その男、器用につき01

 

気になるあの子。

バラシンはその姿・心…否、全てに心を奪われていた。

無表情で残酷、その内に潜む燃え滾りそうな人間への憎悪。

赤みを帯びた美しく長い髪、ぽってりとした唇は強い意志を象徴するように引き結ばれ、

何より印象的な刺されそうな量の下睫毛。

隣に凛と立つその姿を見つめてバラシンは心中で深く愉悦の溜め息をついた。

因みに表に感情を出さないため終始無表情での思考であることをつけ加える。

 

人間に何も理解できぬまま命を追われ辿り着いたのは、文明に取り残され荒廃した『城』。

かつての住人の置き土産で造人間たちは身作りを整えた。

バラシンは肌を保護するためのなめした皮で密着する形のスーツを見つけた、

戦闘の矢面に立とうとするからには防護は絶対の条件になる。

バラシンはその時点でようやく気が付いた。

戦闘の防護で必要になるのは自分だけではないのだ。

隣を見ると同じくボディコンフィシャスなボンテージの

デザインのスーツに身を包んだサグレーに目を向け言った。

「おい、何か着ろ」

「…戦闘に邪魔なだけだ」

見たいが見せたくない、男の複雑な心情に全く関心のないサグレーに

理解してもらうのは非常に困難なことであった。

一刀両断の元バラシンの男心を斬り捨てると、既にサグレーは武器を探し始めていた。

バラシンは表情には出さず困り果てると、

前向きに何かサグレーのしなやかな肢体を見えないように覆う物を

製作して着てもらえばいいのだと思い至った。

他の男に見せてたまるか、サグレーの身体を!

 

美しく張ったバストラインに、引き締まった腰、形のいいヒップライン―――

 

不自然に前のめりになったバラシンは心配そうに「あ・……あ……?(大丈夫?)」と

アクボーンに掛けられた声に何も答えることはできなかった。

 

ミシンを探し当てると使用できそうな生地を持ち出し

すぐに作業に掛かるために中心の間を飛び出した。

ブライ様が必死の演説を誰にも聞いて貰えず内心ショックだったことには気がつかなかった。

そして別にバラシンにとってそれはどうでもよかった。

そんなことよりサグレーの出撃まで時間がない。

新造人間の能力の限りを発揮して、バラシンは光速で足を動かした(←旧式の足踏みミシン)

 

カタカタカタ、カカカカカカ(光速)……

 

出来上がったのはシンプルなデザインのワンピース。

サグレーに渡すと面倒ではあるが着ない理由は特にないので不承不承ワンピースを着用した。

「…行ってくる」

「ああ」

粗暴に着たので縒れたり皺になったりしているワンピースを調えてやり、

任務に向かうサグレーをバラシンは見送った。

バラシンは今、心から幸せを噛み締めていた。

 

技術者・要人拉致の任務に出ていたはずのサグレーが赤々と返り血を浴びて城に帰還した。

最早慣れたことであった。

バラシンは血塗れとなったワンピースを洗濯しようとサグレーに脱ぐように促した。

頭から脱がねばならぬ構造上面倒臭かっただろう力任せに一気に引き千切った。

最早端切れとなったワンピースの残骸だけが残った。

バラシンの一途な愛と共に―――

あまりのショックに凹んだバラシンは無言で自室に戻り扉を閉じると、

しばらくして扉の向こうから「しくしくしく…」とすすり泣く声が漏れ出した。

流石のサグレーもバラシンの哀れな低い泣き声に「少し悪かったかな」、と反省をした。

 

落ち込んでばかりもいられない。

早急に何か代わりに作らなければ無頓着なサグレーのこと、あのまま戦闘に行ってしまう。

すぐに気を持ち直すとバラシンは次の作戦を考えた。

カタカタカタ、カカカカカカ……(←勿論光速)

 

「……できた」

 

極力動く邪魔にならないようなデザインに変更し、

サイドに短いオープンファスナーを取りつけ、着脱を簡単にした。

前回の時に悪かったと少しだけ反省をしていたのでその程度の労力なら、と

サグレーも破かなくなった。

バラシンの愛(?)の勝利であった。

 

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