test12

 

「今日からは勉強だ。」

「え〜、何それ。」

「だり〜。」

「夏休みの宿題もあるのに、ですか・・・。」

リュートの言葉に、生徒からブーイングがおきる。

「俺の家でやる必要がどこにある。」

未だ家に居座り続けるにぎやかな連中に言い放つ夏樹の目は冷ややかだ。

「俺よりお前の方が、教え方は適任だからだ。」

「舌かみ切って死ね。」

サムズアップし爽やかに言ったリュートに夏樹が親指を下に向けて返す。

「真夏にここだけ寒冷地帯、て感じね。」

「う〜ん、でも学校でやるよりか、こっちの方が居心地良いのは確かなんだけどなあ。」

夏樹が作った冷気発生装置(クーラー・未発表非売品)のお陰で、家の中は涼しい。

大量の本もあり、分からないこともすぐ調べられる。

「俺は、夏樹と居た方が、助かる。」

言語学習と、格闘訓練が出来るので白清にとっても都合は良い。

「だったら食費ぐらいよこせ、それが嫌なら、宿にでも泊まれ。」

「良いじゃねえか、ボランティア活動にいそしんで居るんだから。」

「だったら、村長にでも掛け合え、宿代を割引ぐらいにはしてくれるだろう。」

「お前の仕事でもあるんだろ、お前の手伝いしているんだし、変わらねえって。」

「だから・・・。」

いっこうに終わりを見せない会話を生徒は見続ける。

「どっちがおれると思う?」

「夏樹さんでしょ、何だかんだ言って、はずれクジな人だから。」

「それは失礼では・・・。」

「でも当たってはイル。」

「お前も教えて貰っておきながら、結構言うな。」

 

