※2003年宝塚記念レース参考。
※未成年は勝馬投票券の購入はできません。




  TAKARAZUKA KINEN  




「先輩っ、明日の宝塚記念は例年になく豪華メンバーですよ?」
優が、声を弾ませて新聞から顔を上げた。
「ほんとだよな、見に行く価値アリって感じ?」
宝塚記念は、ファン投票で選ばれたサラブレッドが出走する上半期のグランプリレースだが、この暑い時期であるということ、そして天皇賞や安田記念などのGTレースを激走した競走馬が、秋に備えて夏期休養に入ってしまうこともあり、ここ数年は寂しいメンバーでのレースとなり、いまいち盛り上がりに欠けていた。それでも数年前は、もう少し早い時期であったため、どうしてもGTという勲章を手に入れたい、なかなか勝ちきれない競走馬や、一本人気をかぶりそうな人気ホースも出走したものだのだが・・・。
しかし、今年はコレとないほどの素晴らしいメンバーが顔を揃えた。
昨年の年度代表馬シンボリクリスエス、今年の皐月賞・ダービーを制した二冠馬ネオユニヴァース、今年安田記念を制し海外を含めて芝・ダート問わずGT6勝を誇るアグネスデジタル、昨年の菊花賞馬であり今年の天皇賞馬ヒシミラクル、その他昨年の覇者ダンツフレームや天皇賞では1番人気だったダイタクバートラムなどの伏兵も揃い、なかなか予想も難しい、激しいレースが予想される。
「だってこんなに豪華なメンバーを一度に見れるなんて、グランプリレースだけだし・・・」
羨望のため息をつきながら、新聞に目を戻した優に、三上は思わず言ってしまった。
「見に・・・行くか・・・?」
優が驚いたように、顔を上げる。
「先輩?見に行くって言っても・・・阪神競馬場ですよ?」
「知ってるよ?」
「気安くいけるような距離じゃないですよ?」
「もちろん飛行機で行くさ」
「―――マジ・・・で?」
「おしっ、決めた!優、行こう!阪神競馬場!」
三上はネットを立ち上げると、早速朝一番のフライトを予約するべく検索し始めた。





