成瀬の言葉に煽られたのか、いつもより片岡の手は乱暴だった。
初めて抱かれた時の始まりは優しいくちづけだったが、今日の片岡は乱暴にくちびるを吸い上げ、強引に入り込ませたた生温かい舌が成瀬の口内をかき回し、いつもはもどかしくなるほどゆっくりと、まるでコワレモノを扱うように肌を滑る指先が、何の躊躇いもなく胸の突起をつまみあげる。
「ふ・・・んんっ・・・・・・」
身体を走る快感に成瀬は声を上げたそうになるが、合わせたままの片岡のくちびるに吸い取られてしまう。
擦るように捏ねられれば、そこから下半身へと快感が伝わり、知らずうちに腰を片岡に摺り寄せていた。
成瀬はそこで感じることがあまり好きではない。
乳首を弄られて感じるなんて、女のようでイヤだった。
男に抱かれている時点で、そんなことにこだわるのはおかしいことかも知れないのだが、それでも成瀬にとっては譲れない最後の砦みたいなものだった。
そしてそんな成瀬の気持ちを知っている片岡は、いつもより執拗にそこばかりを攻める。
「そこばっかさわるの、やめろって・・・」
くちびるが離れた瞬間に成瀬が抵抗を試みた。
「でも、キモチいいんだろ?ならいいじゃないか」
耳朶を食みながら囁くと、片岡はさらに突起を指先で弄ぶ。
「だか、やめっ、んっ・・・ううっ・・・・・」
指の腹で擦られ、捏ねられ、爪で引っかくように弄られれば、ますます下半身が重たくなってゆく。
気を良くした片岡は今度はくちびると舌先で執拗に愛撫を施した。
指とは違う快感が成瀬を襲う。
柔らかいような硬いような、冷たいような温かいような、ざらついたような滑らかなような感触が、すっかり膨らんだ突起を上を滑ってゆく。
「やっ、めろって、んあっ・・・んーっ・・・・・・」
薄目を開けてみれば、片岡の赤い舌がちろちろそこを舐めているのが見えて、さらにその小さな一点に全神経が集中してしまい、さらなる羞恥に襲われて成瀬はギュッと目を閉じた。
ちゅーと吸い上げられて、成瀬が辛抱たまらず声を上げると、片岡が満足そうにクスリと笑った。
「そういえば、酷くしてほしいんだったな」
そのまま歯を当てられると、ぴりりと小さな痛みが身体を走る。
すっかり敏感になってしまった突起は、ほんの小さな感触にも反応し、それが下半身にも伝わった。
乱暴な扱いの中にも優しさは存在する。
成瀬が片岡に惹かれたのは、クールな見かけとは正反対の、人を温かく包み込む優しさだ。
あの日初めて肌を重ねた時も、片岡はとても優しかった。
女を抱きなれているのなら、さぞかし面倒だったに違いない。
しかし片岡は根気よく丹念に成瀬の身体を開いた。
おかげて成瀬はたいした苦痛を味わうこともなく、それどころか初めての経験で快感を知ることができたのだ。







何人もの女と付き合ってきたらしい片岡。
性欲マシーンのやりまくり人生を送っていたと二ノ宮が言っていた。
どんな風に女を抱いたのだろう。
激しく、そして優しく情熱的だったのだろうか。
今まで片岡に抱かれた女は、この愛撫に悦がり声を上げたのだろうか。
もしかすると、比べられているかもしれない。
自分の身体は女より価値のあるものなのだろうか。
今も、全ての快感は男の象徴であるペニスに集中している。
乳首を弄られて感じてはいても、所詮それだけれはイケないのだ。
初めて抱かれたときから後ろで感じてしまったこの身体。
挿れられてキモチよくても、最後はペニスへの刺激がないと、満足感は得られない。
何が最後の砦だ、馬鹿馬鹿しい。
この先、どんなに抱かれても、どんなに感じても、男であることに何ら変わりはないのに。







