帰省
 
本日のトップニュースは、国会内での乱闘だった。
 
「何やってんだ、あの人は」
速水はテレビを見ながら一人つぶやいた。
今日はしばらくぶりに陸にいる。
海の中にいる時は陸を歩きたくなるが、
いざ陸に上がると次の潜水を心待ちにしている。
すぐ明日には海中深く潜るのだけれど。
速水は外に出た。海の風景が広がる。
晴れてはいないが、降ってもいない。
中途半端な天気だ。
まるで今の自分の様、と速水は思う。
階段を下りて歩を進める。
行き先がある訳ではない。ただ、歩きたいだけだった。
「速水!
後方から野太い声で呼ばれた。
この声は……。
「艦長っ」
振り返るとスーツに身を包んだ深町が立っていた。
左頬が腫れている。
よっ、と手を上げた。
「相変わらず似合いませんね」
笑いながら近付くと、うるせぇと深町は毒づいた。
「そんな事ぁ俺が一番知ってんだよ」
言いながらネクタイを乱暴にはずす。
ちゃんと結び直せるのだろうかと速水は心配になる。
「それに、艦長はお前だろうが」
「そうでしたね。お変わりありませんか、深町議員」
面倒くさくなった、と深町は眉をしかめた。
窮屈そうな顔だ。広い意味でも、狭い意味でも。
「ならば海へ戻られたらどうです。歓迎しますよ」
深町はフンッと鼻を鳴らしたきり黙り込んだ。
海を見ている。青くはない。灰色の海。
ディーゼル艦が懐かしいのだろう。
オイルの匂い、スクリュー音、波の振動、そして、海の匂い。
この人は鯨だ。陸には似合わない。
速水はそう思う。
「テレビ見ましたよ。また派手にやらかしましたね」
「海原と拳で語り合っただけだ」
「でしょうね。ほんとは結構気に入ってるんでしょう、海原さん」
深町は不機嫌そうにまた、鼻を鳴らした。
速水も黙り込んだが、顔は笑っている。
そして思う。
潜水艦は好きだ。
海も好きだ。
今の仕事も気に入っている。
しかし。
俺はこの人のいる「たつなみ」が一番好きなのだ。
「深町艦長、最近貴方がやたらと食べていた事を思い出します」
今も食べてる、と深町は言う。
「その時はデリカシーのない人だって呆れてましたけど、
ああいう状況でもりもり食べれるのってすごい事だとわかってきました」
私には真似できない、と速水は海を見た。
「艦長はお前だ。好きにやれ」
そのつもりです、と速水は答えた。
そして突然背筋を伸ばし、深町に向かって敬礼をした。
「深町議員、いずれ私は貴方の後を追います」
邪魔だ、来るな、と深町は手で追い払うフリをした。
「政治は多数決ですから派閥が重要ですよ。それに参謀が必要でしょう」
「参謀ねぇ……」
深町は肩を竦めた。
速水はそれを勝手に許可と判断した。拒絶されてもついて行くけれど。
「貴方には参謀が必要ですよ。それに問題は海から解決するのですから、
我々が適任です」
「海か」
深町は再び海を見たが、視線は遠い。
おそらく、眠る友を見ているのだろう。
「久しぶりに食堂に行きませんか。皆喜びますよ」
深町はおう、と顔を向けた。
「久々にあのまずい飯が食えるのか。相変わらずまずいか」
「まずいです」
よしよし、と深町は頷いた。
「何ですか」
「俺がいなくなってから飯が旨くなってたら腹が立つ」
速水は笑う。
そして、二人は連れ立って歩き始めた。

 

 

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沈艦コンテンツ立ち上げ記念にいんぐちゃんより強奪した小説。

クロスカウンターを決める深町と海原の光景が浮かんでくるようです()

忙しい中本当にありがとう!!ま、また書いて…(こっそり)

 

 

 

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