test08

 

「こんな所に、本当に薬草園なんてあるのか?」

獣道にも似た道を歩きながら、レスタが口を開く。

木々が光を遮り、辺りは昼間なのに薄暗い。

「あまり、菜園に向いている場所には思えませんね。」

同意するように、デパスが言った。

「変わり者なんだよ。」

「教官に言われたらおしまいですね。」

「つーか、またそれかよ、て感じなんだけど。」

まともな人が相手のクエストは無いのかと、感じる。

「ブラックワルツ、最後の一人さ。」

「それを先に言えよ!」

それさえ知っていれば、こっちを選択することはなかっただろう。

「安心しろよ、今回はまだ大丈夫だって。」

「前例出てるだろ、信用できるか。」

呑気に言うリュートに、レスタが即座につっこむ。

「ということは、魔導師ですか?」

「そ、中型召喚獣マスター、魔導師マスター所持者、あと危険物取扱資格も所持してたな。」

「んで、性格はどうなの。」

「ん〜、新薬開発したら、そこらへんで人体実験しそうな奴。気を抜いたら、茶の中に

 痺れ薬ぐらい仕込んでいそうなやつだから、奴が茶を出したときには気をつけろ。」

「何で、出された茶に気をつけなきゃ、ならねえんだよ、

つーか、変わり者ですむ範囲じゃねえだろ!」

「生徒会から危険視扱いされた理由、改めて解った気がしますよ。」

ハッハッハッと笑うリュートに、二人は後悔の念を感じた。

先の続く薄暗い道が彼らの心境を表しているようだった。

 

「・・・・・・・・。」

ギャア、ギャア、ギャア

正体不明の鳥の鳴き声が、辺りに響き渡る。

錆び付いた格子の門の両脇には、こちらを伺うようにガーゴイルが見下ろしていた。

門の向こうには、古い洋館が建っている。

「あのさあ、もう一度、クエスト内容確認してもいいか?」

沈黙を破り、レスタが口を開く。

「薬草園の手伝いだろ。」

あっさりとリュートは返す。

「中に入ってから、いきなり魔物退治に変更なんて言いませんよね?」

「何で、そんな事しなきゃならねえんだよ、俺はそこまで性格ひん曲がってねえぞ。」

デパスの問いかけに、リュートはあきれたように言い返した、が、目の前の建物を見て、その言葉に説得性は感じられない。

「ヤバイものと契約して、俺ら、生け贄にしようとかはねえのか?」

「お前らは、そんなに俺を犯罪者に仕立て上げたいのか。」

「目の前に、こんな景色見せられて、疑われても当たり前だろ。」

まるで、吸血鬼や魔女でも住んでいそうな、いかにもな雰囲気が漂っている。

「人よけだとさ、普段は別の奴に管理を頼んでいて、休みとか気晴らしに、たまに本人が

 来るんだよ。」

「気晴らしになるどころか、余計、気が滅入りそうな気もしますが。」

「荒れてるのは、外側だけだから心配すんな。」

「そう言う問題でもないんだけど。」

パキン

三人が会話していると、後ろから枝が踏まれ折れる音がした。

振り返ると、長身の男が立っていた。

「ようやく来たのか。」

男が口を開く。

「よ、邪魔させてもらうぜ。」

片手を上げ、簡単な挨拶をしリュートが言った。

「いや、管理人が急用で里帰りしたからな、どちらかといえば助かる。」

そう言って、三人の横をすり抜け、門を開く。

ギイィィィィィィィィ

錆びた鉄が、いやな軋みを響き渡らせる。

「入れ。」

門をくぐり、屋敷の扉を開くと、昼間にもかかわらず薄暗い廊下が奥まで続いていた。

「あんたが一人で出かけるなんて珍しいな。」

「人手が足りないからな、問題はない。」

リュートの台詞に、視線を向けることなく、まっすぐ視線を前に向けた男は答える。

「普通の人そうでよかったですね。」

二人の後をついていきながら、デパスが小声で言った。

「そうか?なんか、気が抜けない雰囲気があるんだけどさあ。」

レスタがぬぐいきれない何かに、わずかに眉を寄せて言う。

「僕はどちらかといえば、夏樹さんの方が、

気が抜けない雰囲気がありそうな気もしますが。」

「そうじゃなくてさあ、なんつーか、身のこなしかた、つーのか、視線、つーのか・・・。」

ハッキリと表現できないレスタは、曖昧にしか応えられなかった。

 

