出来上がり済みのラッシュとダヴィッド。
付き合っていく日々の中で、ラッシュは自分がダヴィッドをどう見ているのか疑問を覚える。
アンノウンコール/Preview
艶かしいラインを描く唇から離れると、わずかに呼吸を乱して潤んだ瞳が追いかけてくる。
灰褐色の双眸が瞼の裏に隠れるのを見送って、もう一度軽くキスをした。
左腕を柔らかく握られる感触。その指先が行為を進めるうちに皮膚を破ることもある。だが、それはそれで構わない。
爪先に滲んだラッシュの血を見て、少しだけ後悔したように目を伏せる仕草をする彼を観賞するのも好きだった。
「ダヴィッド」
続く時間を待っていた彼の目が再び開かれる。不思議そうに首を傾げる。思わず笑った。
「なんでも」
ラッシュに抱かれるときのダヴィッドは驚くほどおとなしかった。あまり喋らないし、自分から身動きをすることも少ない。だが、ラッシュが望めば何の文句も言わずにその通りにしてくれる。肉をつけて食べられるのを待つばかりの草食動物みたいに。
それがなんだかおかしかった。
柔らかい金糸の髪をかき分けて額に口付けると、またダヴィッドは目を閉じたようだった。すぐ近くで睫毛が動くのがわかる。
ラッシュと色が違う皮膚の上を伝って、鼻先を食み、軽く舐める。間近で震えて瞳を隠す薄い皮膚がどこか痛ましい。健気に急所を守るそこに触れたくて、ゆっくりと舌を伸ばした。
「んっ」
思わぬ場所への刺激に驚いてか、ダヴィッドの肩が小さく跳ねた。反射的に瞼を押し開けようとする力を制して、震える皮膚に食いついた。
「ラッシュ!」
身体をこじ開けられることには慣れても、こんなところに噛み付かれるのには恐怖を感じるようで、さっきまでラッシュの腕を掴んでいた手で胸を押し返される。
なにも食い破ろうとしているわけじゃない。後ろ頭を抱えて優しく髪を撫でてやると、ダヴィッドの全身に走った緊張が和らいでいった。
瞼を舐めて、その縁を彩る睫毛を軽く舌でくすぐればぴくぴくと瞼が震える。それが無性にかわいく思えて睫毛を濡らしていると、恐る恐る目が開かれた。
薄皮の向こうに現れた双眸は、怪訝な色を含んでいる。
「どう……したんだ? 急に」
まばたきで揺れる艶を帯びた金色の睫毛を見て、ラッシュは思わず笑った。
「うん、なんか睫毛長いなーって」
「……普通だと思うが」
ラッシュに舐められた睫毛を摘んで眉を顰める。細く弧を描く眉が動く様からも目が離せなかった。
ラッシュがじっと見ているのに気づいたのか、ダヴィッドはわずかに口を尖らせた。
「顔がにやけてるぞ」
「仕方ねーじゃん、真顔のがいいの? 無理だよ」
「無理なのか……」
どことなく呆れたような響き。まだ少し濡れて色づいている唇から溜息が吐き出された。伏せられた睫毛がぱさりと揺れる。
こうやってダヴィッドの顔をしげしげと眺めるのは今日が初めてなわけではない。むしろ、いつものことだと言っていい。
彼がそれに気づいていないだけ。
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