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「暇か。」

 

ノックもなしに、いきなり入ってきた人物はそう言った。

 

「この机が埋もれるぐらいの書類を見て、暇に見えますか、今日で徹夜五日目、

新記録更新中ですよ。つーか、なんであんたの書類までこっちに入ってんだよ、

自分の仕事ぐらいちゃんとやれよ。」

 

リュートは入ってきた自分の師にそう言いながら、一向に減る気配を見せない書類と戦っている。

 

「それはもういい、お前に新しい仕事だ。」

 

弟子の言葉を聞いているのかいないのか、大天使フォウスはそう言った。

 

「その仕事、まさか本来あんたの仕事じゃないでしょうね。

 もう嫌ですよ、これ以上自分のランクより上の仕事押しつけられるのは、

今は自分の仕事で手一杯なんですから。」

 

普段、周りにしでかしていることを黙殺し、リュートは言う。

 

「そのことなんだが、お前、上級クラス昇格試験、受けなかったそうだが、何故だ。」

 

尋ねる口調ではなく、問いただすような口調のフォウスに、リュートはバツの悪そうな顔をした。

 

「別に、上級クラスなんて無理に決まってるし、面倒だっただけですよ。」

 

「今度の試験は受けろ、お前はこれ以上、中級に何時までも止まっている立場ではない。

 お前は下級中級に長くいすぎだ。」

 

書き終わった書類を横にどけ、リュートが答えると、間髪入れずフォルスは言う。

 

「別に俺の勝手でしょうが、どうせ面倒くさい仕事には変わりないんだし、

だったら下から恨まれるような上司になるより、上を恨むような部下の位置の方が

俺には楽ですよ。」

 

「お前には上へ昇る能力は充分にある、昇らなければならない存在なのだお前は。

 この天界に生まれた以上、それはお前には選択権はない。」

 

「何で、俺のことで選択権がないんですか!確かにあんたは俺を育てて鍛えて、人間で

 いえば、俺の親みたいなもんでしょうけど、俺に充分な力があるって、いうなら、

俺の自由にさせてくれたって良いじゃなですか!」

 

いつまでも子供扱いしてくる師に、終わらない仕事も重なって、いい加減イライラも溜まる。

 

「リュート。」

 

それなのに、相手に静かに自分の名を呼ばれると、どうしてかグッと黙ってしまう。

 

「下級中級の時なら、まだ目も届かない、だから自由も出来る、だが上に昇って来るに

連れてそうもいかなくなる、天界はそう言うところだ。昇れば昇るほど自由は無くなる。」

 

「だったら、尚更、上級クラスになんか行きたくねえよ。」

 

「だが、お前にはやらなくてはならない仕事がある。

少なくとも、俺はお前にしかその仕事をさせる気はない。

だが今のお前の地位ではまだ足りない、だから上級という地位が必要だ。

“変革”の起きる前に。」

 

その言葉にリュートは反応する。

 

「・・・あんた、まさか。」

 

「お前には変革を見届けるチャンスがある、そのチャンスを逃すな。

人間界へ止まるためのチャンス、俺が与えてやる。」

 

「・・・・・・部下なら、俺より優秀な奴が一杯いるだろ。」

 

「部下はいるが、弟子はお前だけだ。」

 

「ひいきしてんじゃねえよ。」

 

「現段階でお前より上の級の奴はいくらでもいるさ、だが、器が足りない。」

 

「でも、俺は」

 

「お前には器がある、俺が保証してやるぐらいだ、文句は誰にも言わせない。

 俺はお前に期待して居るんじゃない、分かり切ったことを期待するほど馬鹿でもない。

 お前はそう言う道ができあがって居るんだよ、あとは歩くだけだ。」

 

「・・・とことん自由剥奪ですね。」

 

諦めた口調で言ったが、顔は苦笑していた。

 

「自由が欲しければ墜ちるだけだ。お前が一人で生きられるわけないだろ。

 とっとと昇格試験を受けろ。」

 

Yes ser Master

 

やる気のあるのかないのか分からない返事でリュートは返した。

 

「ま、その前に仕事だ、手伝え。」

 

「手伝え、て、あんたやっぱ自分の仕事じゃねえか、部下酷使してんじゃねえよ。」

 

師の台詞に、リュートが抗議する。

 

「十五分後に着替えて第三門前に集合、遅れるなよ。」

 

「遅れるな、て、おい、こっちの話も聞けよ、おい。」

 

リュートの声もむなしく、言うだけ言ってフォウスは出て行ってしまった。

 

「何であれが大天使特別クラスに就けるんだよ、絶対間違ってる。」

 

ブチブチと文句を言いながら、リュートはクローゼットを開き、戦闘様式に着替える。

 

「ああ、徹夜明けに戦闘なんて、俺はなんてタフなんだろうねえ。」

 

いや、むしろ限界を超えて、もうなんでもこいな状態なんだろう。気を抜けば、可笑しくもないのに笑えそうだ。

 

「昇格試験受ける前に、くたばるような気がする。」

 

そう言いながら剣を持つと、部屋を出て行った。