屋敷の奥の扉の前までつれていかれる。

男がドアをノックし、声をかけた。

「カルマです。」

「入れ。」

「少しここで待っていろ。」

そういうと、カルマと名乗った男が扉を開き、滑り込むように中に入った。

その動作が獣じみている、レスタはなんとなく、そう思った。

「リュート殿が来ていますが。」

「ああ、通してくれ。」

部屋にいた者の言葉に、カルマが扉を開き、中にはいるよう促す。

リュートは迷うことなく、ズカズカと入っていった。

鬼と出るか蛇と出るか、そんな面持ちでレスタとデパスも中に入る。

「よ、久しぶりだな。」

カルマの時同様に、片手をあげ挨拶をした。

ただでさえ薄暗い屋敷なのに、カーテンを閉めているせいか、さらに暗い部屋だった。

中にいた人物は、手に持っていた試験管を試験管立てに戻し、振り返る。

「「(怪しい。)」」

相手を見た、レスタとデパスの率直な感想だった。

「いらっしゃい、と言っておくか。ここじゃ、茶は出せないけどな。」

「それ以前に、歓迎向きの部屋じゃねえな、暗いぞ。」

相手の台詞に、リュートは辺りを見渡しながら返す。

「日光に弱い薬品が多いんだよ。」

「よく間違えないな、バイザーぐらいはずしたらどうだ。」

「見えるから問題ない。俺のことを言いに来たわけじゃないだろ。」

「はいはい、これから一週間、お世話になりま〜す、ほれ、お前らも挨拶。」

二人だけの会話から、いきなりふられレスタとデパスは再び焦る。

「ど、どうも、レスタ・プラゼンです。」

「え、あ、デパス・ソラールです、よろしく、おねがいします。」

どもりながらも一礼する二人に、青年は視線を向けた。

「ディルスだ。ここの管理人が急用ができてな、薬草園の世話の人手が足りない状態だ、

 ま、せいぜい頑張ってくれ。・・・・・・・耶麻。」

ディルスは二人にそう言うと、部屋の暗闇に声をかける。

「はい。」

「「っ!?」」

二人の立っている後ろ、扉のそばで立っているカルマの逆隣に、いつの間にか、暗闇の中で一人の女性が立っていた。

「こいつらの部屋を用意してやれ、それと薬草園の説明もな。

どうせそこの教官はアバウトにしか言ってねえだろうからな。」

「おう!」

「威張るなよ。」

あっさり同意された嫌みに、ディルスは気にすることもなく、耶麻に行くように視線で

促す。

「では、こちらに。」

「は、はあ。」

「俺、まだ話すことあるから、お前ら、先に行ってろ。」

リュートの言葉に、レスタ達は耶麻につれられ出て行った。

「んで、これ、夏樹からの預かりもんだ。」

「ああ、中身は見たのか?」

リュートから渡された封筒の中身を取り出しながら、ディルスが返す。

「一応、上の報告もあるからな。でもよ、クロチアムが殺した人間の体の一部を持ち

帰えっていたのは、人工生命体の研究の為、それぐらいのことで騒ぐ必要があるのか、

俺は疑問だったんだけどね、予想以上に申告だったぜ。」

「ホムンクルスぐらいなら、歴史上の出来事として目はつむれるが、クロチアムが作ろう

 としていたのは人間だからな、まだ人に与えるべき知識ではないだろ。」

封筒の中に入れられていた書類に目を通しながらディルスは言った。

「人間が人間を作り出すなんざ、世の末だね。」

「夏樹はどう言ってるんだ?」

「“可能かもしれないが、断定はできない、興味がわかないから手を出していない分野だ”

 だとさ。」

「ふ、ん・・・喰えないねえ。」

リュートの台詞に、のどの奥で笑いながらディルスが言う。

「俺はそう言うことに関して知識がないから、よく分かんねえけど、可能なわけ?」

「俺もこっちは分野じゃない、夏樹が言っているなら、それが正しいんじゃないか?

