Trickster
一体、何の因果でこうなったんだろうか。
そう考えずには居られない今日この頃。
「くぉら〜!くそガキ何処行きやがった〜!!」
北欧神話のトリックスターである魔王が、怒りもあらわに叫ぶ。
その金髪は、細かい編み込みが施され、上にアップされていた。
「見事な出来映えですわ。」
その細かさに古参者のハイピクシーが賞賛した。
「今度、私もお願いしてみましょう。」
パールバーティが同じように言う。
「てめえら、何で黙って放っておいたんだよ!!」
その呑気さに、ロキが怒鳴る。
バッドステータス・睡眠から目覚めると、このざまで、自分にこんな事をする輩は
ただ一人と、辺りを見渡しても、肝心の相手は既にいない。
「だって楽しそうだったもの、止めるのが可哀想で。」
蛇の頭を撫でながら、リリスが答える。
「俺は可哀想じゃねえのかよ!」
「主の、ほんの悪戯心だ、少しは目をつぶったらどうだ。」
トールの言葉にも怒りは収まりそうにない。
「おいクー・フリン!」
「何故、私が呼ばれるのですか。」
黙ってその様子を眺めていたクー・フリンが呼ばれる。
「何故じゃねえだろ、あいつのお目付役はお前なんだぞ、すこしは教育しろ!」
「あなたに言われたくないですね。第一、いつ私がそのような役目になったのです。」
「あいつはお前には甘い!」
「理由になっていません!」
ビシッと指された指を払いのける。
「でも甘いのは確かだよな、お前が一番御霊合体してんだからよ。」
雲に載ったまま、先ほどまでロキの姿に爆笑していたセンテイタイセイが言った。
「それはあまり関係ないと思いますが、このパーティー編成自体、何か間違っています。」
「それはそうだけど。」
クー・フリンの言葉にハイピクシーが同意する、上級、中級、下級悪魔が混在した状態を見渡す。
「ともかく、お母さんよろしく悪戯坊主を叱ってこい!」
「ていよく押しつけられたような感じがしますね。」
ロキの言葉に、渋々ながら主を捜すことにした。
プシュー
スプレー上の液体を壁にかけていく。足下にもいろんな色のスプレー缶が散らばっている。
「やはり、ここにいましたか。」
後ろから聞き覚えのある声がかけられた。
「ロキに何か言われた?」
人修羅・水蓮は視線を向けることなく尋ねる。
「悪戯坊主を叱ってこいと言われました。」
「ちょっとしたお茶目なのになあ。」
そう言いながら、塗りたくった壁を、少し離れてみてみる。
「今度は何を描かれているのですか?」
「お前が一番よく知っている奴。」
「はあ?」
壁に描かれた絵を眺めていると、見覚えのある形に見えてきた。
「これは・・・私ですか?」
「そ、最初はフロスト君描いて、次にランタン描いて、ピクシー描いて、そしたら
いっそのこと妖精系全部描いちゃえ、て描いてたら、セタンタ描いたら、何か描きたく
なって。」
どこからともなく、マネカタ達が見つけてきたペンキのスプレー缶をもらってから、彼は時々、仲魔に自由時間を与えては、グラフィックアートをしている。
「こんどはニヒロ機構の壁にでも描いてやろうかと、模索中。」
「嫌がらせは止めてください。」
水蓮の浮かべた笑みに、クー・フリンが釘を刺す。
「ちぇ」
M頭を強調した氷川を描いてやろうと思ったのに、という台詞は、この際聞かなかったことにしようとクー・フリンは思った。
「休憩〜。」
そう言って、ドカリとその場に座る蓮にならい、クー・フリンも腰を下ろす。
「天気が良いなあ〜、て、どうせ此処ははれてばっかりだけど。」
そう言って見上げても、カグツチを挟んだ向こう側にも、ビルが立ち並んでいるのが見えるだけだ。
「青い空が見たい〜。」
「無理言わないでください。」
「青い海も見たい〜。」
「それも無理です。」
「言葉のキャッチボールしてくれる人が欲しい。」
「・・・・・・それも多分無理でしょう。」
ヤレヤレとため息をつきながら、人修羅を見やる。
彼は面白くなさそうに、上を眺めていた。
「別にロキに悪戯したことはどうこういいません。」
彼とて、よく人にちょっかいをかけてくるのだから、あまり責められないだろう。
「ですが、八つ当たりは感心しません。」
「・・・・・・・・・バレてたか。」
視線を向けずに、水蓮が口の端を上げて言った。
「どうせ、また悩んでいたんでしょ。」
彼の元いた世界の関係者に会う前と会った後、彼はよく悪戯をしたり、壁に絵を描く。
そうして一通り気が済んだら、また歩き出す。
「純粋な悪戯も困りますが、八つ当たりは質が悪いですよ。」
「分かっては居るんだけどねえ。」
周りが騒いでいたら、少しは気が晴れる。
だから、どうしても隙を見つけると、悪戯したくなる。
「だって、誰もキャッチボールしてくれないんだぜ。
俺だって、たまには好き勝手やりたい。」
「だからといって、巻き込まれるほうが迷惑なのは分かっているでしょ。」
「付き合いの良い仲魔を持つと、幸せだね。」
「マスター。」
真面目にして欲しいと意を込めて、クー・フリンが声をかける。
「反省はしている、でも改善できるかどうかは、俺にも分からない。」
その答に、仕方なさそうにため息をついた。
「別に誰も責めたりしませんよ、あなたは我々の主なのだから、あなたが自由にすれ
ばいい。進みたくなくなったら、好きなことをすれば良いんです。それが八つ当たりで
なければ。」
「・・・・・・うん。」
「だから、八つ当たりの悪戯は止めてくださいね。」
「・・・・・・・・・うん。」
取りあえずは頷いたので、頭を撫でておく。
「あんま、甘やかすな、駄目になるから。」
「・・・はい。」
なんて、ことがあったのは随分前で。
「・・・・・・・。」
ソロリソロリと足音をたてず気配を隠しながら歩く姿は、間抜けながら、素晴らしい。
大天使長の後ろを気づかれず、近づくと。
「隙有り!」
「っ!!」
甲冑の腰あたりの布をめくり上げ逃走。
まるで一昔前の女子中学生かと言いたくなる。
「落ち着いてくださいミカエル様!」
「冷静に、とにかく冷静になりましょう!」
「ほんの悪戯心です、穏便に。」
他の大天使達が、宥めにかかっていた。
「これで天使全員ね。」
眺めていたハイピクシーが呟く。
「他にスカート状のような服を着た悪魔、ていたかしら。」
「ガブリエルさんが、まだですが。」
「あの人は女性タイプだから、やらないんですって。」
パールバティが言うと、リリスが答えた。
「ミカエル殿までやられたか、あの方も成長された。」
「感心するベクトルが間違ってるぜ、トールの旦那。」
トールの台詞に、思わずセイテンタイセイが突っ込みをいれた。
「クー・フリン!」
呼ばれた彼は、既に最初の方で、スカートめくりをさせられている。
また、主への教育の仕方について、何か言われるのだろうか。
自分は決して、主の教育係ではないのに。
きっと、逃走した相手は、壁に大天使長をかいているのだろう。
この間から。天使を書き始めていたから。
大天使長ともなると、長い説教を覚悟して、クー・フリンは呼ばれた方へ向かうことにした。
今日も、カグツチは照っている。
後書き
不燃焼。何が書きたかったのかも分からん。
今度はもうちょうい、はっちゃけた主人公が描きたいなあ。