田園科学室
イネの栽培(詳細1)

農家の仕事作物とその栽培例イネの栽培(目次)>詳細1・詳細2

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品種090801a
イネ・栽培中の品種(粳、糯)(2009年08月01日)
(c)2009, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)


1、糯と粳
 米はその性状から大きく2つに分けられ、それらを稔(みの)らせるイネの品種を糯(もち)と粳(うるち)に大別するのが普通です。
 粘り気が強く、つ(搗)けば餅になる米を稔らせるイネの諸品種を一まとめにして糯とよびます。
 また、糯ほどには粘り気が無く、通常ご飯にして食べる米を稔らせる諸品種をひとまとめにして粳とよびます。
 今日では、「澱粉としてアミノペクチンだけが見られる品種が糯」、「澱粉としてアミノペクチンとアミロース(注、およそ15−20%)が見られる品種が粳」などと表現されています。
 なお、粳の澱粉中のアミロース含量は食味に関係が深いので、その高低によっていくつかに区分されることがありますが、アミロース含量の低い品種の、粘り気の強い米が調理における適材適所の枠組みを超えて熱狂的に歓迎されています。

2、栽培中の品種
 どの品種を栽培するか、農家の自由ですが、実際には集・出荷の都合上、それを担う地域JA(農業協同組合)が提示する種籾・苗からの選択肢しかなく、選択できる品種の数は1-2に限られています。
 私たちの地域JAから供給される種籾・苗は、糯ではハリマモチ、粳ではキヌヒカリ、ヒノヒカリなので、その中から選択することになります。
 現在田園科学室圃場で栽培している品種は、糯がハリマモチ、粳がキヌヒカリです。
 両種の、品種特性や食味についてはについては多くの情報が公開されていますので省略します。

3、複数の栽培
 1農家が複数の品種を栽培する場合、いくつかの苦労を覚悟せねばなりません。田園科学室の場合も、2品種作るのが精一杯です。
 両者共に6月初旬(1〜10日)に定植(田植)しますが収穫期がやや異なります。
 すなわち、キヌヒカリの収穫は9月下旬(20〜30日)、ハリマモチの収穫は10月中旬(10〜20日)です。
 僅かな違いのようですが、水管理の手間が増えます。同じ日に中干しは行えません。収穫前に田圃を干し始める日も違えねばなりません。
 1枚の田圃に2品種を植えた場合、田圃の中央に手畔を作り、異なった水管理を可能にする必要が生じます。
 1品種の収穫後、コンバイン(コンバイン・ハーベスター)の内部を徹底的に掃除し、次の品種と混ざらないようにせねばなりません。以後に用いる乾燥機、籾摺機、米選機、石抜機についても同様です。
 地域JAの大型施設に集荷・一括して処理にかける場合、品種の混在は大きな混乱を招きますから、1つの農家で複数品種を栽培するのは、一般には好ましいことではありません。

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播種050507a
イネ(粳)の播種(2005年05月07日)
(c)2005, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

1、播種

 田園科学室(神戸)ではイネの播種は5月5日前後に行っています。想定している田植の日は6月第1週後半ですから、約1か月前に播種している計算です。
 播種(はしゅ)とは、田畑や苗床の土に種を播(ま)くことですが、現在では苗箱など人工ないし半人工の苗床に播く機会が増えています。田園科学室のイネの場合も苗箱への播種です。
 苗箱などへ播種する機会が増えた理由は、種苗費の節約のため、管理における省力化のためなどいくつかありますが、イネの場合の最大の理由は田植機による定植(田植)を容易にするためです。
 もちろん、苗の管理における省力化にも大いに役立っています。

2、播種機

 イネの播種にあたっては専用の機械、播種機を使用していますが、それを使って行う作業は次の4つです。
a. 土入れ…手で専用の紙を敷いた苗箱に、機械で一定の厚さで土を入れます。
b. 播種……予め処理を施した種籾を、機械で均等な密度に播きます。
c. 覆土……機械で、一定の厚さに土を入れ籾を覆います。
d. 散水……覆土した直後に、機械に組み込まれた散水機で穏やかに散水します。
 なお、種籾は、予め消毒、選別、浸漬、の処理を施して播種に備えなければなりません。また、播種が終わった苗箱は、苗代に移して管理します。