 頭は向こうの方が良いし。」

「じゃあ、ホムンクルスと今回の人工生命体の違い、て何だ?」

「お前、本当に天使か?」

リュートの質問に、ディルスがあきれた。

「だから、詳しく無いんだって、そういうのは本当は別件で違う天使がやるはず

 なんだけど、上司が面倒くさがって俺に回してくるんだよ。」

そう言ったリュートに、軽くため息をついてディルスは口を開く。

「夏樹の方が、こういった説明は得意なんだろうから、詳しくは、後であいつに聞け。

 ホムンクルスとは、ぶっちゃけ人形みたいなもんだ。

いろんな成分を組み合わせて、みかけ生き物みたいなやつを作るんだよ、中身はなんもない。

その中身に何を入れるかは、ホムンクルスを作った奴による。

そこら辺の魂を無理矢理押し込んだり、強力な魔導石を詰め込んだり。

クロチアムは、今回の実験を行う前に、ホムンクルスに人間の脳を詰め込んでいるらしい、半分死人状態だったそうだ。

ともかく、体のつくりが生き物とは違うんだな。

んで、人工生命体は、生き物の体をちゃんともって、自分の意志がハッキリしているんだよ、

ホムンクルスは自分の意志は無いに等しい、主人の命令を聞くゴーレムにほぼ近いと言っても良いかな、

だから人工生命体は本当に生き物を人工的に作りだすんだよ、男と女じゃなくて、一人の体の一部を使ってな。」

「つがいが、いらない、てわけか。」

「もっと他に表現のしようがないのか、天使。

 まあ、そう言うことだ、魂のリサイクルを無視し、無理矢理、生命体を作られたんじゃ、

 世界のバランスがおかしくなるからな。

まだ時期的に早すぎる、と、上は判断したんだろ。」

そう言ってディルスは再び書類に目を通し始めた。

「しかし、学校のクエストを自分の仕事に利用するかねえ、メリットなさ過ぎ。」

「ちょうどクエストの方をもちかけられたからな、いっぺんにすませるかなあ、と

 思ったんだけど。」

「クロチアムに出会って、生き抜けたんなら運は良いんだろうな。」

「カルマのことも、薄々違和感は感じていたみたいだぜ。」

レスタの感じた違和感は、人間とは違う、獣人の雰囲気を感じ取っていたらしい。

「そりゃ、頼もしい。なにせここの薬草園は盗まれたら大変だと、強力な防犯つきなんでな、気合いを入れてやってもらわんとな。」

「上等、でないと特別講習になんねえよ。」

そう言ってリュートは立ち上がる。

「茶でも飲もうぜ、この部屋に長々といると、辛気くさくなりそうだ。」

「耶麻が、お前の生徒に茶を出しているだろ、入り口は言って右の部屋だ。」

「お前は。」

「まだ用事がある。」

「あ、そ、じゃあな。」

リュートが片手を上げ部屋を出て行った。

「んで、どうだった。」

それを見送り、先ほどから黙って佇んでいたカルマに声をかける。

「川の汚染のせいで、異形が出てきておりました、浄化草のおかげで、上流部分だけに

 とどまっておりましたが。」

「クロチアムの奴が、何も考えずに薬品や怪しい実験体を捨てるおかげで、変異が起きている、

  魔族が環境保全など、笑い話にしかならん。」

そう言って、試験管に再び手を伸ばす。

「御影の方は?」

「たまにカラスを使って報告が入る、クロチアムと繋がりのある奴の調査だからな、

 手間はかかりそうだ。」

 

こうしてレスタ達の知らないところで、レスタ達の知らない世界の一部が広げられていた。