solitude -孤独-
気がつけばベッドの上で寝ていたようだ。重いまぶたを開けると明るかった部屋はいつの間にか薄暗くて床に何が落ちていようとぼんやりとしか視界に入ってこなく、ちゃんと閉めたはずのカーテンの隙間から覗いている紅い空が、闇が近付いてきているのを教えてくれた。
手を伸ばし感覚だけで物を探し、指先が触れた硬い冷たい物に更に手を近付けて取り、リモコンの一番上にある電源のスイッチを押す。ブツッ。まるで開店前の店に並んでいた沢山の客が狭い扉から我先にと中に入ろうとしている様に電気が待っていましたと画面を流れる。現れたのは深刻な顔をした男性。ちらちらと下を見ながら海の向こうで起こった出来事を淡々と話しているところである。しかし電源をつけたものの青年はテレビには目も向けず、ただカーテンの奥で姿を隠しきれない紅い空を寝惚け眼で見詰め返していた。ただの癖。起きたらまず初めにあくびをするのでもなく背伸びをする訳でもなく、テレビの電源をつける。それが今まで一緒にいた彼女の癖で、一人になってしまい静かになってしまった部屋の静寂を破るだけには丁度良い行動だった。
テレビをつけると思い出す。いつも淡々と喋る人物の声で目を覚まし、目を開ければニュースを見ている彼女の後姿が視界にぼんやりと入ってくる――今となっては過去の出来事。同じ事をしても彼女が帰ってきてくれる訳ではなく、淋しさが和らぐ訳でもなく、余計に孤独を感じるだけであるのも分かっていても止められなかった。
分かっていた。人に支えられて生きてきたものが支えを失って生きていける訳がないのだと。淋しさは淋しさしか呼ばない事も。視線をカーテンから逸らし、暗闇に慣れてきた目で床に転がっている物達を冷たい目で見詰めた。淋しさを紛らわす為に買ってきた物達。そしてその物達がどう役に立ったのか、今の状況が静かに物語っている。
両手で顔を覆い、静かに肩を落とし俯く。後悔が今日も後から後から容赦なく襲ってくる。あぁ、何故あの時優しくしなかったのだろう……何故あんなに冷たくしてしまったのだろうか……。空を飛んでいってしまった後姿を見て、やっと気が付いた。しかし気付くのがあまりにも遅すぎた。あんなに優しかった彼女を愛する事をしてあげなかった。それなのに今はその愛を欲しがっている。これを彼女が聞いたら、嘲笑いだけをくれるだろう。
今日も同じ夜は来る。それを自分は今日も黙って見詰める事しかできない。それが彼女への代償。そんな事しかできない自分への嫌悪感。
もしこの世に神がいるのなら――いや、神はいるだろう。だから今彼女は自分と一緒にいた不幸の分幸せを味わっているのだから。なら聞いて欲しい。姿を変えて自分を見張り続けている空へ向かって飛べる翼を下さい。闇に潜んで彼女を見詰めるだけでいいので、闇に隠れる漆黒な翼を下さい。
この身が孤独で押しつぶされる前に。
angela『solitude』より。
曲を聴いてパッと思いついたのがこんな感じ。最初は彼女死んだ事にしようとしていたんだけどね…。それではあまりにもかわいそうかなと思いこうなりました(お前が言うな)。
「紅が碧へ変わる空に カラスみたく飛んで行きたい」ってところが好きです。なので一番最後にして強調してみたが…失敗;
ってかこれって早朝の出来事だと思っていたけど、よく聴いたら夕方から夜への出来事だったのね…。危ない危ないもう少しで勝手に作ってしまうところだった……;;
04年12月19日