悪戯注意

 

 「落ちたら、死ぬと思うか?」
ボルテスク界で最も高いであろう塔から、下をしゃがんで見下ろしながら頼光が言った。
“何が”とは言っていないが、隣にいたクー・フーリンには大体の予想は付いている。
「さあ、私には何とも言えません。」
主の目はただ遙か下を眺めており、本気かどうか判断できないので、
迂闊な事は言えない、そう考えクー・フーリンは答えた。
「大丈夫そうなんだけどなあ。」
と視線を変えることなく、頼光は呟く。
「何が、大丈夫そうだと?」
不意に二人だけの場に、別の声が入った。
そこでようやく頼光は視線を上げる。
「アマテラスか、何かあったか?」
休憩終了は二度目の静天だから、まだ時間はあるはずだ。
「なに、二人が奇特な所にいると聞いたのでな、暇つぶしよ。」
「(あまり面白がらないでほしい)」
優美な笑みを浮かべたアマテラスの台詞に、クー・フーリンが心中でため息をつく。
「いや、ただ、ここからダンテを突き落としたら、流石に死ぬかな、と。」
「ほお」
サラリと言った頼光の問題発言に、更に楽しそうに目を細めるアマテラスと対照的に、
クー・フーリンはガックリと肩を落とした。
「(やっぱり)」
 
どういうわけか、自分の主人はこの間まで敵対していた悪魔狩人を雇う事になって以降、
事あるごとに、その悪魔狩人・ダンテに悪戯を仕掛けようとする。
おまけに向こうは向こうで、頼光をからかう事を楽しんでいるらしく、
自分たちへの悪戯が少なくなった反面、二人の喧嘩に巻き込まれ、苦労は倍増。
戦力としては申し分ないが、クー・フーリンの胃炎の回数が増えたところを見ると、
利益はマイナスのような気がする。
 
「折角、契約されたのに、また第三カルパのような事になっても知りませんよ。」
それでも、クー・フーリンのとりあえず意見してみる姿勢は感心するに値するだろう。
今まで効果があったかどうかは定かとして。
「マントラ軍本営から落ちても、平気だった男だ、多少のダメージはあるかもしれんが、
 心配あるまい。」
「(何でそう余計な事を言っちゃうんですか、あなたは)」
心の中で、アマテラスの台詞に突っ込む、声を出さないのは、後で標的にされては厄介だからだ。
そんなクー・フーリンをよそに、頼光は「俺もそう思う。」と返した。
 
初めてダンテと戦った後、自分も試しにやってみれば見事に瀕死状態。
何だか悔しくて、ダンテと契約した後にもう一度試せば(巻き込まれた仲魔からは後におしかりを受けたが)
彼だけピンピンとしていたので、悔しさ倍増。
さらに小馬鹿にした笑みと言葉に、いつか絶対見返してやるという目標(?)までたててしまった。
プラス、純粋な興味が、ここからダンテを突き落とした後の結果とで天秤に揺れているのだ。
残念ながらクー・フーリンの発言は、せいぜい天秤を真ん中で揺らすぐらいの力しかなく、
アマテラスの発言次第では、あっさり実行に傾く。
そして、そのアマテラスと言えば、第三カルパの鬼ごっこで標的にされたこともあり、
ダンテに対する頼光の悪戯を誰よりも楽しく眺めている悪魔である。
「それで無事だという保証はあるのですか?」
「ないけど、自信はある。」
クー・フーリンの言葉に、キッパリと言い切った頼光に、これ以上の労力は無駄だと早々に結論づけた。
そして―。
Hey boy. What are you doing?
真剣に、ジッとオベリスクの塔で下を見下ろす頼光にダンテが声をかける。
「いや、落ちたら死ぬかな、と。」
しゃがんで、視線を下に向けたまま、頼光は言った。
ダンテも頼光の隣で、立ったまま下を見下ろし、口笛を軽く吹く。
「ま、少年には無理だろうな。」
どこか人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ダンテは言った。
「自分は平気そうな言い方だな。」
そう言いながら、頼光は立ち上がる。
「ま、これぐらいならな。」
「ふ〜ん」
“なら、安心だ”と聞こえたのはダンテの空耳だったのか。
「えい。」
oh?
あまりにも自然に、ダンテの足下に蹴りを入れた頼光に対し、
急激な視界の変化に追いつかず、ダンテの反応は一瞬、遅れた。
「チッ!」
それでもすぐに空中で体勢を立て直すのは流石で、そのまま行けば問題なく着地できる…はずだった。
 
ボチャーン!
 
「あ〜あ。」
上からダンテが落とし穴にはまるのを見て、思わずクー・フーリンが声を上げた。
その横では「Bingo!」といって小躍りする頼光がいる。
「よくもまあ、あそこまでピッタリと落ちましたね。」
「俺の予想も、まんざらじゃないな」
クー・フーリンの呆れたような言葉に、頼光は悪戯が成功した事に満足した様子で、ずれた返答をした。
「竹槍でもよかったんだけど、それだとトドメになるからな、
大量の氷(ブフ)を溶かして、水にしてみた、ついでにこれはオマケ。」
そう言って、頼光がどこからか出してきたのは『有名温泉の元』
「お肌スベスベ〜。」
「………。」
もはや何も言う気は起こらなかった。
 
一方、肝心のダンテはと言うと、結構深く掘られて上に水まで入れられた穴から、何とかはい上がってくる。
「あ〜の〜、ガ〜キャ〜!」
沸き上がる怒りと共に、体中にスパークが走り、黒い悪魔が姿を現した。
 
「手、抜いてやがったな。」
そう耳元で聞こえた気がしたが、確認を使用にも当の本人は既に逃亡、
更に、空中に背を向けていた自分の背後から、黒い影が勢いよく通り過ぎていった。
クー・フーリンは風で乱れる髪を押さえ、遠くから聞こえる爆音と、悪魔達の悲鳴にため息をつくだけだった。
 
ちなみにその後、オベリスクの塔への人修羅一行立ち入り禁止令がエリゴールから言い渡された。

 

後書き

マントラ軍本営から、レッツらダイブをしてもピンピンしているダンテさん、

いったいどんな足腰をしているのだろうか。

それはともかく、ダンテを蹴落とす人修羅に、書いた本人が疑問だ。

ま、いっか、自分の人修羅だし。

オチが甘かったかなあ。