所有者名
草薙家の冷蔵庫の中身はかなり豊富だ。
一人暮らしの時は最低限の物しか無かったが、仲魔達が住み着き始めてからは、量が一気に増えた。
食費は各自払っているが、それでも自分が食べたい飲みたい物は自分たちで買ってくる。
そのため自分の物にはキッチリ印でも付けておかなければ、誰かに盗られてしまう、
犯人が分かり喧嘩になれば、大抵乱闘になるので、大黒柱である頼光の鉄拳が両方にくだされてしまう。
誰が好きこのんで、ステータスMAXの神帝の拳を喰らいたいものか。
「お前、て本当に捻りがねえな。」
割引シールの付いたコーヒーゼリーの蓋に“クー”と書かれているのを見付けてロキが言った。
「別に印に捻りなんて必要有りません、大体あなただってそう変わりないじゃないですか。」
むしろわかりやすい方がこの場合良い、そう思いながら返しているとロキがゴソゴソと何かしている
のが見えたので、後ろから覗き込む。
「・・・あなたは何、某ジュースキャラを描いちゃってくれてるんですか!!」
「あ?わかりやすくて良いだろう、脱力感バッチリ!」
そう言って満足そうに笑う魔王に、幻魔は彼が買ってきていたプリンを取り出し、彼の持っていた
ペンを素早く取り上げると、同じように何か書き始めた。
「あ、テメエ何しやがる!!」
「わかりやすくして差し上げただけですよ。」
そう言った彼の手には“Loki”のしたにデカデカと“褌”と書かれていた。
「・・・テメエ、随分難しい字、わざわざご丁寧に書いてくれてるじゃねえか。」
魔王の周囲の空気の温度が下がり始める。
「そちらこそ、とても素敵なイラストを描いてくださって。」
幻魔の周囲の風がざわつく。
お互い笑みを浮かべながら冷蔵庫の前でにらみ合いを始めた二人に。
「どっちにしてもコーヒーゼリーとプリンじゃ格好つけても仕方ねえだろうになあ。」
“西”と流ちょうに筆ペンで書かれた桃缶の桃をかじり付きながらセイテンタイセがボソリと言ったことに
二人は気付いていない。
ちなみに、“西”を挟んで東“西”南北などという下手な悪戯をされたときは、しばらくの間は西天大聖と
フルネーム(?)で書いていた。
冷蔵庫の中に、特売時に買われた三個入りの特大肉まんがある、その肉まんの真上には、それぞれ
兄、弟1、弟2と書かれていた。
兄はケルベロス、弟1はオルトロス、弟2はキマイラを表している。
最初はケルオル兄弟で、“兄”“弟”と分けるつもりだったのだが、
「種族ハ違エド、我ラハ兄弟、オ前ヲノケ者ニスルノモイカン。」
と二人で言い出し(肝心のキマイラ自身は全く気にしていなかったのだが)
いつの間にかキマイラは弟2と表記される事となっていた。
その肉まんの横にあるわらび餅には、縦の一本線に三角形がくっついたようなマークが付いている。
これはルーン文字でトールを表しているらしい。
しかし、あの巨体でチマチマと餅を食べる姿はなんとも・・・。
別の棚に四種類のフルーツゼリーが置かれている、それぞれ赤色の炎、青色の十字架、白い百合、
橙のMが書かれている。
炎は噴火を司るウリエル、青十字架は医学を司るラファエル、白い百合はガブリエル、
Mはミカエルを示している。
とはいえ、ミカエル自身が何かを買ってくる事はない
(仕事で忙しいらしいのでこっちに来る事も呼び出される以外はあまりない)
他の大天使達が息抜き用にと買ってきているのだ。
そして、紅茶ゼリーには“Mata”と書かれている、これはメタトロンを表しているのだが、
これまた誰かの悪戯によりtaをけされkaに書き換えられていた事がある。
本人には中身だけを渡すのだが、これを見た天使達は流石に慌てていた。
悪戯をした犯人は「お願いですから、こんな心臓に悪い事は止めてください!」と厳重に注意を受けた。
紅茶ゼリーの横にある抹茶ゼリーの表面にはドクロマークが付いている。
ベルゼブブの印なのがだ、パッと見、食欲が損なわれそうだ。
冷蔵庫にあるバニラアイスにはヒ〜ホ〜とだけ書かれていた、これはジャックフロストだ。
ヒーホーだけなら、ランタンとも被りそうだが、ジャックランタンは三角帽子の目印なので問題ない。
「………こうして見ていくと、あんたは、結構普通だな。」
“D”と書かれたストロベリーアイスの蓋を眺めながら頼光が言った。
「ま、お前に比べたらそりゃ、誰だって普通だろ。」
グワッと開いた大きな口にアイスクリームを放り込みながらダンテが返す。
「俺は普通だろ。」
侵害だとでも言うように、視線をダンテに向けながら頼光が言った。
「……自分の物に“俺”と書く奴は、そうそういないと思うがな。」
最初に見た時は「だから、“俺”て誰だよ。」と思ったぐらいだ。
「だって俺のだろ、別に他の奴が見ても、誰かの物だと分かれば良いんだよ。」
小豆アイスをつつきながら頼光はさも当然のように言う。
「一つ聞いておくが、それで誰かに盗られたらどうするんだ。」
「あんたが今まさに食べようとしていたストロベリーサンデー喰われた時を想像すればいい。」
「………なるほどな、実にわかりやすい答だ。」
そう言いながら、お互いのアイスを蓋の上に載せて交換した。
とりあえず印が入っている物は自分の物以外手出ししてはいけません。
後書き
何故かラストがホノボノとしてしまった。
よくあるじゃないですか、喰われた後にそれを責めたら「じゃあ、名前ぐらい書いていろ」と、
書いていて本当に効力があるのかどうかは不明ですが、とりあえず、この大家族じゃ名前でも書いていないとやってられません。
食い物の恨みは怖いのです。