②御室桜(仁和寺)
中門をくぐり左手にある観音堂の南側一帯に、里桜・車返し・有明など白色系の八重桜を中心に約200本ある。名勝。高さは3メートルぐらいと低く、根元から枝が伸びて花が咲く。花(鼻)が低いので、「御室のお多福桜」ともいう。花の盛りは市中より遅く、四月下旬が見頃。江戸期は清水寺とともに、花見の名所として天下の人気を二分した。各地誌がこの桜を絶賛しているので、そのいくつかを挙げてみよう。
・『京羽二重織留』 東山は陽気和暖にして花の開事はやく、当山は西方寒冷の地なり。この故に花の開ことおそし。洛人一春前後の遊観として幔幕隙地なく、詩歌の詠糸竹の曲絶る事なし。
・『堀河之水』 東山よりは、さかり遅し。清水のちり過る頃、御室の桜最中なり。世の人清水御室といひて左右をあらそふ。
・『都名所車』 八重ざくらおほく咲みだれ、其外さくらの諸木あつて花の都の第一とす。
・『都名所図会』 それ当山は佳境にして、昔より桜多し。山岳近ければ、常に嵐は
げしく、枝葉もまれて樹高からず、屈曲ためるがごとし。弥生の御影供はなほさら。花の盛りには都鄙の貴賎春の錦を争ひ、幕引きはへ、虞松が酒にふし、李白が恨むらくは、長縄をもつて西飛の白日を繋ぐことを得んとは。春色の風客花にめでて日を惜むと同じ論なる。
・『都花月名所』 山岳近ければ常にあらしはげしく、枝葉もまれて屈曲ためたるがごとし。数千株の花盛には都下の貴賎春の錦をあらそひ。花の陰に幕打はへ。春色の風人富貴の時を得て。清香を袖にたたへ。酒に臥て月の上る事をしらす。都て此地は八重桜多くありて一重は少也。霧ヶ谷江戸、塩竃、桜間、芝山、曙など多し。護摩桜は御所の前に藩ゆ。枝垂桜は御殿の内にあり。総じて当山は花の香他境に勝れて高く盛には清香芬々たり。これ風土の奇といふべし。
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