「明日は、6時起きだな〜優くんやさし〜く起こしてな?」
「うへ〜起きれるかな・・・でも飛行機の中で寝ればいいか!」
土曜日の夜、4人のオトコが麻野家に集合していた。
三上と優はもちろんのこと、三上の友人崎山と優の友人友樹である。
このふたり、どこでどう聞きつけたのか(優が友樹に話をしたのが間違いだったのだが)、どうやらふたりのプチ旅行に同行するつもりらしい。
「おまえら、競馬に興味あったっけ?」
鬱陶しそうに、三上がふたりを睨みつけた。せっかくの優との日帰り旅行が台無しなのだから、機嫌が悪いのも無理はない。
しかし、当のふたりは全く気づかないふりだ。
「おれ、めっさ競馬好きやっちゅうねん!阪神競馬場?甲子園の近くのやろ?」
全くわかっていない様子の崎山に友樹がつっこむ。
「違うって!宝塚・・・だよな?」
レースが宝塚記念だからという、浅はかな思考に、三上は頭を抱えた。
どう考えても、邪魔をしに来たとしか思えない。
「友樹、阪神競馬場はニガワってところにあるんだよ?ほら、友樹ってばサイレンススズカのビデオ見て号泣してたじゃん。彼が唯一勝ったGTが宝塚記念だよ?思い出した?」
「あ〜、あの、逃げ切ったレースぅ・・・」
どうやら思い出したようで、目頭を熱くしている友樹の隣りで崎山までつられている。
「おれも、それ知ってるわ・・・友樹に見せてもろうた・・・」
どうやら似たもの同士のふたりらしい。
それでも、全く競馬の知識がないわけではないらしいので、三上はそっとため息をついた。
それに、崎山が空港まで車を出してくれるから、連れて行かないわけには行かない。もちろん、旅費は彼らが実費で出しているのだから・・・。
「みんなで競馬だなんて何だか楽しそうですね」
サイレンススズカについて語り始めたふたりを尻目に、優が三上ににこりと笑いかける。それだけで、すっかり機嫌を取り戻してしまう三上も、単純な人間なのだ。
「で、優の夢はなに?」
世間ではグランプリレースの本命を『夢』と呼ぶ。競馬実況で有名なアナウンサーが数年前の宝塚記念の実況で『貴方の夢はなんですか?私の夢は・・・』なんて自分の本命を紹介してからのことらしい。
競馬好きのふたり、しかもGTの前夜ともなると、予想討論にも力が入る。
「う〜ん・・・やっぱりシンボリは強いかなぁ。でも休み明けだし・・・」
「でも十分にけいこ積んでるようだしな。しかも休み明けはイチイチゼロゼロだよ?」
イチイチゼロゼロとは、1100。つまり1着1回2着1回ということで、休み明けでも連を外してはいない。
「先輩は?」
「ネオユニヴァースは53キロってのが魅力だよな。でもまだ3歳だし・・・」
古馬が58キロの斤量を背負うのに対し、3歳馬である彼は5キロも軽い斤量でレースに望めるのだ。だいたい斤量1キロの差で2〜3馬身の差がつくと言われている。
とすれば、かなり有利なのではないだろうかと、三上は優に話して聞かせた。
「でも、アグネスも怖いでしょ?」
「距離だよな〜アグネスは」
新聞を覗きこんで確かめると、やはり2000メートルまでの距離での活躍に限られている。
「ヒシミラクルには短いですよね」
「明らかにあれはステイヤーだしな」
稀有のステイヤーであるメジロマックイーンもこのレースを勝ったことがあるけれど、どうしてもマックイーンと同等の力があるとは思えない。
「やっぱ、迷いますよね・・・」
三上が見ている新聞を優が覗きこむから、顔を寄せ合うような体勢になる。懸命に小さな活字を追って考え込む優を見やると、伏せがちな長い睫毛と柔らかそうなピンクのくちびるに目が止まり、ふれたい衝動にかられた。
「ゆ―――」
名前を囁いて頬を寄せようとした時だった。
「そろそろニュースの時間だ!」
バッと顔を上げると、リモコンに手を伸ばす。どうやら三上の行動に気づいていないらしい。
しかし、本人が気づいていなくても、気づいていた輩がふたり。
「みっかみく〜ん、おまえ、おれらの前でなにしようとしてんねん。えっちね〜」
ラグに転がりながら、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる崎山。
「ほんと、ケダモノのなにものでもない!優〜、おれと一緒に見よ!」
ちゃっかり優の隣りに座り込み、三上を押しのける友樹。
三上は、ソファにもたれると大きくため息をついた。






