圃場と周辺の畔焼き、解説と実例1
(c)2004-2011, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan. (田園科学室)

農家の仕事圃場と施設の保守・整備>圃場と周辺の畔焼き 


040221a 畔焼き
圃場と周辺の畦(あぜ)焼き、解説と実例1('04年02月21日)
(c)2004, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan. (田園科学室)

畦の草焼き04/02/21

図1:畦焼き。田の畦とその周囲にある排水路付近の例。
1、畔焼きとは
 2月は草焼きの季節です。村の灌漑用溜池の堤防の草焼き、各農園の田畑の畦(あぜ)の草焼き、最近では休耕田一面に生えた草を焼くのも恒例行事に加わってきました。
 2月前半は空気が乾燥し、頻繁に乾燥注意報が出されます。したがって、草焼きには絶好の時期であると同時に、草焼きが林野火災につながる危険も大きい時期でもあります。
 なお、田園科学室周辺(神戸市西区)ではこれらの草焼きのことを、昔から「畦(あぜ)焼き」と総称していますので、このHPではそれを尊重することにします。
2、行う月と日
 2月に行う理由は以下の通りです。(1)空気が乾いています、(2)季節風が未だ冬の面影を残しています。すなわち風向きが比較的安定して北か西、しかし強さは弱まってきます。(3)草木の芽吹きは目前ですが未だ始まっていません。
 経験の積み重ねで、農家は2月のどの日を選んで草焼きをするか、巧みに判断してきました。
 しかし、兼業農家が大部分になった今日、概してその判断が下手になったようです。勤めが休みの日(土、日、祝祭日)に気象条件を無視して強引に焼くことが多く、飛び火による林野火災の危険は増加しているようです。
 実際、数年前に私も参加した溜池の堤防の草焼きでは、完全に消火したはずの溜池付近の山林で火災が発生してしまいました。職業が多様化した村で、全員集まれる日は、そう多くないので、どうしても強引になりがちです。
3、好適な条件
 どんな条件が良いか?簡単には言い表せません。農家は多くの要素を一括判断(パターン認識?)して草焼きを決行しています。
 それらしい要素をいくつか拾い出してみると・・・(1)無風か微風であること、(2)草が乾燥し過ぎず湿り過ぎてもいないこと、(3)風が住宅や山林などに延焼や煙・灰の被害を起こさない方向へ吹いていること、(4)できれば雨の直前の時刻または日を選ぶこと、などでしょうか。
 あたりまえといえばあたりまえのことですが・・・。
4、燃え方
 最後に降った雨から何日経ったかによって、草の乾燥状態は違います。また、日の出後何時間経ったかで朝の霜露の乾き具合が変ります。乾いた北・西風の日か、湿った南・東の風の日かでも草の乾燥の速さが違います。
草の乾燥が極度に強ければ無風に近い日の朝、霜露が乾かない時刻に火付けをするのが無難です。
 逆に、湿った草を焼くときは、ある程度の風が必要になったり、午後まで霜露が乾くのを待つ必要ができたりします。
 年によって燃え具合が変ることがあります。たとえば、今年('04年)がそうなのですが、セイダカアワダチソウのような太く硬い草、またネザサが、なかなか燃えません。
 暖冬の影響とは言い切れませんが「枯れ」が充分でないような気がしています。

畦の草焼き、場所によっては広大な面積を焼く

図2:畦(あぜ)焼き。河川管理道路と一体になった広い畦。こうした畦には葛などの雑草・潅木が茂って管理がやっかいである。
5、畔焼きと植生
 畔焼きをすると、地面が熱せられて、畦に生える草の「種類」が減ってしまう、という意見があります。それは一部当っています。
 草刈りや年1回の畔焼きなどの管理をサボって草木が生い茂ったところでは、放たれた火が表面を「走り」ません。燃える物が多くて、同じ場所でプスプスと長時間燃えつづけます。そうすると、地面の深いところまで熱が届いて、「普通の草」は根から枯れてしまいます。
 そのような焼け土の中から蘇ってくる草は、ヨモギ、スギナ、セイダカアワダチソウなど「荒地植物」と総称される強靭な植物群です。これらが繁茂すると、少なくとも数年は草野「種類数」が極端に減ってしまいます。(*それよりひどいのは除草剤の撒布ですが。)
 ある生態学の学術誌に掲載された報告によると、通常の芝焼きにおける計測では、地表から4センチ下ではまったくといえるほど温度の変化がなかったそうです。
 地表はともかく、2センチ程度の浅いところでも大した温度上昇はなく、芝の根に影響はなかったといいます。
 経験的に、芝の場合は火が「軽く駆け足する程度」に走りますから、畦の草焼きでも同様の速さで火が走るような条件下で火を放つように努めています。
6、火付けの道具
 火を放つのに便利な道具がいくつかあります。オイルライターやカセットガスを用いるトーチです。
 これら(特に後者)は極めて便利ですが、ときには1、2箇所だけでなく広範な場所へ帯状に一気に火を放つ必要があります。
そのような場合には、灯油を用いる草焼きバーナー(火炎放射器とも呼びます)が便利です。重いことと、余熱に数分かかるのが欠点といえば欠点ですが。

灯油を使う草焼きバーナー

図3:草焼きバーナー。赤い部分が灯油タンク。前方が燃焼筒で、中に熱せられて気化した灯油が噴出して燃える。点火には灯油の気化を促す余熱が必要で、それに数分かかるのがもどかしい。
7、点火にあったっての注意
 点火にあたって、次のことに注意します。
(1)点火は原則として風下側から。
(2)燃え始めと燃え終わりの場所および飛び火の危険がある場所へは予め放水しておく。
(3)消火用のホースはすぐに使えるよう配置し水栓は開いておく。
(4)バケツ、ヒシャクの場合もすぐ使えるように準備する。
(5)地面を叩いて消火するために常緑広葉樹の葉付きの生枝を常に手にもっている。

この頁のトップ


110405a 原野火災
(あぜ)焼き、原野火災の例('11年04月05日)
(c)2011, ABA, Lab. Sci. Rural Life, Kobe, Japan. (田園科学室)
図1:原野火災、2011年04月05日、神戸市西区。

 2011年04月05日、昼過ぎ。村内(神戸市西区)で、畔焼きが元で、原野火災が発生。

 消防署の直ぐ裏手。畔焼きをしていた人が走って通報。直ぐに消防車が来て約30分で鎮火。

 この日の気象条件、晴れ、最多風向北北東、平均風速2.7m/sec。雨はしばらく降っておらず、空気草共に乾燥。

 目撃者(散歩中の人、農作業中の人)の話と現場の状況から、出火時の状況は以下の通り。

 農家の人が、最下段の畔を焼き始めた。風向きは、北北東、即ち斜面を吹き上げる方向だったので、火が一気に斜面を掛け上がった。

 畔焼きの手順や鉄則が守られていない。以下、手順と鉄則。
 (1)延焼の余地のないことが明白な場合を除き、1人では行わない。
 (2)ポンプ、ホース、常緑樹の枝や箒等、消火のための用具を準備し、配置する。
 (3)焼く範囲を決め、周囲に散水して、できるだけ広い防火帯を作る。
 (4)点火は風下側の一点から、また斜面上方の一点から。
 (5)広い斜面の畔を焼く時は、風向きが畔と平行か吹き下ろす時。
 (6)最後の消火は念入りに行う。
 (7)事前に話し合い、万一の場合も含めて、手順の確認を行う。

この頁のトップ