ブラインド・スポット(blind spot)




 いきなりですが、ちょっとしたおもしろいテストをご紹介します。まず下の図を見てみてください。

 


    
 まず、右目を閉じて右上の十字をじっと見つめてください。それから、画面からおよそ30cm辺りまで顔を近づけてみてください。その状態から、十字をじっと見つめたまま、ゆっくりと画面から顔を遠ざけたり近づけたりしてみてください。すると、不思議なことに左にあるはずの円が見えなくなる場所があることに気づくはずです。

 下も同じです。右下の十字をじっと見つめたまま、画面からだいたい30cmくらいのところまで顔を近づけてみて、ゆっくりと画面から顔を近づけたり遠ざけたりして見てください。すると、今度は左にあるはずの隙間がなくなってしまって直線に見える場所が見つかるはずです。

 うまくいきましたか?とても不思議ですよね。どうしてこんなことが起こるのでしょうか?答えは私たちの目の構造にあります。またまた下の図を見てください。

 

 

 




 かなり見づらくなってしまってすみません。
 これは右目の断面図です。まず、視覚機能の簡単な説明から始めましょう。

○Cornea:角膜(図の一番上にあります) 角膜は薄い球面上の透明な膜で、後で出てくる網膜で像を結ぶ過程はここから始まります。

○Lens:水晶体 図の中心から少し上にある楕円形のもの) 水晶体は調節可能な構造になっていて、水晶体を支えている周りの筋肉によって引っ張られて薄くなったり、逆に緩められて厚くより丸くなったりします。これによって水晶体の曲率が変化し、遠くの物や近くの物に焦点を当てることが可能になるわけです。

○Iris:虹彩(水晶体と角膜の間の左右にあります) 虹彩は環状の筋肉で、瞳孔と呼ばれる中心の開口部を収縮したり散大したりして、眼球に入る光の量を調節します。とても暗い所ではあまり光が入ってこないので瞳孔は開いた状態になってできるだけ沢山光を入れようとしますし、逆にとても明るく沢山の光が入ってくる所では、瞳孔は少し閉じて入ってくる光の量を減らそうとするのです。映画館などのとても暗い所から突然明るい屋外などに出るととてもまぶしく感じますよね。これは、まず暗い所にいる時によく周りが見えるように瞳孔がおもいっきり開いていたわけですが、急に明るい所に出てきたためにそこに大量の光が入ってきたので光過剰状態になってしまって「まぶしい!」と感じるわけです。例えて言うと、死ぬほどのどが渇いているときにポツポツと雨が降ってきたので空に向かって思いっきり口を開けていると、突然バケツをひっくり返したような大雨が降ってきて、開けていた口の中が一瞬のうちに水でいっぱいになって窒息しそうになるようなものです(なんちゅー例えだ) 

○Retina:網膜(眼球の内側の面です。図では黄色で示されています) 網膜は、眼球内に入ってきた光を映像として検出する場所です。

○Fovea:窩(点線と網膜が交わった所です) 中心窩は網膜の一部で、その周辺付近を含めると、沢山の視細胞(錐体や桿体など)が集まっていて視力がとても高くなっている部分です。

 簡単にまとめると、私たちが何かの物体を見るとき、そこに当たって反射した光が角膜や水晶体を通って眼球内部に入り込み、網膜に至り、そこで映像として感知しているわけです。ここで先の図に戻りますが、中心窩の少し左に目を移すとブラインドスポットと書かれた場所があるのに気づかれるはずです。ここは、網膜上にある全ての視細胞から情報を与えられた沢山の神経細胞が、脳へとその情報を送るために使う通り道になのです。簡単に言うと、テレビや電話などの沢山の配線コードが一箇所に集まって外に出て行く所です。ですが、ここには沢山のコードが集まっているので、外からの光を感知するための網膜の視細胞は存在する余地がありません。そのため、この場所に入ってきた光は感知されないのです。つまり、ブラインドスポット(盲点)ができてしまうわけです。これが、上のテストでみなさんが体験されたブラインドスポットなのです。
 
 私はこのテストをするまでこのようなブラインドスポットがあるなんて全く知りませんでした。みなさんの中にもこのテストで初めてその存在を知ったという方も多いのではないでしょうか。ですが、不思議なことに日常生活の中で私たちはこの穴、つまり「盲点」を意識することは全くと言っていいほどありません。それは脳にある高次の視覚処理中枢の働きによって、穴の開いていない世界を再構成できるからなのです。まったく脳というのはすごいですね。




参考文献
Edward E. Smith, Susan Nolen-Hoeksema, Barbara L. Fredrickson, Geoffrey R. Loftus著 『Atkinson and Hilgard's Introduction to Psychology』 Wadsworth Pub Co,2002
フロイド・E.ブルーム,チャールズ・ネルソン,アーリーン・ラザーソン著(中村克樹,久保田競監訳) 『新・脳の探検 上』 講談社,2004