「すっげえ人じゃ〜ん」
「ん〜久しぶりの関西に匂い!」
「関西の匂いって何?たこ焼き?お好み焼き?」
「友樹っ、おまえの思考ってほんまに単純やな・・・」
じゃれあうふたりは、楽しくて仕方がないらしい。
「やっぱりすごい人ですね〜」
入場券は前売りではなかったから、難なく中に入れたものの、どこもかしこも人である。しかも、聞こえてくるのは関西弁ばかり。競馬のことだけでなく、昨夜の阪神タイガースの話題まで語られる始末だ。
「とにかく、メシ食わへん?腹減ったわ」
朝が早かったから仕方がない。それにレースまではまだまだ時間がある。
「何食う?」
三上は優に問いかけたのに、帰ってきたのは友樹の返事だった。
「カツカツ!絶対カツ!」
4人とも縁起担ぐタイプだったのだろうか。友樹の意見に反するものはひとりもなく、トンカツ屋のモニター前という絶好の位置に陣取った。モニターには、宝塚記念出走馬の追いきりの模様が映し出されている。
「で、三上の本命は?」
崎山は、ベテラン賭け師のように、新聞になにやら赤ペンで書き込みながら尋ねた。
「ん〜おれは・・・初心を貫いてネオユニヴァースかな」
「三上って結構手固いヤツやったんやな〜ふむふむ意外や意外」
「かくいうおまえはどうなんだよ」
「おれは、ワイドでダンツとアンカツで決まり!」
「ワイド?何かずるくね?」
「何がズルイや。そういう馬券の種類があるんやから正当やろうが!アンカツやでアンカツ!カツやでカツ!外人の出稼ぎ騎手にもってかれてたまるかっちゅうの!メリケンにはやらんど?」
よくわからない予想だが、三上は敢えて反論はしない。
「友樹は?」
「おれはっ、シンボリかなぁ。やっぱり強いものは強い気がするもん」
「優は?」
「ダイタクと言いたかったんだけど・・・あの人が本命にしちゃったから。ぼくもシンボリかなぁ。でも、頑張って欲しいのはダンスインザダーグ産駒。今回3頭も出てるし、父内国産馬には頑張って欲しいな」
あの人とは本命にするとその馬は必ず負けるという非常に嫌な伝説を持つニュースキャスターである。
それぞれが、それぞれの考えを、理論を交えて説明する。そして、それに賛成したり批判したり。あとくされがなくて楽しい時間だ。
もちろん、カツの味も申し分なく、4人は予想とカツで英気を養った。
午後からは、きちんとレースを見られる場所をキープしながら、馬券を買って競馬を楽しんだ。4人もいると、馬券を買いに行ったり、はたまたジュースを買いに行ったりと、何かと動けるのが利点だ。
「先輩?このストップザワールドっていい名前ですよね」
名前で馬券を買うことが多い優が三上に話しかける。
「世界よ止まれ・・・か。そうだな」
「全く人気ないでしょ?だから複勝だけ買っちゃいました」
財布から大事そうに取り出した馬券を三上に見せる。
「優ってロマンチストなんだよな〜世界よ止まれなんて・・・そう思うときがよくあるんだ」
聞こえていたらしい友樹がちゃかすように頬を緩ます。
「それって、やっぱり三上といる時に思うん?ずっとこのままでいた〜いとか」
揶揄われて優は顔を真っ赤にしている。
いつもなら助け舟を出す三上も、そんな優がかわいくて、黙って3人のやりとりを見守っていた。






