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部屋の外からバタバタと廊下を走る音に、ディルスはヤレヤレとため息をついた。
足音は、自分の仕事部屋の前で止まり、バタンと勢いよく扉が開かれる。
「叔父さん!」
ガウッ! ドサッ!
「俺は、まだ叔父さんと呼ばれるほど、年寄りだと思っていないんだが。」
「すいません、ごめんなさい!申し訳ありません、マスターD!」
サーベルタイガーのリングに押し倒され、牙をむかれ、イェクスは慌てて謝った。
「ふ、ん・・・・・で、何のようだ。」
だいたいのことは予想はついていたが、ディルスは促す。
リングが退き、イェクスは立ち上がり、当初の目的を口にした。
「マスターD!私はもうたくさんです!!」
「また、対勇者への苦情か?」
人間界で、魔王役を受け持つ、甥っ子にあたる彼は、どうも魔王にふさわしくない。
「五対一に関しては、昔からのお約束なので目をつぶります。
しかし、毎回毎回、登場するたびにご丁寧な自己紹介をしてくれるんですよ、
それをやっている暇があるなら、攻撃してくればいいのに、こっちが攻撃したら
卑怯呼ばわりです!」
「むこうにしてみれば悪人なんだから、卑怯で良いじゃねえか。」
「汚い手を、と言う割には向こうの方がえげつないときもありますよ。」
「開き直れ、向こうに必ずはいる女戦死でも人質にとって・・・」
「そんな外道な事できません!」
「お前、て、本当に魔王役に向いていないな。」
きっぱり言い放つ甥っ子に、やや呆れながらディルスが述べた。
「向こうはどういう心境でやっているのか知りませんが、部下の中には精神的疲労が
濃く見られる者も居るんです。なにより、勇者に対して、やけになってノリノリで
対応する自分自身が精神的に限界です!」
ゼエゼエと肩で息をする甥の呼吸が落ち着いてきたのを見届けて、ディルスは口を開いた。
「他の連中から苦情は来ていない、そっちのスケジュール調整が問題なんじゃないのか。
部下への甘やかしは禁物だ、もう一度スケジュール調整をし直して、それでも問題なら
言ってこい。その調子なら、まだやれるだろ。」
まだ何か言いたかったが、相手にされなさそうなので、渋々イェクスは頷く。
「お仕事中、申し訳ありませんMaster D」
「構わん、ちょうどお前に仕事を頼むところだったからな。」
「仕事ですか?」
ディルスの台詞にオウムのように同じ事を言って確認するイェクス。
「耶麻、説明を頼む。」
その言葉に、いつの間にかディルスの隣に耶麻が立っていた。
イェクスは気づいていたのか、別に驚いた様子はない。
「ポイントN53 S34にて魔神器の反応がありました。属性は闇、呪い付と見られます。」
そう言って、持っていたファイルをイェクスに渡す。
書類に目を通しながら、イェクスは再び不満を口にした。
「魔法道具回収の方だけでも、どうにかなりませんか。今回はお引き受けしますが。
対勇者でスケジュールを立てても、回収作業がいつ入ってくるかわからないので、
急な変更は、なるべく避けたいので。」
「人間界への在住許可人数が限られて居るんだ、人員不足は仕方ないんだが・・・
それに関しては検討中だ、もう暫くは我慢しろ。」
「かしこまりました。では、失礼します。」
そう言って、礼をし部屋を出て行くイェクスの足音が、部屋の向こう側から聞こえなくなってから、
ディルスは小さくため息をついた。
「ま、分からなくもないだけどねえ、対勇者の疲労は。」
魔王役の仕事が回ってこなくなった、自分の身を安堵したのは確かだ。
「俺も何度か目にしたことはありますが、正直言って、関わりが無くて良かったですよ。」
別のディスクでキーボードを叩いていたカルマが、同意する。
五色のカラフルな服というかタイツのようなものを身に纏い、
決めポーズを決める相手を見たときは、“どうしよう、むしろどうしろと?”な気分が占めていた。
後輩には悪いが、自分が相手でなくて良かったと、心の底から、上司の地位に感謝したぐらいだ。
「でもなあ、人員不足も真実だしなあ。対勇者の苦情を少しは何とかしないと、
他の仕事にも影響出る可能性もあるし、やはり検討し直して、再度調整をはからった
方がいいかもしれないな。」
「この間の会議で、調整し直したばかりで、周囲から不備の意見が出るのでは?」
ディルスの台詞に耶麻が意見するように言った。
「だからどうした、魔界の方の軌道はだいぶん安定しているはずだ、
少しはこっちにも気を向けてもらわなければ困る。」
そう言って、机に上の書類にサインし、耶麻に渡した。
「カルマ、西方エリアに属する人間界に済む魔族連中の種族と人数の確認を頼む。
耶麻は朱姫皇后への取り次ぎを頼む。北方と南方にも連絡を取れるようにしてくれ。」
「かしこまりました。」
そう言って耶麻は出て行った。
「リュート殿に連絡を取られないでよろしいのですか?」
「魔界の方がまとまり次第、連絡する。こっちがまとまらないで呼び出しても
意味ねえだろ。」
そう言って、自分の仕事に移ろうとして、ふと手を止める。
「そういや、あいつ、人間界に行ってからすぐに対勇者役やっていたな。」
「ええ、まるでアルバイトのように最初は戦闘員で、下級、中級、上級で・・・。」
カルマは記憶を探り出し、指を折りながら答えた。
「てことは、結構長く保ったな。まあ、姉上から預かったときに、
特別扱い無しが条件だったから、ソワレに任せたのは正解だった。」
「ソワレ殿は自他共に厳しいお方ですからね。」
「しかし、そうなると、もう少し生活的なことも感じておかないとな。」
「・・・何をお考えで?」
何かをたくらみ始めたディルスの雰囲気を感じ取り、カルマが尋ねる。
「別に、ちょうど良い機会だから、新しい企画でも作ってやろうかと。」
その言葉に、それ以上は追求しなかったが、暫くは忙しくなるだろうと、カルマは
小さくため息をついた。