墓