人だかりのパドック。
ここ阪神競馬場のパドックの造りは変わっていて、最前列で見ようとすれば見上げる格好となり、さらに白い柵が邪魔で仕方がない。4人は人ごみを掻き分けるのを諦め、上から見下ろす格好で17頭が出てくるのを待っていた。
「おれらって運いいよな〜」
「ほんとほんと」
このパドックで登場を待ちわびる大半の人が早朝からやってきて場所を陣取っているに違いないのに、ほんの一瞬のタイミングでパドックが見下ろせる絶好の位置をゲットした崎山と友樹はご満悦の表情だ。
「おまえらってマジ要領がいいな」
半分皮肉が込められた三上の言葉を、ふたりは褒め言葉と勘違いしているようである。
「でも、先輩だってここぞという時は強引に割り込んだりするじゃないですか」
柵に手をかけてパドックを覗いていた優が、肩越しに振り返って三上を見上げた。
「それは優がおれにそうして欲しそうな目で見るからだろ?」
三上が自分の理性を失ったり、信念を曲げたりするのはすべて優のためなのだ。
「そ、そんなことないですっ!」
プイッと前を向いてしまった優の横顔が赤く染まっているのが見えて、ちょっと揶揄いすぎたかなと反省した三上は、後ろから包み込むように柵に手をかけると、「ごめん」と耳元で囁いた。
くすぐったいと笑い始めた優に気を良くしていると、あからさまな視線を感じた。
「公衆の場でいちゃいちゃ禁止ぃ〜!」
「おまえには節操っちゅうものがないんか!」
いちいち入るツッコミに、やはりつれて来るんじゃなかったと、三上は後悔した。
「あっ、出てきた出てきた」
楽しげな優の声に、残りの3人もパドックに目をやる。
「おお〜っ、さっすが現役ナンバーワンだよ。かっこいい〜」
友樹が自分の本命シンボリクリスエスを見つけて声をあげる。スマートな馬体が初夏の陽光に反射して、艶やかに黒光りしている。
「ネオユニヴァースもすっごく落ち着いてますよ?」
優の言うとおり、古馬に混じっても見劣りしない堂々とした歩様で、我がもの顔でパドックを周回している。
「おれのダンツ・・・なんか腹出てへんか?太いんか?」
慌てて電光掲示板の馬体重を確認する崎山は、かなり焦っているようだ。
「でも、ダンツはいつもあんな感じだと思いますよ?」
優が優しい言葉をかけると、「そ、そうか?」と少し安堵の表情を浮かべた。
「ほら、あんたのもう一頭サイレントディールはどうよ?」
「あれは馬ちゃうねん。アンカツって言うてるやろ?だから見んでもええ」
「先輩、ダイタクもすっごく雄大でいい馬体ですよね?」
本当は本命にしたかったという優は、ダイタクを気にしているらしい。
「いい馬なんだけどな〜アイツに本命、しかも私の今年の夢なんて言われちゃあ終わりだよな」
「ほんと・・・かわいそうに・・・」
件のニュースキャスターの半端じゃない恐ろしさを知っている三上と優は、ため息を吐いた。
「それより、ほら、ストップザワールドは?」
気を取り直して三上が尋ねた。
「大外を大きく回ってるし悪くはないけど、やっぱり見劣りしてしまいますね。それより・・・」
「それより・・・?」
優の予想が当たることを重々承知している三上は、ごくりとのどを鳴らした。
「ヒシミラクル。何か不気味ですよね」
葦毛の馬体がのほほんと周回を繰り返している。だいたいにして、葦毛というのは鹿毛や黒鹿毛とは違い野暮ったく映るものだ。しかし、今日のヒシミラクルの馬体はいやに黒っぽく見える。
「葦毛って黒っぽく見える時って調子がいい時だっていいますよね」
ヤル気なさそうに、暑いのは嫌だと言わんばかりに歩いているその姿を見ていると、菊花賞や天皇賞の勝ち馬とは思えないが、どちらもフロックでは勝てない、実力がものを言うレースだ。
「そう言えばさ、ヒシミラクルの単勝を1200万買ってる人がいるんだって!」
「せ、せんにひゃくまん???」
友樹の言葉に、崎山が素っ頓狂な声をあげた。
「さっきおっさんが言ってた。前売りで突然一番人気になったときがあってさ、大口の購入があったんだってJRAが発表したんだって」
「めちゃ剛毅なやっちゃな〜こんなメンバー揃てるのに、そこでヒシミラクルを買うなんてな。どんなヤツや、そんなアホなことっちゅうか、無茶するんは」
4人は一斉にオッズ版を見上げた。
単勝16倍ちょっと。当たればいくらになるのかだれも計算できなかった。






少し早めにパドックから馬場に移動する。遠目にはなるけれど、馬場全体を見渡せる場所を見つけると、本場馬入場を待った。
「先輩?ヒシミラクル・・・買ったほうがいいかな?」
「でも、今から買えるかなぁ」
売り場もそうとう混雑しているはずだ。
「なに?秘密の相談?」
崎山が絡んでくる。
「ヒシミラクルが気になって・・・どうしようかなって。でも今からじゃ買えないかなって」
残念そうな優を見て、崎山が不敵な笑みを浮かべる。
「優くん、おれにまかせとき。これで買うたらええねん」
そう言って取り出したのはケータイだった。
「ケータイでどうすんだ?」
三上が対抗意識を燃やして、突っかかる。
「アイパット契約してるし、ケータイで馬券買えるんや〜」
ポチポチとケータイを操作し始めた。
「ヒシミラクルの単勝でええのん?」
「は、はい」
「いくら?」
「え〜っと・・・」
友樹が口を挟んだ。
「優のカンってさ、昔から当たるんだよね。おれも乗った!つうか、みんなで500円ずつ乗ろうよ!」
「それおもろそう!乗る乗る!三上は?」
 三上ももちろん頷いた。
「そしたら200円で単勝な!そうし〜ん!」
「1200万に対抗だな、優」
友樹の満足そうな笑顔に、優も笑って答えた。






