キョンと古泉が付き合っているのを知っているハルヒ。
二人の仲を認めながらも、やりきれない感情に囚われる日々。
ある日、「自分が古泉だったら」と考えるハルヒに事件が起こる。

 

 

 

バイバイ、また明日。/Preview

 

 

 

あたしは常にこう思ってるわけ。

 世の中、人と違うことをしなくちゃダメ。

 マンネリなんて絶対無理。

 とにかく、気になったものは片っ端から挑戦するべき。

 楽しくなくっちゃなんの意味もないわ。

 そんな感じで、あたしはあたしの道を突き進んできたわけだけど。

 これはちょっと、想像できなかった。

 っていうことが現実に起こってる。

 まあ、ありえないことではないんだけどね。

 あたしはいつもの部室のいつもの団長席にどっかり座って、起動済みのパソコンからちょっと目を逸らし、部屋を見回した。

 室内にいるのはあたしを含めて五人。うん、いつもどおりだわ。平和よね。

 あたしはパソコンでネットサーフィン中、有希は相変わらず一言も喋らずに分厚い本を読んでて、みくるちゃんは新しく買ってきた茶葉の研究に余念がない感じ。

 で、あたしの真正面。

 無音の部室に、パチ、と石を置く音が響く。

 いつもと変わらずにオセロゲームに興じているのは、もちろん、キョンと古泉くん。

二人とも、よく飽きないわよね。違うゲームをやってるときもあるけど、オセロが一番多いんじゃないかしら。

キョンはいつもの仏頂面で、盤面をむっつりと睨んで考え込んでる。対面に座る古泉くんは、やっぱりいつもの笑顔でキョンが置くのを待ってる。

あんまりにもいつもどおりの光景で、あたしはちょっとだけ辟易した。

「キョン」

 石を置くのに合わせてびしりと指を突きつけると、キョンがこっちを向いた。なんだまた面倒ごとか、と言わんばかりの顔。失礼しちゃうわね。

 名前を呼んだのはいいけど、なにを言おうかまったく考えてなかった。なんとなく、横顔を見てたらこっちを向かせたくなったのよ。そういうときだってあるでしょ。

「なんだよ、ハルヒ」

 勝負の最中に水を差されるのは嫌だったみたいで、顰めた眉があたしを糾弾してるように見えた。

 ………なによ、あたしが話しかけるのがそんなに迷惑だっていうの?

 なんだかその顔にムカついて、何も考えずに言葉を発してた。

「あんた、ちゃんとデートとかしてんの?」

 これを言った瞬間には、あたしの頭にはキョンのことしかなかった。その向かいに座ってる、にこにこしっぱなしの副団長の存在は、すっかり飛んじゃってた。

 ―――仕方ないじゃない、だって、あたしは。

「いきなり何言い出すんだよ」

 さすがに面食らって顔を顰めるキョン。なによ、呆れた顔して。これくらい許してくれたっていいじゃない。

 話題の渦中にいるもう一人、古泉くんもちょっと困ったように笑ってる。

 古泉くんが困ってるのをわかってても、あたしは止まれなかった。古泉くんへの罪悪感みたいなものが、ちょっとくらいはあったかもね。よくわかんないわ。それよりもよっぽど大きな感情が、ずっとずっとあたしの中で渦を巻いてるから。

 あたしは団長席から身を乗り出した。

「あたしは心配してんのよ? キョン、あんた古泉くんがどんだけモテるか知ってんの? あんたみたいな何の取り得もない凡人なんて、ちゃーんとエスコートしなきゃすぐ飽きられちゃうわよ!」

 そう。

 キョンと古泉くんは、お付き合いをしてる仲だったりする。