1 ちゃんと見てろよ
本当は見てられなかった
心臓が今か今かと飛び出そうで
鷲掴みされているように痛くて
もう見てられない
試合が始まる前に宍戸から
――絶対勝ってやるから心配すんな
そう言われて私は素直に頷いた
マネージャーとして失格だと思った
今から戦う選手にマネージャーとしての言葉なんてものが見つからなくて
自分で自分が情けなく思えて
今、目の前で試合している宍戸たちを直視できなかった
心の何処かで負けるんじゃないかって
そう思う自分がいる
コートを見たらそこには榊先生から何やら言われている宍戸たちがいて
丁度、宍戸と目が合ってしまった私は目を逸らす事もできず、宍戸が真剣な表情で
――ちゃんと見てろよ
そう口パクで言ったのが分かった
そうだ、ちゃんと目の前の試合を見ないで何をしてるんだ
今までグチグチしていた自分がバカらしく思えた
頑張ってほしい、勝ってほしい
そう心から思えるように私は口を開けて
「宍戸ーっ!負けたら絶対許してやらないからーっ!!!」
周りに劣らないほど大きな声でそう言ってやった
本人に聞こえていたらしくチェンジコートの際に私に向かって宍戸がこう言った
「バーカ、男に二言はねぇよ」
そう言ってガッツポーズをした宍戸に私もガッツポーズを返した
疲れなんて見せないその表情にはまだ消えていない闘志が伝わってきて
まっすぐに見守ることしかできない自分はただこの勝利を祈ることした。
『ウォンバイ、宍戸・鳳ペア』
そしてこの勝利を噛み締めることができた
周りは歓声に包まれ、まさに拍手喝采
相手チームの菊丸と大石は凄く悔しそうにして
しかしながらお互いに悔いはないと握手を交わしてコートから出てきた
「は?」
「あのなァ、何で試合勝ってコートから出てきた第一声がそれやねん」
「宍戸さん試合終わってからずっと先輩を探してるんですよ?」
「っるせぇ、長太郎」
宍戸は忍足からタオルを受け取り首に掛けると汗を拭き取った
辺りを見渡すとの姿はなく、誰のファンか知らないが無駄に女の子が群がっている
所々から甲高い声がして頭に響く
―― 一体どこいんだよ!?
心の中で舌打ちしながらそう思うと、そんな宍戸を思ってか忍足が
―― やったら試合終わったと同時にどっか行きよったで、
そう言うと宍戸は途端に走り出し、その場からいなくなってしまった。
その場に残った部員たちはやれやれといった表情で溜息を零しながら
いい加減、思いの通じ合わない二人に呆れていた
「っ、!!」
「――っ!?しし、ど…?」
見つけた後ろ姿に宍戸は思い切り名前を呼ぶと
肩を揺らして思わず振り向く
宍戸は立ち止まってゆっくり歩いてベンチに座っているとの距離を詰める
「お前、なんでいないんだよ」
「べ、別にいいじゃん…」
「良くねぇから探したんだよ」
息を切らしながら言う宍戸にぎこちなく笑う
宍戸はの隣へ来るとそっと座った
「勝ったら言おうと思ってた」
「……え?」
深呼吸をして宍戸はと目を合わす
ドキリ、心臓が高鳴って顔が紅潮していくのが自分でも分かる
沈黙が余計に心臓の高鳴りを止めない
相手が宍戸なら尚更の事
「俺は、が好きだ」
「………」
確かに聞こえた
でも返す言葉が見つからなくて
ただ、自分も好きだと伝えたらいいのに
咽喉に突っかかって出てこない
「…?」
「え、あ……私も、宍戸のことが、好き、だよ」
途切れ途切れでまるで何を言っているのか自分でも分からない
だが、宍戸はそんなに返事を返すようにそっと肩に手を置き、
ほんの一瞬、視界が暗くなったと同時にふわりと汗臭いニオイがして
唇に今まで感じたことのない生暖かな感触がした
そっと離れていった唇、
次第に見える宍戸の表情が優しい
「これからも、俺のこと
ちゃんと見てろよ
実は宍戸さん大好きな春風です(笑)
そのわりに書いたことがないんですよ、宍戸さん。
何故に忍足が出演しているのは気にしないでください
ありがとうございました!!