結局、友樹はシンボリから、三上はダンツとサイレントのワイド、三上はネオユニヴァースから、優はダイタク絡みとストップザワールド、そして4人でヒシミラクルの単勝を購入した。
さんさんと照りつける太陽の下で、上半期をしめくくるGTのファンファーレが鳴り響く。
8万人近い観衆の拍手と歓声が、阪神競馬場を包み込んだ。
第2コーナー付近からのスタート。ゲートが開いて一斉に飛び出す優駿たち。緑のターフを、それぞれの騎手の思惑とファンの想いを乗せて、駆け出していった。
「スローになってる・・・」
「縦長の展開だな。波乱になりそうだ」
「ネオユニヴァース後ろすぎないか?」
「逆にシンボリは内ラチのいい位置キープだ」
「ダンツは?アンカツは?」
「武さんも後ろから行ってる・・・」
思い思いの言葉が口をつくけれど、誰もヒシミラクルのことは追っていない。すっかり思考からかけ落ちているようだ。
「うわ〜タップダンス上がっていってる〜ヤバイ!」
「シンボリも間割ったよ!」
「ネオユニヴァースはダメだ!届かないよ!」
「なになになに?」
「9番ってなに?」
「っつうか、ツルマル・・・ヒ、ヒシミラクルや〜っ!」
「それは10番・・・あっ、抜かれる!」
「もうちょっと、あっガンバレ〜」
すっかり忘れていたくせに、最後はヒシミラクルの白い馬体を追いかけた。
そして、堂々1着でゴールインしたのだ。
ざわめきが大きくなる場内。
二強だと思われていた二頭の叩きあいではなく、どんなにGTを勝ってもいまいち人気も信用もないヒシミラクルと、善戦はするもののまだGTの勲章を持たないツルマルボーイのゴール前の攻防だった。
「す、すげ〜ヒシミラクルじゃん!さすが二冠取ってるだけある!」
感嘆の声をあける友樹。シンボリのことはどうでもいいらしい。
「優くんがすごいんちゃうん?」
目を爛々と輝かせる崎山も、アンカツはどうでもいいらしい。
「優のカンてほんとに当たるな」
後方からの展開となったときにネオユニヴァースのことはすっかり諦めたらしい三上も、うれしそうに目を三日月形に変えている。
「なんか・・・かっこいいですね、ヒシミラクルって」
いつだって人気はないのに、すんなり勝ってしまう。しかも涼しい顔をして。菊花賞も10番人気、天皇賞も7番人気だった。叩きのレースには本気を出さないのか大敗する。でもここ一番には力を発揮する。
「ひねくれてるけど、かわいいやっちゃ。友樹みたいなヤツやな!」
崎山の言い草に大笑いした。
「3万ちょっとになるで?銀行振込やさかい、ちょっと当たった気がせんのがな〜」
「やっぱ、払い戻し機のおねえさんの声が聞きたいよな」
すぐに換金できないから、帰りに豪勢な食事をすることもできない。
「じゃあさ、そのお金でいいニク買ってきてさぁ、焼肉しようよ!」
「それいいね!先輩っ、うちの物置に確かバーベキューセットありましたよね?」
「あったな、そういえば」
「ほなら決定な!来週末にしよ!みんなバイト入れんなよ!」
そこは食べ盛りのオトコ4人である。あぶく銭は食べ物に消えゆく運命なのだ。
「おい、そろそろ行かないと飛行機乗り遅れるぞ?」
三上が腕時計を確認して帰りを促した。
馬場内では、表彰式の準備が始まっていた。
「すごく楽しかったですね、先輩」
何度も邪魔なふたりだと思ったけれど、それはそれで案外楽しかった。
最後に大逆転の馬券を購入できたのも、崎山のおかげだし・・・。
「それに、2着のツルマルボーイってダンスインザダーク産駒ですよ?頑張りましたね」
満足そうに笑う優に、無理をしてでも来てよかったと心から思う三上であった。
「まだ、こんな明るいのに〜なんか帰りたないなぁ」
「でも、明日学校だしさ」
「また、みんなでこうやって遠出しましょうよ」
「その前に、高級ロースでヤ・キ・ニ・ク!」
まだまだ暮れそうにない真っ青な空を見上げて、4人は同じ方向にぞろぞろ進む人ごみに流されながら、駅へと向かった。





〜Fin〜


久しぶりの競馬モノです。馬の名前を考えるのが面倒だったので2003年の宝塚記念を参考にしました。なんかイチバン書きやすかったから。古いけど(汗)


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