3、手順
 以下に、写真とともに、播種機を使う場合の、播種の手順を示します。

苗箱に専用フィルムを敷き機械に入れる

図1:苗箱に、専用の紙(フィルム)を敷き、機械へ送り込む。このフィルムは表裏の区別があります。また、正しく収まってないと後日隙間から根が下へ伸びて地面に根付き、多大な労力を費やして根を切らなければ苗箱を持ち上げられなってしまいます。

機械を通過した苗箱には土が設定した厚みで入る

図2:機械を通過すると、苗箱には設定した厚さに土が入る。ただし、箱の終端ではしばしば土が盛り上がるので、それを付属のヘラで均します。

土が設定通りの厚さに入った苗箱

図3:土が設定された厚さに入った苗箱。もちろん各々の底には、専用の紙(フィルム)が敷いてあります。

土の入った苗箱を再度機械に通して種籾をまく

図4:土が入った苗箱を再度機械に通し、種籾を播く。種籾は、設定された密度に均一に播かれ(右)、直後に自動的に灌水され(中央)、さらに覆土されます(左)。

播種、覆土された苗箱が機械から出てくる

図5:播種、灌水、覆土された苗箱が機械から出て来る。これを苗代へ運びます。

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育苗050507a
育苗(2005年05月07日)
(c)2005, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

1、育苗

 育苗とは、播種の後本圃に定植するまでの間の苗の管理のことです。種籾を発芽させ、定植に適した長さ15p前後に達するまで、苗代(育苗床)に置いて育てる約25日〜30日の間の作業を言います。
 少し詳しく言うと、(1)種籾を遮光し適温下で発芽させ、(2)徐々に光を当てて緑化させ、(3)外気外光の下で硬化させる作業です。
 これらの作業は案外難しいのですが、80%遮光フィルムによる簡易育苗法が考案されてからは、播種直後の苗箱をフィルムで覆い、水管理をしながら、(1)と(2)を経る日数を待った後にフルムを外して(3)硬化を行うという単純な作業に変わりました。
 もちろん、田園科学室でもこの方法を採用しています。

2、苗代への配置
 播種が終った苗箱は、畝(苗床)上に、縦4列に並べます(図1)。畝の片側から手を差し延べて届くのが約60cm、反対側からも60cm、苗箱の幅は30pなので4列となります。
 ただし、4列を隙間なく並べた場合、苗が繁茂してくる後期には、過密になって蒸れてしまうので、中央に約10cmの隙間を設けるようにしています(図1)。

苗代へ播種済みの苗箱を並べる

図6:播種済みの苗箱を苗代へ並べる。この場合、1畝(ウネ)に4×15枚=60枚ずつ並べてありますが、列中央に隙間が空けてあります。これは成長した苗が密集、押し合って蒸れ、障害が発生するのを防ぐためです。両側の谷から腕を差し出せば届く範囲がせいぜい苗箱2枚分であり、全体を被覆するシートの幅も4枚分であることから、畝幅は苗箱4枚分になります。
3、被覆

 通常、植物の発芽に必要な条件は2つ。水(湿度)と温度です。光は必要がないので、苗箱を並べ終わると銀色の80%遮光のポリエチレン・フィルムと半月形の支柱を用いて、苗箱の列をトンネル状に覆ってしまいます(図2)。
 こうした上で、苗代の谷に水を入れ、水が畝(苗床)の頂上にある苗箱の底面を浸すところまで、注意深く水位を上げます【図2)。

銀色のシートで被覆して苗代に水を入れる

図7:ウネ上の苗箱全体を銀色のシートで被覆して苗代に注水する。水量は、最高時に苗箱の底面が浸る程度にとどめ、苗箱が水没しないように管理します。
4、水と温度の管理

 苗代の畝(苗床)が完全に水平に作られているなら、水の管理は簡単です。
(1)先ず落溝(排水口)の止水板の高さを適正水位かその僅か下に合わせます。
(2)給水水栓を何回かに分けて次第に絞り、排水がほんのわずかに止水板を越える程度にします。
(3)以後は、水栓を閉じておけば水位が下がり、開いておけば水は苗箱底面に達します。
 苗箱は銀色フィルムで密封される結果、外気より高い温度と湿度を自動的に与えられます。

