明日がなくても





チッ、忌々しい。疲れて帰ってきたというのに・・・・・・

雅彦は、テーブルの上に置かれた皿に盛り付けられた料理を、次々とゴミ箱に捨てた。
空っぽになった白い皿に満足して、流し台に放り込む。
そして、テーブルに置いた白いビニール袋の中からコンビニ弁当を取り出すと、黙々と食べ始めた。





カタンと背後で音がしたが、雅彦が振り返ることはない。
その音源が何なのかわかっているからだ。
「雅彦さん、お帰りなさい」
消えそうな小さな声。
聞こえないふりをすれば、しばらくして気配が消えた。
すっかり日付が変わっているこんな時間だというのに・・・・・・
「―――はぁ・・・・・・」
雅彦は、去り行く気配に聞こえよがしに大きなため息をついた。






自室に戻ると、洗濯され畳まれた衣類が、ドアの前においてあった。
さすがに捨てることはできず、それらを掴み取ると、部屋の隅へと投げ入れた。
スーツを脱ぎ捨て、部屋着に着替えると、タバコに火をつけた。
隣の部屋からは物音ひとつ聞こえない。
雅彦はステレオの電源を入れた。
雅彦の心を癒してくれるのは、今では軽快なサックスの音色だけだった。





いつからか重荷になっていた。
世話を焼かれることも、待っていられることも。





『雅彦さん、今日は何が食べたい?』
尽くされることに、優越感を感じていたときもあった。
『雅彦さん、おかえりなさい』
笑顔と一緒に発せられる迎えの言葉を聞くと、ホッと安心するときもあった。
その存在を可愛いと思いこそすれ、疎ましいと思ったことはなかった。
頼り切った目で見つめられれば、心は愛しさで満ち溢れ、触れずにはいられなかった。
抱きしめてキスをして・・・・・・肌を重ねて熱を感じて、愛の言葉を囁いた幸せな日々は、もうここにはない。










「イッ・・・あ、アァッ・・・んんっ・・・・・・」
ろくに慣らしもせず猛った屹立をねじ込んでも、葉月は何もいわずにソレを受け入れる。
「どうした・・・?痛いか・・・?悦くないのか・・・?」
雅彦が尋ねれば、葉月はくちびるを噛みしめながら首を横に振る。
痛くないわけはないのに・・・・・・
その従順な態度がさらに雅彦を不快にし嗜虐感を煽ることもわからずに。
「痛くないならもう少し強く動いてもかまわないよな」
折れてしまうのではないか、関節が外れてしまうのではないかと思うほどに葉月の身体をぐいっと開き、雅彦はなおも強く葉月を責め立てた。
「アアッ・・・ウッ」
葉月の両脇に手をついて腰を強く打ち付ければ、葉月は悦がり声とはいえない呻き声をあげ、さらにきつくくちびるを噛み、苦痛の表情を見せた。
閉じられた瞳には涙が滲み、腰を打ち付けられる度にそれは頬を伝った。
以前の雅彦なら、溢れんばかりの愛しさで零れる涙をくちびるでぬぐったであろう。
それ以前にこんな無茶なセックスをすることはなかっただろう。
しかし今の雅彦には、そんな気持ちは少しもなかった。
ただ自分の性欲を満たすために、手っ取り早くそばにいる葉月を抱いているだけなのだから。
快感よりも痛みのほうが大きいのだろう、葉月の下半身は反応を示すどころか撓ったままだったが、雅彦にそんなことは少しも気にならなかった。
葉月の中で膨らむ屹立を解放するためだけに、雅彦は葉月の中を強く擦るだけだ。
「中で出すからな。もっと締めつけろよ」
雅彦の問いかけに葉月が答える間もなく、最奥までぐいっと挿入を繰り返せば、葉月の中は命じられたとおりに雅彦を逃すまいとするかのように絡み付いてくる。





「アッ、あっ・・・ううっ・・・・・・まさひ・・・さ・・・・・・」
「・・・・・・っ、・・・・・・」





雅彦は遠慮なくその最奥に欲望をぶちまけた。
最後の激しい挿入で葉月のいいところに当たったのだろうか、さっきまで撓っていた葉月の下半身が少しだけ勃起し始めていたが、すっかり満たされた雅彦はそれを一瞥しただけで、ズルリと雄を引き抜いた。
満たされたばかりの雄をティッシュで拭き清めると、雅彦はさっさと身支度を整えた。
空ろな瞳で天井を見上げグッタリしている葉月を残して部屋を出る。
「風呂入るから。戻ってくるまでに自分の部屋に帰れよ。あ、それとシーツ。おまえが汚したんだから、ちゃんと交換しとけ」
おそらく無理な挿入が葉月を傷つけたのだろう、シーツには赤い染みがついていた。



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