その男、器用につき02
新造人間であるバラシンは同じくサグレーに恋をしていた(サグレー・アクボーン以外今更)
サグレーに恋をしていたので自分に振り向いて欲しくてお洒落に凝るようになった、
『城』に落ちていた古雑誌のモデルのように動物の毛を首元に巻いてみたり色々と工夫してみたが
当のサグレーは技術者を誘拐し(誘拐してきたことは一度もない)
更にロボット工学の技術を高め、人間に復讐する以外興味がなかったので
言葉さえ掛けてもらえなかった。
だが、彼はくじけなかった(プロジェクトXナレーション風に)
彼もまた、サグレーのことにしか興味がなかったからだ。
サグレーだけの物になりたかったので、バラシンは自分のボディスーツに貞操帯を取り付けた。
「これをもらってくれ」
言わずもがな、貞操帯の鍵である。
サグレーはそちらを見もせずに「必要ない」と切り捨てた。
「そうか…」
そんな訳で未だに貞操帯の鍵は自分で持っていたが、
いつかサグレーに渡す機会を狙っている。
◆◆◆◆◆
バラシンはサ…(中略)
要人誘拐と戦闘に明け暮れて帰宅するサグレーの
血で汚れた洗濯物を洗うのはバラシンの日課になっていた。
とかくサグレーは必要な言葉を必要最小限にしか話さないので会話は至ってシンプルだった。
「飯」
「できている、今日はお前の好きなスパゲティだ」
「風呂」
「わかしてある、湯の温度は40度に保っている」
「寝る」
「お前の布団は昼間干しておいた。寝室に敷いているから休め」
バラシンはサグレーの世話をすることに喜びを感じていたので
特別何を言う訳でもないことに憤りを感じることもなかった。
人間社会ではサグレーを俗に何と評すか、
知る者は少なくとも新造人間の中にはいない。
◆◆◆◆◆
人間のこととなると直情的になるサグレーが拉致の標的になった技術者を
殺してしまうこともしばしばであった。
否。今の段階ではあるが生還して城に辿り着いた成功率は0%である。
技術者を味方につけ能率よく人間を統括しようとしていたブライは、
サグレーの怒りゆえの暴走を諌めようとしたが、睥睨され一喝された。
「サグレー」
「はっ、何でしょう」
「技術者の誘拐について今ひとつ芳しい結果が出ていないようだが、
この結果のままなら、他の者に任せることになるが…」
「―――私に任せていただければ、必ずや十分な結果を収めます」
「わ、分かった」
正直、ブライキングボスはこの瞬間サグレーの眼光の鋭さにビビったという。
眠る聖母・ミドリに癒しを求めて奥の部屋に歩いて行った。
ブライキングボスでさえ恐れを為すサグレーだったが
バラシンは必要とされるだけで嬉しかったので特に気に留めることもなかった。
◆◆◆◆◆
バラシンは自分の無口さを自覚して、何とかそんな自分の気持ちを
サグレーに伝えるアイテムが作れないかと考え始めた。
その結果『I love(勿論ハートマーク)サグレー』のロゴ入りTシャツになった。
古雑誌に感謝しつつ、無駄に発達したアパレル技術(家事機能全般)で
ロゴプリントを入れ完成した。
人間との戦闘に明け暮れる日々なので拘束衣の上からの着用だったが
(当然ゴワゴワ)嬉しかったので着ることにした。
ブライが「自分にも同じ物を作って欲しい」と申し出てきたので
同じ気持ちを感じ取り引き受けた。
(図案のロゴは『I loveミドリ』だった)←ボキャブラリー貧困
流石のサグレーもバラシンの恥ずかしすぎる姿に不快を表した。
「…脱げ」
「他の命令ならば何だって聞こう、だがしかし、
これだけは何があろうと脱がん!!!!!」
「………」
機械兵に攻撃の命令を下すサグレーの3本の指がバラシンに向けられた。