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引き金を引いたのはへるだった。 M78星雲のとある惑星へ資材を運ぶ無難な航路途上の事である。 「おぇ、あもやんよぅ」 「どしたぇ?へるさんよ」 「おもちゃの缶詰って知ってる?」 「やぶからぼーやな。金のエンゼル銀のエンゼルか?」 「おう。あのプレゼントな、未だに続いてるらしいねん。」 「マジで?ほな例のチョコ買ったら今でもくちばしに金銀のエンゼルがおわすんかいな」 「そやで。でな、我がへる家では先祖代々銀のエンゼルが受け継がれてるねん。 曾々々々(適当)婆さんの代から集めてるねんけど、四枚しか集まってなかってんな。 一度で良いから伝説のおもちゃの缶詰を見てみたい!ちゅーんがへる一族の悲願らしい」 「らしいって言われてもな。ほいで?遂に念願の五枚目が手に入ったってか?」 「ご名答!そんでもって、たった今、宇宙光速郵便(暴力的設定)でブツが届きましたのよ〜」 「おお!そりゃすげぇ!早う開けれや!!タラタラすんな!キビキビ動け!」 「待てやブサイク。慌てる乞食は貰いが少ないちゅーやろが。そんなんやから貧乏な上に顔がイガんでるねんぞ」 「お前、喧嘩売るんかおもちゃの缶詰自慢するんかどっちかにせぇや!」 掴み合いの喧嘩にまで発展しなかったのは、目の前で輝くおもちゃの缶詰のご威光であったろう。 ともあれ、操船(はオートパイロットにして子供を寝かしつけ)中だったミヤと 緊急用サブコンピュータのメンテ(と見せかけてネットオークションに夢)中だったカエ の二人も交え、S+B連全員で固唾を呑みおもちゃの缶詰の包み紙を開いた。 中から出てきたのは缶詰というよりデカい缶ジュースといった風な円筒形の派手なスチール缶だった。 表には銀の浮き彫りで『三百周年記念』と書かれてある。 「ほぇ〜。おもちゃの缶詰プレゼントって三百年も続いてるねんなぁ」 「継続は力なり。ここの会社もすげぇけど、百年以上かかって銀のエンゼル五枚集めたへる一族もすげぇよな」 「んな事ぁええから早う蓋開けぇ!」 小気味よい音を立て、へるは勢い良くプルタブ式になっている缶詰の蓋を引っ張り開けた。 すると中からこちらも勢い良く少女人形が飛び出してきた。 「んまぁド派手なお人形さん!」 しかしそのド派手なピンクの固まりはただのド派手なピンクの自動人形ではなかった。 にっこり微笑んだかと思うと西洋式にちょこりとお辞儀をし、 「初めまして。PAPI−4−777と申します」 と口まできいたのである。 「おおすげぇ。喋ったぞこの人形!」 ザワつく面々のなか、不意にカエが手を打った。 「思い出した。ちょい取説貸して」 へるが缶詰の中から取り出し渡した取扱説明書兼保証書にザッと目を通しカエは頷いた。 「やっぱし。こりゃあれやで。三百周年記念プレミア版おもちゃの缶詰やで」 「なんじゃそりゃ」 「そのまんまやん。前にネットニュースで読んでんけど、ここの会社、 おもちゃの缶詰三百周年記念としてたった一個だけ激レアアイテムを用意したらしい。 それがこの超高性能小型アンドロイド『PAPI−4−7』ちゅう訳」 「なるほど…へる家三百年目にして悲願達成と思ったらとんでもないお宝手にしたな〜」 「一生分の運使い果たしたんちゃう?この子焼いてまわな運取り戻せへんで。麻雀牌みたいに」 「なんつう事を言うのかしらね、この無知蒙昧女は!!この子一台、一体ナンボする思うてんの?! 惑星一個買えるんやで!分かる??要するにこれは売りもんとして作られたんじゃないねん。 話せば長くなるけど(覚悟してね♪)アンドロイド設計では定評のある『轟製作所』って知ってるやろ? ナニ?知らん?ええねん。あるねん。そういう会社が。地球に!日本に!三重県に! ほいてそこの会社は四人の博士を抱えててな、この人らがおらんかったらロボット工学がここま で発展する事はなかったっつーくらいの大天才連中やねん。俗に『轟カルテット』って呼ばれてる。 ほんでや。この人らがまたぞろロボット業界に革命を起こそうとしてるんだわ。 その試作品がこの子。奇跡のアンドロイド『PAPI−4−7』なのだ!! ナニが奇跡ってあーた。この小っささで既存のアンドロイドの性能を越えようっつうねんから! 今あるアンドロイドって人間と同寸やろ? あれは別に人間から親しんで貰おうとかいう魂胆からあの大きさになった訳じゃないねん。 それなりの性能を保たせようと思たらあの大きさが必要やねん。