小さな嫉妬
「少々、控えめであることを覗けば、ええ、特にこれといっては…。」
平均的に言えば若いであろう優秀な教師を演じる女性の目の奥には微かな好奇心。
嘲笑すら誘うその様だが、こちらも外見だけ何の変哲もない普通の父親を演じる。
「それで、進学の方なんですが……。」
「私としては無理をしなければ良いのですが、息子の希望にまかせたいかと。」
微笑しながら答えると、好奇心の光りが強まるのが分かる。
隣から僅かな負の感情も。
「そうですね、出来れば生徒のやりたいことを出来るように、私たちも努めて
いきたいか………。」
「よろしくお願いします。」
座ったまま礼をすると向こうも少し慌ててお辞儀した。
しかし、つくづく人間界とはめんどくさい所だと感じる。
一々、息子の状態を教師と話し合わなければならないとは……。
「どうも長い間、お時間を取らしてしまって…。」
「いえ、それでは…。」
そう言って椅子をなおし、礼をして教室を出た。
外にいた男子生徒と刹那が二、三言話している間、その母親と軽くお辞儀を交わす。
まただ、とでもいうような好奇心の目。
誘い出される嘲笑は表面上の微笑に代わる。
少し離れたところで待っていると刹那が小走りで近づいてきた。
「色目使ってた。」
誰にも聞こえない程度の小さな声で不機嫌そうに言う。
「誰がだ?」
分かっていながら聞く。
「あの教師だよ…………。」
「良い先生だと思うが。」
「上辺だけね。」
控えめという言葉は、言い換えれば無口という捉え方もある時がある。
あの教師はどういう感情でこの言葉を選んだのか…………。
「どうかしたか?」
先ほどからジワジワと浸食していく負の感情に心地よさを感じながら尋ねる。
「だから嫌なんだよ、父さん連れてくるの。」
「?」
「みんな父さんを見るから。」
私のエネルギーは憎しみ・哀しみ・怒り・そして…………今感じる心地よき嫉妬。
「お前も私のことは言えないだろ?」
誰もいない階段で服を思いっきり引っ張られ顔を寄せられる。
噛みつくような口付け。
流石に深みにまでいかないが、唇を軽く舐められた。
「父さんは俺のモノだ。」
表情を変えることなく、当然のごとく刹那は言う。
満足の笑いがこみ上げた。
「そうだ、私はお前のモノだ。」
私の全てはお前のモノ、誰がどんな感情を向けようと。
満足な笑みを瞳にたたえ、再び歩き出す。
上辺のみ問題のない学生を見せながら。
「ついでに食事していくか?」
靴を履き替える息子を見ながら言う。
「ああ、クール呼ばないと。」
「…………。」
下駄箱に入っていた封筒を裏表眺めながら思考する息子から、
その封筒を取る。
「どこに行く?」
「いつもの所で良いだろ。」
同じように封筒を眺めながら答えてやる。
封筒の持ち主とパートナーに感じる僅かな負の感情を隠しながら、促す。
「行くか?」
返された手紙をしまい頷く息子と共に門に向かう。
すれ違う生徒と挨拶を交わす姿に苦笑する。
人間界で彼の本当の姿を知る者はいるのだろうか?
後書き
昔の作品を見直すと、つくづく今(マニアクス等)の作品と変わったなと思うところ有り。
甘くもないけど、こんなCPらしいのを書けたんだ、と。
とりあえず、学生服着て普通(?)の学生らしい刹那と、スーツを着て普通の父親を演じる
二人を書きたかったのかな。