5、苗箱の水没厳禁

 苗代の畝(苗床)が必ずしも水平でない場合は、水位の調節は煩雑になります。
(1)止水板の位置を低い位置の苗箱底面に合わせます。
(2)水を入れ、上記(2)の調節をします。
(3)高い位置の苗箱底面と低い位置の苗箱底面の高低差と分の止水板を排水口に挿入します。
(4)水が止水板を越えはじめたら、全ての苗箱に水が行渡ったしるしなので、挿入した止水板を外します。
 これを怠ると低い位置の苗箱は水没したままになります。水没したからといって、直ちに障害が発生するわけではありませんが、長時間の水没は好ましくありません。
 こまめに(毎日のように)この給排水操作をしないと高低差が成長むらをに繋がってゆきます。
6、被覆を剥ぐ
 いつ被覆を剥ぐのか?地方により気候により一様ではありません。
 田園科学室(神戸)では、経験的に被覆後15日を目安にして、ここから硬化に移っています。もちろん、小さな隙間からの観察で微調整しています。

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代掻き090606a
代掻き(2009年06月06日)
(c)2008, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

図1:代掻き(2009年06月06日、田園科学室圃場)。
1、代掻き
 田圃に灌水すると同時または灌水直後に耕運を行って、田面の水平化(高低差を無くする)作業を代掻きと呼びます。田植(イネの定植)を行う場所、植代(うえしろ)を作るために行います。
 田面に高低差があると、田植とそれ以後の水管理が難しくなり、田圃内の位置によりイネに生育差が生じる原因となり、最終的には米の収量や品質に悪い影響を与えます。

2、実施日
 一般には田植の2-5日前ですが、田園科学室では3-5日前、原則4日前に行っています。
 早過ぎれば田植時には雑草が芽吹いてしまい後の除草特に稗(ヒエ)の除草計画に狂いが生じます。遅ければ土壌(泥)が軟らか過ぎて浮苗が生じます。

3、代掻き前
 代掻き以前に済ませておく作業がいくつかあります。
(1)荒起し:晩秋〜冬に、深く耕し、畝立てするか排水路を掘って土壌を寒気に曝して乾燥させます。
(2)砕土:春に1〜2回、雑草を繁茂させない程度の間隔で平たく耕し、初回は土壌改良材(有機石灰や完熟堆肥)を施します。
(3)元肥施用:代掻きの数日前に、必要最小限の肥料を撒いて耕し、畦シート挿入、モグラ穴塞ぎなど水漏れ対策を行います。
(5)代掻き時の灌水が速やかに田圃全体に行き渡るよう、浅い水路を巡らします。
 なお、堆肥や元肥の過剰は深刻な病害を招いたり米の品質を落としたりするので品種特性、前作、土壌特性、気候に応じた量を使用するよう注意します。

4、代掻きの手順
 次の手順で進めますが、田面の水平化を行うこと、および水管理に注意して肥料分を流失させないことに特に注意します。
(1)排水口の止水板の高さを、代掻き完了時の想定田面より5p〜10cm高くしておきます。
(2)当日早朝か前夜に灌水を開始、田圃の3/4以上に水が行渡ったら代掻きを開始します。
(3)トラクタのローター部を代掻きの設定にし、必要なら代掻き板を装着して作業を行います。
(4 )一般に土が盛り上がっている田圃の4隅では、ローターを逆転させるなどして高低差を解消する工夫をします。
(5)作業の途中、常に水位に注意を払い、水が止水板を超えそうになったら灌水を止めます。
(6)代掻きは、トラクターが田圃全面を低速で1回通過すれは十分で、掻きまわし過ぎは好ましくないのですが、実際にはやや速度を上げて2回程度、部分的にはそれ以上の回数通過しなければ田面の水平化が達成できません。

