馴染んだ家具や見慣れた天井は意識を現実に引き戻す要因となり、ここが自分の部屋で階下には弟たちがいることを認識せざるを得なくなるから、羞恥心と罪悪感のあまりおれはずっと目を閉じていた。
優しい抱擁と少しだけ深いキス。
18回目の誕生日。
思いがけない愛しい人の訪問がおれを大胆にさせ、悪戯心でいつもより積極的に舌を絡めたのが悪かった。



「んっ・・・・・・」



度重なるくちづけは、どんどんおれから思考能力を奪ってゆく。
ぐいっと腰を引かれ、片岡に乗り上げるように重なった身体は熱を帯び、はけ口を求めていた。
背中を這っていた手が、シャツの隙間から侵入し、地肌を撫ではじめると、熱い吐息が漏れる。



「ぅ・・・ふっ・・・んっ・・・・・・」



ますますキスに夢中になり、片岡にあわせて重ねるくちびるの角度を変える。
舌を絡めて吸いあえばとても弟たちには聞かせられない水音が部屋に響いた。
指先に絡まる少し硬めの髪の感触が好きで、おれは片岡の髪を指で梳いては弄った。
おれなりの愛情表現だったりするんだけど、こいつは気付いているんだろうか。



「アッ・・・」



脇腹を撫でていた片岡の指先が胸の突起を掠め、思わず変な声が漏れてしまった。
親指でやわやわと押されたり弾かれたりすると、身体の力が抜けてしまい、片岡に身体を預けてしまう。
小さな突起を撫でたり摘んだり、自由自在に蠢く指先に、下半身は熱くなる一方で。
「どんどん敏感になってくのな」
耳元で意地悪く囁かれ、カッと顔を赤くすれば、さらに「かわいい」と言われる始末。
「うっ、うるせえ・・・っ・・・」
抵抗を試みても、気持ちいいのは事実で、密着する下半身の反応で片岡にも伝わっているだろうから説得力もない。
それどころか、耳朶を舐められ、熱い息を吹きかけられ、すっかり翻弄されっぱなしだ。
こうやられてばかりでは、男が廃る。
お返しにと片岡の下半身に手を伸ばせば、そこはしっかりとカタチを変えていた。
「あんただってっ・・・触られもしてないのにっ・・・勃ってんじゃんか」
「おれは成瀬マニアだからな。おまえに触ってるだけで勃つんだよ。それにほら」
手の中の片岡がピクリと蠢く。
「おまえが触るから」
「ヘッヘンタイ!」
「ヘンタイで結構。だから・・・・・・」



―――もっと触ってくれ。



囁かれ、身体がゾクリと震えた。
腰を抱きよせられ、向かい合って身体を寄せあうと、お互いの手が無理なく届く位置に腰を据えた。
耳元にあった片岡のくちびるが首筋を辿り、再びおれのくちびるに重なった。
散々胸元を弄んだ指先が下腹部を巡り、ズボンの上から熱く固いモノを揉みこむから、おれも片岡の下半身に指先を這わせた。
キスを繰り返しながら、ジーンズのボタンが器用に外されるのを手伝えば、片岡が満足そうに笑みを浮かべる。
その余裕が少し憎らしいから。



「あんたも」



悔しいかな、おれにはキスしながら相手の衣服を脱がすテクニックはなく、それでも自分の手で脱がせたいから、くちびるを寄せる片岡にストップをかけて、ズボンに手をかけた。
脱がないまま、前だけを全開するという、ある意味情けない格好で向かい合って、互いの下着から熱を取り出し直に触れる。
茎を扱き、くびれの部分に指を這わせ、先端を優しく撫でる。
全く同じ行為を、違う手によってなされる倒錯感に酩酊し、何も考えられなくなる。
徐々に滑りがよくなる感触は、片岡が感じていることを教えてくれ、ますます自分自身も高揚した。





「あっ、そこ・・・好きかも・・・・・・」
「ここか・・・?」
「んっ・・・・・」
「おれも・・・好きかも・・・・・・」





感じるままに言葉にすれば、すぐさま愛撫に反映され、無意識のままその手を同じように動かせば、手の中の片岡も悦んでくれることが嬉しくて。



「もっとこっち寄って」



突然腕を引っ張られ、片岡の膝を跨ぐ格好で上に座らされる。



「えっ?何?アッ、うわっ・・・・・・」



すっかり勃ちあがった2本を重ね合わせて、片岡が扱き始めた。



「やっ、あっ・・・熱いッ・・・・・・」
「おまえも」



手を重ねて動かせば、もうどちらの手でどちらの熱なのかわからなくなる。



「融けそ・・・・・・」



手の動きだけでは物足りなくなって、自然と腰が揺れてしまうのを止めることもできない。



「はっ・・・ア・・・ああっ・・・ん・・・・・・」




くびれの部分が擦れ合えば、堪える声が微かに漏れ、自分のいやらしい声に羞恥を感じつつも、さらなる熱情を感じずにはいられない。
おれの声のトーンが変わったのに気付いたらしく、先端が擦れるように熱を操る片岡は、まだ余裕たっぷりなのか。



