タイトル 気狂いピエロ(原題:Pierrot le Fou)
脚本・監督 ジャン・リュック・ゴダール
出演者 ジャン・ポール・ベルモンド アンナ・カリーナ
一言で言えば 海へ、そして永遠へ、果てしない空虚へ・・・
感想 ゴダールの映画で最も好きな映画がこれ−つ〜より、この映画を観なければ、あ たしは彼の映画をただ難解なものとして理解することは愚か、観ようとさえしな かったろう。それほどに、この映画を観た時のショックは大きかった。

それはどうしようもなくギリギリの愛の世界。行き場のない愛と裏切りの交錯す る世界。あたしが昔、少しだけ惚れた男は、あの映画を観て先端恐怖症になった と言った。あたしはそれだけでそいつに惚れたのだが(あたしが人に惚れるのは いつだって思い切って安易な理由によるとゆ〜話もある。『天井桟敷の人々』の バチストが可笑しくてやがて哀しいと言う一点で意見が合ったとゆ〜だけの理由 で1人の男に7年も惚れ続けてるとゆ〜のは仲間内で有名な話だ。アゝ恥ずかし い)閑話休題。完全に路線を外れてしまった。ゴダールの話に戻ろう。

見つけた・・・何を?・・・永遠を、海を・・・水平線が果ても知らず広がる。物語を構築 してきた筈のピエロもマリアンヌも既にそこにも何処にもいない。人は景色の中 へ溶け込んで行く。大俯瞰で捉えられた遠景の中に、人はまるで蟻のようだ。絶 望、希望、希望、絶望・・・その限りない繰り返しの中で人は溶け込んで行く。何 処へ?大地へ・・・生い茂る森へ・・・草々の息吹の中へ・・・そして果てしない海へ・・・ 時にはポールとヴィルジニーに、時にはクルーゾーとフライデーに互いを仮像し ながらピエロ=フェルディナンとマリアンヌの逃避行は続く。それは紛うことな き死出の旅・・・

子犬を型取ったポシェットを無邪気に振り回しながら海岸の林の中でマリアンヌ は歌う。私の短い運命線、はかない生命の運命線。彼女がその時何を予感してい たかは別として、その歌がまるですべてを予言するように、彼女は火花のような 死を迎える。そしてまた、愛する者をその愛の故に自らの手で葬り去るを得なか ったピエロもまたダイナマイトを顔に括り付けて壮絶な死を択び取る。死の間 際、彼は叫ぶ。「馬鹿な!こんな死が・・・」そこに発せられた疑問符は一体何処に つなげば良いのか・・・

書き留めておこう、気がついたことを気がついた時に・・・でないとゴダールの言 葉ばかりが渦巻いて、駆け抜けて行くから。それはまるで花火のように一瞬の光 芒の中に・・・

静と動−永遠に変わらぬ景色の中で人間は余りに卑小だ。景色だけが動かぬまま に、中で飛び跳ねる人間ははかない生命にクルクル踊らされて・・・

流れるおびただしい血のイメージ。ゴダールはそれを「あれは血ではなく赤だ」 と言う。しかし一旦、映像化された以上、彼の意図に関わりなくそれは明らかに 血となる。実際、映画に登場する小人達やピエロやマリアンヌは確かに「血」を 流して死んで行ったのだ。マリアンヌが振るうはさみの故に血を流して小人が死 んだから、あたしの惚れた男は先端恐怖症になったのだし・・・虚と実の錯綜の中 で何が真で何が嘘なのか。それともすべてが嘘なのか・・・

ベトナムのイメージ・・・商業映画と実験的非商業映画の狭間に造られたものとし て、その後のゴダールの方向性を示すものとしてこの映画は位置づけられる。ベ トナム人に扮したカリーナのなんと可憐なことか。そして自ら予定にない筈の師 を択ばざるを得ないピエロの顔は青く塗られる。海と同じ青に・・・すべては溶け 込んで行く。溶ける、溶ける、海へ、永遠へ・・・

ゴダールの舌は止まることを知らないで動き回る。黙ってしまえば、多分とても 不安になってしまうから・・・その言葉はミシェル・モルガンの、メルヴィルの、そ の他幾多の人々の口から1度は吐かれ、それなりに消化されてきた筈のものだ。 だけどその引用のなんと時を、要領を得ていることか。

ゴダールにとって引用とは単なる引用を超えて己の領域に取り込む作業であり、 他者の口から発せられた言葉を取り込んで行くことによって、言葉は異化され、 全く新しい「ゴダール言語」として再び生まれ変わる。そのようにして生まれた 言葉達の、なんと非情なまでに哀しいことだろう。

この映画がゴダールのかつての作品の映画的手法をすべて踏襲しているが故にこ れは傑作であるなどと分かったような物言いにうなずいてしまうほどにあたしは ゴダールを観てはいないし、理解してもいない。しかしこの映画が時を超えて美 しいことなら分かる。

愛し抜くことから生まれる絶望は、人を風景の中に押し込めてしまうには多分十 分であったろう。しかし、その風景を超えて人が再び人であろうとした時、それ ら優しかった者共は、一瞬にして砕け散ってしまう。だからこそフェルデナンは 自らを殺さねばならなかったのだ。今ならまだ永遠も見つかる。だが少しでも遅 れれば・・・己を海に同化させることで、しかしピエロは何を得ようとしたのか、 何を守ろうとしたのか・・・彼の最後のあがきは・・・それは一つ前の作品の中に・・・

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