BE WITH YOU





<1>




「なあ優、ハウステンボスに行ったことあるか?」
暖かな日差しが戻ってきたある日、おれは優に尋ねた。
答えはわかっている。友樹にリサーチ済だ。
案の定、優は言ったことはないと答えた。
おれは半ば強引に約束を取りつけた。








いつからだろう?優のことを愛しく思うようになったのは・・・・・・
優は入学当初から、非常に目立つ存在だった。
きれいでかわいい男の子と評判だった。
おれは、全く興味がなかった。
それなりにモテたし、オンナに不自由することはなかったから。
同級生のオトコまでもが、優に興味を示し、騒いでいても、おれにはその気持ちが理解できなかった。
いくらきれいでかわいくたって、しょせんオトコじゃないか!



ある日、ひょんなことから優と話をする機会が訪れた。
なぜか恥ずかしそうな優を目の前にどうにも理解しがたい感情が生まれ、悟られないようにつっけんどうな態度を取ったおれを、とても悲しそうに見ていた優の目が印象的だった。
そんな時、おれがらしくもなく告白できずにいた、よく駅で見かけるきれいな女の子が、優の姉貴であることを知った。
ふたりはとてもよく似ていて、よく考えればわからないでもなかったんだが・・・・・・
おれは優に近づき、そしておそらくは優のおかげで、はるかと付き合うことになった。








おれは、きれいなはるかが自慢だった。
だれもがおれのことを羨ましがった。
そしてはるかは、外見だけじゃなく、心もきれいな女の子だった。
おれは、はるかのことが好きだったし大事に思っていた。
しかし、その想いは優に対する言い知れない罪悪感をおれに植えつけた。





おそらく・・・・・・おれは、気づいていた。
優が、少なからず、おれに対して好意を持っていることを・・・・・・





気づいていたのに、気づきたくなかった。
その事実を認めたくなくて、心の奥底に追いやった。
おれは、はるかだけを見ようとした。
はるかに夢中になろうとした。
それと比例して、優は、明らかにおれとはるかを避けはじめた。
おれたちは、受験学年だったため、よくはるかの家で勉強した。

おれはひとり暮らしだったから、夕食をごちそうになることもしばしばだった。
おやじさんもおふくろさんもとてもいい人で、一人娘の彼氏のおれを歓迎してくれた。
おれが求めてやまなかった温かな家庭がそこにはあり、おれはその一員として、世話になった。
しかし、そこには、優の姿だけがなかった。





そして、優は・・・留学を決めた。










出発の日も知らなかったおれは、はるかから強引に聞きだし、空港で優を見つけた。
早朝の、がらんとした長いすに、ぽつんとひとり座ってガイドブックに目を落とす優を見つけたとき、公園で優と初めて会った時と同じ、理解しがたい感情に襲われた。
優の大きくきれいな瞳から、ぽろぽろ涙がこぼれるのを見た瞬間、どうしてもふれたくて肩を抱いた。
同じオトコで、同じつくりのはずなのに、おれの手の中にすっぽり入ってしまう華奢な身体・・・・・・
おれには、はるかがいるのに、どうしてこんなに気になる?
しかし、優は言った。





―――お姉ちゃんをとられたようで、さみしかった―――





優の中に、おれの存在があると思っていたのは、間違いだったのか・・・?
それとも、その言葉で、おれと決別しようとしたのか・・・?
どちらにしても、おれは優の気持ちを受け入れてやることはできないのだ。
だから、せめてもの餞別のつもりでと、おれの歌を録音したMDを手渡した。
最後の曲に、優への励ましと想いを詰め込んで・・・・・・








その後も、おれとはるかの関係は続いた。
しかし、おれの中で何かが変わった。
はるかの中に優が見える・・・否応にも見えてしまう・・・・・・
その幻影を振り払おうとすればするほど、優が強く現れる。
はるかが優のことを話題にするたびに、おれの心は揺れ、その話題を無意識に避けようとした。
そんなおれの態度を、はるかが不審に思うのは当たり前だ。

はるかは頭のいい女の子だったから。

いつからか、はるかが口にする話題から優の名前が消えた。
こんな中途半端な気持ちじゃはるかを傷つけると、わかっていながら別れを切り出せないおれ。
はるかと・・・麻野の家と何の関係もなくなると、唯一おれと優を繋ぐ糸も切れてしまう。
おれと優を繋いでいる唯一の糸・・・それはおれが優の大好きな姉の彼氏であるということ・・・
あの年一緒に行った初詣で、「今年も一緒にいれたらいいな」と言ったおれに、はるかは「いつまで一緒にいれるのかしらね」と答えた。
すぐに「冗談よ」と笑い飛ばしていたけれど・・・・・・
そして、久しぶりに聞いた優の名前・・・
「優にお守りを送ってあげる約束してたの」とおれをひっぱり社務所に向かい、「直人が買ってやってくれる?」とおれに頼んだ。
「あの子もたぶんそのほうが喜ぶから」
そう続けたはるかにその意味を尋ねると何も言わずフッと笑ったはるか。

はるかは気づいていたのだろうか・・・?おれの気持ちに・・・・・・
確かめたくても、もうそれは叶わない。




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