容量として物理的に。 あれでもまだ小さくなった方なんやけど、轟カルテットはまだ更に縮めよう計画を立てよった。 ほんで出来上がったんがこのお人形さんサイズなのさ。凄かろう? しっかし、噂には聞いとったけど、小さいなぁ〜。まともに動くんかな? でも正式名称『PAPI−4−7』て事はこの子は77号機…77もバージョン重ねたらまぁ安定するやろか…」 余談だがカエはその昔、大学で機械工学を専攻していた。 その在学当時、特別講師として招かれていた轟カルテットの一人ノーム氏と知り合い 今でもメールをやりとりするくらいの親しい間柄である。 その為、こうまで小難しい長話を自慢気に披露出来たのだった。 とにかく、無知蒙昧なカエ以外のS+B連にもこのド派手なピンクの固まりが ただのド派手なピンクの人形ではないという事だけは分かった。 まだブツブツと専門用語で独り言を呟いているカエを尻目に説明書を読んでいたミヤが言った。 「最初に呼び名を入力して下さいって書いてある」 「面倒臭いな〜」 「デフォルトは製品名に設定してあるねんて。こんな長い名前で呼びたくねぇな」 ミヤの持つ説明書を横から覗きながらへるが突然声を上げた。 「パピヨンちゃんにしよう!『PAPI−4』語呂合わせで『パピヨン』!俺って天才!」 「…いやぁ…何つうか…それはあたしも思ったけど 『スモーキィ・バタフライ』に『パピヨン』って余りにも余りじゃない?要するにデキすぎててダセぇ」 言い難そうに、しかしキッパリとミヤが言った。 そして厳かに、しかしとてつもなくかったるそうにあもが言った。 「んじゃぁナナでええんちゃう?頭がだめなら尻の『7』を取って『ナナ』。決定やね。 ねぇ〜?ナナちゃん。気に入ったよね?君の事は今日からナナって呼ぶからねん♪」 そう呼びかけられた『PAPI−4−777』は瞬きを一つするとにっこり笑って口を開いた。 「はい。素敵な名前を有り難う御座います。今から私の事はナナとお呼び下さい」 あっさりとその名を認識してしまったのだった。 勿論、へるは怒り心頭である。 「ちょー待てや!これわしのモンやろう!ちゅーかへる家々宝やんけ!!なんつー事するかなぁ!!」 「もう遅い。認識してもうたし。」 「名前の変え方取説に書いてるやろうが!パピヨンに変えぇ!」 「名前の変更は別に記載してありますってさ」 言われて初めて広辞苑程に分厚い冊子が別配されていた事をへるは思い出した。 恐らくアレが本チャンの解説書なのだろう。 あれを読み解く努力をするくらいならもう名前なんてどうでも良い。そう思った。 しかしナナを取り囲んではしゃぐ連中を眺め、どうにも腑に落ちない気分なのだった… 「ナナちゃ〜ん♪あもですよ〜わしゃこう見えて裁縫が趣味やから、可愛い服作って上げる〜」 「いや、それより大阪弁教えようで!」 「ちょっとーへる落ち込んでるで〜。」 「元気出しぃな。どんな名前やろうとこの娘がへる家々宝である事に変わりないんやからぁ」 お手つき 封建時代の死語がへるの頭に踊った。 かくして、S+B号(仮名)にピンクのエンゼル・ナナが舞い降りたのである。 |
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みなさんも解説まで読む力残ってねぇっしょ?長すぎ↑。 ナナはわしの高校からの友人で、めちゃめちゃちっこくて可愛い子です。 しかも努力家で才能もあるすげぇヤツ。リスペクト! 可愛く描けたので満足満足。 あと、S+B初のヌキ! メインの人物のサイズがマイクロミニなんで、他人物絡ませられなかっただけなのねん。 マイクロつってもバービー人形くらいの大きさなんだけど、 背景の缶詰が缶ジュースっぽいんでどうしてもも少し小さく見えちゃうね。 一応、比較対照用にセッタも描いておきましたんで、そっちと比べて見てくれたまい。 轟カルテットとは三重在住のおっさん四人組バンド。 かなり良い味出してます。 これ書いてる現在も一週間後にライブを控えてるのでかなりワクワク♪ しかも二週間後には鉄と鉛(『宮様』参照)のライブも控えていて、浮き足だちまくり! ちゅーかさぁ。おもちゃの缶詰って貰った事あるっスか? わしゃねぇです。一回見てみたいよねぇ…ナニが入ってるのか。 昔むか〜しに一回銀のエンゼル一枚だけ当てた事あるんだけど、捨てたなぁ… そんな食わんしな。チョコ。 てか、まだやってんだろうな?!おもちゃの缶詰。 知らぬ間に終わってやせんだろうな… |
2002 11 18