5、田植までの水管理
 代掻きが終了したら、田植までの水管理に移ります。4日後に田植を行う場合の水管理は以下の通りです。
(1)第0日:代掻き当日の水位は、田面の5〜10cm高。以後の空気中への蒸散と地下への浸透量を補うだけの最低限の給水を行い、水が止水板の上端を越えず、ぎりぎりの位置にあるように保つ。
(2)第3日朝:給水を止め、止水板を少し下げて水を抜き始め、以後徐々に減水(水位を下げる)。
(3)第4日:田植当日早朝、水位を確認、この時点で田面0〜5cmとなるのが最良、未だならゆっくり減水を続ける。
(4)浮苗や水没苗が生じない水位(例えば上記水位)になれば田植えを行う。
(5)田植当日と翌日は原則として給水しないが、必要なら蒸散・浸透量を補うだけ、苗の水没が起こらない範囲の給水にとどめる。

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田植080609a
田植・手植と機械植(2008年06月09日)
(c)2008, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

1、田植
 苗箱、苗代で育てた苗を本田(ほんでん、本圃)に移植する作業が田植です。
 直接本田へ播種する直播(ちょくはん、じかまき)という方法もありますが、日本では均等密度の栽植による斉一な発育で品質を向上させたり、除草など後日の作業の効率を上げたりする目的で,
田植が古くから行われてきたようです。
 田植機が発達する以前は種籾を苗代へ直播、大苗にまで育て、これを引き抜いて、根の泥を洗い落とした上で束ねて、本田へ運んで植えていました。
 しかし田植機が発達した今日では、苗箱に播種、苗代に並べて稚苗や中苗(10〜15p程度)に育てた段階で機械に土ごと装着して植付ける方法に変わりました。

園児、田植、全景

図1:園児の田植(全景)。この日の参加は2園、1園は地元、1園はバスをチャーターしての遠くから。園児は計約80人、大人を加えると約100人。田の広さは約25aで50m×50mの面積にに相当します。今回はこのうち約20aに糯(もち)米と粳(うるち)米を植えました。また約5aで自由な泥遊びが可能でした。
2、手植(てうえ)
 本田に目印を施し、それに従って規則正しく手指で泥に苗を挿すのが手植です。
 目印の種類は、知る限りでは、以下の通りです。
(1)間縄(けんなわ)、つまり間隔目印のついた細縄を張って、大勢の人が横一列に並び、後退しながら1人数条を目印位置に植える方法。
(2)田植定規とよぶ手指の拡大形の定規で予め数本の線を平行に、また縦横に引いておき、線上や交点に前進しながら植える方法(後退だと濁りで目印が見えなくなる)。
(3)目印を付けた長方形の木枠を手前に転がし、後退しながら植える方法。
 手植えでは、泥は足跡が自然に埋まる程度に軟らかいほうが好まれます。硬いと足跡がそのまま窪みとして残ります。また、苗が適度に長い方が作業は楽です。水没などの失敗がありません。
 植付苗の本数は1点(1株)当たり2-4本、1人が横に数条(条間28cm)を受け持ち、後退または前進しながら(前後の)間隔18cmで植えます。今日では手植は機械植を補完する作業になっているので、本数、間隔を機械植に合わせているのです。
 なお、苗は人差し指と親指の先端で苗の基部を摘(つま)み、人差し指に沿わせた中指に根を当てて持ちます。
 苗を挿すには真上から挿すのではなく、やや斜め上方から基部とともに根も押し込みます。つまり、根がU字形に上空へ跳ね上がらないよう、中指で支えて押し込むのです。
 重要な注意としては肥料に関することがあります。手植を行う箇所の施肥は、必ず代掻き前に完了してなければなりません。

田植機に乗って

図2:粳(うるち)米は田植機で植えました。園児も機械操作や、前方の見張りを体験しました。ハンドルを切ったり、前方にいるアメンボやカエルに危険を知らせたりしたのです。
3、機械植(きかいうえ)
 田植機の登場で、多くの人数を要し最も過酷な農作業であった田植は、今日では最も楽な農作業に変わりました。
 田植機は非乗用の自走式で登場、後に乗用型に変わり、今日では自動施肥機能も備えています。
 ここで使用される肥料(ペースト肥料、コロイド肥料)は、なかなかの優れものです。
 多くの肥料は、先ず土中に均等に混ぜられ、その真只中に置かれた根が肥料を吸収するのですが、この肥料は土中に点または線状に局在して撒かれ、そこに根が届いた時から吸収が始まります。
 水系への肥料の流出を減らす効果があると期待されているのです。
 植付作動部や爪についても改良が進んでいて、クランンク式が廃れロータリー式が主流になっています。
 なお、機械植の条間は28cm、株間は18cm、植付本数は1〜4本。条間は固定ですが、株間と植付け本数は設定変更が可能です。