「だから、何で同じ場所で躓いるんだ。」

セディールのノートを眺めて、夏樹が口を開く。

「え、だって、ここがこうなるから、こっちの公式で。」

「ここは入れ替えてから、さきにこっちの式を解くんだ、でないと合わないぞ。

 レスタ、そこ、字が間違っている、それだけでも得点は入れられんぞ。」

「あ。」

言われて気がつき、レスタは指摘された場所を直す。

「夏樹さん、少しよろしいですか。」

「何だ。」

結局、生徒の読み通り、教官より教官らしく、生徒に教えている夏樹。

肝心のリュートは何かの書類制作をするために、夏樹のパソコンで格闘している。

「壊すなよ。」

壊したら、今度こそ追い出すという目で使う前に忠告された。

まだまだ復旧されていないパソコンは、夏樹がカスタマイズしたものだ。

そのキーボードでポチポチと打っていくリュートを見ると、手書きで書いた方が早いと思うが、

手書きでは汚いとクレームがくるらしい。

なら、パソコンでなくともワープロぐらいは覚えたらどうかと言うと、機械に弱いらしく、

その上、そこまで天界、魔界、人間界の三界全体で、これらは復旧していない。

夏樹やディルスのように、パソコンを持っている方が珍しかった。

「夏樹、グラフの制作どうだっけ?」

「お前まで俺に質問してどうする。」

リュートの声に、夏樹は投げやりに応える。

「分かんねえんだから仕方ないだろ。」

「お前は教官として、こいつらの夏の特別講習をするのが仕事だ、それなのに、何で俺が

 お前の仕事をして、お前は別の仕事に取りかかって居るんだ。」

もっともな台詞。

「こっちも締め切りが近いんだよ。」

「それなら、ディルスの所に居た間でも出来ただろ、計画性が無い奴だ。」

「だから教えてくれ。」

「夏樹さん、質問が・・・。」

「一遍に言うな、限界がある、俺の時間をよこせ。」

ポン

そう言ったとき、パソコンから何かを知らせる音が流れた。

「何だ?」

「メールだな、どけ。」

有無を言わせず、リュートをどかせパソコンの席に座る。

「データーは消すなよ、やっとここまで出来たんだから。」

「パソコンのデーターそのものを飛ばしてしまう、お前に言われたくない。」

以前、嫌な電子音と真っ黒なパソコン画面を見せられた経験が、頭をよぎった。

メールはディルスからのものだった。

「おい、こいつも呼ぼうぜ。」

「お前、ここが誰の家か認識して言っているんだろうな。」

リュートの提案に、夏樹の纏う空気が、一段と下がる。

「冷気発生装置いらねえな。」

「うん、むしろ寒くなる。」

後ろで、レスタとセディールが言った。

「だって、あいつだって頭良いし、作業が楽になると思うぜ。」

「あいつが、大人しく付き合うと思うか、真面目に教えているなかにさり気なく、

 デマを吹き込んで信じ込ませてしまうのがオチだ。」

「「あ〜、やりそう、やりそう。」」

ディルスに会ったことのあるレスタとデパスが納得する。

「でも、あいつが来るなら、カルマ達だって来るだろ、大丈夫だろ。」

「そう、簡単にいくとは思えんが、どうやって誘い出すつもりだ、馬鹿正直に言えば、

 鼻で笑って、返信すら無いぞ。」

「馬鹿正直に言わず、ひねくれて言うんだよ。」

リュートはそう言って、夏樹の横から、返信画面にむけて、キーボードを打った。

“今から夏樹の家に集合、しなかったら例の話を周囲に言いふらす by R

「・・・責任はお前がとれよ。」

「サー。」

夏樹はどこか遠い目をしながら返信した。

 

「さて、そろそろかな。」

そう言ってリュートは立ち上がる。

「職務放棄して、何処に行くつもりだ。」

「すぐ戻る、とりあえず生命確保を行うだけだ。」

夏樹にそう返し、裏口に向かっていった。

「邪魔するぞ。」

「ノックぐらいしろ。」

バタンとドアが開き、入ってきた相手は、夏樹の言葉を聞き流し、辺りを見回す。

「あいつはどうした?」

「たった今、裏口から逃走した。」

「ふ、ん。お約束だな。」

“ギャ〜ス!”

外から、何とも言い難い叫び声が聞こえた。

「え、何々!?」

「今の教官の声じゃ・・・。」

叫び声を聞いて、さすがにレスタ達は慌てる。

「何を仕掛けた。」

窓の外に視線を向けることなく、夏樹は言った。

「ヘルハウンドだ、裏口の影に潜ませておいた。」

「ヘルハウンド、て何?」

ディルスの台詞に、セディールが聞き返す。

「モンスター図鑑第二巻、656頁。」

そう答えたディルスは、先ほどまでリュートが座っていた椅子に腰掛ける。

「おじゃまします。」

続いて入ってきたカルマは、ディルスの側で佇んだ。

ディルスの答えに、本棚からモンスター図鑑を引っ張り出し、白清が調べる。

「あった。」

「ちょっと貸して。」

頁を開いたまま、それを取り、セディールが声に出して読んだ。

「ヘルハウンド、全身が真っ黒で、目は燃えるような赤。

夕暮れ時の、その土地の野犬を引き連れて出現し、人々に危害を加える。

また、影のように音も立てずに忍びより、魂を食べる。

逃げるには、神へ祈る・息を殺して隠れる、川を渡って逃げる、のが有効。

口から火を吐くこともあるので、注意すること。・・・・・ちょ、教官!!」

慌てて、外に出ようとする生徒にディルスが声をかける。

「殺すように命令してないから安心しろよ、せいぜい、火を噴かれるぐらいだ。」

「そんな、呑気な!」

「人を脅そうなどという不貞な輩は、痛い目見ないと、気が済まないんだよ。」

「暫くしたら引っ込めるだろうよ、お前らは、先にこっちの問題を解け。」

夏樹の台詞も加わり、生徒達は外を気にしながらも席に着いた。

「台所借りるぞ。」

「ああ。」

夏樹に声をかけ、立ち上がるディルスに、カルマが言う。

「お茶なら、俺が・・・。」

「茶ぐらい自分でいれるさ、とりあえず、外の奴でも見ていろ。」

yes

ディルスが台所に、カルマが外に消えた。

「モンスター関連は、あいつに聞け、ただし図鑑と併用してな。」

「それ、あんまり意味ないんじゃ・・・。」

夏樹の台詞に、デパスが言う。

「俺の負担が、少しは減る、教官があれだと、どうなるかは分からんがな。」

本格的な勉強は、もう暫く、時間をおかないといけないらしい。

外から聞こえる、にぎやかな声と、机で顔をくっつけるように、問題を解いていく生徒に、夏樹は小さくため息をついた。