「あんたは・・・よくない・・・・・・?」
「なわけないだろうが」
「でもっ、余裕・・・ぽいっ・・・」



片岡の返事を聞くことはできなかった。
なぜなら片岡が扱く手のスピードを速めたからだ。



「やっ、何だよっ・・・とつぜ・・・アッ・・・あっあっ」
「イきそう?」
「イ・・・イクッ」
「おれもだ・・・」



ブルッと身体が震えた瞬間、快感が全身を走りぬけ、生ぬるい液体が手を濡らした。
ビクンビクンと波打つ感触を敏感な部分で感じ、片岡もイったのだと悟った。
肩を上下させ荒い息をするおれを、優しいぬくもりが包み込む。
抱きしめられた身体から伝わる片岡の乱れた息づかいが愛しくて、甘えるように身体を預けた。
服を着ているのがもどかしく、素肌に触れたくて頬をすり寄せてみれば、こどもをあやすように背中をポンポンと叩いてくれた。
この瞬間の満ち足りた気分は、おれを少しだけ素直にさせてくれる。
この人はおれの全てを受け入れてくれるのだと安心させてくれる。





ずっとこのままいたいな・・・・・・





そう思いながらもうっすら目を開ければ、用意よろしく、畳が汚れないようにタオルが敷かれていた。
突然、現実に引き戻され、おれは預けきっていた身体を起こした。
ふたりぶんの粘つく液体をタオルの端で拭えば、見慣れたタオルの模様に恥ずかしさでいたたまれなくなる。
まさか自分の部屋でヤってしまうとは!
いや、ヤってはいないけど・・・ヤったことになるのか???
いやいや、挿れてないから・・・けど、あんなこと!!!
あんなことよりもっとすごいことをやっているけれども、よりによってここでかよ!!!
ハッと気がつけば、上半身は少しも乱れてはいないのに、下半身丸出しの恥ずかしい格好で。
おれは、そそくさとパンツを元に戻した。
片岡はすっかり身支度を整えていて、何もなかったかのように平然と構えておれをじっと見ていた。
「見んなよっ」
脱ぐのを見られるのも恥ずかしいが、その逆も照れくさいものなのだ。
「恥ずかしい?」

揶揄うような口調で問われれば、口をつくのは強がりばかり。
「んなわけないだろっ、あれくらい!」
ほんとは照れくさくて恥ずかしくてどうしようもないくせに。
卑しくもあのまま触れ合っていたいと思っていたくせに。
向かい合って座ればいつもの風景と何ら変わりない、殺風景な見慣れた空間。
違うのは、淫靡さの消えない部屋の空気と、愛する人の存在。
素に戻ると本心をなかなか口に出せないおれに、飽きもせず付き合ってくれる。
そりゃコクってきたのは片岡のほうだけど、呆れられても仕方ないくらいの態度を取っている自覚はある。
自覚があってもどうにもできない自分に自己嫌悪を抱くこともしばしばだし、片岡はおれなんかで満足してるのかという不安はいつも抱えている。



「悪かったな・・・」
「何が?」
「気になっただろ?弟さんたち」
今さらだ、と思う。
好きにしておいて、そんな気遣いはいらないのだ。
そこが片岡らしいところなのだが。
「合意の上だろ?それに・・・」
「それに・・・?」
「悦かったからいいんだよ!」
もうこの話は終わりばかりに、切り上げ気味に吐き棄てるように言った。
身づくろいしているフリをしてこそっと片岡を見やれば、とても満足そうな表情を浮かべていた。
もしかして、おれって、またこいつに乗せられたのか・・・・・・?
だけど、片岡の楽しそうな顔や満足そうな表情がおれにも安心と充足感をを与えてくれるのは事実で。
これから先、この部屋で勉強に集中できるのか、疑問に思いながら、おれも片岡に笑みを返した。

おしまい



『心のままに』のお好きな部分に
挿入してお楽しみください





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