泥遊びも

図3:泥遊び自由。この日は幸い約5a(20m×25m)で泥遊びが可能でした。もっとも、スタッフは翌日に、遊び場をトラクターで再度代掻きせねばならなかったのですが…。

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苗箱洗浄060616a
苗箱の洗浄(2006年06月16日)
(c)2006, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

1、洗浄機

 苗箱洗浄機という名称から想像されるのは全自動型、つまり苗箱を差し込めば洗って戻してくれるようなタイプの機械でしょう。
 しかし、実際の機械は水槽の上に回転ブラシが2本回っているだけの、極めて原始的な機械です(図4)。
 ここに苗箱を差し込んで何往復かさせ、上下を反転して差し込んで再び何往復かさせて洗います。
 原始的な機械ほど、工夫の有無で能率に大きな差が生まれます。抜き差しに適した角度や速さなどを把握するには、10枚か20枚分ほどの練習が要ります。

2、手順

 洗うのは苗箱ですが、その底敷きに使用する紙(フィルム)も洗浄して貼り付けておくことも必要です。
 先ず苗箱を機械に入れて全部洗います。洗い終わったら、洗った苗箱に紙(フィルム)を1枚づつ水で貼り付け、端を指でしっかり押さえて機械にかけます。
 もちろん、この場合も苗箱の洗浄と全く同様に、上下を反転して再び洗います。
 以下、写真とともに、手順の詳細を示しておきます。
田植後の汚れた苗箱 底敷紙は外して集めておく
図1:田植直後の汚れた苗箱。上から
2枚目の苗箱に見られるように底敷紙
とともに苗箱が戻ってくる。
図2:外して集めた底敷紙。風で飛ば
されやすいので適当な容器に集めてお
く。
苗箱を洗浄機に差し込む 洗浄機内部のブラシ
図3:苗箱を洗浄機に挿し込む。底面が
向こう向き、内面が手前向きに。数回
上下させてさせてから、上下を入れ替え
同じく数回上下させる。何度か試行錯誤
して苗箱の隅まで洗えるよう工夫する。
図4:洗浄機内部のブラシ。水は
下方の容器に溜まり、またブラシ
付近から苗箱に噴射されるが、
水量が多過ぎるとモーターに負荷
がかかり過ぎて、止まってしまう。
先に苗箱を洗い終わる 次に紙を貼り付けてもう一度洗う
図5:先ず苗箱だけを洗う。この段階では
底敷紙は未だ集めた容器に入れたまま。


図6:次に底敷紙を貼り付けてもう一度
洗う。
底敷紙には表裏の別があるので
注意する。思ったより簡単に箱に貼り
付く。
10枚ずつ束ねて乾燥させる
図7:10枚ずつ重ねて乾燥させる。使
用する苗箱は10アール(1反)あたり、18
枚〜20枚が目安。なお1アールは10m
×10m=100平方メートル。

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夏・中干し060802a
夏の水田管理・中干し(2006年08月02日)
(c)2006, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

中干し(土用干し)

図1:水田の中干し(土用干し)。7月下旬、分株(ぶんけつ)、つまり1株の茎数増加が充分に進んだ段階で水田の水を全て抜き、泥にひび割れができるまで干します。当地(神戸)では夏の土用のころに行うのが普通なので、今でも土用干しと呼んでいます。(右の白い部分は減反箇所)
1、中干し
 年間で一番暑い季節、土用に行う水田の中干しのことを、土用干しと呼んでいます。土用干しは元来土用のころに行う衣干しのことですが、それに擬(なぞら)えた言い方です。
 水田の中干し(土用干し)の効果は、1つではありません。科学的に証明されていることのほか、経験からくる想像まで、たくさんあります。