中心に触れようとする片岡の手を、成瀬は払いのけた。
「亮・・・・・・?」
「いいから、挿れろよ」
「バカ、まだ何も準備―――」
「いいから挿れろってば!」
成瀬が自ら足を開いて誘う。
「あんたのモノはもう準備万端じゃん。おれの身体舐めてるだけでそんなになるんだ?」
「生憎おれはおまえの身体が好きでな。だいたい好きなヤツの身体にふれて勃たない男なんているか?」
「ならさっさと挿れろよ。おれん中でキモチよくなれよ」
愛撫されても濡れもしない、普段は触るなんてとんでもない器官しか迎え入れる場所がない。
それでもそこでしか、男を感じさせる場所がない。
手間ひまかせさせたくなかった。
ここで抱かれたかもしれない女に負けたくなかった。
この身体でいいと言ってくれるのなら、早く片岡をキモチよくさせたかった。
躊躇う片岡を成瀬はさらに挑発した。
「それとも何?あんたと同じモノついてる男だし、高校生だし、あんたの生徒だし、家族のことばっかり優先して自由に泊まることもできないし、挿れるのにも準備しないといけない面倒なヤツだし・・・やっぱり女のほうがいいわけ?」
まくしたてる成瀬を前に、片岡の心が揺れ動くのが見てとれた。
「バカか、おまえは」
「なら、とっととヤレって!おれがいいって言ってんだよ!早くあんたを感じたいんだよ!」
成瀬が叫んだと同時に、片岡が身体を成瀬の足の間に滑り込ませた。
慣らされていないのに無理をすればどうなるかくらい成瀬もわかっている。
衝撃を覚悟して目をギュッと閉じると、歯を食いしばった。
片岡の身体に傷をつけたくないから、グッとシーツを掴んだ。
パチンと音がして、片岡がゴムをつけているのがうかがえた。
まだ触れてもいない窄んだままの成瀬の後孔に、猛った片岡があてがわれる。
「知らないぞ?」
成瀬は受け入れやすいように足を大きく開いた。
「うううっ・・・・・はっ、アッ、ああっ・・・・・・」
ものすごい圧迫感が成瀬を襲うが、思ったほどの痛みはない。
慣らしてもいないのに滑りがいいのは、片岡がゴムにゼリーを塗りたくったからだろう。
じりじりした痛みがたまらなくて、成瀬が叫ぶ
「それ、イヤだ。いいから、一気に・・・・・・ああっ」
目一杯開かれた後孔に、キチキチに片岡が埋まっているのが実感できる。
はあはあと荒れた呼吸が整うのも待てなかった。
「はやくっ、動けっ・・・」
脇につかれた片岡の腕を掴み、促すように脚で腰を締め付け引き寄せた。
「けど、おまえ―――」
「あんた、うるさいっ、早くキモチよくしろってんだよっ」
片岡に抱かれた女も眺めていたかもしれない天井を見ているのが嫌で、成瀬は目を閉じた。
「それとも激しいのは苦手ってか?」
挑発するような成瀬の言葉に、片岡がフッと息を漏らしたのが聞こえた。
「心外な。おまえよりははるかに経験もテクも上に決まってるだろうが」
煽ったのは成瀬で、それに片岡は答えただけだ。
しかもそれは成瀬も周知の事実で、いつもならフン偉そうにと鼻で笑ってすませることができることだ。
優しくなんてして欲しくない、酷くしてほしいと望んでいながら、いちいち片岡の言葉やしぐさに反応し傷つく自分がおかしくて悲しくて、情けなかった。
瞼を開けると、白い天井を隠すように片岡の顔がある。
成瀬は微かに笑みを浮かべて、挑発するようにその双眸を見上げた。
「じゃあそのテクってヤツを披露してもらおうかな。それがハッタリじゃないってところを見せてみろよ」
「おまえをキモチよくさせるのに努力は惜しまないつもりだが、おれのテクにおまえ着いてこれるかな?」
片岡も嫌味なくらいに艶のある表情で成瀬を見下ろし、不敵な笑みを見せる。
「経験はなくても、あんたより若いんだぜ?あんたこそ息切れしないようにせいぜい頑張ってくれよな」
片岡の顔色が・・・変わった。
「―――知らないからな」
膝の裏から脚を抱え上げられ、深く腰を使われ、繋がった部分からいやらしい音が漏れる。
もうやめてほしいと言えば奥深くを突かれ、イキそうになると浅く腰を使い、片岡は成瀬を翻弄した。
もどかしい動きでしか触れてもらえないペニスに自ら手を伸ばそうとすれば、その手をシーツに縫いとめ拘束される。
「んだっ・・・触れよっ、んっ・・・」
もちろん後ろでも感じることができるのだが射精には至らないから、苦しくて腰をゆらすことしかできない成瀬に片岡は冷ややかな言葉を浴びせた。
「生憎おれはおまえよりも歳食ってるからな。1回がねちねちしつこいんだよ。それにおまえ、すぐイクから、今日はガマンってやつを教えてやるよ。そのほうがキモチいいだろ?」
そう言うと、片岡は成瀬の感じる部分を攻めたて射精を促すものの、最後の一線を越えさせなかった。
成瀬の身体が片岡の律動や愛撫に反応しているのは事実で、早くイカせてほしいと何度も懇願したけれど、その度に片岡は冷たくダメだと言い放った。
まるで人形のように様々な体勢を取らされ、成瀬は自分の身体の柔軟さに驚いた。
を痛いほどに開かされたり、尻を突き出さされたりするたびに、未知の部分を擦られて声を上げた。

何ヶ所も同時にくちびるや指先で弄られると同時に、奥深くを突かれて意識が途切れそうになった。
我慢の限界まで射精を伸ばされ、何度もイカされた。
なのに満たされない。
キモチがいいのに、キモチよくない。
身体は感じているのに、繋がっているのに、心が全くついて行かなかった。
片岡の思うがままに抱かれたかった。
優しさではない別の何かで片岡に愛され抱かれていることを感じたかった。
そうすればいろんな不安なんかすべて消し去ることができると思っていたのに・・・・・・
何度目かの行為の最中、ふと目を開けたときに飛び込んできた片岡の苦しそうな表情。
あんな顔をさせたかったのではない。
心が通じ合わないセックスはただむなしいだけの行為だと、成瀬は痛いほど感じていた。
体内に片岡の迸りを感じても、ひとつも満足感を得ることはできなかった。
「もう・・・もういいから・・・・・・」
ガラガラの声で最後の言葉を搾り出すと、ズルリと片岡が出て行くのを感じた。
自然に涙が滲んだ眦に触れた片岡のくちびるが何かを紡ぐように動いた気がしたが、成瀬はそれを確認することなくシーツに身体を沈めた。






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