2、出穂(しゅっすい)・開花が斉一になるはず。
 一般に稲の穂や花が(外から見えないところに)準備されるには、以下の条件が必要です。
(1)日長が日々短くなる。
(2)栄養のうち窒素の消費が進み、その「割合」が低下する。
(3)栄養(特に窒素)の供給が急に抑制されたり一時的に停止される。
(4)乾燥、害虫による食害など茎葉の成長が抑制・障害される。
(5)その他
 土用のころ(7月下旬)には夏至を過ぎていて既に(1)の条件は満たされているのですが、(2)以下の条件は田圃の内の各所で微妙に違うので、穂や花の準備状況にも差ができるのが普通です。
 そこで、水を完全に断ち、地割れするまで乾燥させることで、田圃の中の全ての株(茎)に(2)以下の条件を強制して、シンクロナイズさせるのです。穂と花の準備を「周知徹底」させる、と思えばよいでしょう。

3、土壌の化学的性質が改善されるはず。
 稲の成長には大量の水が常に必要だとはいっても、最初から最後まで水を溜っ放しにするのは好ましくないように思います。
 足を踏み入れるとブクブクとガスの泡がたち、泥の異臭が鼻につくようになってしまいます。田圃では、土(泥)中の有機物の嫌気性細菌による分解が延々と続くからだと想像されます。
 昔あったような、中干しできない極度の湿田の稲は、概して品質が良くないのですが、根の付近にに好ましくないものが蓄積するから…とも考えられます。
 そこで、土(泥)を地割れするまで干して、好気性の細菌にも活躍の場を与えたりして、土を多少ともをリセットしてやることは無駄ではないはずです。

3、土壌の物理的性質が改善されるはず。
 中干しをしなかった田圃は、収穫前に水を抜いても、なかなか乾燥しません。いつまでも、ぬかるんで、収穫機(コンバイン・ハーベスタ)の乗り入れや運転が困難です。
 完全に乾燥させようとすれば、相当に早くから水を抜く必要がありますが、それをすると米の品質を低下させる恐れが大きくなります。
 一方、中干しした水田は、収穫前の水抜きで簡単に乾燥し、土(泥)が雨などで乾燥し切らない生乾きのうちに機械を乗り入れることになった場合でも、稲の茎葉や穂さえ乾いていれば作業に困らない程度の土の固さが得られます。

4、稲が倒伏しにくくなるはず。
 中干しによって、稲の根張りが良くなり、土(泥)が上記のようにしっかり固まるので、稲の倒伏を防ぐことになります。
 茎の軟弱化、徒長が防げるので、これも倒伏の回避に役立ちます。
 また、収穫期に風雨で倒伏してしまった場合も、土(泥)の乾きが早く、穂についたまま出芽する最悪の事態を回避できる可能性が、少なくとも干さなかった田圃よりは、高くなります。

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夏・開花・乳塾060820a
開花・乳熟期(注意事項)(2006年08月20日)
(c)2006, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

開花・乳熟初期の水田
図1:開花・乳熟初期の水田。中干しが終わった水田に水を入れる
と穂孕み(ほばらみ)期に入っていた稲は一斉に出穂します。

1、出穂、開花、受粉
 中干しが終わった水田に水を入れると、穂孕み(ほばらみ)期に入っていた稲は一斉に出穂します。
 そしてすぐに開花。花は早朝に咲き、その日のうちに受粉します。風媒花ですが、大部分は自家受粉と考えられています。

2、乳熟期
 開花・受粉が終わると、殻の内部に乳液状のデンプンが溜まり始め、穂先が垂れてきます。
 殻にこの乳液状デンプンが溜まり始めてから、一杯に溜るまでの時期を乳熟期とよびます。
 完全に熟するまでの期間を登熟期とも呼びますが、その大部分の期間は乳熟期です。
 図1の水田では大部分の穂が乳熟初期、一部でまだ開花が見られました。例年より約10日遅れています。

3、水田に入らないこと
 出穂期、開花期、乳熟期(特に初期)の水田に稗の除去などのために入ると、擦れて傷み、受粉や正常な成長が妨げられて、白穂や未熟米(青米)が多発することがあります。
 全体を揺すって擦ってしまう夏台風は、開花、乳熟初期と重なると甚大な被害をもたらします。白穂と未熟米が増えるのです。

イネの開花
図2:開花した穂。花は早朝に咲き、その日のうちに受粉
します。開花が始まって1週間から10日ぐらいの稲は非常
にデリケートなので、水田に入る作業は控えます。開花期
に台風が来ると、揉まれて白穂が多発します。

受粉が終わると乳熟期に入り穂が垂れ始める
図3:開花から乳熟期へ。開花・受粉が終わると、殻の内
部に乳液状のデンプンが溜まり始めます。殻一杯にこの乳
液状デンプンが溜まって固まるまでの時期を乳熟期とよび
ます。この期間、特にその初期の穂はデリケートなので、水
田内での作業は厳に控えます。乳液状のデンプンを、数種
のカメムシが好んで吸うため、幾分かの斑点米が発生しま
すが、これについては別項で述べます。

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カメムシ060820b
乳熟期・カメムシ被害(2006年08月20日)
(c)2006, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

1、カメムシと斑点米
 乳熟期には、何種かのカメムシが穂にとまって若い籾から吸汁をします。籾の中身の一部が吸汁されるだけなので、籾はその後固まって中に玄米粒を形成するのですが、その一部に異常をきたします。
 すなわち、玄米粒の一部が黒または暗色に変色して斑点ができます。これを斑点米と呼びますが、吸汁箇所に細菌か真菌が(2次的に)付いて変色が起こると考えられています。

2、斑点米を減らすには
 斑点米は衛生上何ら問題が無く、見栄えが悪いだけなのですが、消費者には異常なまでに嫌われるので農家としては看過できす、数万粒に1粒の斑点米を減らすために数種の農薬が使われます。
 田園科学室では、カメムシ被害を目的とした農薬散布は行っていません。乳熟期の畔の雑草刈りを減らしてカメムシに畔の雑草種子を吸わせるなどの工夫をしています。
 それでもできる斑点米は、精米の段階で選別で可能な限り除くことで、購入者のご理解をいただいてます。

3、カメムシの種類
 以下に確認できた2種のカメムシを示します。

シロホシカメムシ

図1:シラホシカメムシ。数種以上のカメムシが、好んで乳熟期の稲の実から乳液状のデンプンを吸汁します。吸汁された実は後に斑点米とよばれる屑米になり、多発すると商品価値を大きく損ないます。大きな精米工場では、高度な選別機械でそれを除去しますが、小規模な農家の機械でこれを完全に除くには、大変な労力が要ります。(撮影'06/08/20神戸)

ホソハリカメムシ

図2:ホソハリカメムシ。今年('06年)の発生は例年より多いように思えます。もちろん定量しているわけではありませんが、こんなに穂の上にこの虫を見る年は記憶にありません。もちろん、他家の農薬撒布田にはいませんが…。(撮影'06/08/23神戸、同日に追記)

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秋・手畔050916a
秋の水田管理・手畔(2005年09月16日)
(c)2005, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

1、粳(うるち)と糯(もち)、成長の差
 糯はハリマモチで晩生、粳はキヌヒカリで早生なので、両者の成熟は半月以上も異なります。
 両者を同じ水田に植えた場合、粳のキヌヒカリの水を落とし、刈り取りの準備をしたいと思っても糯のハリマモチはまだ乳熟期で水が欠かせないという事態が起こります。
2、手畔の資材
 両者を仕切る臨時の畦、すなわち手畦を作らねばなりません。昔なら、一大作業ですが、今は便利な資材がるのでそれを利用して、比較的簡単に設置・除去ができます。
 使用するのは畔シートとよばれる塩化ビニール製の資材。幅が広いのものと狭いもの、平板状のものと波板状のものなどいくつかの種類がありますが、手畔に便利なのは幅広の波板状のものです。

糯(左)と粳(右)の成熟期の違い

図1:糯(もち、左)と粳(うるち、右)の成熟期の違い。
3、手畔の作り方
 土を掘り起こし、盛り上げ、踏み固めて、水を張る方(写真左)に畦シートを貼り付けるような形で埋めるのが最も完璧な手畦です。
 しかし、今回の糯と粳の境は、長くて半月だけの短期の使用で事足りる上、水を深く張る必要もないので手順を簡略化しました。
 泥の固まらないうちに、スコップで切れ目を入れ、そこに畔シートを差し込みました。波板の塀を立てた…そんな格好になりました。
 必要なら所々に補強のために水入れしない側に土を盛り上げれば良いでしょう。
 但し、日中の気温が30℃を超す盛夏、片側に張る水が多い場合、手畔を長期間置く場合には、波板は案外簡単に折れ曲がったり倒れたりするので、水を張らない側の盛り土は全長にわたって行う必要があります。

波板畦シートを使った手畦

図2:波板畦シートを使った手畦。が、この場合は半月余りで不要になる手畦なので、波板畦シートをスコップでこじ開けた線状の溝へ差し込んで両側を踏み固めて作ってあります。

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秋・稗050915a
秋の水田管理・稗除草(2005年09月15日)
(c)2005, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan (田園科学室)

イヌビエ(左3本)とケイヌビエ(右2本)

図1:イヌビエPanicum Crus-galli L(左3本)とケイヌビエPanicum Crus-galli var. echinata Makino(右2本)。
1、水田の稗(ひえ)
 稗(ヒエ)と呼んでいる水田雑草は2種、正確にいうと2亜種あります。イヌビエとケイヌビエです。
 花の外殻に長く伸びる棘(とげ)を芒(ぼう、のぎ)とか禾(のぎ)とよびますが、紫色を帯びた長い芒が「無い方」をイヌビエPanicum Crus-galli L.とよび、「有る方」をケイヌビエPanicum Crus-galli var. echinata Makinoと呼びます(図1)。
 学名からわかるように、植物学者牧野さんは後者を前者の変種(*栽培植物なら品種とよぶ)に当たると考えたようです。
 草勢は芒の有る方のケイヌビエの方が無い方のイヌビエよりもうんと強く、大きくなります。田によって、どちらか一方だけが生えたり、両方が混在したり、一様ではありません。

ある農家の水田にみられた稗の繁茂

図2:ある農家の水田に見られた稗の繁茂。ここでは2種の稗、イヌビエとケイヌビエが混在していました。稗がどちらであっても、籾(もみ)が黄金色に色づくころになると急速に伸びて、稲の高さを遥かに超えて穂を高々と上に突き出してきます。
2、稗の害
 稗(ヒエ)を侮ってはいけません。1年取り除くのを怠ると、翌年は田圃中に繁茂して稲の成長を著しく妨げます。
 ある農家の水田に見られた稗の繁茂の例を図2に示します。ここでは2種の稗、イヌビエとケイヌビエが混在していました。
 稗がどちらであっても、籾(もみ)が黄金色に色づくころになると急速に伸びて、稲の高さを遥かに超えて穂を高々と上に突き出してきます。
 イネは田植え後に1株2-4本だった茎が増えてから穂孕み期をむかえるのですが、稗の多さに圧倒され、栄養不足に陥り、分株(ぶんけつ)を妨げられることが珍しくありません。 

3、稗の除草
 稗を減らす努力は毎年、たゆまず続けることが大事です。そうでないと、何度も何度も除草剤を撒かないとどんどん勢力を増し、根絶できなくなってしまいます。
 合鴨農法などで稗を除くことは不可能です。楽な方法はありません。
 田園科学室では、次のようにして稗を減らす努力をしています。
(1)変則的な輪作ですが、稲作2回の後に1回の畑作(サツマイモ等)を挿入しています。
(2)田植以後、随時田圃に入って人力で除草します。
(3)穂孕み期直前、中干し(土用干し)のころの除草に一番力を入れます。
(4)最後まで残った稗は、乳熟期を過ぎてから、稗の実を落さないよう注意深く除きます。
 見えれば即除くのが原則ですが、穂孕み期、出穂・開花期、乳熟期にはヒトに揉まれて被害が出るので自重します。

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